表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界樹のはやぶさ  作者: 相良義人
第二章
19/47

第十九話 醜悪

こんにちは、作者の吉良義人です。

今回は作者の都合が色々と立て込んでいたため、更新が遅れてしまいました。真に申し訳ございません。

今回もあまり長くないのですが、読者の皆様の暇つぶしの一環となれば、幸いです。

それでは『第十九話 醜悪』を、どうぞよろしくお願いします。

 世界樹第81層の攻略拠点。

 そこでは、エレックとルティアが男の看病をしていた。

「……ふわぁ……」

「エレックさん、お疲れですか?」

「いや、そういう事じゃないんだけどね……」

 思わずあくびを漏らしてしまったエレックは、ルティアに聞こえないくらいの音量で溜め息を吐く。心配そうな顔をしたルティアだったが、男が呻き声をあげたことに気が付いて、そちらの看病に戻っていく。

 容姿の端麗なルティアが看病をする姿というのは、男にとって眼福であり、見ているだけで満足できたのだが、さすがに半日以上見続けるのは飽きてくる。

 看病を手伝おうとも思ったものの、ルティアの手際の良さを見ている限り、何やら足を引っ張るだけになりそうだったため、こうしてじっとしているのだ。

「………」

 早くハヤトたちが帰ってこないかと期待して、拠点の出入り口を見やるが、ハヤトたちがやって来るような気配はない。

 そうこうしている間も、ルティアはせわしなく男の看病を続けている。なにやら、妙な居心地の悪さを感じるエレック。凄まじい疎外感が、ひしひしと伝わってくる。

 その時、ああそうか、とエレックは一つの結論に達する。エレックが疎外感に苛まされる理由、それは単に、ルティアが男と恋人だからだ。そのため、恋人同士の貴重な時間を邪魔してはならないと、無意識に考えていたのだろう。

 再び拠点の出入り口を見やったエレックだが、ハヤトたちの姿はまだ確認できない。

「………」

「………」

「………」

 ルティアは無言で、看病を続ける。エレックは無言で、拠点の隅に座っている。やがて耐え切れなくなったエレックは、心の中で悲鳴を上げた。

 男の悲鳴は、世界樹の中の誰にも聞かれることなく、虚しく響き渡った。



     ××××××××××



「……どうしたんだ、エレック」

「どうせただの昼寝だろ。すぐに起きてくるさ」

「………寝る子は育つ」

 エルダのあっさりとした言葉と、リンの微妙に外れているような気がしなくもない言葉を聞きながら、ハヤトは拠点の床に横たわる巨漢を見やる。

 眼は白目を剥いており、口の端からは一筋のよだれが垂れている。そしてたまにぴくっ、と痙攣をする。

 正直、見ていて気持ちの良いものではなかった。

「……おいエレック。早く起きろ、気持ち悪いから」

「………」

 ハヤトの呼びかけに、エレックは一切答えようとせず、ぴくぴくと痙攣を繰り返すのみ。その時、エレックの喉が不自然に引きつり、そして、

「……げぇっく」

 エレックの口から漏れてきた、心底気持ちの悪い音に、ハヤトは額に青筋を立てる。

 ハヤトは深く深呼吸をすると、下半身を中心に柔軟体操を始める。やがてそれを終了させたハヤトは、軽く数度飛び跳ねてから、大きく足で地面を踏みしめ、気迫の声と共に一気に前へ繰り出す。

「せやぁ!!」

「ごふぅっ!?」

 ハヤトの蹴りはエレックの鳩尾へと突き刺さる。エレックは搾り出されるような悲鳴をあげ、そして何度か咳き込んだかと思うと、ガバッ、と勢い良く起き上がる。

「あ、起きたかエレック」

「………あぁ、ハヤト。もう戻っていたのか」

「ついさっきね。こちらは問題も無く、無事に終了した」

 ハヤトの言葉を聞いたエレックは、のそのそと起き上がり、そしておもむろに自分の腹を撫でさすり始める。

「………そうか。……なあハヤト」

「どうした?」

「………何か俺、腹が痛いんだけどさ、誰か蹴った?」

 エレックの問いかけに、ハヤトは一瞬、身体を強張らせる。が、すぐに平常の声を出してエレックに答える。

「……そんな所で寝てるから冷やしたんじゃないか?」

「いや、明らかに打撲っぽい感じの痛みなんだが……」

 伊達に冒険者をやっているだけあって、エレックはそういった痛みの種類はすぐに分かるのだろう。

 心底面倒くさそうな表情を浮かべたハヤトは、荷物の中から火打石と、拠点に常備されている薪を取り出して、火を起こし始める。

 すぐに薪は火を立て始め、パチパチと火花を散らせながら燃える。

「……エレック。少し話があるんだけど」

「……? 何だよ? ……もしかして、ルティアちゃんの恋人絡みか?」

「否定はしないが、お前の考えているような意味ではない」

 ちぇえ、と残念そうな声を出したエレックは、のそりと火を上げる薪の前に座る。

「……あの男――」


「あっ!! 眼を覚ましました!!」


「おっ、本当か!」

 ルティアの歓喜の声に、エレックは薪の前から立ち上がって、ルティアたちの下へ歩いていく。

 ハヤトがルティアの方を見てみると、ルティアは眼の端に涙を滲ませ、男に何やら話しかけている様子だった。その表情は、男が意識を取り戻したことへの喜びと安堵に満ちていた。

 その場面に介入する事に躊躇いを感じたハヤトは、薪の前に留まり、荷物の中から干し肉を取り出そうと立ち上がる。

 試行錯誤した末にようやく干し肉を掴んだハヤトは、薪の前に戻ろうとしたが、耳にとある言葉が飛び込んできた。

「……君は、誰だ……?」

 恐る恐る声の主を辿って見れば、それはルティアの恋人だという男。それを聞いたルティアの表情は固まり、嬉しさで持ち上がっていた肩が、眼に見えて下がっていた。



     ××××××××××



「記憶喪失、とはな……」

 エレックが、薪の炎に顔を紅く染めながら、小さく呟く。

 どうやら男は記憶を失っており、恋人であったルティアの事も赤の他人だと思っているらしい。覚えていたのは、自分の住んでいる世界のことと、世界樹のこと。そして自分が世界樹最前線で戦う冒険者と呼ばれる人間の一人だったという事だけ。

 ふと、ハヤトが男の方に眼を走らせてみると、ルティアが男に対して何やら語りかけている。どうやら、自分と男が恋人同士であったことを伝えているらしい。

「まあ、意識が戻っただけ良いんじゃないか?」

 ハヤトがエレックにそう告げると、エレックは何やら考え込む。

「…………なあハヤト」

「どうした?」

「……ルティアちゃんの恋人のこと、どうするつもりだ?」

「どうするって……」

 ハヤトは空を見つめて少しの間、何かを考え、そして告げる。

「……とりあえずは本人の意思を尊重する。あいつが何も言わなければ、ルティアの意思を尊重する」

「……まあ、それが一番か」

 ハヤトの答えに頷いたエレックは、手元に残っていた干し肉を口に放り込み、ごそごそと傍に広げていた寝袋にもぐりこむ。

 それを横目で一瞥したハヤトは、傍に寝かせていた己の剣を手に取り、整備を始める。明日の攻略に備えての準備だ。

 普段であれば何も考えずに行えるその作業も、今回は違った。ハヤトの頭の中を占めているのは、ルティアの恋人というあの男のこと。

 記憶喪失の原因は、そういった神経などに作用する力を持った魔物に襲撃されたから。そういう結論を、パーティでは出しており、皆もそれに納得した様子だった。だが、ハヤトは納得しきれないでいた。

 そんな魔物は、これまでに発見された事は一度も無い。ならば、世界樹攻略の本当の最前線で出現した新たな魔物だと考えるのが妥当であるが、男が倒れていたのは最前線よりも下の階層に位置する第80層。もちろん、これまでその魔物が見逃されていた可能性もあるが、何十人もの冒険者が探索をした世界樹でそういった事例が発生するのは稀だ。

 ならば別の原因があるかと探ってみると、ハヤトには一つの可能性が見えた。

 すなわち、男が何らかの目的を果たすため、自らは記憶消失だと偽っている、という可能性だ。しかしこの可能性も、男が一体、何の目的を持って行動を起こしているのかが分からない。恋人であるルティアにも偽っているという事は、余程重大な目的になる。

 では、他に別の可能性が――。

 延々と続きそうになった思考を、ハヤトは無理矢理せき止める。そして、ハヤトは己の醜さに、心底嫌気が差す。

 こういった事を考えてしまうのは、単にルティアに恋人が本当にいた事が、そしてその恋人がルティアの事を赤の他人だと思っている事が気に入らないからだ。だから、どうにかして男をルティアから引き離せないかと、醜い思考を続けてしまう。

 これ以上考えても、自らに嫌気が差すだけだと結論付けたハヤトは、火を始末してからエレックと同じく、傍に広げていた寝袋にもぐりこんだ。



     ××××××××××



 翌日、眼が覚めたハヤトは、身体をほぐし、柔軟体操を行ってから、日課となっている朝の祈りを開始する。

 地上の街エーレンの神殿区にある教会で推奨されている、安全祈願の祈りだ。

 首にかけていた銀の十字架のネックレスを握り締め、眼を閉じながら心の中で祈りの言葉を唱えたハヤトは、まだ眠っていたメンバーを起こしにかかる。が、ハヤトの視界には既に眼が覚めていたらしいルティアと男の姿が入ってくる。

 二人は何やら小声で話し合っている。男がルティアに何かを頼み、それをルティアが渋っている。そのようにハヤトには見えた。

 やがてハヤトが起きている事に気が付いたルティアは、たったっとハヤトの下に駆け寄ってくる。

「どうした? 何かあったのか?」

「いえ、それが……」

 ルティアは何かを躊躇うように顔を背けている。男の方を見てみると、軽く柔軟体操を始めている。冒険者としての日課は、記憶を失ってもなお、引き続けられるものらしい。

「……あの、ロイが言ってきたんですけど……」

 ロイ、というのは、ルティアの恋人だというあの男の名前、もしくは愛称か。できれば本名であってほしい。

「これからの事についての希望を? 僕たちは彼の希望を優先するつもりだけど」


「………上の階層まで連れて行って欲しい、と……」

『第十九話 醜悪』、如何だったでしょうか?

最近、更新が遅れがちなのが気がかりですが、これからはこういった事が無いように精進させていただくので、よろしくお願いします。

次回の更新こそ、一週間以内に行わせていただく所存です。


そして、現在更新されている『世界中のはやぶさ』の過去編ですが、どうやら今回を含めないであと二、三話は続きそうです。

その後は現在編の方に移らせていただくつもりですので、どうぞご期待下さい。


それでは、これからも『世界樹のはやぶさ』と気楽にお付き合いいただければと思っております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ