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世界樹のはやぶさ  作者: 相良義人
第二章
12/47

第十二話 酒乱

予定では24日には投稿するはずだったのですが、諸事情がありまして投稿が遅れてしまいました。

本当に申し訳ございません。

それでは『第12話 酒乱』をどうぞ、よろしくお願いします。

「……お前……」

「……? ああ、ハヤトか。久しぶりだな」

 エレックの店にいた女性はハヤトをそう一瞥すると、手に持っていたグラスから何やら液体を一口あおった。女性は「はぁ~」と、容姿に見合わない、かなり野太い声を上げた後、エレックの方を向き、

「エレック、もう一杯くれ!」

「……エルダ。そろそろうちの酒も無くなってきたんだけど……」

「んだとぉ!?」

「ありますごめんなさいですから店は壊さないで!!」

 エレックが渋々出した酒を見て、満足そうな笑みを浮かべて、エルダ、と呼ばれた女性はそれをごくりっ、と飲んだ。

 髪は肩辺りで切っており、顔の造形は整っている。ただ、テナたちは清純な印象が感じられたのに対し、エルダからは酔っている事も相まって、大人の色気という物が感じられた。

「本当に久しぶりだなエルダ。最後に会ったのは二年前のあの時か……?」

 ハヤトがそう言った時、エレックが顔を僅かにしかめる。しかしエルダは何も変わらず、相変わらず酒をあおり続けている。

 ハヤトはエルダの隣の席に腰かけ、エレックに軽く飯でも作ってほしい、と頼む。それを聞いたエレックは、エルダとハヤトの事を何やら心配そうに見つめながら、火をつけて料理を始めた。

「そうなるな。まったく、一回くらいは連絡をしろ。もう死んだのかと思ったぞ」

 と口では言いつつも、エルダは酒を飲み続けて顔満面に喜色を出し、満足そうな様子だ。

「……相変わらずだな、エルダ」

「んん~? お前も飲みたいのか~、ハヤト~?」

「……酔うのが早いのも相変わらずだな……」

 エルダの様子にハヤトが呆れていると、エレックはハヤトの方に向き、話を振ってくる。

「なあハヤト。攻略の調子はどうだい?」

「ああ、何とか出来ている、って感じかな」

 ハヤトの言葉を聞いたエレックは「そうか、そりゃ良かった……」と、安心したような笑みを浮かべた。

「……お前、攻略をやっているのか?」

 ハヤトたちの話に、若干酔いの混ざった目をしながら、エルダはハヤトに尋ねてきた。

「うん。一応、三人編成のパーティを組んでいる」

「……大丈夫なのか?」

「大丈夫だって。これでも一応、パーティでは重要な戦力として期待されているんだ」

 エルダは「ふ~ん」と言いながら、酒をもう一口あおった。その顔は何処か、つまらなさそうである。

「……攻略やりたいなら、仲間に掛け合ってみるけど?」

 エルダのそんな様子に、ハヤトは声をかける。

「……いや、今の仕事を投げ出すわけにもいかないから、私はいいや」

 しばし悩むような素振りを見せた後、エルダはハヤトに言った。

 それを聞いたハヤトは、不思議そうな顔をしてエルダに尋ねた。

「『今の仕事』ってエルダ、何をやっているんだ?」

「学園区で教官をやっている。一応、生徒から尊敬される教官を目指しているつもりだよ」

「エルダが学園区で教官……。似合わないな、うん」

 ハヤトが考えながら言った言葉に、エルダは「何だとぉ~!」とわめきながら、ハヤトの後ろに回って、首を腕で締め上げる。

 それを受けたハヤトは「参った参った、だからもう止め……!!」と、苦しそうな声を漏らす。

 それに満足したのか、エルダはハヤトの肩に顔を乗せながら、エレックに酒の追加を頼む。

「エレック~、酒をもう一杯~」

「……だからもう酒が無くなっちゃうって――」

 ギラッ、とエルダは魔物でも萎縮してしまいそうな迫力の篭もった視線をエレックに浴びせる。

「……分かったよ……」

 渋々、エレックは店の奥から新たな酒を取り出しに行く。その時に「俺の夜の楽しみが……」と嘆いているのがハヤトには分かったが、割とどうでも良かった。

 エレックが戻ってくるまでの間、ハヤトの肩の上で顔の位置を変えていたエルダだったが、やがてハヤトの頭頂部に顔を乗せ、肩に腕を乗せるという体勢で安定させようとする。

 エルダがハヤトの頭に顔を乗せた時、ハヤトは顔を僅かにしかめた。

 数日前の魔物との戦闘の際に受けた傷が未だに残っていたため、エルダが顔を乗せた時に痛んだのだ。

 なるべく悟られないようにしようとしたハヤトだったが、ハヤトが顔をしかめた事に目ざとく気が付いたエルダは、酔いはどこかに吹っ飛んだのか、心配そうな顔をしてハヤトを覗き込んだ。

「……どこか痛めたのか?」

 心配そうに見てくるエルダの顔を見て、ハヤトはどうにかして誤魔化そうと考えた。余計な心配をかけさせまいとしたからである。

「いや、少し攻略の時に打ち付けただけで……」

「噓だな、本当の事を言え」

 しかし、そんなハヤトの思惑は見えていたらしく、ハヤトの言葉を切り捨ててエルダは更に迫ってくる。

 未だに誤魔化そうとしていたハヤトだったが、エルダの本気で心配するような目を見て、本当の事を言う。

「……カナレアに入る直前で、魔物に会ったんだよ。その魔物が大分手強くて、それで怪我した」

「……第21層で? ハヤト、お前そんなに弱くなって……」

「いや、そうじゃなくて。その魔物、明らかにそこらの奴らとは違った。多分、第50層以上の奴らに引けは取らない」

 ハヤトはそう言うが、エルダは全く、信じているような顔をしていない。

「……第21層でそんな奴が出るはず無いだろう。やっぱり弱くなったんじゃ……」

「……もういいや」

 諦めた様子のハヤトは、自分もエレックに酒を頼み、そして飲み始める。

 それを見ていたエルダは、ふと気になった事を言う。

「そういえばハヤト。お前、剣はどうした?」

「……ああ、さっき言った魔物に折られた」

「……お前そんなに弱くなって……」

「いい加減しつこいよ」

 ハヤトの様子に苦笑いしていたエルダは、何か思いついたのか「あっ」と声を上げてハヤトに向き直る。

「……どうした?」

「ハヤト。ふと思い出したんだが、私はフェルノ家に顔が知られているんだ。だから私が頼めば、フェルノ家産の剣の一本や二本は簡単に手に入ると思うんだが……」

「いや、僕はやっぱり職人に打ってもらった剣の方が……」

「まあそう言うな。行くだけ行っても良いだろ?」

 エルダの話は、確かにハヤトに利が多い。

 行くだけ行って、気にいった物が無かったとしても、フェルノ家に入れるというのはそうそうある経験ではない。

 それに、アリアはフェルノ家の娘だ。

 もしかしたら、アリアやテナとも合流できるかも知れない。

 そこまで考えたハヤトは「うん」と頷いた。

「分かった。じゃあ明日にでも行くかな」

「よし。じゃあ今日は飲むぞ! エレック、もう一杯くれ!!」

「……だからもう無いよエルダ……」


     ××××××××××


 ハヤトがエレック雑貨店に着いたのと大体同じ頃、フェルノ家の門の前に、二人の少女が立っていた。

 後頭部で一つに髪を束ねている少女と、綺麗な長い髪をさらりと流している少女。言わずと知れた、テナとアリアだ。

 テナたちは辺りを軽く見渡す。

 日はもうほとんど落ちており、すでに視界は夕焼けの赤に覆われている。そして人も、自らの住居に戻り、道にはあまり人は残っていない。

 その中の、残っている人の中にハヤトがいない事を確認したテナたちは、フェルノ家の門を潜り抜ける。

 フェルノ家の庭は、公共施設としてフェルノ家が開放しているため、門は何の検査なども無しで通る事が出来るのだ。

 門を潜ったテナの目には、豪華な屋敷が大きく構えている姿が入ってくる。あちこちに高価そうな装飾が施されており、庭はどの草も綺麗に整えられている。

 庭や玄関などを掃除していた使用人たちは、テナとアリアの姿を見ると笑顔を見せて礼をし、そして屋敷の中へと入っていく。

 そんな使用人の様子に、テナは不思議そうな顔をする。

「あの人たちはどうしたの?」

「……? ああ、彼らは恐らく、お父様を呼びに行ったのでしょう」

 アリアの言葉に、テナは「なるほど」と言いながら手を打つ。

 屋敷だけで、一つの芸術品とも呼べそうなそれを見ながら、テナとアリアは玄関へと歩いていく。

 玄関だけでもかなり広く、普通の住居ならばそれだけで丸々一つは入ってしまいそうな程だ。

 玄関の扉を開けたテナたちに、屋敷の中を回っていた使用人たちがいっせいに礼をしてくる。それにテナは小さく頭を下げるが、アリアはずんずんと歩いていく。

 ここはフェルノ家。アリアにとっては幼い頃から嫌と言うほど見慣れた光景なのだから、一々反応しないのも頷ける。

 長く続く廊下を歩いていたテナとアリアの前の方から、一人の男が歩いてきた。

 それを見たアリアは顔に華を咲かせ、男の方へと走り寄っていった。


「お父様!」


 そう言いながら飛び込んできたアリアをしっかりと受け止めながら、その男、アリアの父は、にこやかな笑みを浮かべる。

「お帰り、アリア。ずっと会いたかったよ」

「私もです、お父様」

「アリア……? その肩は……?」

「これはその、今回の攻略で……。でもですねお父様! テナは全く悪くないのです。ただ私の不注意で……」

「……良いんだアリア。私は、アリアが帰ってきてくれただけで満足なんだ」

「……お父様……」

 そんな良く分からない雰囲気をアリアと、アリアの父は作り出す。

「ほらアリア。久々に再会出来たんだ。ならば、今だけでも笑って過ごすべきではないかね?」

「……そうですね、お父様」

 はっはっはっは! と朗らかに笑うアリアの父と、声こそ上げないもの顔中に満面の笑みを浮かべるアリア。

 そんな二人の邪魔をするのが悪い気がしたテナは、小さく縮こまって二人を見ていた。決して、二人が異様だったからではない。

 しかし見れば見るほど、アリアの父の風貌は、アリアのそれと似ているような気がする……ような気がした。

 アリアのと同じ、美しく整えられた金髪と、鋭い碧眼。そして貴族の頭領にしては無駄に引き締まった身体からは、商売人というよりは武人という感じがあった。

 とはいえ、その身体から滲み出る風格には、決して小物ではないと感じさせるような物があった。

 しばらくアリアとの団らんを楽しんでいたアリアの父は、縮こまっていたテナの方に向き直った。それに反応して、自然とテナの姿勢も良くなる。

「申し訳ありません、挨拶が遅れました。私はフェルノ家の頭領、ルイ=フェルノです。テナさん。今日もアリアの事、どうもありがとうございました」

「いえいえ! 私だって、アリアに怪我させちゃったし……」

「何を言っているのですかテナ! あれは本当に私の不注意で……!!」

 そう言いながら、テナはアリアに謝り続け、そしてアリアはテナをどうにかして元に戻そうとする。

 そんな二人の様子をにこやかに微笑みながら見ていたアリアの父、ルイは、テナとアリアに再び声をかける。

「そういえば、これから晩餐なんだ。アリアもテナさんも、今日はここでどうかな?」

 ルイの言葉に、テナは小さくお腹を鳴らす。

 それに赤面しながらも、テナはルイに向けて小さく頷き、そして歩き始めたルイの後ろを付いていった。


     ××××××××××


 翌日、フェルノ家の屋敷の門の前に、二人の人影があった。

 片方はハヤト。そしてもう片方はエルダだ。

 二人は門から、フェルノ家の屋敷を見上げていた。

「……改めて見ると、かなり大きいな……。さすがフェルノ家、かな」

「そうか? 私はもう何回か来ているから、慣れてしまったな。……さて、そんな事はどうでも良いんだ。早く屋敷に入るぞ」

 二人は門を潜り抜け、玄関の前まで来た。

 エルダはそのまま慣れた様子で、玄関の呼び鈴を鳴らす。

 呼び鈴の高い音がチリンチリン、と響いたすぐ後、扉の向こうから女の声が聞こえてくる。

「どなた様でしょうか? 本日は特別な事情がありまして、屋敷には入れません。ご用件は、私がご主人様に伝えますが……」

「エルダ=ヴェノムが会いに来た、とでも伝えてくれ」

「エルダ様……ッ!? 分かりました、少々お待ち下さい」

 そして、扉のすぐ先から人が走っていく音。それと女の「キャアキャア」という黄色い歓声が聞こえてくる。

「……エルダ。お前、ここで何かしたか?」

「……? 特に何もしていないが?」

 ハヤトの言葉に、エルダは不思議そうな顔をしながら否定する。そんなエルダに「……そうか」と小さく返しながら、ハヤトは前の方に向き直る。

 しばらく不思議そうな顔をしていたエルダだったが、やがてハヤトと同様、前に向き直った。

 そのまま時間が少し経過した頃、扉がゆっくりと開き、中からエプロンを着けた少女が出てきた。

「お通しするように、との事です。それでは、ご案内します」

 そして、少女は屋敷の中に戻っていく。

 それに着いていきながら、ハヤトは屋敷の中の装飾の一つ一つに、驚いたような顔をする。

 しばらく歩いた侍女は、ハヤトたちを大きな部屋に通した後「ここで少々お待ち下さい」と言い残して去っていく。

 それを見送ったハヤトは、どすん、と部屋の長椅子に腰かけた。

 ハヤトとエルダが無言のまま少し待った頃、閉められた扉が再び開き、中から男が歩いてきた。

 ルイ=フェルノ。フェルノ家の頭領だ。

 ルイはエルダと、その横に立つハヤトを見た後、口を開いて言った。


「……エルダ、よくもぬけぬけと……!!」


「……は?」

 ルイの言葉に、ハヤトは心の中で「何をやったんですかエルダさん!?」と叫んだ。

『第十二話 酒乱』、如何だったでしょうか。

お楽しみ頂けたのであれば、幸いです。

話は変わりますが、今回もそうでしたが、これから一週間後との投稿が難しくなります。

理由としては、なかなかパソコンが開けない事。そして執筆が行き詰まっている事などがあります。

これからの投稿は話が書き終わってからすぐ、という形にさせて頂こうと思っています。

ではこれからも『世界樹のはやぶさ』をよろしくお願いします。

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