第二十話 劣等
こんにちは、作者の吉良義人です。
今回の投稿は比較的早くできました。これからもこんな状態が続けば良いのですけどね。
それはそうと、花粉の季節になってきましたね。
僕も花粉が眼やら鼻に入って、非常に不快な思いをしています。もう眼も痒いし鼻水も止まらないしくしゃみも出るし……。
皆様もお気をつけ下さい。
それでは『第二十話 劣等』、どうぞよろしくお願いします。
「………で、どうするのさ?」
隣に座るエレックが、何時に無く真剣な眼でハヤトに尋ねる。
「……本人の意思を尊重したいとは思うけど、まさか上に登りたいとはね……」
ほとほと困った様子で、ハヤトは少し離れた所で再び寝息を立て始めたロイ――ルティアの恋人を見る。ハヤトたちが難しく考えているのがバカバカしくなってくるほど、穏やかな寝顔だ。
「……こうなったのも仕方ないか……。よし、僕たちで可能ならば、彼を上に連れて行こう」
ハヤトが放った言葉に、ルティアは心配そうだった表情をパァッと明るくし、満面の笑顔でハヤトに礼を述べる。が、他のメンバーの顔は優れない。
「……でもよハヤト。俺たちの仕事を放り出して行くつもりか?」
「いや、そんな事はしない。とりあえず、今日のうちに一つだけ階層を上げる。そこが今の所は最前線だから、そこを拠点にしてここ、第81層の計測を進めていこうと思う」
「可能といえば可能だが……。あぁもうっ、分かったよ」
エレックは自分の頭をぐりぐりと撫で回して、やけくそになったような声で告げる。恐らくはハヤトと同じように、難しく考えることが面倒くさくなったのだろう。
「リンとエルダは? 何か別の考えがあれば聞こうと思うけど……」
「あぁ、基本、私は何でもできるから問題ないぞ」
「………不可能じゃない。まだまだ可能」
「……そうか」
要は出来るから何でも良いのだろう。
確かに、エルダとリンの実力はパーティの中でも特出しているとハヤトは感じていた。彼女たちくらいの実力ならば、階層を一つどころか二つくらい上げても問題なさそうだと思えてしまう。
「じゃあ、これで決て――」
「魔物だ!! 魔物が襲撃してきたぞ!!」
突然、拠点の外を警戒していた冒険者の男が大声を上げる。
それに反応して、ハヤトたちを含めた拠点中の冒険者が手元の得物を取り、外の気配を感じ取ろうとする。
「……何体だ?」
「………分からない。だけど、すごいいっぱい」
そう告げたリンの頬には、一筋の汗が流れていた。彼女が焦るというのは、滅多に無い事だ。余程魔物が多いのだろうか。
たまらず、ハヤトは駆け出して拠点の入り口から外をのぞき見る。すると、
「――なっ!?」
ハヤトの視界に入ってきたもの。それは、何十体。いや、何百体といるかも知れない魔物の大群。それぞれが違う形をした魔物だが、どれも一様に相当禍々しい気配を持っている。
「…………これはまずいかもな……」
ちらりと下の階層への穴を見るが、すでにそこは魔物の大群が覆い尽くしてしまっている。次いで拠点内にいる冒険者たちを見ると、数はせいぜい二十人。魔物の総数を非常に甘く見積もっても、一人で五体の魔物を仕留めなくてはいけない。本来なら五人パーティでもせいぜい二、三体の魔物がやっとなのに。
ハヤトは、胃に冷たいものを詰められたような感覚に襲われる。
「………は、はは……。これじゃもう駄――」
「……ここから俺たちが取れる行動は二つ」
背後から突然、見知らぬ男の声が聞こえる。
そちらの方をハヤトが見やれば、そこに立っているのはロイ。もう大丈夫なのかとロイを見るハヤトだったが、彼の身体に大した力は込められておらず、今にも倒れてしまいそうな事に気が付く。
「おま――」
「一つは、下の階層までの経路を全力で確保して、早急に脱出する。そしてもう一つは――」
「ここを、全力で死守する」
ロイの言葉に、すぐにハヤトは言い返そうとする。が、ロイの眼を見た瞬間、言葉をつぐんでしまう。彼の眼に浮かんでいたのは、自暴自棄な光でも、ましてや諦めの色でもない。ただただ、心の底から自分たちが生還できると信じている、希望の光だった。
こいつは、諦めていない。たとえ死ぬ時になっても、絶対に生きることを諦めない。
そう、ハヤトに理由もなく、感じさせた。
「さあ、君たちはどうするつもりだ? 一つ言っておくけど、そう逡巡できる時間はないよ」
ロイの言葉に、一瞬、冒険者たちの間にざわめきが広がる。皆、こんな場面でまだ死ぬことを諦めていない彼の事が、信じられないのだろう。
「………魔物がなに。望むところ。私はここで迎撃する」
不意に、凛とした声が聞こえてくる。そちらを向けば、やはりリンだ。
「ふっ、それもそうだね。よし、私も残ってやる」
「おっし、じゃあ俺も残るかな」
リンに続いて、エルダ、エレックと次々に宣言していく。それを合図に、他の冒険者たちも「ここに残る」と宣言してしまう。その全員の眼に浮かぶのは、先ほどまでの絶望の光などではなく、生きのこることを信じて疑わない、希望の光。
「よしっ、じゃあ迎撃体勢に入るぞ!!」
「「「応っ!!」」」
ロイの掛け声に、その場にいる全員が声を上げる。
「遠距離武器を持っている者は、一斉に射出しろ!! 白兵戦に持ち込む前に、可能な限り数を減らせ!!」
エルダの大声と共に、無数の矢が拠点から飛来し、魔物を次々に射抜いていく。矢に貫かれた魔物は倒れ、数を減らす。が、眼に見えて減少しているわけではない。
「よしっ、白兵戦に入るぞ!! 射出やめ!!」
ロイの合図と共に、冒険者たちは自分の得物を構え、それぞれ突撃体勢に入る。ハヤトも慌てて腰の剣を抜き、その中へと加わる。
一秒が一分以上にまで感じられる中、十秒ほどが経過したときに、それは行われた。
「よしっ、突撃だ!!」
それと同時に、世界樹内の空気がビリビリと震えるほどの声を上げながら、一気に突撃する。
すぐに衝突した冒険者と魔物は、一瞬で交戦状態に入る。
「せいっ!!」
気迫の声を上げ、魔物の核を集中的に狙う。
戦闘が拮抗したように見えたのは、ほんの十秒ほどだけ。すぐに魔物側の一角が崩れ、そこから冒険者たちがなだれ込む。
そんな状況に、ハヤトは一つの疑問を抱く。
確かに、ここにいる全ての冒険者は皆、相当な使い手で、魔物との戦闘経験も豊富だ。だが、これはあまりに人間側に戦況が大きく傾いていないか?
だが、そんな疑問もすぐに払拭される。
全ての原因は、あのロイだ。彼の存在が冒険者たち全員に異様なまでの士気の向上を促し、本来の戦力を更に引き上げている。そう言うハヤトも、今、身体を異様なまでの高揚感が包み込んでいた。これまでにないほど、身体も軽い。
異様な高揚感が身体を包む隣で、心は苦い、苦い雪辱のような物を噛み締めていることを、ハヤトは同時に感じていた。
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「いやぁ~、快勝だったなぁ」
隣でエレックが、上機嫌そうな顔で言う。
第81層での戦いの結果、魔物は全滅。そして冒険者側の死傷者は零。怪我を負った者は少なからずいたが、皆、軽症ばかり。つまりは、冒険者側の完全勝利だ。
「……ああ、そうだな」
「お、そうだハヤト。ロイにも俺たちのパーティに入ってもらったらどうだ?」
「……ああ、それも良いかもな」
エレックの興奮したような言葉にも、ハヤトは虚ろ気に返すのみ。
眼の前に広がっているのは、世界樹第81層の地や壁に繁殖した、発光性の植物ばかり。そしてハヤトの後方では、エルダやルティア、ロイにリンまでもが、楽しげに会話をしていた。軽いハーレム状態である。
「……? どうしたよハヤト? 何か元気ないじゃねぇか」
「いや、何でもないよ……」
「………あぁ、分かった」
何か1人で納得したらしいエレックは、ニヤニヤと気持ちの悪い笑みを浮かべる。
「……何を勘違いしたんだエレック?」
「いやぁ、君もやきもちとかするんだなぁと思ってね。あれだろ、ロイに劣等感抱いちゃったか」
そしてエレックは、引き続き喋り続ける。
「まあ確かにな。あいつ、顔も良いくせに態度も良いし、カリスマ性も半端じゃないもんな。ただなハヤト、一つ――」
「うるせぇ」
げしっ、とハヤトはエレックのすねを力強く蹴飛ばす。「うぎゃっ!!」と悲鳴を上げてから、エレックは片足でぴょんぴょんと跳びながら進む。
そんなエレックを無視しながら、ハヤトは一人で考え込む。
これまで、ロイという人間の粗を捜し求めてきたのは、彼が不審であるということを伝えて、彼をルティアから引き離そうという醜い思考が何処かで根付いていたからだ。だが、今回の事態で明確になってしまった。
ロイは、ハヤトよりも優れた人間である。
実際に、ハヤトが諦め、恐怖した事態にも、ロイは臆することなく立ち上がり、あろうことか魔物の大勢を相手に完全勝利を成し遂げてしまった。
今や、ロイは多大な信頼を仲間から勝ち取っていると言って間違いない。ハヤトがこれまでの長い世界樹攻略で築いてきた仲間との信頼関係を、一瞬でだ。
「…………くそっ」
「ん? 何か言ったかハヤト?」
「……いや、何でもない」
なんだかもう、世界樹攻略だとかを全て放り出して、普通の人間として生きていたい気分だった。
××××××××××
世界樹第82層。
世界樹攻略最前線の階層で、拠点にも大して備品は置かれていない。簡単なテントが幾つか設置されているだけだ。一応、食料も保管されてはいるが、それもあまり多くない。
「……思った以上に調えられていないな」
「まあ、まだ第81層の地図とかは出来ていないからな」
「……早く計測しないと、ここが潰れる可能性があるのか」
ハヤトとエレックは、改めて自分たちの仕事の重大さを実感するが、ハヤトの声にはどこか覇気がない。
「……なあハヤト。お前、本当に大丈夫か?」
「……ああ、問題ない」
「問題わけないだろうが……」
エレックが何時になく心配そうな声で言うが、ハヤトは無視し、とぼとぼと拠点の隅の方で薪を集め始める。
「……大丈夫か、あれ……」
一人で黙って薪に火をつけ始めるハヤトの背中は、何時になく小さく、頼りなさ気に見えた。
『第二十話 劣等』、如何だったでしょうか?
最近投稿する話が、どれも短くなっている気がしますが、きっと気のせいです。ええ、きっと……!!
出来ればもっと長くて詰まった内容の話を書いてみたいんですけどね……。
それでは次回の更新も、楽しみにして頂けると幸いです。




