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世界樹のはやぶさ  作者: 相良義人
第三章
28/47

第二十八話 変化

こんにちは、作者の吉良義人です。

今回は大体一週間ぴったり。ええ、深夜投稿という点まで……。

特に前書きで書くようなこともないので、本文へ。

この作品が皆様の娯楽の一環となることを祈りつつ。

それでは『第二十八話 変化』を、どうぞ!

 世界樹第40層。

 第29層レシアから延々と登ってきたハヤトたちは、すでにだいぶ疲弊していた。

「……はぁ~。まだ着かないの~……」

「もう第40層までは来ましたから、後は少しです。頑張ってください」

 相当にうんざりした声で、テナが愚痴る。それを諌めようとするアリアも、その表情には疲れが浮かんでいた。

 それもそのはず、ただ登るだけでも相当な体力を必要とする距離を、魔物に警戒し、時には交戦しながら突破してきたのだ。

 冒険者のための訓練を積んできたとはいっても、テナとアリアは女性の上に、まだ経験豊富というには物足りない。むしろ、ここまで無事に登ってこれた方が驚きだ。

「……これは、もう野宿した方がいいのか……?」

 そんな二人の様子を見、そしてハヤトは世界樹に入ってからの時間を数えてみる。ざっと半日といったところだろうか。

 これ以上進んでも、次の都市は第42層にあるシュバルツ。おそらくその付近に着く頃には、夜も更けてしまっているだろう。さすがにそれは、危険であると言えた。

 だが、これだけ疲弊した状態の二人を連れて野宿をするというのも、相当に危険な行為であると言えるわけで――

「……見通しが、甘かったか……」

 もっとも、ハヤトは二人ほどに消耗しているわけではないので、夜通し警戒態勢を続けていろと言われても可能なわけだが。

「テナ、アリア。今日はそろそろ野宿しよう」

「……え? あ、はい……」

「で、でもっ、私たちはまだ――」

「また前みたいなことが起こらないとは限らないからな。一応、警戒するに越したことはないだろう」

 食い下がろうとしたアリアを、ハヤトは二の句を継がせない勢いで言い切る。

 なおも反論しようとするアリアだったが、やはり自分が相当に消耗しているという自覚はあったのだろう。やがて、口を閉ざしてこくりと頷いた。

「さて、それでは場所を決めようと思うんだけど……」

 言いながら、ハヤトは周囲を見渡す。

 いつぞやのように難解に入り組んでいるわけではないものの、それでもやはり単純な構造をしているわけではない。一応、正確な地図のおかげで現在地は完璧に掴めているが。

「……あまり動いて、魔物に囲まれても面倒だしなぁ~……」

 割と本気で困らなくてはならない場面なのだが、ハヤトの声からはどこか、余裕のようなものが感じられる。やはり攻略最前線で日夜、死闘を繰り広げてきた者にとっては生温い事態なのだろうか。

「……とりあえず、火をは灯しておこうか」

 ハヤトの一声で、三人はゆっくりと野営の準備を始めたのだった。



     ××××××××××



「………」

 パチパチと小さく爆ぜながら燃え盛る薪を、ハヤトは虚ろな目で見つめていた。

 いや、決して意識が落ちそうになっているのではない。むしろ、意識の方は完全に覚醒状態にあると言ってもいいだろう。

 ならばなぜ、ハヤトはこんな虚ろな目をしているのか。その理由は、今は穏やかに寝息を立てている二人の少女にあった。

 何があったのか。

 簡単に言うならば、テナとアリアがハヤトに自分たちの寝ている姿をさらしておくことを頑なに拒んだのだ。

 決して、この行動はハヤトに不可解だったというわけではない。むしろ、ハヤトもある程度は予想していた事態だった。なのだが――

「……『ハヤトさんにだけは、なんかいやです!』か……。僕って、そんな信用のない人間だったのか……」

 どうやら、混乱していたテナかアリアの一言に、ひどく衝撃を受けていたようだ。主に精神的に。

 これまでの生活で、そんな失態を犯したつもりはなかったのだが……。

 色々と思い悩むハヤトだったが、実際のところ、テナやアリアたちにそんな意識があったわけではない。ただ混乱しながら適当に言葉を乱射していただけなのだ。つまりは、全てはハヤトの杞憂である。

「……はぁ……」

 思わず大きなため息を吐くハヤト。そしておもむろに立ち上がり、漆黒の闇に包まれた前方を見つめる。

「リン。隠れてないでこっちに来い」

「………やっぱり気付いていた……」

 ハヤトの言葉に応じて、闇の中からリンが歩み寄って来た。

 音も何もない。何の予兆もなしに現れたのだ。何も知らない人が見れば、リンが闇から突然出現したように見えただろう。

「………いつから?」

「最初から。テナとアリアが起きていたときからいたよな?」

「………そう。まだまだ修行不足か………」

 割と悔しかったのか、リンが拗ねたように唇を尖らせる。

 二年前まではまったく見ることのなかった、リンの可愛らしい表情に、ハヤトは思わず頬を赤く染める。

「………どうかしたの?」

「――っ!? い、いやっ、何でもないぞ、ああ何でもないとも……!!」

 まったく、いったいどうしてしまったのだろうか。リンも、そして何より自分自身も。

 ハヤトは、思いもよらなかった展開に頭を抱え込みそうになる。が、もちろんそんなことは実際にはしない。

「それで、いったい何が目的だ?」

「………何のこと?」

「僕たちと接触したことの目的。リンが特に意味もなく、僕と会うとは思えないからさ。あ、別に会いたくなかったわけじゃないからな」

 慌てたように言葉を付け足したハヤトに、リンはふっと笑みを浮かべる。

 あの、鉄仮面さながらの無表情だったリンが、だ。

「………残念だけど、特に目的はない。たまたまあなたたちを見つけたから、ちょっと近づいてみた」

「……マジかよ……」

 衝撃の事実に、ハヤトは驚愕を隠せない。

 昨日会ったときは懐かしく感じられたリンだったが、今ではすっかり様子が変わっている。人はたった二年で、ここまで変貌できるものなのだろうか。ただ残念なことに、ハヤトは己が何か変わったという自覚はまったく無かった。

 そんなことにちょっとした虚無感を感じながら、ハヤトは再び薪の前に座る。すると、リンが驚いたことにハヤトの隣に座るではないか。

「え、ちょっ、リン!?」

「………どうかしたの?」

 リンが相変わらずの平坦な声で、無表情な瞳で見つめながら問うてくる。

 それに思わず圧されてしまい、ハヤトは「何でもないです……」と小さく返してしまう。

 リンは不思議そうな気配を滲ませながらハヤトを見つめていたが、やがて薪の方に視線を移動させる。

「………」

「………」

「………」

 ハヤトとリンの間に、沈黙が流れる。

 決して重たい沈黙ではないのだが、何か気まずい。恐らくは、それを感じているのはハヤトだけなのだろうが。

「そ、そういえばっ!」

「………?」

「リンはシュバルツの方に何の用事だったの?」

 一応、話を振ってみる。

 どうやら、ハヤトにはこの沈黙を耐え抜くことは出来なかったらしい。

「………レシアではもう仕事が無くなってきたから、シュバルツで新しい依頼探し」

「な、なるほど……」

「………」

「………」

「………」

 駄目だ、間が続かない。

 どうにかして現状を打破しようと、ハヤトは頭を必死に回転させて、言葉を喉の奥から絞り出す。

「……い、依頼っていうのは、具体的にはどんな内容のものが多いの?」

「………色々。魔物退治の依頼もあれば、下の都市に行くまでの護衛依頼もあるし、たまに貴族の世界樹巡礼の護衛なんていうのもある」

「世界樹巡礼? 貴族がか?」

「………世界樹は、神の住まう神聖な樹だから、らしい」

 確かに、神殿区の神官などはそういった話を信じている。が、だからといって命を落とす危険もある世界樹を巡礼することもないだろうに。

 貴族の無駄であると言わざるを得ない行動に、ハヤトは失笑を隠せない。

「それはまた、大変そうな依頼だな。僕じゃ到底、出来そうにない」

「………私より、あなたの方がこういう仕事は出来ると思う」

「そんな。持ち上げすぎだって、リンは」

 そう言いながらも、ハヤトは照れたように頬をポリポリとかく。

 だが、リンはハヤトの言葉を認めようとはしないらしい。

「………そんなことはない。だってあなたは、私よりもずっと強い」

「そんなことないさ。実際に二年前まで、リンの活躍は僕のよりもずっと凄かったんだし」

「………やろうと思えば、あなたも出来たはず」

 どうやらリンは、思った以上に過剰評価をしているらしい。

 思わず苦笑をもらし、ハヤトは革袋の中から干し肉を数個、取り出す。

「リン、食べるか?」

「………ありがたく頂く」

 礼儀正しくお辞儀をして、リンはハヤトから干し肉を受け取る。

 ハヤトはリンの背中からさらりと流れた黒い髪に目を奪われ、そして不意に鼻腔を柔らかく包み込んだ甘い香りに、思わず陶酔しそうになる。

 だがリンはそんなハヤトに反応することなく、黙々と干し肉を食している。

 何だか自分一人で勝手にドキドキしている事実に虚しさを感じたハヤトも、リンにならって黙々と干し肉をかじり始める。


 余談であるが、その夜、ハヤトは一人で眠れぬ夜を過ごしたという……。



     ××××××××××



 結局、リンはハヤトたちに同行することになった。

 事情を説明した当初は胡散臭げな視線を向けられたハヤトだったが、どうやらそんな疑惑も、本人による対話で解決したのだろう。今では、女子三人で固まってきゃっきゃとはしゃいでいる。

 ここが世界樹であるということを忘れそうになるほど、平和的な光景である。

 もっとも、紅一点ならぬ黒一点のハヤトは、恐ろしいまでの疎外感を味わうことになるのだが。

「………ふふっ」

 とても小さく、女子たちには聞こえないような声量でハヤトは笑う。

 それもそのはず、美少女という部類でもかなり上位に入るであろう少女たちが三人も、和やかな様子で話しているのだ。終始無表情のリンでさえも、その空気を彼女なりに楽しんでいるらしく、ハヤトにはリンの表情も普段と比べて大分彩られているように見える。

 そんな光景を自分一人が独占できる。

 これは、男であれば幸福であると感じるのが当然。いや、礼儀というものだろう。

 非常に幸せそうな色に彩られていたハヤトの顔だったが、唐突に引き締められ、険しいものになる。どうやら、リンも同じようだ。

 ハヤトは周囲を警戒しているだけのようだが、リンは全身から陽炎が立ち上っているような錯覚まで覚えるような、鬼気迫る迫力を強烈に放っている。

「ど、どうしたの?」

「もしかして………魔物っ!?」

 ハヤトとリンに遅れて、テナとアリアも気がついたのだろう。

 各々の獲物に手をかけ、そして辺りの様子をうかがう。が、周囲からは魔物のものらしい影がまったく見当たらない。

「……あっちの方か?」

 ハヤトが右手をおもむろに上げ、そして人差し指で時計で言う二時の方向を指さす。

「………多分、そう」

 短く言葉を返し、リンは風よりも速く、一気に加速する。

 人間として出せる限界の速度。そんな速度で走りながら、リンは背中の大太刀を抜き払い、そして弾丸のような勢いと速度で低空を跳躍する。

 身体の中心を軸に、駒のような回転をしながら、リンは大太刀を鋭く斬り払う。が――

「………っ!?」

 リンの手に返ってきたのは、生物のものとは到底思えないような硬い感触。全身を走り抜けた痺れに顔をしかめるが、それと同時に駆け抜けた悪寒に従い、身体を元来た方へと大きく後退する。

 その直後、リンがいた虚空を、一本の槍が貫く。

 いや、槍といっていいのだろうか。

 先端は見ているだけで肝が冷えるほど鋭く尖り、そして全体が恐ろしく太い。全体的にゴツゴツとした印象を受けるそれは――

「………樹?」

 樹の枝だ。それも、樹齢三桁は軽く越すと思われるほどの大樹のだろう。

「リン! 一度様子を見よう!」

「………先手必勝」

 ハヤトの叫び声には答えず、リンは再び突貫する。しかも、先ほどよりも速い速度で。

 もはや人外の域に達しようとするほどの速度で駆け抜け、リンはまだ姿の見えない魔物に肉薄する。

 初めに飛んできた枝を寸前で回避。間髪いれずに押し寄せてくる二本目の枝を斬り伏せ、更に突進。真正面から突き進んでくる三本目の枝に飛び移り、そして一気に前方へ跳躍する。

 そして、リンは魔物の全貌を目にする。

 それは、枝で出来た球。とでも言い表わせるだろうか。無骨な印象を受ける枝が複雑に絡み合って出来たその球は、恐ろしいまでの硬度を誇るのだろう。魔結晶の赤い輝きが、枝の間から漏れ出ている。

「………面倒」

 地に右足を着き、身体を限界まで低くする。直後、リンの頭上を数本の枝が飛び交う。

 それには構わず、リンは身体を回転させ、遠心力を付加した斬撃を魔物に見舞う。

「………っ!?」

 相当な斬れ味を誇る大太刀での、まさにリンの全力を込めた一撃は、魔物の枝を斬り裂き、その中央へと押し進んだ。だが、その進行は途中で止められてしまい、今ではうんともすんとも動こうとしない。

「………まずい……!!」

 このまま太刀を抜こうとしていては、枝に貫かれてしまう。だからといって太刀を諦めて逃避しては、戦うための手段を失ってしまう。

 もはや、万事休すか……!!

「――せいっ!!」

 リンが諦めかけたその時、ハヤトの気迫の声がリンの耳朶を打つ。

 見れば、ハヤトがリンの太刀をがっしりとくわえている枝に、強烈な斬撃を見舞っていた。

 元から半ば程まで斬り進められていた枝は、ハヤトの斬撃によってあっさりと斬り落とされる。太刀を包む力が一気に弱くなったのを感じ、リンは太刀を引き抜き、一気に距離をとる。

「まったく、だから先行するなって言ったのに……!」

「………ごめんなさい」

「別にいいさ。それより、怪我とかはしていないよな?」

「………大丈夫。問題ない」

 リンの返事に安心したようにため息を漏らしつつも、ハヤトは険しい表情を緩めようとはしない。

「一回出直す! 単に突撃だけじゃ手こずるだろう!」

「………了解」

「分かりました! 怪我とかはしないでくださいね!」

「敵の足どめは私が引き受けます。ある程度であれば、食い止められるはずです!」

 ハヤトたちが駆け戻る中を、アリアは魔物に向けて数本、矢を放つ。そんなに威力は高くないが、魔物に防御行動を起こさせれば十分だ。

 魔物が中心に接近してくる矢を弾き落とすために枝を生やしたのを確認し、アリアはハヤトたちの後を追って駆け出す。

 かくして、ハヤトたちと魔物の第一回目の接触は、魔物に傷を与えたという結果を残して、終了したのだった。

『第二十八話 変化』、いかがだったでしょうか?

いつも通り、あまり長くはないのですが……。そこら辺はご了承下さい。

さて、一つだけ事務連絡です。

いい加減聞き飽きたとも思いましたが、僕は一応学生です。ですので、定期テストというものが存在します。

その時期がちょうど来週なんですよね。初日に英語と数学を集めるってどんなバカ……!!

そんなこんなで、次話投稿が来週は少し遅れると思います。

お楽しみにしていただいている皆様には申し訳ないのですが、これも仕方ないことですので……。

さて、今回もこの辺りで失礼いたします。

今後も『世界樹のはやぶさ』をどうぞよろしくお願いします。

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