第二十五話 清水
こんにちは、作者の吉良義人です。
今回、非常に更新が遅れてしまい、誠に申し訳ございませんでした。
この挨拶もすでに何回も繰り返されたものになっていますが、何をやっているんでしょうね僕は……。
次の更新も、近い内に行う予定です。楽しみにしていただけると幸いです。
それでは『第二十五話 清水』、どうぞよろしくお願いします。
世界樹第二十九層。
まだ日も空の真上に陣取っているような時間は、冒険者たちの探索が現在進行形で行われている。
「……全然魔物と交戦しませんでしたね……」
「そうだね」
アリアが拍子抜けした様子で呟くのに、ハヤトは律儀に答える。
事実、世界樹の第二十台には、他の何処の階層よりも多くの冒険者たちが探索を行っているため、魔物も自然と何処よりも多く討伐されている。
ではなぜ、そんなに冒険者たちが攻略しているのか。その理由は単純にして明快。そこまでであれば、ある程度の実力さえあれば誰でも攻略できる。それこそ、何も考えずに直進していても、だ。
だが、それより上の階層になってくると、話が違ってくる。魔物たちの戦闘技術が目に見えて向上し、ただ闇雲に突っ走っていては、魔物たちの手によって瞬殺されてしまう。
だから冒険者たちは、第三十層に行く前に、第二十層台で魔物との戦闘経験を多く積み、実力を蓄えていくのだ。
「ま、順調にここまで上がって来れたんだから、良いじゃん! ほら、あと少しでレシアに着くよ!」
快活にそう言うテナ。
見れば、ハヤトたちの前方からまぶしいほどの日の光が差し込んできている。
第二十九層に位置する都市、レシア。
上記の理由から、他の何処の都市よりも多くの冒険者が住み着き、そのため他の何処の都市よりも活気に溢れた都市だ。まだはっきりと調べられた訳ではないが、もしかしたらその活気は、第零層に位置するエーレンにも並ぶものかもしれない。
ハヤトたちの視界は、どんどん日の光で満たされていき、そして世界樹を抜ける。
「とうっ、ちゃ~くっ!!」
威勢の良い声を上げて、テナが万歳をする。
「こんなに早く着くとはね……」
世界樹内にいた時と同じ、やや拍子抜けしたような。それでも、何処か安堵の色が入り混じった声でアリアが呟く。
「さて。それじゃ、まずは今日の宿を探さないとな」
「どうせどこも空いていないだろうけど」と、どこか諦めた様子でハヤトは小さく付け足す。
ふと、歩き出したハヤトたちの耳に、喧騒の音が聞こえてくる。
「……喧嘩ですかね?」
「さあ。とりあえず、行ってみようか」
「喧嘩なんて、冒険者がするなよ……」と、誰にも聞こえないくらいの声で呟いて、ハヤトは疲れたような様子を滲ませながら歩き出す。
喧騒は、ハヤトたちが近づくごとに段々と大きくなっていき、やがて何かを殴りつけるような音まで聞こえてくる。
「……急ぐか」
さすがに緊張感を滲ませた声で、ハヤトが足を速める。
喧騒の場まで来たハヤトたちは、数人の粗暴な印象を受ける男たちと、それに囲まれた若い男女を見つける。彼らが着ている衣服、黒を貴重とした制服から考えると、エーレンの学園区の生徒たちだろうか。
乱暴そうな男たちは、学生たちに向けて大きな叫び声を上げている。
「すみません、何かあったのですか?」
男たちと学生たちの間に割って入るように身体を滑り込ませ、ハヤトは、とりあえず男たちの方に顔を向ける。
「あぁ? 何だてめぇ。てめぇには関係ないだろうが、すっこんでいやがれ!!」
男たちの筆頭だろうか。
頭を丸刈りにした男が、ハヤトに怒鳴り声を浴びせる。
「すみません。しかし、ここは公然の場ですので」
出来るだけ穏便に済ませようと、ハヤトは可能な限りの温厚そうな笑顔を浮かべて、男たちの対処に当たる。
ハヤトの言葉に少し正気を取り戻したのか、男たちはとりあえず、その怒りを収めようとする。とりあえずは成功だろうか。
「ふん。これだから下賤な賊どもは……」
失敗した。
「ちょっ、お前っ、何を言って――」
「お前も。僕たちの邪魔をするな。僕たちは、このバカ共と話をしていただけだ」
男たちは、再び、怒りで顔を紅潮させ始める。
かなり焦った様子で、ハヤトはその声の方向――後ろの学生たちの方を見る。
学生たちの中でもリーダーのような位置にいるのだろうか。どことなく高貴な雰囲気を感じさせる青年は、明らかに人を見下すような目で、男たちを見つめている。
「てめぇ……いい加減にしろよ!!」
もう怒りが堪えられなかったのか。丸刈りの男は、腕を振りかぶり、ハヤトを脇に押しやる。そして学生に向かって拳を振り落とす。腰に吊るされていた剣を抜かなかっただけ、まだ理性は残っていたと考えて良いのだろうか。
学生は、やはり見下すような目でその拳を見つめ、そしてひょいと軽い動作でそれを避ける。更に、体勢を崩した男の足を払い、そして鳩尾に刺突を繰り出す。
学生の放った刺突は、もはや喧嘩で使用されるような域を超え、人を殺せるような威力を持っている。
必殺の一撃が男の鳩尾に突き刺さろうとした瞬間。
「………っ!?」
「まったく。冒険者が街中で喧嘩しちゃいかんだろ……」
呆れた様子で、ハヤトは学生に告げる。
ハヤトの手は学生の腕を掴み、がっちりと固定していた。必殺の刺突は、丸刈りの男の寸前で止まっている。
「……離して欲しいんだが」
「いや、それは聞けない相談だな」
「………ちっ」
しばらく抵抗を続けた学生だが、やがて諦めたように舌打ちを鳴らし、力を抜く。
ようやく収まったかとハヤトも力を抜きかけた瞬間、学生は身体を低く屈め、ハヤトの鳩尾目掛けて蹴りを放つ。
「ぐっ!?」
思わぬ衝撃に、ハヤトは呻き声をもらし、その場に崩れかける。が、何とか足を立て、屈んだ状態を維持する。
目の端で確認すれば、学生は右腕を後方に引き、そして一気に突き出してくる。それの向かう先はハヤトの顔面。いや、眼球だ。眼球を抉り取るつもりだろうか。
ハヤトは左腕を跳ね上げ、学生の腕に掌底を喰らわせる。
攻撃を放つ途中にあったその腕は、想定外の力を加えられ、本来予定していた軌道のはるか上方を突き抜ける。
続いて、ハヤトは立ち上がりざまに右手に拳を作り、そして思い切り学生の頬に叩きつける。
学生は呻き声をもらし、そして錐揉みしながら後方に倒れこむ。
「痛いな、まったく……」
学生に蹴られた腹部を押さえながら、ハヤトは倒れている学生の元に歩み寄る。そして確認するが、どうやら学生は気を失っているらしい。
「なんだこいつ。打たれ弱いな……」
やや釈然としないものを感じるハヤト。
「ハヤトさん、大丈夫!?」
心配そうな表情をしながら駆け寄ってくる、テナとアリア。
その二人に軽く手を振り返しながら、ハヤトは後方から聞こえてきたレシア警備隊の靴音を聞いた。
××××××××××
「どうしてこうなるんだ……」
既に日はとっぷりと暮れ、赤い光が世界樹を照らす。
世界樹第29層に位置する都市レシアの警備隊詰所。そこから、ハヤトはほうほうの体で出てきた。
真昼時、騒動を実力でもって治めたハヤトだったが、その後駆けつけてきた警備隊にどういう訳か拘束され、そして詰所まで連行された後、今さっきまでひたすらに問答を繰り返していた。
「さて。テナとアリアはどこだ?」
もちろん、テナとアリアは騒動に直接は関わっていないため、警備隊によって連行されるようなことは無かった。そのおかげで、現在は彼女たち二人とはぐれてしまっているわけだが。
辺りを見渡したハヤトだが、テナとアリアの姿はどこにも見当たらない。時間も時間のため、夕食でもとっているのだろうか。
「……腹、減ったな……」
急に空腹を感じ、ハヤトはやや早足で商店街の方へと歩き出す。商店街であれば、どこかしらには定食屋があると考えたからだ。
「………ハヤト?」
不意に、ハヤトの耳朶を打つ声。
ほとんど感情らしいものは感じられず、透明な印象を受ける、清水のような美しい声だ。そして、ハヤトにとっては非常に聞き覚えのあった声でもあった。
「……リン?」
恐る恐る振りかえったハヤトの視界に入ってきたのは、背中に吊るされた大太刀と、顔にかけられた眼帯が特徴の少女。
その表情は、ハヤトの記憶の中では鉄仮面の如き仏頂面であったはずだが、今はそこに驚きの感情が存在している。
「………ひさしぶり」
驚きのあまり、口を大きく開けたまま硬直していたハヤトに、リンは静かな声でそう言ったのだった。
『第二十五話 清水』、いかがだったでしょうか?
更新が遅れたくせに短い本文で、読者の皆様には申し訳ない限りです。
まだまだ未熟な作者ですが、これからも応援していただけるとありがたいです。
さて。話は変わりますが、もうゴールデンウィークですね。
世間では九連休だかと騒がれているようですが、僕にとってはせいぜい五連休です。しかも、その内の一日は部活で潰れるという……。
誰だ九連休とか言ったやつ!! 僕の前に出て来い!!
さて、そんなこと言ってもやはり嬉しいゴールデンウィークですが、やはり皆様は旅行などに行くのでしょうか。
僕はそういった予定は皆無(自分で言ってて虚しい……)ですが、どこか遠出をなさる方は、ぜひお気をつけ下さい。
それでは今回はこの辺りで。
これからも『世界樹のはやぶさ』を、どうぞよろしくお願いします。
この作品が、皆様にとってちょっとした得にでもなれば、幸いです。




