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世界樹のはやぶさ  作者: 相良義人
第二章
23/47

第二十三話 和解

こんにちは、作者の吉良義人です。

今回もきっちり一週間で投稿になりました。できればもう少し速いといいのですけどね……。

一応、今回の話で第二章は終了させていただく予定です。

それでは『第二十三話 和解』、どうぞよろしくお願いします。

「……あれから二年か……」

 感慨深げに、エルダが呟く。

「そうか……。もうそんなに経ったのか」

 ハヤトは想いを馳せるように、部屋の窓から空を見上げる。

 空から少し視線を落とせば、すぐに世界樹の姿が眼に飛び込む。かつては第80層台まで攻略していた、世界樹だ。

 ハヤトが冒険者を引退してから、世界樹攻略がどうやら行き詰っているらしいということは、噂で聞いていた。何でも、強力な魔物が通路に陣取っているらしい。

「……ハヤト。一つ、聞いていいか?」

 唐突に、エルダが口を開く。

 ハヤトがエルダの方を見やれば、エルダは何時に無く真剣な顔をしている。

「……何だ?」

「どうして、世界樹をまた登っている?」

「………」

 しばし、ハヤトは考えてみる。

 どうして世界樹をまた登っているのか。

 まず最初に浮かんだ答えが、テナに頼まれたから。

 だが、これは違うとハヤトは直感的に理解することができた。その理由は分からないが、そうではないと身体の何処かが叫んでいるような気がするのだ。

 では、何故だろうか。

「……僕が冒険者だから、かな?」

 ハヤトの出した答えに、エルダは眼を丸くする。

「結局、二年前にルティアが死んで、僕は冒険者を辞めたけれど、どこかで僕は世界樹を求めていたんだと思う。まったく、自分でも酷い奴だと思うよ」

 そして、ハヤトは自嘲するような笑みを浮かべる。

「……そうか……」

「………あとは……」

「いや、もういいさ」

 更に続けようとしたハヤトの言葉を、エルダは強引に断ち切る。

「お前が後悔していないことだけ分かれば、充分だったんだ」

「後悔はしていないよ」

 今度は、ハヤトはエルダの言葉に対して即答する。

「また世界樹を一番下から、今度は普通の冒険者として登っていく。これまではずっと最前線で攻略してきたから、そういうのも楽しいんじゃないかって思うんだ」

「……ま、そうかもな」

 いや、違う。

 ハヤトは、己の心の中でのみ、そう呟く。

 本当の所、自分の所に初めて来たテナの姿が、何故か二年前のルティアと重なってしまったというだけなのかも知れない。いや、恐らくそうなのだろう。

 そんなテナを見て、そして妙な正義感のようなものに駆られ、そのまま成り行きで世界樹を登っているだけ。ハヤトは、そんな気もしていた。

「……それは、嫌だな……」

「うん? どうしたハヤト?」

「あ、いや、何でもないよ」

 怪訝そうな眼を向けてくるエルダだったが、やがて溜め息を吐きながら呟く。

「……私もまた、世界樹登ってみようかな……」

「攻略が一気に進みそうだな」

「ははっ、そんな、私一人で進むような問題でもないだろ」

 ハヤトの言葉を、エルダは軽快に笑い飛ばす。

「……あながちそうでも無いと思うけどね」

 長い間パーティとして組んでいただけあって、ハヤトはエルダの実力というものを熟知している。

 エルダは後方支援のために使われる弓を装備していながら、前衛顔負けの攻撃力を持っている。そんな存在が一人でも加われば、ぐっと攻略成功率は上昇すると思うのだが。

「駄目だよ。私はもう、衰えつつある」

「………え?」

 諦めたようなエルダの言葉に、ハヤトは驚愕のあまり眼を見開く。

 あのエルダの力が、衰えつつある?

 現役時代の力を知っているだけに、そんな様子が微塵も想像できないハヤトだった。

「それに、私には今、学園区教師という仕事があるんだ。大切な教え子たちを放っておいてまで、世界樹に戻ろうとは思わないよ」

 ハヤトに呆れたような顔をしながら、エルダは言葉を付け足す。

「エルダが、教師っぽいだと……!?」

「お前、さっきからいい加減失礼だぞ」

 顔に微笑を貼り付けながら、眼に苛立ちの炎がくすぶり始めているエルダ。

 それを確認し、ハヤトは全身に冷や汗を浮かべる。顔色も眼に見えて悪くなり、身体が小刻みに震えだす。

 部屋に居心地の悪い静寂が下りてきた頃、それを破るように扉が叩かれる。

「シラキ様に旦那様から伝言を預かっています」

「………何ですか?」

 エルダの放つ苛立ちのオーラに怯えながら、ハヤトは扉の向こうに向かって声をかける。

「……『裏庭にて待つ』とのことです」

「……えー……」

 凄まじく嫌そうな声を上げるハヤト。

 それには誰も答えず、扉の向こうからは段々遠ざかっていく足音。

「行ってきたらどうだ?」

「いや、そう言われてもね……」

 さすがに、名門貴族フェルノ家頭首ルイとの決闘を、戦闘の専門家であるハヤトが全力で行うのは気が引ける。

 ルイに大きな怪我でも負わせたら一大事だし、そもそも決闘をやること自体にあまり乗り気ではない。

「はぁ……」

 大きな溜め息を吐いて、ハヤトは重い腰を上げ、ゆっくりと扉に向かって歩いていく。

 こうなってしまった以上、決闘から逃れるという道は閉ざされてしまったと考えていいだろう。さすがに、ハヤトもフェルノ家から目の敵にされるような真似はしたくない。

 延々と続く廊下を抜け、陽気な日の光が照らす裏庭に出るハヤト。

 草が鬱蒼と茂り、日当たりがかなり良い。決闘をやる上での留意点としては、日の光を直視しないことと、足元が見えないことだろうか。

 視線を足元から持ち上げれば、少し離れたところに模擬剣を持ったルイと、ルイを心配そうに見つめるアリアの姿がある。

 先ほど見たような、貴族が着るような派手な服ではない。実用性重視の、かなり優秀な戦闘服と言える服装だ。

「……やっと来たか」

 裏庭に入ってきたハヤトに気付くや否や、凄まじい迫力を放ち始めるルイ。

「ええ。それで、勝負形式はどうするんです?」

 もうなるようになれと、大分投げやりな思考に落ち着いてしまったハヤトは、フェルノ家の使用人からルイのと同じ模擬剣を借り、軽く素振りをする。

「どちらかが倒れるまで!! 方法は自由!!」

「ちょっとお父様!?」

「分かりました」

「ハヤトさんまで何を言っているんですか!?」

 アリアが悲鳴のような叫び声を上げているが、ルイとハヤトの耳には入ってこない。

「それでは、始めましょうか」

「ええ。よろしくお願いします」

 固い握手を交わす、男二人。

 その手には明らかに過剰な力が加わり、ミシミシと怪しい音が出ている。

 握手を解いた二人は、充分な距離を取り、そして模擬剣を構える。

「それではアリア。開始の合図を頼む」

「……分かりました」

 ルイの平坦な声に、アリアは諦めたように同意の意を示す。

「それでは、決闘を開始します。両者構え!」

 ハヤトとルイは剣を構えたまま、微動だにしない。二人の間に、緊張の火花が散るような錯覚まで覚える。

「それでは、始め!!」

 己の咆哮を轟かせ、二頭の獅子が激突する――!!



     ××××××××××



 どういうことだ……?

 ルイと剣を交えながら、ハヤトは内心、首を捻る。

 確かに冒険者を引退してから長かったが、ある程度の力は取り戻したつもりだった。だが、眼の前に立つルイをどういう訳か、押し切れない。

 現在、勝負の展開はハヤトの優勢。だが、ルイは確実にハヤトの攻撃を受け止め、そして鋭い反撃の手を繰り出してくる。

「どうした!! この程度では私は倒せぬぞ!!」

 挑発するように、ルイが大声を轟かせる。

「ったく!! うるさいっての!!」

 それに負けじと、ハヤトも声を張り上げて打ちかかる。

 上段からの打ち込み、流れるようにルイの腹に向かって蹴りを放つ。しかし、いずれも容易く受け止められる。

 姿勢を屈めたハヤトは、周りの茂みに姿を隠すようにしながらルイとの距離を取る。

「なんだ!! 今度は逃げようと言うのか!!」

 ルイの叫びを無視し、ハヤトは模擬剣を真っ直ぐに投擲する。その標準は、わずらわしいルイの顔面。

 一瞬驚いたような顔をしたルイだが、難なくその剣を払いのける。

 だが、ハヤトにはそれで充分だった。

 一瞬、ルイが意識を逸らした瞬間に、ハヤトは気配を断ち切り、そして身を茂みの中に潜ませる。後は機会をうかがってルイに奇襲をするだけだ。

 ルイもハヤトの思惑に気が付いたのか、辺りを見渡す。だが、ハヤトのはその程度で発見されるような甘い隠蔽スキルではない。

「くそっ……」

 悔しそうに歯噛みした後、ルイは己も姿勢を低くする。確かにそうすれば、茂みからの奇襲には柔軟に対応しやすいだろう。だが、甘い。

 世界樹最前線で戦ってきた経験のあるハヤトに対して、その判断は甘すぎた。

 物音一つ立てず、ハヤトはルイに密かに肉薄。そして人思いに足払いをかける。

「うおっ!?」

 驚いたような声をあげ、ルイは咄嗟に受身を取るが、それでも姿勢は崩れる。

 その上に圧し掛かるように、ハヤトはルイの手首を固く握り締め、そして膝でルイの胸を地面に押し付ける。

 ルイは少しも身動きがとれず、逆にハヤトはやろうと思えばルイを殺すことさえ可能。勝敗は、火を見るより明らかだった。

「……僕の勝――」

「かぁぁあああ!!」

 突然、ルイが獣のような咆哮を上げ、力任せに暴れ始める。

「ちょっ、そんなに暴れるなって――」

「どらぁぁあああ!!」

 そしてなんと、力ずくでハヤトを吹き飛ばしてしまう。

 一応自分の模擬剣を回収したハヤトは、とりあえず構えておく。

 一方、もはや貴族であることが信じられないような有様のルイは、眼を血走らせ、息を荒くしながら、ゆっくりとハヤトに近づいてくる。模擬剣が、気が付けば鬼の棍棒のように感じられる。

「ちょっと待ってくださいって。さすがに今のは――」

「いい加減、うるさぁぁあああいぃぃいいい!!」

 ルイに対して文句の声を上げようとしたハヤトの言葉を遮るように、少女の大きな声が裏庭に木霊する。

 その声に、正気に戻されるルイ。

 そして、呆然とした顔で声の主を見るハヤト。

「……テナ?」

「まったくもぉ、みんないい加減うるさいよ!!」

 顔いっぱいに怒りを浮かべて、テナが文句を言い始める。

「いや、それよりもさテナ……」


「何でその服?」


 テナが着ているのは、彼女が攻略時以外で寝るときにきまって身につける服、要は寝巻きだ。

 絹製なのか、白が滑らかに輝く、薄手の服。

 本来なら見てはいけないような雰囲気がするはずのそれも、寝癖を大量につけたままのテナが着ると不思議なことに、まったく怪しい感じがしない。それどころか、一種の可愛さまで感じてしまう。手に大きなぬいぐるみを持っているから、なおのことだ。

「あれ? ハヤトさん、何でここにいるの?」

 今頃気が付いたのか、テナが不思議そうな顔をしてハヤトを見る。

「いや、君とアリアを探しに来たんだけど……」

「あ、そうでしたか。それじゃ、また会えてよかったですね!」

「あ、うん。そうだね」

 何かが間違っている。

 そんな直感を抱かずにいられなかった、ハヤト。

「でも、こんなところで騒い――」

「テナ。ちょっとテナ!」

 再び説教を始めようとしたテナの耳元で、アリアが必死に声をかけている。

「……どうしたの、アリア?」

「テナ、そろそろ着替えたほうが……」

 アリアの言葉に、テナは自分の姿を見下ろし、そしてギチッと硬直する。

 それからテナの頬に朱が差し、テナはもの凄い速度で屋敷の中に戻っていく。

「………」

「………」

「……なんだったんだ?」

「……さあ?」

 心底不思議そうな顔をするハヤトとアリア。

 ルイもどうやら気が抜けた状態らしく、落ち着きを取り戻している。

「……とりあえず、お茶にしましょうか」

 ルイの提案に、ハヤトとアリアはこくりとうなずいたのだった。

『第二十三話 和解』、如何だったでしょうか?

読者の皆様の退屈を、少しでも埋めることが出来たのであれば幸いです。

なんか今回、終わり方が恐ろしいまでに微妙な気がしましたが、一応あれで終了させていただきます。

次話からは第三章がスタートになります。

第二章で登場していただいたキャラたちは、今後も何かの機会で出てもらう予定です。どうぞお楽しみに。

それでは、これからも『世界中のはやぶさ』をどうぞよろしくお願いします。

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