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世界樹のはやぶさ  作者: 相良義人
第二章
11/47

第十一話 落下

こんにちは、作者の吉良義人です。

今回はやや短めですが、ご一読頂けると幸いです。

それでは『第十一話 落下』、どうぞよろしくお願いします。

「……はぁ。やっと着いた……」

 溜め息を一つ吐き、ハヤトは目の前を見上げる。

 ハヤトの視界には、雲ひとつない蒼穹の天へとそびえ立つ巨大で逞しい印象まで感じられる世界樹。そして、その下に広がっているエーレンがあった。

 森から抜け出したハヤトは、ひたすら歩きに歩いて、ようやくエーレンに着いたのだ。

 エーレンに入ったハヤトは、すぐに目でテナとアリアの姿を探す。しかし、彼女ららしき姿は、ハヤトの目には映らなかった。

 「エーレンで集合」と言ったは良いが、エーレンはかなりの広さを持つ大都市だ。そんな中から二人を見つけ出す事は、やはり困難な作業である。

 途方に暮れかけたハヤトだったが、すぐに気を取り直して、二人と合流するための術を考え始める。

 テナとアリアに出会う可能性が高いのは、自分たち全員が知っているような場所。そして、人があまり寄ってこないような場所が一番だ。

 そんな場所があるだろうか、と、ハヤトは自分の頭の中を探っていく。

 人が少ない場所といえば、神殿区の教会の前、学園区の大図書館、世界樹の前……。幾らでもある。そんな中から、確実に三人全員が知っているような場所といえば……。

 しばらく考え込んでいたハヤトは、やがて手を打った。

 あるではないか。テナとアリアも知っていて、そして何より分かりやすい場所。

 それは、フェルノ家の屋敷だ。

 答えを出したハヤトは、急ぎ足で特級区へと向かった。自分は割と時間を食ってしまったが、もしかしたらテナやアリアはすぐにこの答えを導き、そしてもう向かっているかも知れない。

 ハヤトの歩調はどんどん速くなっていき、そしていつしか走るようになっていた。


     ××××××××××


 ハヤトが突っ込んだ所よりも更に奥の森の、一本の樹の枝の上。

 カナレアから飛行している途中、風に流されて森の中へと突っ込んだテナは、その枝に、身体と布を結びつける紐が絡み付き、テナは宙ぶらりんの状態になっていた。

 テナはどうにかして外そうとしているが、背中と布を結びつける丈夫な紐がどんどん複雑に絡まってしまい、結果として異常なまでに固く結ばれてしまった。

 うんうんと唸りながら解こうとしていたテナだったが、やがて疲れたのか、ぐだー、と脱力してしまう。

 腰の剣を抜いて紐を斬ろうと考えたのか、腰の剣に手を伸ばす。しかし、宙ぶらりんの状態では身体が安定せず、剣がなかなか上手く抜けない。

 そしてやがて、ぐだー、と脱力してしまう。

 ぼんやりと枝に吊るされながら、テナは空を眺めていた。

 森に突っ込んだ時はまだまだ青かった空も、今は赤くなりつつある。

 そんな空を眺めながら、テナは空腹を感じ、情けない気持ちでいっぱいになっていた。

 自分はこのまま、枝に絡まった状態で何日も放置され、終いには空腹で死んでしまうのだろうか。

 世界樹の中で死ぬというのなら、まだ納得できる。いや、死ぬ事に納得できるはずも無いが、まだ諦めは付く。しかし今の状態は何だ。世界樹から帰還する途中で、普通の樹の枝に絡まり、そして死のうとしている。

 そんな事が冒険者として、いや、人として許せるだろうか。

 テナがあまりの情けなさに涙ぐみかけていた時、何処かから聞き馴染みのある声が聞こえてきた。

「テナー! 何処にいるのですかー?」

 アリアだ。

 アリアが、自分を探しに来てくれたのだろう。

 その事実への嬉しさに、テナは更に涙ぐみそうになるが、それを堪えて、必死に声を上げる。

「こっちだよー!! 私はここにいるよー!!」

「テナ!? 何処ですか!?」

 テナの声に気が付いたのか、アリアの驚いたような声が聞こえてくる。

 「何処ですか? 何処にいるのですか!?」とアリアの焦ったような声が聞こえてくるが、テナはアリアの姿を見る事が出来ない。だがとりあえず、自分の居場所だけは伝えておこうと思った。

 大きな声を出すために、身体を大きく逸らしながら息を吸い、そして言う。

「樹のう――うぐぅ!」

「テナ!? 大丈夫ですか!?」

 しまった。身体を逸らしすぎて、紐が首に引っかかった。

 紐はテナの首を絞めていき、テナはだんだん息が出来なくなっていく。

「ゲホッ! カハッ!」

「テナ!? 大丈夫ですかテナ!? 誰かにひどい事をされているんですか!? 今すぐ助けに行きます!!」

 ああ、確かに自分は紐にひどい事をされている。そして今、そのひどい事のせいで死にそうになっている。

 声にならない呻き声を上げながら、テナはじたばたと暴れる。

 酸素がどんどん足りなくなっていき、次第に視界が霞んでくるのが分かった。

 目の前に救いの手が伸ばされているというのに、自分は命絶えてしまうのか。何て情けない事だ。

 テナは、自分の不甲斐無さに対する悲しみ、そしてこれから死ぬという事への悲しみに、目から涙が溢れてくるのが分かった。


 みんな、これまで本当にありがとう!!

 ハヤトさん、アリア、こんな情けない自分でごめんなさい!!

 また今度会った時は、もっとしっかりした人間になっておきます、だから許してください!!

 神様、こんな自分ですが、受け入れてください!!

 みんな、これまでありがとう!! そして――さようなら。


――ボキッ!


「……へ? 嫌ああぁぁぁ!!」

「……へ? テナッ!? 何で上から――」

「アリア、私を受け止めてーーー!!」

「無茶を言わないでくださーーーい!!!」


     ××××××××××


「まったく……、突然樹から落ちてくるなんて、驚きましたよ、テナ」

 テナの引っかかっていた樹の下。

 アリアはテナにぶつかって痛む頭を軽く押さえながら、テナを恨みの篭もった目で、見つめる。

 そんなアリアの視線から顔を逸らしながら、テナは言い訳のような事を言い始める。

「だって……紐が絡まって取れなくなったんだもん」

「だからって人の上に落ちないで下さい」

「……はい、すみません」

 さすがに反省しているのか、しゅんとうな垂れているテナを見て、アリアは小さく溜め息を吐いた。

「……もう良いです」

 アリアの言葉に、テナはうな垂れていた顔を一転、溢れんばかりの笑顔に変えて、アリアを見つめる。

 テナの視線に、照れくさそうに頬をかきながら、アリアは言葉を続けた。

「ハヤトさんは、どうなったか知りません?」

「……私、ずっと吊るされていたから……」

 テナの申し訳なさそうに言った言葉に、アリアは呆れたように「そうでしたね……」と返す。

 アリアの言葉にテナは縮こまるが、そんなテナの様子には気にも留めず、アリアはエーレンの方を見る。

「……ハヤトさんの事ですから、恐らく既にエーレンに向かっているはず。急げば、まだ間に合うか……」

 そう言ったアリアは、森の木々の間から望める空を見る。空は既に赤く染まりつつあり、もうじき夜になる事をアリアたちに知らせた。

 それを見たアリアはテナの方に向き直り、言った。

「急いでエーレンに戻りましょう。今ならまだ、間に合うかも知れない」

 アリアの言葉に大きく頷き、テナはアリアと一緒に森の中を、エーレンの方へと走り出した。


     ××××××××××


 エーレンの特級区にある、フェルノ家の屋敷を囲む塀の前に、ハヤトは立っていた。

 どんどん暗くなっていく空を眺めながら、ハヤトは考えていた。

 自分は昼間からずっと、この場を動かずにテナたちを待っていたのだ。そろそろ行っても良いのではないかと。

 ハヤトの心には苦悩が満ちていき、ハヤトの表情が苦々しく翳っていく。

 そんなハヤトの心の中に、天使と悪魔が出現する。

 悪魔はハヤトの心に向かって、意地悪そうな顔で言った。

(お前は良く待ったよ。いい加減来ないテナたちが悪いんだ。もう家に戻って、早く暖を取ろうぜ、ハヤト)

 それを聞いた天使が黙っているはずも無く、ハヤトの心に向かって、慈悲深そうな顔で言った。

(そんな事を言うんじゃない。テナたちだってここに向かって来ているはず。もうちょっと待とうぜ。……でも、そもそもアリアはここに戻ってくるんだから、今日は引き上げても問題は無いな、うん)

 ハヤトの心の中で、天使と悪魔の意見が一致し、互いに固く手を握り合った。

 考えがまとまったハヤトは、やけに晴れ晴れとした表情で、そこから歩き去っていく。


 ハヤトが立ち去ってから数瞬後、テナとアリアが、ハヤトのいた所にやって来る。

「……いませんね。もう時間も遅いですし、今日は休みましょうか」

「うん、そうだね。そうしようか」

「あ、どうせですから、今日は泊まっていったらどうですか?」

 アリアの提案に頷いたテナは、特に悩む事も無く、アリアに続いてフェルノ家の屋敷に入っていった。

 ハヤトと比べると、もの凄くあっさりと決めてしまった二人だった。


     ××××××××××


 エーレンの居住区の一角にある、エレック雑貨店。

 あまり大きいとは言えない店だが、フェルノ家の屋敷から離れたハヤトはそこに向かっていた。

 どうせ家に帰っても、食料は特に無いのだから、エレックに何か作らせようと考えたのだ。

 エレック雑貨店が見えてきたハヤトは、珍しく店から談笑する声が聞こえてくる事に目を丸くする。この店は、お世辞にも繁盛しているとは言えないからである。

 誰が来ているのだろう、と思いつつ店に近づいたハヤトは、店の扉を開けて中に入る。

「いらっしゃー……、ってハヤトじゃねえか」

「……僕じゃ悪かったのか?」

 ハヤトの言葉に、エレックは顔を露骨に逸らしながら「い、いや、別にそういう訳じゃ……」と言い始める。

 そんなエレックに溜め息を吐きつつ、ハヤトは談笑の声の元を探ってみる。すると、店の隅の方に一人の女性が座っているのが見えた。

「……お前……」

「……? ああ、ハヤトか。久しぶりだな」

 ハヤトの視界に入ってきたのは、凛々しい雰囲気を纏った、一人の女性だった。

『第十一話 落下』、如何だったでしょうか。

最後に新キャラが出ていますが、詳しい事は次回以降で書いていこうと思います。

……僕が書けたら、ですけど……。

それでは次回の『世界樹のはやぶさ』も、よろしくお願いします。

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