第三十話 爆発
こんにちは、作者の吉良義人です。
てかサブタイトルで今回の話の内容が大体分かってしまう……。
なんてこった!!
さて、では前書きはこのくらいにして『第三十話 爆発』、どうぞよろしくお願いします。
「――せいっ!!」
気迫の声とともにハヤトの振り抜いた白刃が、魔物の枝を斬り飛ばす。そのまま身体を屈め、頭上を突きぬけていった枝も一閃。
膝に力を貯め、一気に解放。ハヤトは一陣の疾風となって、枝の中へと斬り込んでいく。
全方位から絶え間なく突きだされる刺突に対して、ハヤトは剣舞を演じるような動きで攻撃を避け、逆に枝を斬り飛ばす。
これまでかすり傷一つ作らずに奮闘したハヤトだが、やはり人の身である以上、身体に疲労が溜まっていく。徐々に身体の動きが鈍くなっていき、終いには頭部を狙った刺突を避けるために上体を反らし、そのまま地に倒れ込む。
「く……そっ!!」
跳ね上がるように体勢を立て直すが、もっとも速く接近する枝はすぐ近くまで迫っている。ハヤトも多少の犠牲を覚悟したが、それも杞憂に終わる。いつの間に接近していたのか、テナがその枝を斬り飛ばしたからだ。
テナはそのまましなやかな身体を生かし、枝を斬り落としていく。破壊力にこそ欠けるものの、着実にその攻撃は枝に通っている。一本、また一本と枝は落ちていく。
「助かった、感謝するよテナ!!」
「気にしないでくださ――きゃっ!?」
テナに襲いかかった、彼女の頭部と腹部を狙った、二本の枝での同時攻撃。いや、わずかに腹部への攻撃の方が速い。
ハヤトはテナの前に身体を出し、二本の枝をまとめて斬り捨てる。
「あっ……。ありがとうございます!!」
「これで貸し借り無しってことで!」
「……はい。分かりました!」
彼らが会話をしている途中でも、魔物は容赦なく襲いかかってくる。しかも、その攻撃の数は時間の経過とともに、どんどん多くなっている。
「まずいな……。さすがに、この数はきついぞ」
「どうします? 一旦、引きましょうか?」
「……燃やそうかな……」
そんなことを言いながらも、二人は再び魔物へと突っ込んでいく。その目的はただ一つ、魔物へと到達する血路を切り開くため。
現在、魔物から伸ばされた数多の槍は、魔物本体の周囲を取り囲むようにして蠢いているか、ハヤトとテナを突き殺すために伸ばされているか。
その中を、ハヤトとテナは剣を正面に構えたまま突撃する。出来るだけ多くの枝を斬り落とし、脅威でなくする作業を延々と続けていく。
「そろそろか……」
一言だけを残して、ハヤトは一気に加速。魔物の本体へと真っ直ぐに突貫を行う。
これまでよりも速いハヤトの動作に戸惑ったか、一瞬だけ魔物の対応が遅れる。その間にハヤトは距離を半分まで詰め、テナはハヤトを攻撃しようとしていた枝を斬り落とす。更にそれと同時に、リンが通路の影から飛び出し、斬り落とされて、もはや脅威でなくなった枝を足場にして跳躍。テナの頭上を飛び越え、曲芸師のような軽業を見せつけながら魔物に接近する。
ハヤトとリン。同時に接近する二つの脅威を前にして、魔物は攻撃用に使っていた枝を使うことができない。なぜなら、すでにテナとハヤトの手によって多くが斬り落とされ、今もテナが必死に足止めをしているから。だから仕方がなく、防御用に使っていた枝を解き、攻撃用として転用する。
それこそが、ハヤトの狙いだった。
攻撃用として解かれた枝は、束の間だけハヤトとリン、どちらを攻撃するかを逡巡し――ハヤトを選択した。
数多の枝が、空間そのものを埋め尽くす勢いでハヤトに殺到する。ハヤトは冷静にそれを見つめ、紙一重のところで横に身を投げ出す。枝の通った後に暴風が吹き荒れ、枝に掠めたハヤトの髪の先が数本、ねじ切られる。
ハヤトの背後までいった枝は、急停止。そして全方位に散開し、後方からハヤトとリンを狙う。更にそれと同時に、防御用として残されていた枝も動員して二人を潰しにかかる。
だが、それで潰されるような二人ではなかった。
ハヤトは疾風となって、神速で駆け抜け、枝と枝の間を縫うように通り過ぎる。もちろん、その間に枝を斬り落とすことは忘れない。
リンはハヤトよりも速く、獣を想わせるような俊敏な動作で枝から枝へ飛び移り、魔物を翻弄する。
ハヤトとリン。先に魔物の元へと到達したのは――ハヤトだった。
魔結晶のものと思われる赤い鉱石が、完全に露出している。確かに、左側には一回目の接触で付けた傷が残っている。それを目の当たりにしたハヤトは一瞬だけ違和感を覚えるが、それを無理矢理押し込めて斬撃を振るおうとする。が、背後から急速に接近する気配に気が付き、咄嗟に身体を魔結晶の下へと投げ出す。
その直後に、魔結晶を再び取り囲むようにその前後左右を貫く数多の枝。だが、魔結晶の下にいるハヤトには、枝が当たらない。
しかしこの事態は、ハヤトも全力で剣を振るうことが出来ない。すなわち、魔結晶の破壊が出来ない。
だが、魔物の死角は魔結晶の下の他にも、もう一つあった。
――上だ。
「リンっ!! 後は任せた!!」
「………御意……!!」
世界樹の天井に近い位置から跳躍したリンは、人間離れした動きを見せ、天井に足を着く。そして天井を足場にして真下へ跳躍。リンの跳んだ先にあるのは――上を何にも覆われていない、深紅の魔結晶。
リンは天井を蹴りだし、音をも置き去りにするような速度で跳び、そして魔結晶を垂直に貫く。
一瞬の静寂。
魔結晶は無数の粉末となり、砕け散る。
そして――ハヤトは気がついた。
「ダミーだ!! それは、偽物だ!! まだ戦いは終わっていない!!」
結晶が砕けたのと同時に地に伏せようとしていた枝が、ハヤトの言葉に反応したのか、一気に動きを見せる。
リンもハヤトと同様に、結晶が偽物であることに気づいていたのだろうか。ハヤト以上に迅速に対応を始め、今度は槍でなく鞭のようなしなやかな動きを見せる枝を、淡々と斬り裂く。
ハヤトも獅子奮迅の戦いを見せ、魔物を近づけない。だが、ハヤトは見てしまった。
ハヤトに迫る枝よりも、リンに迫る枝よりも本数の多い枝が、テナへと迫っている。
テナも必死に対応しているが、追いつかない。元々破壊力はあまり高くないのだ。足止めこそできても、集中的に狙われてはひとたまりもない。どんどんと追い込まれ、ついに全方位から必殺の攻撃が繰り出される。
――テナ一人では、対応出来ない。
「だぁらぁぁあああ!!」
咄嗟に判断したハヤトは、手にしていた剣を真っ直ぐに投擲。
剣は枝と枝の間を通り抜け、そしてテナを狙おうとしていた十本あまりの枝の内、五本をまとめて串刺しにする。
だが、まだ残っている枝は変わらず、テナを攻撃しようとしている。
「まずい。テナ、早く逃げ――」
ハヤトが叫びかけたその言葉は、途中で切れる。
その理由は単純にして明快。それを叫ぶ必要が無くなったからだ。
枝の幾つかがどこからか飛来した矢によって貫かれ、更に残った枝は、音もなくテナの前に立った青年が徒手空拳で叩き折る。
「……アリア。それと……」
「シュウだ。レシアでは、失礼しました」
レシアでハヤトに勝負を挑み、そして敗北した青年だ。
そしてアリアは、通路付近で弓を構えながら、こちらに微笑んでくる。その付近では、シュウの取り巻きだった連中が、アリアに迫る枝を次々に叩き折っている。
「お前たち、どうして……」
「話は後にしましょう。それより、こいつの対処を早くしないと」
シュウの言葉が終らぬうちに、ハヤトに枝が迫る。
ハヤトは上体を思い切り反らして避ける。両手を地面に着き、足を蹴り上げて枝をへし折り、そのままの勢いで一回転する。
「こいつ、魔結晶がどこにあるのかが分からなくなっている。相当に面倒な奴だ!」
「あの、中央にあった結晶はどうしたんですか?」
「壊したよ。そしたらこいつ、ぶち切れてこんなになっている」
今や魔物は、ひたすらに暴れて周囲に力を振りまく、いわば暴力の嵐といったところか。
「では、どうやって戦おうと?」
「……一つだけ、策がある」
素手で枝を砕きながら、シュウはハヤトに尋ねてくる。
対人用の技術だとばかり思っていたが、拳を打撃用武器と見立てて、それでいかに効率よく攻撃を与えるか。根本的なところでは、対人用も対魔物用も変わらないらしい。
「策、とは?」
「今はまだ言えない。だが、確実に勝利できる」
「……分かりました。あなたを信用しましょう」
ハヤトが目線を送ると、テナにアリア、リンも賛同するように首を縦に振る。
「……よし。みんな!! ここから全力で逃走するぞ!!」
ハヤトが大声で放った指示。
その内容に、聞いたものの全てが目を丸くする。リンも、だ。
だが、皆ハヤトの指示に従い、全力で枝を食い止めながら後退していく。
そして全員が広間の端――通路の近くまで引いた時、ハヤトは腰の袋から三個、黒い球を取り出す。そしてそれを魔物に向かって投擲。
魔物は突然投げられたものに一瞬の警戒を示したが、すぐに枝をしならせ、球の全てを地に叩き伏せる。
そしてその叩き伏せたところから、白煙がもうもうと上がっていく。
「ハヤトさんっ、あれは何ですか?」
「小麦粉いっぱい。いい具合に強く叩きつけたから、よく舞い上がっているな」
空に舞い上がった大量の小麦粉は、やがて広間の全体を覆い尽くす。
「急いで外に出ろ!! 急ぐんだ!!」
ハヤトの放った叫び声。それに反応し、全員が我先にと通路に殺到する。その背後からは枝のしなるような音が聞こえるが、間一髪でどれも当たらない。
全員が広間を出て、通路に入ってもなお、ハヤトは走り続けるように指示を飛ばす。
すでに枝の攻撃は収まっている。なぜ、こうまでして走り続ける必要があるのか。
大半の人間がそんな疑問を頭に抱いていたが、構わず走り続ける。そしてある程度走ったところで、ハヤトが通路の壁に掛けられている松明を手に取る。世界樹攻略に役立つよう、照明として置かれていたものだ。
「さて、これはエルダから聞いた話なんだけどさ」
唐突に、ハヤトは語り始める。
ハヤトはその場に立ち止まり、そして松明を大きく振りかぶってみせる。
「何でだかは忘れたけど、細かい粉末が大量に舞っている場所で火を起こすと、粉末に火が引火、が繰り返されて、大爆発を引き起こすんだとさ」
「……ハヤトさん? ………まさかっ!?」
「ピンポンピンポーン、大正解!」
ふざけたような調子で言いながら、ハヤトは真っ直ぐに松明を広間の方へと投げ込み、そして一気に広間から離れるように駆け出す。
「全員!! 伏せろぉぉおおお!!」
ハヤトの叫び声が通路に響いた時、ぼんやりと照らされていただけの世界樹が紅蓮の色に染め上げられ、耳をつんざくような轟音が轟く。爆風と衝撃波が広間から広がり、通路を通る過程でハヤトたちの身体を襲う。
身体が何度も転がされ、口の中に砂利の味を感じる。自分が仰向けになっているのか、うつ伏せになっているのか。そもそも、起きているのか寝ているのかすら分からない。
轟音が静まり、世界樹内に静寂が取り戻される。依然として広間からは紅蓮の光が差し込んでいるが、その光は今はややおとなしい。
ようやく身体の感覚が回復してきたことに気がついたハヤトは、やがて自分が置かれている状況が普通では考えられないような、そんな類のものであることに気づく。
「………」
「………」
「……テナ? 何で僕の背中の上で気絶しているの?」
どうやら、爆風と衝撃波に揉みくちゃにされた挙句、このような体勢に落ち着いたらしい。テナの腕がしっかりとハヤトの腰に巻きついているのも、テナが咄嗟に何かに掴まろうとしたからだろう。気絶しているのも、爆風と轟音によるショックが大きすぎたからだろう。
だが、ハヤトが聞きたいのはそういうことではない。
上手く言葉には表せないが、何でこんな何者かの悪意を感じるような状況が、よりにもよってこんな時に発生するのか。といったところか。
確かに、テナは仲間という贔屓目を抜いても、世間一般で言われる美少女の部類に確実に入る娘だ。だから、ハヤトも男として、こんな状況が嬉しくないわけがない。背中に押し付けられているテナの胸の感覚だとか、鼻腔をくすぐるテナの女子特有の甘い香りだとか、頬に触れているテナの髪の房だとか、首筋に感じるテナの呼吸だとか。そういったものを感じて嬉しくないわけがない。正直なことを言えば、すごく嬉しい。
だがしかし、そういうことを満足に楽しめない状況なわけで……。
「ハヤトさ………ん……。……ゆっくり話を聞かせてください」
「………スケベ」
地味に、リンの一言が胸に突き刺さったという。
『第三十話 爆発』、いかがだったでしょうか?
最近、うすうすと感づいてはいたテナの空気化。それを何とかして防ごうと努力した結果の今回でしたが。
まあ、はい、あれですね、はい、所詮僕みたいなオタク学生には、あんな感じでしか出来ないのです、すみませんでした。
さて、粉塵爆発のことなんですが……。
あんな感じでした……よね? 一応、ウィキ様で調べておいたのですが……。
間違っているよ~。など、そういったことがございましたら、ぜひ感想のところに書いてください。可能な限り早く修正しますので。
さて、それでは今回はこのくらいで。
これからも『世界樹のはやぶさ』を、どうぞよろしくお願いします。
それでは、次回の更新もよろしくお願いします。




