第十八話 疑心
こんにちは、作者の吉良義人です。
今回は投稿が遅れに遅れてしまい、まことに申し訳ございません。
投稿が遅れた割りにそこまで書けていないのが痛いですが、『第十八話 疑心』、どうぞよろしくお願いします。
「……この人、私の恋人なんです」
「…………え?」
一瞬、ルティアの言っている事が理解できなかった。しかし、ゆっくりとハヤトは後ろでルティアの視線の先で治療を受けている男の姿を見る。
先程までは特に気にもしていなかったが、男は相当頑丈な物と思われる鋼の鎧を身に付けている。腰には剣が提げられ、男が冒険者である事を強く物語っている。
だがしかし、ルティアの恋人?
エレックから聞いた話では、ルティアの恋人は世界樹攻略最前線で戦い続ける、歴戦の戦士という話だ。それならば、ここにいるのも頷ける。
「……本当、なのか?」
ハヤトの問いに、ルティアは頷いて肯定の意を示す。
「……分かった。じゃあとりあえず、すぐそこの・・・攻略拠点まで運んで護衛するけど、それで良いよな?」
ハヤトの言葉に、皆が頷いたのを確認する。
「じゃあエレック。絶対にその人に微塵ほどの負担をかけないように丁重に運ぶんだ」
「おう、了か――じゃねぇよ!! そんな無理な事言ってんじゃねぇよ!!」
「……出来ないのか?」
「やめてっ! そんな人を無能を見る時みたいな眼で見るのはやめてっ!!」
そうこうしている間に、エルダやリン、ルティアは上の階層へと渡ってしまった。
誰にも見てもらえていなかった事にエレックはひどく悲しそうな顔をした後、男をゆっくりと丁寧に担ぎ上げ、上の階層へと続く穴まで運んでいく。
……待てよ?
ハヤトはふと、一つの疑問にぶつかった。
……どうやって運ぶつもりなんだ、あいつは?
そうこうしている間に、エレックは縄梯子の真下まで来てしまう。
「ちょっ、お前何をす――」
「……ふんっ!」
気迫の声を上げ、エレックは片手と足で器用に縄梯子を登って行き、たちまち上の第81層まで着いてしまう。
「………」
「……ふぅ、着いたぜ」
「………え~……普通すぎるだろ……」
「……? どうしたハヤト? 早く登って来いよ」
「………」
何か釈然としない物を胸に感じながら、ハヤトは縄梯子を登っていく。が、そのとき、縄梯子が不自然に揺れているのを感じる。
――魔物かっ!? 警戒を怠った!!
自らの失態に反省し、ハヤトは急いで足元を確認するが、何もいない。先程までと全く変わらない様子だ。
ならば上かと、第82層を見上げたハヤトは、
「おらおら、落ちろよハヤト」
と挑発の声を上げながら、縄を前後左右に揺さぶる、光り輝く球体を確認する。あれが魔物か。
「…………死ね」
頭のすぐそこにあった縄を握り締め、身体ごと足を勢い良く持ち上げる。そして足をそのすぐ近くの梯子に乗せ、そして一気に跳躍。球体を片手で鷲掴みにして、一気に下の方へと引きずり落とす。
「ぬぐぁぁあああ――――ぐえっ!」
エレックの悲鳴が聞こえた気がしたが無視し、流れるような動作で上の階層に接地したハヤトは、球体にとどめを刺すべく、穴を飛び降りる。
重力の力を受けながら落下したハヤトは、続けざまに足蹴りを放つ。が、固い感触しか伝わってこない。
すぐに着地し、胴体があると思われる部分に向けて肘打ちを放ち、そして上部への掌底。直後に体勢を低くして地面を這うように移動し、すばやく上段の回し蹴りを放つ。
ハヤトの怒涛の攻撃は風を斬りながら球体に殺到し、重い音を放ちながらも、その全てから固い感触しか伝わってこない。
固い鋼でも、厚さ次第では貫通させるだけの自信があった攻撃を全て凌ぎきったのだ。どれだけ固い防御を持っているのだろうか。
肉弾戦で駄目ならば、剣を使って斬り伏せるまで。
腰の柄に手をかけ、抜刀の構えを取ったハヤトたったが、
「まっ、待ってくれハヤト! 悪かったから剣だけはやめてくれ」
球体が喋った。
いや、よく見れば、その球体は嫌なほど見覚えのある坊主頭。エレックのそれではないか。
「……エレックか?」
「そうだよそうだよ。まったく、ようやく気が付いたのかよ……」
……噓だな。いや、噓に決まっている。噓に違いない。噓という事にしてやる。
眼の前にいるのは、エレックの姿をしただけの魔物だ。その程度の事を、常日頃からエレックと渋々ながらも一緒にいたハヤトに分からないはずがない。
魔物はゆっくりと立ち上がり、縄梯子の方へと歩み寄っていく。
「……そこだ!!」
剣が鞘を音も無く走りぬけ、空気を斬り裂きながら魔物の首元へと吸い込まれていく。
ハヤトが勝利を確信した瞬間。
「魔物だハヤト!! 魔物の襲撃を受けた!!」
……邪魔が入った。
「……ちっ、今行く」
「ちょっと待て、お前なんで今舌打ちしたんだ!?」
うるさいエレックの頭を踏み台にして跳躍、すぐに第82層に到着する。
視界に、魔物と交戦状態に入ったエルダたちの姿が入ってくる。あれが……
「お前たちのせいで、エレックを斬り損ねたじゃないか、どうしてくれるんだ……」
「てめぇ、最初から俺だって分かってただろ絶対!!」
××××××××××
世界樹第81層。攻略最前線の一階層下なだけという事もあって、遭遇する魔物の強さもかなり並外れていた。
その第81層の攻略拠点――第80層との境界付近に設置されている――では、ハヤトたちがしばしの休息をとっていた。
攻略拠点は文字通り、その階層攻略の拠点となる場所のため、武器や薬品、保存食などの必要物資が多く置かれている。対魔物用の設計もなされており、街よりは危険だが、世界樹の中ではそこそこ安全な場所となっている。
とはいえ、設置には費用が多くかかるため、拠点が置かれているのは世界樹攻略最前線の階層から5層分離れた階層までだ。
「……さて」
攻略拠点の中で、ハヤトたちは円陣を組んで会議のような事をしていた。
「まず、これからどうするか、だね……」
「とりあえず、ルティアちゃんの恋人さんは、ここで護衛するって事で良いよな?」
エレックの確認する声に、皆はこくりと頷く。
「じゃあ、二組に人数を分けるか。エレックとルティアはここで護衛。他の僕とエルダ、リンは下で引き続き調査。異論は?」
「………特に無い」
「よし、じゃあ今日はここで休もう。明日で下の階層の調査を終わらせるつもりだから、それに備えてゆっくり休んでくれ」
ハヤトの解散の言葉を聞いて、それぞれが荷物の中から寝袋を引っ張り出していく。
「……おいハヤト」
一人、ハヤトに近づいてきたエレックが話しかけてくる。
「どうした? 何か問題でもあったか?」
「いや、そういう事じゃないんだが……」
エレックはそこで周りをキョロキョロと見渡し、そして何を確認したのか、一つ頷いてからハヤトの隣に座る。
「ルティアちゃん、本当に恋人いたんだな……」
「……僕に一体、何の用だ?」
「……そう怖い声出すなって。それじゃあいつまでも恋人とか出来ないぞ」
「………10秒の猶予をやる。来世に行くための準備をしろ」
「すみません、本当にすみませんでしたっ!!」
即座に土下座するエレック。その光り輝く坊主頭をハヤトはにじにじと踏みにじる。
「それで、僕に一体何の用だったんだ?」
「……とりあえず、足をどけてくれないか?」
「断る!!」
ハヤトの言葉に、エレックは深く溜め息を吐く。
「……まあ良いけどよ。後で後悔のしないようにやれよ」
「…………分かってるさ」
ハヤトの視線の先では、ルティアが恋人の看病のため、脇に寝袋を敷いていた。
××××××××××
その翌日。
世界樹第80層の一端ではハヤトとエルダ、リンの三人が最終調査をしていた。
各地の計測を交代で担当しながら、三人はどんどん進んで行き、やがて彼らの手にしている紙には、一つの地図が完成する。
「……ふぅ。ようやく終了か?」
「ああ、これで全部の計測が完了だ。すぐに拠点まで戻ろう」
「………了解」
全員の無事を確認したハヤトは、辺りを警戒しながら元来た道を戻っていく。
道をある程度進み、もうそろそろ拠点に到着するという場所まで来た時、ハヤトが遠慮がちに口を開く。
「……なあ、少し話しても良いか?」
「……? 別に構わないが」
「……あのルティアの恋人、なんかおかしくなかったか?」
エルダは、ハヤトに怪訝そうな顔を向ける。
「……どういう事だ?」
「ここは世界樹攻略最前線だ。当然、最前線の攻略はパーティを組んで行われる。そっちの方が安全だし、成功率も高いから」
そこまで言って、ハヤトは昨日のことを思い出す。
確か、ハヤトとエレックが彼を見つけたとき、彼はどんな状況にあった?
「あいつ、一人で倒れていたんだよ。周りには死体なんか、何処にも無かった。つまり、少なくともあいつが死ぬ時、一人でいた事になる」
「……っ!? ちょっと待てよ。仲間を襲われて、それでも命からがら逃げ出したって事はないのか?」
「その可能性は高い。だけど、僕たちが調査していた時、戦闘音はしなかった。それに、傷はたいした事はない。冒険者ならば、ある程度距離を取ってから自分で応急処置を施すくらいはできるはずだ」
ハヤトが次々と繰り出す言葉に、エルダとリンの顔色が眼に見えて変化していく。
「……でも、だからってどうするんだ?」
「……とりあえずは様子を見るしかないと思う。でも、絶対に眼を離すな。そして何があっても、あいつと二人きりの状況になるな」
「………了解。肝に銘じておく」
「そうしてくれるとありがたい。それじゃあ、早く戻ろうか」
それを機に、ハヤトたちは無言で歩き始めた。
歩きながら、ハヤトは考える。
結局、ルティアに恋人がいた事が気に食わなかっただけなのかも知れない。そして必死にあの男について考えて、そして今回の疑心を抱いただけだ。これで、ルティアがあの男から離れてくれないかと、僅かな希望を抱いたりもして――。
ハヤトはふと、右手を目の前に掲げて見る。
これまで魔物と戦う際、剣を握ってきたその手は今、いつもよりもひどく黒ずんで見えた。
『第十八話 疑心』、如何だったでしょうか。
今回はストーリー的にはあまり進んでいないのですが、そろそろ過去編も予定ではあと二話で終了します。
その後からは現在に戻って話を進めていこうと思っています。
今回の投稿は、前回から約二週間ほど時間が空いてしまい、まことに申し訳ございません。
こういった事は極力無いように努力していきますが、どうしてもとある時期になると投稿が遅れてしまいます。
詳細が気になった方は、僕の活動報告を見てくださればすぐに分かるので、よかったらどうぞ。
それでは『世界樹のはやぶさ』を、今後もよろしくお願いします。




