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世界樹のはやぶさ  作者: 相良義人
第三章
31/47

第三十一話 到着

こんにちは、作者の吉良義人です。

今回、更新が遅れに遅れてしまい、まことに申し訳ございません。

理由としては、執筆中にデータが全て吹き飛んでしまったこと。そもそも勉強が非常に忙しかったことなどがありますが、これからはこういうことが起こらないように努力していく所存ですので、どうぞよろしくお願いします。

それでは『第三十一話 到着』、どうぞよろしくお願いします。

「――さて、ハヤトさん」

「……アリア、どうかした?」

「先程の行為、どのように釈明をするつもりですか?」

 ハヤトが爆発を起こした広間。

 未だに燃えきっていない魔物の枝や、世界樹の床に生える植物が燻り、白い煙を上げ続けている。広間の全域に跳び散らかった魔物の枝と、爆風と衝撃波に揉まれて砕けた樹の破片を見れば、爆発がどれだけの威力だったのかが容易に伺える。

「……ほら、あれだよあれ。世界樹攻略の最前線の方では、こういう方法も取られてい……るんじゃ、ないかなぁ~……」

 脇から突き刺さるようなアリアの視線を感じて、ハヤトの言葉は自然と尻つぼみになっていき、目も横へと泳ぐ。

 ハヤトも、世界樹を燃やすような行為が冒険者にとって禁忌であることを重々承知しているため、強く反論しようにも出来ないのだ。もっとも、最前線では世界樹ごと燃やすという行為は、冒険者が(少なくともハヤトは)魔物に対して行う必殺の手段であるのは事実だ。

「……ハヤトさん」

「…………すみませんでした。考えてみれば、他に手段はあった気がします」

 爆発という手段を選んだのは、ただ魔結晶の位置を特定することが面倒だっただけで……。

 更に言ってしまえば、いつまでも続く戦いに若干かなりのストレスを感じていて、それを発散したかっただけだったりもするわけで……。

 つまりは、ハヤトにはアリアに対する弁明の手段が残されていなかったのである。

「はぁ……。私に謝っても仕方がないじゃないですか……」

「ああはい、確かにその通りですね……」

 しかしだからと言って、ハヤトには謝る以外の手段が無かったのであって。

「……正直、私も気が引けるのですが……。今回のことは、正確に神殿区の方へ報告します」

「……はい。覚悟の上です」

「その後の処置は、神殿区から言い渡されるでしょう。……最悪の事態は避けられるよう、力添えするつもりですけれど……」

 最悪の事態。

 要するに、はりつけ、監禁、死刑、等々……。

「……おおぅ、このまま姿を暗ませ――」

「ハヤトさん。余計なことは考えないように」

「………この際、潔く」

 アリアとリンに釘を刺され、ハヤトはがっくりと項垂れる。

 そうこうしている間に、ハヤトたちの前方に薄らと明かりが見えてくる。

「……あれは、第四十二階層都市、シュバルツですね」

 シュウが独り言のように呟く。

 第四十二階層都市シュバルツ。

 その前の都市レシアとはそこそこ距離が離れているため、駆け出しの冒険者などは入ってこれない。つまり、シュバルツは中級者以上の冒険者が集まる、まさに攻略拠点と言うべき都市なのだ。

「……僕の人生も、ここまでかぁ……」

「いえ、ですから、そういう事態が起こらないように最大の努力はしますって!!」

 そうアリアは言うが、この世界において神殿区の力は絶大であり、またその神殿区の掲げる規則も絶対的であるのも事実。その神殿区の規約を破り、禁忌を犯したハヤトが、神殿区によって裁かれないはずがない。仮に裁かれなかったとしても、世間がハヤトを裁くだろう。神殿区の力とは、そういうものだ。

 ハヤトはそのことを、熟知していた。

 そう、二年前のあの時も――

「………」

「……あの、ハヤトさん? どうかしました?」

 突然俯いて黙りこくったハヤトに、テナが心配そうな目を向けてくる。

「いや、何でもないよ」

「………嘘」

 テナに気遣いをさせないよう、ハヤトは精一杯の笑顔を作ってみせるが、脇でリンが小さく呟く。幸い、テナやアリアの耳には入らなかったようだが。

 次第に明るさを増していくシュバルツへの道。だがその道を歩くハヤトたちの前に、シュウたちが回り込んでくる。

「……何のつもりだ?」

「ハヤト=シラキ。今一度、僕に決闘の機会を与えてほしい」

 唐突に、ハヤトに頭を下げるシュウ。

「………」

「レシアで敗れてから、僕は思った。僕は、君に勝ってこそ、新たな道を見つけられると……」

「………」

「これは僕の勝手な申し込みだ。断ってくれても構わない。今一度、僕と戦ってほしい……!!」

「……一回」

 沈黙を守っていたハヤトの口から出てきた音に、シュウはガバリと頭を上げる。

「一回だけ、勝負を引き受ける。だけど、これが最後。元々僕は、人と戦うのはあまり好きじゃないんだ」

「……!! ……感謝する」

 再び頭を下げたシュウは、地を強く蹴り、ハヤトと大きく距離を取る。

 対してハヤトは腰の剣を鞘ごと掴み、そして決して刀身が出てこないよう、帯で剣の柄と鞘とをきつく縛りあげる。

「悪いけど、僕は体術はあまり得意じゃないんだ。これで許してほしいね」

「構わない。僕にとって、身体の全てが、戦いにおける武器だ」

 ハヤトとシュウは同時に構える。互いの眼差しが、互いの姿を真っ直ぐに貫いている。


「――行くぞっ!!」


 同時に地を駆けた二人は、一瞬で肉薄。そして――シュウが、空高く打ち上げられる。

「がはっ!?」

「……悪いけど、これで終わりだ」

 地面に背中から叩きつけられたシュウは、まともに受け身も取れず、全身を襲った強い衝撃に喘ぐ。だが、こうしてはいられない。まだ、意識は残っている。すなわち、まだ戦える。

 シュウは仰向けの体勢から身体を転がし、地に腕を着いて身体を起こそうとする。しかし、視界がグラグラと揺さぶられ、まともに腕に力を込めることさえ叶わない。

「な……っ?」

「お前もよくやることじゃないのか? 人体の顎を強打して、脳に強い衝撃を加える。すると人は平衡感覚を失って、まともに動けなくなる」

 当然のことを説明するように告げたハヤトは、剣を固定していた帯を解き、元の位置に戻す。

「さて。それじゃあ僕はもう行かなくちゃいけないから。少し寝ていれば治るよ」

「ま……待て!! 僕はまだ……」

 よろよろと身体をふらつかせながらも、シュウは渾身の力で立ちあがり、身体を何とか支える。

 そんなシュウに驚いた顔を見せながらも、ハヤトはシュウの状態を見て、冷静に宣告する。

「駄目だ。そんな状態で戦おうと、本気で考えているのか?」

「当……然……っ!!」

 まだ自分には戦う意志がある。

 そう全身で表わすように、シュウは足を震わせながらも拳を握り、構えを作ってみせる。

「……まったく。……恨むなよ?」

 小さく確認するような声で言ったハヤトは次の瞬間、地を強く蹴りだし、シュウの眼前にまで迫る。

「――なっ!?」

「おぅらっ!!」

 シュウが咄嗟に放った迎撃を、身体を捻って回避。その捻りを生かしたまま、左足を軸にして回し蹴りをシュウの側頭部へ叩きこむ。ドゴッ! と鈍い音が響き、シュウは地面に投げ出される。既に意識は無い。

「一応加減はしたけど……大丈夫か?」

 ハヤトはシュウの様子を伺ってみるが、一応呼吸は行われているし、出血もない。まあ意識を取り戻したらひどい頭痛に見舞われるかもしれないが、それで死ぬこともないだろう。

「………行こう」

 リンがハヤトの服をくいくい、と引っ張り、短く告げてくる。

「……あ、ああ……」

 思い切り顔をしかめながら、ハヤトはシュバルツへ歩き始める。その足取りはやはり、重い。

 ハヤトに続いてリン、テナ、アリアと世界樹を抜けていき、やがて中にはシュウと、その取り巻きたちだけが残された。



「……う……?」

 小さくうめき声を漏らして、シュウは身じろぎをし、そしてゆっくりと起き上がる。

「ここは……」

「シュウ! 大丈夫だったか!」

 心配そうな顔をして、学友たちがシュウの顔を覗き込んでくる。

 それを確認すると同時に、徐々に先程までの記憶が戻ってきて、シュウは痛む頭を押さえながら、絞り出すように声を放つ。

「そう、か……。僕は負けたか……」

「シュ、シュウ。そんなに気にするなって……」

 仲間は口々にシュウを励ますような言葉を言うが、シュウの思考はそれに構ってはいなかった。

 エーレンの学園区に在籍する、第六学年主席、シュウ=サクライ。

 元々、学園区に入る前から名家の嫡子としての英才教育を施されてきたシュウにとって、学園区は下衆の集まりであり、自分はその中で輝く、特別な存在であった。入学した当初から周りに注目され、実戦訓練では敗北知らず。まさに、天才とでも言うべきだろうか。

 一般人では決して味わえないような栄光を浴びるシュウにも、どうしても叶えたい願望が一つだけあった。


 ――正々堂々と本気で戦い、そして敗北すること。


 その存在を探すために学園区から密かに抜け出し、世界樹の行く先々で腕の立ちそうな人間に喧嘩腰で接触した。

 だからこそ初めてハヤトと拳を交えた時、この人が自分の望みを叶える存在――自分を打ち負かす存在なのだと感じた。それに確証を得るために、通常であれば絶対にしないような汚い真似をして、無理矢理本気を引き出そうともした。

 だが結局、それらも全て無駄だった。

「……僕は、本気で戦うに値しないと。そういうことなのか……!!」

 物心ついた時から体術を仕込まれ、訓練を続けてきたシュウだから分かる。

 戦っていた時のハヤトの目は、本気というものとはかけ離れていた。決して、ハヤトが遊び半分で戦いをやっていたというわけではない。だが、シュウがやりたかったのはこういうものではない。

「もっと……もっと、強く……」

 今回の戦いは正直に言って、不満だらけの結果だ。

 だが。

 だが、だからと言って収穫が何もなかったわけではない。なぜなら、これから目標とする人をようやく見つけられたのだから。

「く、くく、くははは……」

 自然と口元が綻び、笑い声が喉を通って空気を震わせる。理由は分からないが、何か愉快な気分だった。

「お、おいシュウ……?」

「大丈夫か……?」

 仲間たちが怪訝そうな目でこちらを見つめてくる。いつもなら怒鳴りつけたくなるほど不愉快なそれらだが、今はさほど不愉快ではない。

「……なってやるさ……」

「え……?」

「もっと、もっともっと強くなって、いつかあいつに負けを宣言させてやる……」

 敗北への欲求が解消された今、新たに生まれたのは勝利への欲求。これまで味わっていたのとは違う、別の勝利への欲求だ。

「ははははっ!! さぁて、楽しくなってきたぞ……!!」

「………」

「待っていろよハヤト=シラキ。この僕が、貴様に引導を渡してくれる……!!」

「………」

「くくっ、くくくっ、あーっはっはっはっはっ!!」

「……とりあえず、病院に連れていくか」

「……そうだな」



     ××××××××××



「……うっ!?」

 突如、ハヤトの背筋を悪寒が走り抜ける。

「どうかしましたか、ハヤトさん?」

「……いや、何でもないよ」

 アリアがハヤトを不思議そうな目で見つめてきたが、やがて前へ視線を戻す。

 第四十二階層都市シュバルツ。

 その都市へ足を踏み入れたハヤトたちは、手持ちの魔結晶をあらかた換金し、すっかり財布は暖かくなっていた。

「………それじゃ、私はそろそろ」

 リンが不意に立ち止まり、そしてハヤトたちに短く告げてくる。

「えっ!? リンちゃん、もうちょっと一緒にっていうのは……」

「………残念だけど、無理。既に、新しい依頼を受諾してある」

「そ、そうですかぁ……。……残念」

 心の底から無念そうな声を出して、テナは項垂れる。

「い、いやテナ。また今度会う機会もあると思うし、そんなに落ち込まないで……」

「……はい、分かっています……」

 必死にハヤトがテナを励まそうと言葉をかけるが、その全てが見事なまでに効力を持っていない。心底困り果てたように頭をかくハヤトの横から、アリアがリンに言葉をかける。

「リンさん。また会えることを、願っています」

「………こちらこそ」

「……あぁ、リン」

 頬をかき、目を左右に泳がせながら、ハヤトがリンに声をかける。

 リンはハヤトの方に向き、ハヤトの言葉を待つが、ハヤトはあー、とかうー、とか要領を得ない声しか出さない。だがやがてハヤトは、観念したように大きくため息を吐くと、真面目な表情をする。

「……まぁ、そのなんだ……。……怪我するなよ」

「………当然!」

 ハヤトが泳がせていた瞳を固定し、リンを真っ直ぐに見つめる。リンもそれに答えるようにハヤトの目を見、そして力強く言葉を返す。

 ふっ、とハヤトは表情を崩し、照れたように口元を綻ばせる。

「またな、リン。また僕たちを見かけたら、気兼ねなく声をかけてくれ」

「………分かった。じゃあ、ハヤトたちも無事で」

 いつも淡々としているリンにしては珍しい、穏やかな笑顔を向ける。そしてくるりと身を翻すと、ハヤトたちの前から軽快に走り去っていった。やがてリンの姿が見えなくなった頃、ようやくハヤトたちは口を開く。

「……ふぅ。行ったなぁ……」

「あ~あぁ……。もっと仲良くしていこうと思っていたのに……」

「仕方ないさ。またいつか、リンとは会えるはずだよ。僕たちが生きている限り」

「……そうですね!」

 テナはいつも通りの朗らかな笑顔を取り戻すと、やはり軽快にハヤトたちの前を駆け抜けていく。

「それじゃ、私は数日分の宿を探してきますので!」

「ああ、気をつけてな!」

 軽く手を振ってテナを見送ったハヤトは、テナの姿が見えなくなるのと同時に大きくため息を吐いた。

「な、何ですか!? 私と二人になるのがそんなに嫌ですか!?」

「え!? いや、そういうわけじゃなくてね……」

 さて、何と言ったものだろうか。

 本心はと言えば、ただ単純に神殿区の支部に行くことが憂鬱なだけだ。だが、だからといってそれをそのままアリアに伝えるのは、愚痴を言っているようであまり好ましくない気がする。

 ならば、ここで取れる手段は……!!

「そ、そういえばアリア。僕たちと別れた後、何があって不良学生たちと一緒に来たんだ?」

 不良学生たち。もちろん、シュウたちのことである。

「何だか話をすごく逸らされた気が……」

「き、ききっ、気のせいじゃないかな!」

「……まあいいですけど……。あの時、ハヤトさんたちが行った後、シュウさんたちが来たんです。ちょうど、入れ違いに」

 そこから饒舌に語り始めるアリア。やはり名家の跡取り娘ともなれば、人に説明するということは覚えるものなのだろうか。アリアの説明する内容が、ハヤトの頭の中に滑らかに入ってくる。

 簡単にまとめると、こうだ。

 ハヤトたちが魔物討伐に出かけた後、シュウたちと遭遇したアリアは一時、緊張状態に入る。だがその最中、シュウがハヤトとの勝負にやたら執着していることに気が付いたアリア。ハヤトがシュウとの決闘で負けることはないと思っているアリアは、ハヤトたちが魔物相手にどこまで戦えるのか不安だったため、ハヤトたちの魔物討伐に加担すれば、ハヤトと決闘をしてもよいとシュウに話す。そしてシュウはこれを承諾。あとは、ハヤトも知っている通りとのことらしい。

「……そうか……。悪かった、あの時は。アリアたちの助けがなかったら、テナに怪我をさせるところだった」

「いいえ。それに、あの、私もあの時の行動は、パーティーの統率を乱すものでしたし……」

 互いにそう言って、頭を下げ合う。根は真面目な二人である。共に相手に誠意を見せて謝らなければ、納得がいかないのだろう。

「じゃ、じゃあ、この件はもう無しっていうことで……」

「ハヤトさんがそれでいいなら、私は構いません」

 ハヤトの進言で、一応事態は収束する。

 その後、二人の間に気まずいような沈黙が訪れ、やがておずおずとアリアが口を開く。

「……あの……ハヤトさん?」

「うん? どうかした、アリア?」

「……そろそろ神殿区支部に……」

「……そうだねぇ……」

 その後、またしばらく沈黙に包まれた二人だったが、やがてゆっくりと神殿区支部の方向へと歩き始めた。

『第三十一話 到着』、如何だったでしょうか? 皆さまの暇つぶしとして少しでも貢献できていれば幸いです。

それでは今回は特に書くこともないので、この辺りで失礼します。

僕は駄目な作者ですが、これからも『世界樹のはやぶさ』を見守っていただけますと、ありがたいです。

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