第二十七話 欲望
こんにちは、作者の吉良義人です。
なんか微妙に更新が遅れましたが……。セ、セーフだよね!? 深夜はセーフだよね!?
今回もあまり長くはありませんが……。どうぞよろしくお願いします。
『第二十七話 欲望』、皆様の時間を少しでも埋められれば、幸いです。
ハヤトが軽く身構えた瞬間、六人分の人影が一斉に駆け出す。
前から三人、右から二人、左後方から一人。
「面倒だな……」
内心で溜め息を吐きつつ、ハヤトはそれぞれの対処をすべく、行動を起こす。
身体をゆっくりと前傾させていき、一気に加速。前方の三人がたちどころに散開し、迎撃体勢を取る。が、構わずハヤトは駆け抜ける。
中央で立っていた者に接近しながら、体勢を低くする。足払い等の、いわゆる下段の攻撃を繰り出す形だ。それに伴い、前にいた者も身体を若干、低くする。ハヤトの攻撃を受け止めるつもりらしい。だが、
「――ぐほっ!?」
跳ね上がったハヤトの身体から飛び出した蹴りを顎に受け、男は短い悲鳴を上げながら吹き飛ぶ。
吹き飛んでいく男の方には見向きもせず、着地した瞬間、ハヤトは左方に立っている者の方へと走り出す。仲間が速攻で戦闘不能に陥ったことに呆然としていた様子だったが、すぐに迫り来るハヤトに向かって小刀を構える。
その油断ない身体つきからは、それがただならぬ者であることが感じられる。だがそれでも、ハヤトにとってはさしたる相手ではないらしい。
走るがままに、ハヤトは腰の袋から拳大の石を取り出し、そして投擲する。石は風を斬りながら飛来し、前方の人影の腹部にめり込む。夜間での戦闘に慣れていないのか、石が飛来してくることに気が付かなかったようだ。
予想外の大きさの衝撃に、思わず身体をくの字に折り曲げる。その直後、すぐ近くまで肉薄してきていたハヤトによって掌底を叩き込まれ、後方に吹き飛ぶ。
瞬く間に二人を戦闘不能に追い込んだハヤトに、他の四人は思わず立ち止まり、そしてわずかに後退する。もはや、大勢は決したと言ってもいいだろう。
「どうする? まだやるか?」
あれだけの運動をしておきながら、息一つ切らした様子のないハヤトに、ますます恐慌を覚える四人。だが、シュウは引くわけにはいかなかった。
元々はシュウから売り込んだ喧嘩なのだ。これを、逃げ出していい道理などあるわけがない。更に、名門貴族の嫡男としてのプライドも、シュウに、ハヤトに立ち向かえと大声で叫びたてる。
「……くそっ」
正直、勝てる見込みは薄かったが、それでも戦わなくてはならない。
震えそうになる己の足を叱咤し、シュウはハヤトに向かって構える。ハヤトもそれに気が付いたのだろう。豹を思わせるような獰猛な殺気を放ちながら身構える。
「お……おおぉぉおおお!!」
貴族として、情けない姿を周囲に見せることだけはあってはならない。その意地だけが、シュウに叫ばせ、そして目の前の獣に立ち向かわせた。
××××××××××
「やれやれ……。まったく、面倒なやつらだったな……」
周囲に倒れ伏す六人を見やり、ハヤトは手を軽く払う。拳には、シュウの血がわずかにこびり付いている。
正直、これから冒険者となったとしても、最前線で戦えるような実力ではなかった。更に言ってしまえば、ここレシア付近で停滞するようなレベルだ。だが、最後に見せた意地だけは、一定の評価に値するとも思えた。
「ハヤトさんっ、大丈夫でしたか?」
アリアがハヤトの元に駆け寄ってくる。その姿には、戦闘行為を行ったような形跡は残っていない。どうやら、シュウたちはアリアやテナには手を出さなかったらしい。
「ああ、問題ない。大丈夫だったよ」
シュウの血を拭いとりながら、ハヤトは答える。
そのとき、やや離れたところから携帯用松明の光が差し込んでくる。
「あ、誰か来るな」
「この人たち、どうしますか?」
「そうだね……」
夜中の道中で、意識を失った状態で倒れ伏す六人を、何の関係もない人間に見せるのは、さすがに気が引けるのだ。警備隊に引き渡そうか。
正直、このまま放置して立ち去ってもいいのだが……。
そうこう考えている内に、松明を持った人影は姿をはっきりと現す。それは、いつぞやで見た、レシアの警備隊の人間だった。
「おっ、丁度いいな。すみません、少し手伝ってほしいのですが――」
「……君。また彼らに暴行をしていたのかね?」
「…………なるほど。そう考えますよね普通」
さて、どうしたものだろうか。
「一応、僕の話を――」
「君の話は、詰所で聞かせてもらおうか」
「………」
えーと、これはつまり、どういうことなのだろうか?
一応、話は聞いてもらえるみたいだけど、それも詰所の中でということは……。
思案するハヤトだったが、気が付けば腕を警備員に掴まれている。すでに逃げ場は失われていたようだ。
「え、ちょっと待って――」
「さ。早く行くよ。僕も今日は眠いんだから……」
そのままずるずると引きずられていくハヤト。抵抗をしようと思えば出来るのだが、そんなことをする気は毛頭ない。
ふと、後ろを見やれば、テナとアリアがやや呆然とした顔でこちらを見ている。どうやら警備員に連行されるようなことはないみたいだ。もしかしたら、最初から、そこにいると認識されていないだけかもしれないが。
空を見上げれば、大きな丸い月が顔をのぞかせ、淡い光を放っている。普段であれば美しく感じられる月が、今夜に限っては虚しさを感じさせられた。
×××
「どうしてこうなるんだよ、本当に……」
かなりげんなりとした声を上げながら、ハヤトは街を歩く。その傍らには、テナとアリアもいた。
既に東の空には太陽が顔をのぞかせて、新たな一日の始まりを告げている。雲も少なく、誠に清々しい朝だ。
「まあハヤトさん、罰則の類は無かったわけですし……」
「とは言ってもだね……」
道には、もう相当の人数が集まって、活動を始めている。冒険者が住民の大半を占めるレシアでは、やはり朝早くの時間から行動を始める人間も多いのだろう。
そんな彼らだが、恐らくはハヤトが昨日、警備員に連行されたこと。そして少しばかり前、警備員詰所から出て行くところを目撃していたのだろう。ハヤトたちを好奇の視線にさらしながら、決して目を合わせようとしない。
「……これが、見世物の気分か……」
「……? 何か言いましたか、ハヤトさん?」
「いや、何でもないよ」
妙な感慨にふけるハヤトだったが、テナとアリアはまったく気が付いていないのか、ハヤトのもらした言葉に対して不思議そうな顔をするのみ。このような視線にさらされるのには、馴れているのだろうか?
「……それじゃ、世界樹の方に行く?」
「でもハヤトさん。今日はまだ寝ていないんじゃ……」
「いや、詰所で少し寝かせてもらったから。わりと大丈夫だよ」
アリアはなおも心配そうな顔をしているが、事実である。
意外にも、警備員の青年が丁寧な応対をした影響で、ハヤトの体調は良好といえた。精神的にはどうかは分からないが。
「今日は一日使って、第42層都市シュバルツまで行こう。ここじゃいつまでいても、あまり成長は出来ないと思うから」
そんなことを言いながら、実際には好奇の視線にさらされるのが苦痛になってきているだけのハヤトである。
「はい。分かりました」
小気味良い返事を返してくるテナ。
それに思わず顔の表情を崩しながら、ハヤトは世界樹に向かって足を進める。
第42層都市シュバルツ。
初心者から一皮剥けた冒険者が数多くいて、レシアほどではないが活気に溢れる都市だ。冒険者の質は高くなってくるため、装備の質も良いものが置いてある。
しばらくは、シュバルツでテナとアリアの、技術の向上を目指したほうがいいか……。
そんなことを思案しながら、ハヤトは前方の世界樹を見上げる。
現在の世界樹最前線は、第86層。
ハヤトが冒険者を一時的に離脱してから二年余り経っているが、その間で5層程度しか攻略できていない。それは、何故だろうか。
強い魔物が陣取っているから?
世界樹内部が複雑に入り組んでいるから?
それとも、そもそもの冒険者の人数が減少しているから?
どれもありそうな可能性だが、実際のところはどうなのだろうか……?
そこまで考えたところで、ハヤトは、自分が無意識の内に、世界樹攻略の最前線に思いを馳せているという事実に気が付く。そこまで、世界樹が恋しいのだろうか。
自分の有様に心の中で苦笑しながら、ハヤトは足を進める。
いずれにせよ、今日の目標は第42層都市シュバルツへの到達だ。これまでの攻略と比べると、かなり困難な道のりだといえるが……。
漠然とした不安感を抱きながらハヤトは、己の心中とは真逆の様態の蒼穹を見上げた。
×××
「……なあ、シュウ」
「………すまない。少し、話しかけないでくれ」
床には厚く埃が蓄積した、薄暗い部屋。
部屋の隅に設置されているベッドの上で、シュウは腕を組み、これまでの自分の行動について、思いを馳せていた。
シュウは、大陸でもかなりの力を有している家の、嫡男だった。
そこの跡継ぎとしてふさわしいように、幼い頃から英才教育を施され、自ずと自分の力に、過剰なまでの自信を抱くようになった。シュウが努力して得た実力だから、それを誇って何が悪いと思っていた。
だが、それでもいつしか、貴族としての作法や常識に縛られた世界に窮屈さを感じるようになっていた。エーレンの学園区に入り、冒険者としての訓練を積むようになったのは、幸運だったともいえる。
貴族として名を轟かせるのでは絶対に味わえない、魔物との戦闘による恐怖と、その中にしか存在しない興奮。それら全てが、シュウを満足させた。
ただ一つ、不満点があったとすれば、それは自分と同じような会話が出来る仲間がいなかったことだろうか。
幼い頃から英才教育を施されてきたシュウと、冒険者になろうと幼い頃から考え、英才教育どころかまともな教育を受けていなかった者。その二つが相容れるのは、思っていた以上に難しかった。
その事実は、シュウに、自分は周りとは違う、特別な存在なのだと思い込ませた。実地訓練でも相当優良な成績を残したという実績も、それに拍車をかけた。
だからだろうか。あのハヤトという男に敗北した瞬間、もの凄く悔しかった。
そのために昨夜はハヤトに勝負を挑んだわけだが――
「六人でやって、負けるか……」
「……シュウ。俺たちが弱かったわけじゃなくて――」
「分かっている。あいつが強かっただけだっていうことは」
それでも、一人に対して六人で挑み、そして敗北したのは、紛れもない事実だ。
更にシュウは、魔物を相手にしたときと同等か、もしくはそれ以上の戦慄をハヤトを相手にして感じた。
「……勝ちたい、な……」
自然とその言葉が、シュウの口からもれる。
自分がハヤトに負けっぱなしである。その事実は、絶対に受け入れられないものだった。どうにかして、ハヤトに勝ちたい。
シュウの胸の中で、欲望の業火が燃え上がった瞬間だった。
『第二十七話 欲望』、如何だったでしょうか?
次話からは再び、世界樹に登っていくことになります。ぜひ、お楽しみに!!
さて、簡単な近況報告です。
現在、僕は学生なのですが、学校では学園祭が行われています。
学園祭と言えば、数多くの恋愛イベントの嵐!! という認識を持っているのですが(あれ、僕だけ?)生憎と僕の学校は男子校ですので、そういったことがまったく起きない。すごく残念。
仕方ないので自棄になって楽しんでいるのですが、ふと目を外に向ければ他校生に難破をしていく同級生の姿がいっぱい……。
そ、そんなこと、僕には出来ない!!
どうでもいい話です、はい。
さて、それでは今回はこの辺りで失礼します。
今後も『世界樹のはやぶさ』をどうぞよろしくお願いします。




