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世界樹のはやぶさ  作者: 相良義人
第三章
29/47

第二十九話 困惑

こんにちは、作者の吉良義人です。

ようやく定期テストが終了したので、投稿させていただきました。

というか前回から二週間も経ってしまったのか……。本当に申し訳ございませんでした。

お待ちしていただいた割にそこまで長くはないので恐縮ですが、どうぞお楽しみください。

それでは『第二十九話 困惑』、どうぞよろしくお願いします。

「まったく。少し面倒な魔物に会ったな……」

 世界樹第40層の、少し開けた広間で。

 魔物の前から無事に逃げ遂せたハヤトたちは、一時の休息を取っていた。

「………突撃だけでは、駄目だった」

「ああ。だからといって攻めないのは、奴にペースを握られるからな……」

 リンの言葉にしっかりと答えながらも、ハヤトは己の剣の手入れを行っている。リンを救出する際に斬撃を魔物に食らわせたわけだが、その時に刃は欠けやしなかっただろうかと点検しているのだ。見れば、リンも同じように軽く刀の点検を行っている。

「………先ほどの接触で分かったのは、奴が強力な攻撃手段を所持していること。それと防御性能も並はずれて高いことの二つ」

「……考えるほど、厄介な相手ですね……」

 下手に退こうとすれば枝の槍で串刺しにされ、だからといって攻撃に移っても生半可な威力では傷一つ付けられない。

 まさしく、強敵という奴だ。

「だからって、ここで引くのは……」

「もちろん。ここまで来て引くつもりはないよ」

 不満そうに言いかけたテナの言葉を遮り、ハヤトは力強い笑みを浮かべる。

 まるで、魔物に勝利する手段を見つけたような……。

「ハヤトさん。さっきの魔物の倒し方が分かったんですか?」

「絶対ではないけれど、光は見えているね。あの魔物は、強力な枝の槍と、強靭な枝の鎧を持っている。だけど、あいつの本体は、さっきの戦いでは一度も動いていない。なら、そこを何とかして突けば……」

「勝てる!?」

「かもしれない。……まあ奥の手としては、ここら辺を全部焼き払うっていうのがあるし」

「え? 燃やすったって……どうやって?」

「ほら、火薬とか油とか使って。あとはドカーンと一発……」

 クックック、とハヤトは黒く怪しい笑みを浮かべる。

 もしかすると何度か、世界樹を焼くという経験があるのかもしれない。

 通常の冒険者たちの間では、世界樹を焼くなどという行為はタブーに値するものだ。その理由は多岐にわたるが、もっとも大きな理由は、世界樹が神の住む聖域だとされているからだ。

 世界樹を燃やしてしまうということはつまり、神への反逆を意味する。とかいう理由で、エーレンに本拠地を構える神官たちに滅多打ちにされるのだ。更に、冒険者たち自身も世界樹は聖域だという話を信じている者が多いから、世界樹に火を放つ行為は、多くの人間を一気に相手に回してしまうのだ。

「ハ、ハヤトさん!! そんなこと、冗談でも――」

「………悪くはない」

「リンさん!? 何を言っているんですか!?」

 アリアが悲鳴のような声を上げているが、リンはまるで聞く耳を持たない。

「………見た感じ、あいつに火は有効」

「いや、まあそれは分からなくもないですけど……。だからって!」

「………私は、宗教とかはまったく信じていないから」

「……っ!!」

 リンの淡々とした言葉に、アリアは思わず息を呑む。

 冒険者の大半は、何らかの宗教に所属し、そこの神を信仰している。その理由は言わずもがな、冒険者という仕事が命がけのそれであるからだ。冒険者は自分が生きて帰ってこれるように、神にすがり、祈る。

「まあ、そんなことはしなくても済むように努力するけどね」

「………具体的には?」

「そうだね……。ものすごく単純な方法としては、あいつの枝を全て斬り落とす」

「ま、まあ、確かにそれは有効でしょうけど……」

「………あまり、現実的とはいえない」

 アリアとリンの否定の言葉に、ハヤトは小さく頷いて見せる。

「もちろん。そんなことを大真面目に実行するほど、僕は単純な人間じゃないよ」

 言いながら、ハヤトはおもむろに立ち上がり、虚空に指を躍らせながら語り続ける。

「さっきの戦いでは、リンの攻撃は結構届いていた。もう一撃、同じ場所に同じ威力か、それ以上の攻撃を加えれば、多分だけど魔結晶に傷は入る」

「でも、さっきみたいなことがまた出来るとは……」

「………考えにくい。ただ、出来なくもない」

「というわけで、僕とテナ、アリアの三人で魔物の注意を引きつけて、隙を窺ってリンは魔物に突撃してくれ。魔物の攻撃は全てこっちで対処するつもりだから、リンは魔物に出来るだけ高い威力の攻撃を浴びせることだけを考えてくれればいい」

 ハヤトの言葉に、思わずテナとアリアは驚愕に目を見開く。

 ハヤトが言っていることはつまり、リンに対してハヤトたち三人を全面的に信頼してほしいということ。それも、三人が失敗すればリンは恐らく致命傷を負うのに……。

「………分かった。攻撃の対処は、任せる」

「えっ!? でもリンさん、それって……」

「………何か問題が?」

 思わず声を出してしまったアリアに、リンは無感動な瞳を向けて尋ねてくる。

 恐らくリンは、今の選択に何の疑問も抱いていない。失敗すれば、リンが一番傷つくというのにだ。

「ハ、ハヤトさん!! さすがに今のは――」

「さて。それじゃ、そういうことだから。もう少し休息を取ったら、すぐにまた向かおう」

 ハヤトはアリアの言葉を遮るように、強引に話を打ち切る。

 もう、何も言うことは無いとでも言いたげな、そんな態度だ。

「リンさん、本当にそれで良かったんですか?」

「……アリア……」

 ハヤトに、アリアの問いに答える意志が無いと悟ったアリアは、リンの詰めかける。

 テナはそんなアリアを見て心配そうに声を上げるが、やはり彼女も思うところがあるのだろう。ちらちらとハヤトの方をうかがっている。

「………何が?」

「何がじゃなくて! この作戦、もし失敗したら、怪我をするのはあなた――」

「………失敗なんかしない」

 先ほどまでと同じような淡々とした、だがその裏に強い意志を感じさせるような声で、リンは言い切ってみせる。そんなリンの言葉に、アリアは一瞬、言葉を詰まらせる。

「……えっ? それってどういう――」

「………この程度の戦いで、私やハヤトが負けるはずがない。さっきも、やろうと思えばそのまま戦えた」

「でっ、でしたらっ! なぜ残って戦おうと――」

「………ハヤトが、撤退の指示をしたから」

「えっ……」

「………ハヤトの指示は、いつも正しかった。だから、私はハヤトの指示には従う」

 つまりは、簡単なことだった。

 リンがハヤトの指示に反対しなかったのは、ハヤトに対して絶対的と言うほどの信頼を置いていたから。また逆に、ハヤトがリンにそんな指示を下したのは、ハヤトもまたリンに対して絶大な信頼を置いているから。

 ハヤトとの間で、テナとアリアにはまだ出来ていない絆が、リンとの間ではすでに出来上がっているのだろう。だからこそ、多少危険な指示でも下せる。

 もちろん、実力の差もあるだろうが、これは人間として、テナやアリアよりもリンの方が信頼されているということ。その事実が、アリアにはたまらなく悔しい。ハヤトに一人の仲間として認めてもらっていたと思っていただけに。

「……っ……!!」

「………そろそろ出発。準備は、念入りにした方がいい」

 リンにそう言われ、アリアは唇を噛み締めながら弓の点検を始める。

 隣でテナが心配そうに見つめてくることに気がついたが、とてもそれに反応できるような状態ではない。世界樹攻略など放り出して、家でゆっくりとしていたい。そんな気持ちさえ湧きあがってくる。

「よしっ。それじゃ今度こそ、あいつに引導を渡しに行こう!」

「あ、はっ、はいっ!」

「………」

「………絶対に、仕留めてみせる」

 テナとリンがハヤトの呼びかけに答える中、アリアは無言で俯いたままでいた。テナが慌てたように目をハヤトとアリアの間で左右させるが、ハヤトは何も答えず、早足で魔物の元へと歩いて行く。が、数歩歩いたところで立ち止り、アリアの方を振り返る。

「アリア。僕も、君が今回のやり方にあまり賛同できていないことは重々承知している。確かに今回の戦いでは、リンにかかる負担がかなり大きい。だけど、これだけは分かっておいてほしいんだ」

「……何でしょう?」


「――僕は、この程度の戦いで犠牲を出すつもりはない」


「………」

 それだけ言い残して、ハヤトは再び歩き出す。その背中を追って、リンも小走りに去っていく。

 テナは、無言で俯いたままのアリアを心配そうに見つめ、何度か声をかけようとしているのだろう、口を小さく開閉するが、やがて何も言わず、リンと同じようにハヤトの背中を追って走り出す。

「………」

 その後ろ姿を見送りながら、アリアは一人、思考の海へと沈んでいく。

 先ほどのハヤトの発言、それはつまり、リンに傷は絶対に負わせないという内容のもの。だが、それの達成はかなり困難。リンの身を守るどころか、自分一人に襲ってくる魔物の対処で手一杯になるはずだ。

 それでもなぜ、ハヤトはリンに傷一つ負わせないと言い切れるのか。なぜ、あそこまで自信に満ち溢れた態度が出来るのか。

 アリアには、それが分からない。

 アリアが小さく、憂いのため息を吐いた時、ふと、背後に数人の気配を感じる。

 咄嗟に身を横に投げ出し、弓を展開して矢を握ったアリアが見たものは――



     ××××××××××



「あの……。ハヤトさん?」

「うん? どうした、テナ?」

「……アリアのことなんですけど……」

 魔物がいた広間を前にした通路で、ハヤトはテナに話しかけられていた。

「ああ……。アリアが来ないっていうのは、正直誤算だったかな。今回の戦いは大分きつくなる」

「あの、そうじゃなくて、アリアはあのまま放っておいて……」

「……どうだろうね。僕は、こういう経験って少ないから、良く分からない。だけど、アリアに無理してまで付いてきてもらおうとは考えていないから」

「……そうですか」

 やはり、ハヤトさんはこういう人間なのだ。

 テナは心の中で呟く。

 ハヤトはどんな時でも、一歩引いた場所からものを言っている。それがなぜなのかは分からないが、過去に何かあったのかもしれない。だが、その遠慮も自分とアリアに対して生じているもので、リンとの間にはそういうものが一切存在していない。

 こういったものも、過去に作ってきた信頼関係が成せることなのか。

「……ハヤトさん。ハヤトさんにとって、リンちゃんはどういう存在ですか?」

「……え、ええっ、はぁっ!?」

「………うん?」

 テナの問いに返ってきたのは、ハヤトの素っ頓狂な声とリンの不思議そうな声だけ。よく理解できなかったのだろうか。

 もう少し、二人に正確に伝えられる別の言い方は……。

「ハヤトさんは、リンちゃんのことをどう思っているんですか?」

「い、いやねテナ。僕とリンは決してそういう関係なわけじゃなくて……」

「………? 何のこと?」

 どうやら情報に齟齬そごが生じているようだ。

 どうにかして、ハヤトにも正しく理解してもらわなければ。

「……ええと……」

「いや、本当に違うんだからねテナ? 確かにリンのことは一人の人間としても信頼しているけれど、決して女性としてとかそういうわけじゃ――」

「………? ハヤトは強い男」

「リン!? またよく状況が分かっていないのに!!」

「………?」

 どんどん場が混沌と化していく。

 こんな状態になってしまっては、まともに話を続けるのも難しいか。

「ああもう良いです。十分に理解できたので」

「理解するなよテナ!? それは間違った理解だぞ!?」

「………奴まで、もうすぐ。奇襲に警戒を」

 リンの平坦な声に注意を促され、ハヤトとテナは和やか(?)な雰囲気を即座に消し去り、戦闘態勢へと移行する。

「……よし。まずは僕とテナで魔物と交戦に入るけど、危なくなったらすぐに退避してくれ。いざとなれば、奴は燃やす」

「わ、分かりました。……本当にやらないでくださいよ?」

「……善処する」

 非常に信用のならない発言だったが、緊急時にはやむなしかと思いを改め、テナは腰の剣に手を伸ばす。

「僕が初めに斬り込む。テナは僕の後に続いて。リンは様子を見て一気に突撃してくれ」

「は、はいっ! 分かりました!」

「………了解」

「よし。………行くぞっ!!」

 ハヤトが駆け出し、テナはその背中を追う形で走り始めた。

 ハヤトたちは、一人を除いた形で、魔物との第二回戦を開始した。

『第二十九話 困惑』、いかがだったでしょうか?

次回は丸々戦闘パートになると思います。

また、感想などもございましたら、ぜひお書き込みください。出来る限り丁寧に応対いたしますので。


さて、それでは近況報告を。といってもあまり無いのですが。

今週は特に用事もないので、予定通り一週間後には投稿できると思います。ですが、日曜日に部の大会が迫ってきているので、もしかしたら投稿が遅れるかもしれません。そうなったらごめんなさい。

あと定期テストの結果次第では、僕の自主規制という形で、投稿もかなり間隔が開いてしまうかもしれません。そうならないように努力はしていますが……。


それでは今回はこのくらいで失礼します。

これからも『世界樹のはやぶさ』をどうぞ、よろしくお願いします。


……サブタイトルが段々思い付かなくなってきた……。まずい……。

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