第十話 飛行
こんにちは、作者の吉良義人です。
今回の『第十話 飛行』から、この作品の第二章が始動する事となります。
これまでと同様、上手く書けている自信はありませんが、暇つぶしの一環となれれば幸いです。
それでは、よろしくお願いします。
世界樹第21層のカナレア。
日は高く昇り、カナレアに拠点を構えている冒険者の大半は、既に世界樹攻略に行っている中、ハヤト、テナ、アリアの三人はまだカナレアにいた。
アリアの肩には依然、包帯が幾重にもなって巻かれている事から、まだ負傷中なのだと分かる。しかし、カナレアにやって来た日の状態と比べると、その包帯の厚みは無くなっており、傷は快方へと向かっている事が分かる。
彼らは現在、攻略の時にはしていた武装をしていない。という事は、攻略はしない予定なのだろう。
ハヤトたちはカナレアの商店を見て回っているが、アリアだけは居心地の悪そうな様子だ。
「……あの、ハヤトさんもテナも。私には構わず、世界樹に行ってきても良いのですよ?」
どうやら、自分のせいでハヤトたちが攻略に行っていない事が心配な様子だ。
そんなアリアに対し、テナは快活に笑いながら返す。
「良いの。私も少し休みたかったから」
それでも、申し訳なさそうな顔をしているアリアに、ハヤトは言った。
「僕たちはパーティなんだし、仲間に迷惑をかけるのは良くある事だよ」
「……やっぱり、迷惑だと思っていたんですね……」
「え……? あ、いや、そういう事じゃなくて!?」
自らの失言に気が付いたハヤトは、暗い顔のアリアに言い訳のような事を言い始める。それを、テナは引き気味な目で見ている。
「……ハヤトさん……」
「いや、本当に違うからそういう顔をしないでくれるかなテナ!!」
収拾が付かなくなり、頭を抱えそうになるハヤトだったが、前の方から自分たちを見ながら近づいてくる男の姿を確認する。
テナとアリアを後ろに庇うような形になるように、ハヤトはその男の前に立つ。
男はハヤトたちの前まで来ると、背筋を真っ直ぐに伸ばし、そして高らかに言った。
「私は、エーレン特級区に居を構えるフェルノ家からの使者です! アリア=フェルノ嬢当てに伝言を預かってきました!」
男の言葉に、アリアは驚いたような顔をしながら、ハヤトの後ろから出てくる。
「……私がアリア=フェルノです。用件は何でしょう?」
「ダル様からの伝言です! 至急、家へと戻るように、との事です!」
男の言った事に、アリアは「お父様が……?」と眉をひそめていたが、やがて「ご苦労様でした、伝言は確かに受け取りました」と男に返した。
アリアの返事を聞いた男は、アリアに一礼してから、再びすたすたと元来た方へと戻っていく。
それを見送ったアリアは、ハヤトたちの方に向き直り、そして言った。
「という事で、私はエーレンまで帰る事になりました。ですから、あなたたちは――」
「そうか、それは丁度良かった。僕もエーレンに行くよ」
ハヤトの言葉に、アリアは目を丸くして「はっ?」と尋ね返す。
「……いえ、あなたたちは世界樹に――」
「いや、この前ので剣が折れちゃったしさ。この辺りで調達しても良かったけど、やっぱりエーレンの方が上質な物があるからさ」
そのハヤトの言葉に、アリアは一応納得したような顔をするものの、やはり申し訳ないような気持ちが残っているのか、ためらいの色が伺える。
このまま話を引き伸ばしても、話が元に戻るだけだと判断したハヤトは、アリアを押し切る方針にした。
「それで、エーレンへはどうやって帰るつもり? まさか世界樹を通ってじゃないよね?」
「あ、カナレアからエーレンへ、一気に飛び降りようかと思っています」
アリアの言葉を聞いたハヤトは、納得したような表情をして、そして心配そうな顔をする。
「……怪我をしているけど、大丈夫なのか?」
「はい。あの程度なら、もう難なくこなせます」
ハヤトとアリアの中で、話はまとまったように見える。しかし、その脇のテナが、不思議そうな顔をして二人の顔を見つめていた。
テナの視線に気が付いたハヤトは、テナに「何か用があるか?」といった旨の事を尋ねる。
「……あの、そもそもな話で悪いんですけど『飛び降りる』って一体……?」
テナの質問に、ハヤトは「しまった」とでも言いたげな表情をする。
首を傾げているテナに、ハヤトは慎重に話しかけた。
「……テナ、高所恐怖症を患っていたりは、しない?」
「……? いや、特にそういうのは無いけど……」
ハヤトの言っている事が理解できず、ますます不思議そうな顔をするテナ。
「……良いかテナ、良く聞くんだ。『飛び降りる』っていうのはそのままの意味で、世界樹から落ちる事なんだ」
「………」
「………」
「……へ?」
××××××××××
カナレアの端には、丸太で組まれ、板が渡されて出来た床が作られている。そこに、ハヤトたちは集合していた。
ハヤトたちの身体には鎧が身に付けられており、腰にはこんもりと膨らんだ袋が吊るされている。そして背中には小さく折りたたまれた、大きな布のような物が括り付けられている。
ハヤトとアリアの表情は平然そのものだが、テナの表情は緊張で固まっている。
「……テナ、そんなに固くなるなって」
ハヤトの言葉に、テナはぎこちなく頷く。
「駄目だこれは」と小さく呟いたハヤトは、荷物が全部揃っているか、軽く調べ始める。
そしてしばらく待った彼らの元に、一人の若者がやって来る。
「飛行準備が整いました。後は、私たちの指示に従って、飛んでください」
それを聞いたハヤトたちは、皆、床の端の方へと移動する。
そこからは眼下からエーレンの街並みが望め、目の前には青く澄んだ空が広がっている。ハヤトたちには世界樹という巨大な樹によって方向が変則的になった風が、強く吹き付けている。
風に髪をはためかせながら立っていたハヤトたちだったが、一瞬、風がピタリと止んだ。それを確認すると同時に、ハヤトたちの耳に先程の男の声が入ってくる。
「……今です! 急いで飛んで下さい!!」
その男の言葉を合図に、ハヤトたちは一斉に床から跳び、宙へと身を躍らせる。
無風状態の中を垂直に落ちていくハヤトたち。
ハヤトとアリアの表情は平然そのもの。いや、やや顔は綻んでいる。それに対し、テナは今にも泣き出しそうな顔をして、目は潤っている。
やがて徐々に風が吹き始めたのと同時に、ハヤトたちの身体は風によって煽られ、バラバラの方向へと動き始める。が、ハヤトとアリアは身体の傾きを変えていく事で、垂直に近い状態で落ちていくように調整する。しかし、テナは固く目を閉じていて、そんな事には気を配れそうにも無い。
ある程度降りた所で、ハヤトたちは一斉に背中の布を広げ、両端を手で掴む。テナは全く気が付いてなかったため、ハヤトが声をかける必要があったが。
広げられた布は空気の影響を受け、大きく膨らむ。そして、ハヤトたちの落ちる速度を緩めていく。
そのまましばらく落ちていったハヤトたちは、段々と近づいてくるエーレンの街を、見つめていた。が、
「……え?」
「……噓だろぉ……?」
急に強い横風が吹き、ハヤトたちは成す術無く、風によって大きく進路を逸らされる。
強制的に進路を逸らされたハヤトたちの先には、大きく広がる森があった。
「落ちたらとりあえずエーレンに向かう! そこでどうにか集合しよう!!」
ハヤトの言葉に、テナとアリアは大きな声で返事をする。
それを確認したハヤトは、無駄とは知りつつも、エーレンからあまり離れないように抵抗しながら森に突っ込んでいった。
××××××××××
森の樹に突っ込んだハヤトは、樹の上で背中の布を外しながら、周りの様子を伺ってみる。
どうやら落下直前のハヤトの抵抗が功を生んだのか生んでいないのか、テナやアリアとは大分離れた所に落ちたようだ。しかも運の良い事に、エーレンは樹の上から十分に確認する事が出来た。つまりは、エーレンに近い所に落ちたのだ。
何とか布を取り外し、樹から降りる事に成功したハヤトは、樹の上から確認したエーレンの方向へと、歩き始めた。
『第十話 飛行』、如何だったでしょうか。
この話は初の第二章、初の二桁目の話、という事で、僕にとっては初めて尽くしです。
どうでも良いですね。
それでは『世界樹のはやぶさ』、第二章からもどうぞよろしくお願いします。




