第二十四話 予感
こんにちは、作者の吉良義人です。
まずはお詫びを申し上げます。
一週間に一話とか言っておきながら、更新が遅れてしまって、本当にすみませんでした!!
もうちょっと計画的にやればいいのにとか毎回思うのに、いつも投稿一日前に書き始める始末。
ちょっと僕、学習能力無さすぎだろ……。
それでは『第二十四話 予感』、どうぞよろしくお願いします。
日は既に空高く昇り、更に少しだけ傾きつつある頃。
世界樹第0層、つまりは世界樹の根元に位置するエーレンの街の一角、貴族階級にあたる人物が住む特級区でも、かなり中央に位置するフェルノ家の屋敷にて、ハヤトたちはかなり遅めの昼食を食べていた。
「………」
「………」
本来であれば、華やかな食事になるような面子がそろっているにも関わらず、その場には重たい沈黙が居座っていた。その発生元は知っての通り、フェルノ家頭首のルイ=フェルノだ。
一度は本来の、人の良さそうな顔をハヤトにも向けたルイだったが、時間の経過と共にその表情は不機嫌という色に塗られていき、今や全身から不機嫌オーラを放つまでになっている。
「……そういえば、さ」
恐る恐る、といった体で、ハヤトが口を開く。
「これからまた、世界樹攻略が始まるわけだけど、準備とかで必要なものがあれば、僕が買ってくるよ」
テナとアリア、そして何故かエルダまでもが、空を見つめて考える様子を見せる。だが、帰ってくるのは無言だけだ。
辛抱強く返事を待っていたハヤトだったが、やがて場の沈黙に耐え切れなくなったのか、視線を落とし、顔をうつむかせてしまう。
「………」
「………はぁ」
ふと、ルイが大きな溜め息を吐く。
「……どうしたのですか、お父様?」
アリアが、慎重な様子で語りかける。
だが、ルイは無言で眼を瞑り、そして何かを思案しているのか、微動だにしようとしない。
「…………った」
「へ? 何か言いましたか、お父様?」
言葉が聞き取れず、思わず聞き返したアリアの言葉に、ルイが僅かに顔をしかめる。
「すまなかった、と言ったのだ」
「……すまなかった、とは、一体何のことでしょう?」
ルイの言葉の真意が測れず、アリアに代わってハヤトが尋ねる。
「……私がこのような態度をとっているから、あなたたちは楽しいひと時を過ごすことが出来ていない。だからだ」
「いえ、決してそんなことは――」
「良いのだよ。結局、私は娘を取られることが、気に食わないだけなのだから」
「…………へ?」
「…………は?」
ルイの放った言葉に、ハヤトとアリアが思わず、傍から聞けば間抜けな声を上げる。
「……お父様、一体何のことです?」
「分かっている。先程の決闘で、ハヤト殿が十二分に優れた御方であることが分かった。私には、もう止めることはできない」
「……駄目じゃないかな、これ」
一人で感傷に浸るルイを見て、ハヤトとアリアはかなり冷めた目をする。一方、エルダの方は何かを悟ったのか、面白い遊具を見つけたときのような顔をして、テナは心の底から不思議そうな顔をしている。
「……なあ、ルイ」
「……どうした、エルダ」
「一つだけ、言っておきたいことがあるんだが……」
ルイは顔を上げ、そしてエルダの方を見る。
「別にハヤトとアリアは、そういう関係じゃないぞ?」
「何だとっ!?」
「そっ、そういう――っ!?」
「「………?」」
エルダの放った言葉に、それぞれが違う反応を見せる。
ルイは慌てふためいたような、それでいて何処かほっとしているような表情を浮かべており、そしてアリアは羞恥で顔を真っ赤に染めている。だが、その一方でハヤトとテナは何も分かっていないらしく、ただ不思議そうな表情を浮かべるのみだ。
「そっ、それでは、あれも私の勘違い……?」
「ああ、そういうことになるな」
「そうか。……そうか……!!」
急に嬉しそうな顔になり、そしてこれまでに見せたことのないような、むしろ気持ち悪くなっているような満面の笑みで、ハヤトの方を向く。
「ひっ……!?」
怯えたような声を反射的にもらしたハヤトを無視し、ルイはハヤトに迫る。
「ハヤト殿。これまでの私の非礼、どうかお許しいただきたい」
「は、はぁ……。別に構わないですけど……」
気味悪そうな顔をしているハヤトにまったく反応せず、ルイはハヤトの手を強引に握り、大きく上下に振る。
「はっはっはっ! それは良かった! では、昼食の続きといたしましょうか!」
快活に笑い飛ばし、ルイは再び席に座り、今度は生き生きとした動作で昼食を口の中へ運んでいく。
「……何なんだよ、本当に……」
呆然とした様子のハヤトの言葉に、テナは同意の意を示し、エルザとアリアは小さく溜め息を吐いた。
×××××××××××
「それでは、どうもご馳走様でした」
「いやいやこの位。またいつでも、いらっしゃってください」
ルイに別れの挨拶を告げたハヤトは、フェルノ家の屋敷を出て行く。
既に日は沈みかけ、世界樹が真っ赤に染め上げられている。
「……なんか、すごく疲れたぞ……」
「申し訳ありませんハヤトさん。お父様があんな……」
ハヤトの見送りのために出てきていたアリアが、ハヤトと同じく疲れた表情をしながら頭を下げる。
「いや、別に良いんだけどさ」
ハヤトは大きく身体を伸ばし、筋肉をほぐしていく。やはり冒険者という荒行事をこなしてきたハヤトにとって、フェルノ家のような公正な場は、息が詰まるのだろう。
「……なんか忘れているような気がするんだよな……」
エルダのことだろうか。でもエルダは、酒の飲みすぎで寝てしまい、結局今日はフェルノ家で泊まることになったはずだ。
テナも、今日もフェルノ家で泊まっていくらしい。
では、忘れているものが何なのか、ハヤトは必死に思い出そうとするが、なかなか浮かんでこない。それが無いと、世界樹攻略が進まなくなるようなものだったはずなのだが……。
「そういえばハヤトさん」
「うん? どうかした、アリア?」
アリアがふと思い出したように、ハヤトの腰の辺りを指差しながら言う。
「剣は、どうするんですか?」
「………」
「………」
「………」
不意にその場に降臨してきた沈黙。
ハヤトは頬に一筋の冷たい汗を流す。
「……どうしよっかねぇ……」
ハヤトは商業区のある方向に目を向けるが、もう夕暮れにもなってしまうと、ほとんどの商店が店を閉じてしまうだろう。
「……仕方ないから、家にある古いものでも整備して、持ってこようかな……」
「明日、商業区に行くのは――」
「いや、僕の都合で攻略を遅らせるのは、僕の気が咎めるからさ」
まだ少し納得のいかないような顔をしていたアリアだったが、やがて本人の自由だという結論に達したのだろう。小さく頷いてみせる。
「それじゃ、明日は世界樹前で待っているよ」
そう言い残し、ハヤトは居住区の方へと歩いていった。
×××××××××××
夜も更け、大半の人が寝静まった頃。
居住区の一角にあるハヤトの家の地下室では、ハヤトが明日の世界樹攻略のために、武器の選別をやっていた。
「これは……刃こぼれが酷いな。こっちは……さすがにこの傷じゃ無理か」
これまで、冒険者生活を長く営んできただけあって、ハヤトの地下室に置いてある武具の数は半端ではない。だが、そのいずれもが傷つき、もはや使用が難しいほどになっている。
「おっ、これは……思ったより状態がいいな」
ようやく状態が良いものを見つけたのか、ハヤトの表情に喜びの色が見える。だが、それもすぐにくもってしまった。
「これは……」
今、ハヤトが手に持っている剣。
細身の刀身を持っていて、威力よりは機動重視の剣だ。だが、刃から放たれた、ぎらつくような暴力的な光は、その剣がまるで殺意で出来ているような錯覚までもよおさせる。
「……あの時使ったやつか……」
あの時。つまりは二年前、ハヤトが冒険者をやめる直前のとき。
ハヤトはこの剣を使ってあの魔物と対峙し、そして勝利した。その時のことを、ハヤトは明細に思い出すことができない。いや、もしかすると、ハヤトが無意識のうちにそれを思い出すことを、拒否しているのかもしれない。
ただ、一つだけ明確に分かっているのは、あの時の魔物によってルティアは殺され、そしてハヤトは生きているということ。
「………ちっ」
思わず、小さな舌打ちをしてしまったハヤトだが、これ以外に使えそうな剣は無いだろう。
「……仕方ないか」
あまり気乗りはしなかったものの、仕方が無いと判断したハヤトは、剣を予め選別していた鞘に収める。
鞘を左手で掴んだまま、右手で剣の柄を握る。懐かしい、と意味も無く感じる。やはり、二年前までの攻略を忘れられないのだろう。
「………はぁ」
溜め息を吐き、ハヤトは地下室から出る。
ふと窓から外を見やれば、まず最初に目に入ってくるのが、夜空の中で大きく葉を広げる世界樹の巨体。
神殿区の神官たちにとっては神が住むという地。商業区や特級区に住む者にとっては、金稼ぎのための場。そして冒険者たちにとっては、己の力を存分に発揮して戦う、戦場。
今や、世界中の人が、世界樹の元に集まっている。その様子はそう、まるで――
「世界樹が、僕たちを拘束している、か……」
世界樹という存在があるからこそ、戦う力を持った冒険者たちは一致団結し、魔物たちと戦う。だがもしも、この世界樹が無くなってしまったときは、冒険者たちは一体どうなってしまうのだろう。
世界樹が無くなってしまったとき、世界はどうなるのだろう。
「……考えてもしょうがないか」
どうせ、世界樹が無くなるなどということは起きやしない。
考えることが面倒くさくなったのか、ハヤトは結局、そのまま寝室へと入っていく。
その後姿を見送る、月光に照らされた世界樹は、何処か不気味であり、そして何処か寂しげだった。
××××××××××
世界樹第26層。
ここら一帯の下層では見られないはずの強大な力を持った魔物が出没したといわれる場所だ。
そこに、一人の少女が立っていた。
背中に括りつけられている長大な太刀が、少女が冒険者の一人であることを物語っている。
頑強な鎧のようなものは着けていない。せいぜい、服の上から篭手や額当てなどを着けているだけだ。
「………」
少女の周りには、大量の赤い結晶。その全てが、恐ろしいほど綺麗な断面を持った魔結晶の欠片だ。
少女は周囲を見渡し、魔物の気配を探ってみるが、もう魔物の気配は微塵も感じられない。
「………弱い」
感情の類が一切こもっていない目で、少女は空に消えていく魔物の残骸を見つめる。
「………もっと、強いやつ……」
そして、少女は初めて、顔に笑みを浮かべる。ぞっとするほど、美しい笑みだ。
その目に映っているのは、狂気に限りなく近い高揚。
「………ハヤト……」
どこか愛おしさの混じったような声で、少女は呟いた。
ハヤト。
かつて、少女と共に戦った男であり、そして少女が初めて、自分と同等かそれ以上の力を持った者と認めた人間だった。
『第二十四話 予感』、如何だったでしょうか?
皆様の退屈を、少しでも紛らわせられたのであれば、幸いです。
では書くようなことも特に無いので、今回はこのくらいで失礼します。
それでは、今後も『世界樹のはやぶさ』をどうぞよろしくお願いします。




