7話 「無罪」
「私は、コメットさんは有罪だと思います」
アネットが突然そういった後、部屋は時間が止まったかのように静かになった。
刑事二人はアネットからの突然の情報に、脳の処理が追いついていないのだろう。
少しの沈黙の間の後、角メガネ刑事が話し始めた。
「ゆ、有罪とは⋯どういうことでしょうか?」
角メガネ刑事は困惑しているようだ。
「そうだ。お前はあのコメットの仲間なんじゃないのか?」
デブ刑事も同じく困惑している。
この刑事二人は、コメットの有罪を望んでいる。
しかし、仲間からの突然の裏切りをすぐに飲み込めはしなかった。
「そうですね。前までは仲間でした」
アネットは冷徹な表情でいる。
どうやら、もう仲間を裏切る覚悟はできているようだ。
「でも、今は⋯とても仲間になりたくはありません」
アネットはきっぱりいい切った。
その姿に、刑事二人は少し感銘を受けた。
「その、一応理由を聞いてもよろしいですか?私達も刑事である以上、詳しく知っておきたいのです」
角メガネ刑事はアネットに聞いた。
このようなことを言ってはいるが、内心では勝ち誇っている。
デブ刑事も同じくだ。
この事情聴取が終わったら、角メガネ刑事と一緒に飲みに行こうかどうか考えていた。
「私、事件が起こったとき、何があったかを見ていたんです」
刑事二人はお互いの顔を見た。
どちらの顔も今までにないくらい嬉しそうだ。
デブ刑事は慢心していた。
その姿はまるで、桶狭間の戦いにおける、今川義元のようだった。
一方で、角メガネ刑事は慢心しきっておらず、未だ慎重に事情聴取を進めている。
「それは、本当ですか?」
「⋯はい」
アネットは少し考えたような沈黙の後、断言した。
コメットへの後悔などがあったのだろうか。
「その時の状況について、詳しく教えてもらえませんか?」
角メガネ刑事は更に詳しく知ろうと、アネットに聞いた。
しかし、デブ刑事はもう事情聴取に何もかかわらないようになっていた。
外を眺めながら、何一つ言葉を発さず、今日の夜ごはんのことについて考えていた。
「分かりました」
アネットが話し始めた。
「その閃光事件が起こった日、私は商店街を歩いていました。普通に買い物をしていたのですが、その買い物の途中でコメットさんを見つけました。最初、話しかけようかなとは思ったんですが、何かしている様子だったのでやめました」
「おまえとコメットってやつはどのような関係なんだ?」
デブ刑事が突然話に割り込んできた。
聞いていないようで実際は聞いてはいたようだ。
アネットは、突然自分が話している時に割り込んできて失礼だなと、苛立ちを覚えた。
けれども、アネットはその苛立ちを隠し、答えた。
「えーと、言うならば、仕事上の友達ってところでしょうか。コメットさんは私の後輩でして」
「すみません、こいつが割り込んでしまって。閃光事件について、話を続けてくれませんか?」
角メガネ刑事はアネットの苛立ちに気づいたのか、デブ刑事の代わりに謝った。
そして、デブ刑事に目を細くし、蚊を見るような目で睨んだ。
そんなデブ刑事は、角メガネ刑事に責められたと感じ、また拗ねてしまった。
そんな二人の様子を見て、アネットはどこか角メガネ刑事に同情しているようだった。
「では、続けますね」
アネットが気まずそうにしながら話始めた。
「その時には、コメットさんが何をしていたとかはわかりませんでした。ただ、何か手を伸ばしていて。何か呪文のようなものを唱えていて。何かヤバいことをしているんだろうなとは思いました」
「アネットさんは、その時止めに入らなかったんですか?」
角メガネ刑事が割り込んだ。
しかし、角メガネ刑事の場合はデブ刑事の場合と違い嫌な感じがしない。
それは聞く内容が取り調べとして重要なことと話し方からなのだろうか。
デブ刑事もそんな事を考えていた。
その理由に納得はしていたのだが、どこか納得したくない気持ちもあり、デブ刑事はムズムズしていた。
「入りませんでした」
アネットは角メガネ刑事の問いに答えた。
その声は相変わらずブレない。
感情を殺している。
「私は面倒事が嫌いなんです。巻き込まれたくないんで無視しました。結果巻き込まれてしまったんですが」
アネットはわざとらしくため息をついた。
その後、アネットは思い出したかのように付け足した。
「コメットさんがああやってヤバいことをしそうなのはいつものことでしたし」
「そうなんですか⋯」
角メガネ刑事はアネットがコメットに対して苦労していると理解した。
その気持ち痛いほどわかりますと言わんばかりに、角メガネ刑事は頭を縦に振っている。
この二人は世界線が違えば最高の親友になっていたかもしれない。
「その後⋯」
アネットは続きを話し始めた。
「皆さんが知る、閃光事件が起こりました。光が強すぎて、実際に誰が何をどのようにやったのかは確認できませんでしたが。私が知っているのはこの程度です」
「ありがとうございます。一応聞いておきますが、この話はすべて真実ということでよろしいですか?」
「⋯はい」
アネットは少し考えて答えた。
「だから、私はアネットさんは有罪だと思います」
「では、事情聴取はこれで終わりにします。アネットさん、ご協力ありがとうございました」
角メガネ刑事が事情聴取を終わらせた。
もうこれ以上聞く必要はないと判断したのだろう。
「もちろんです。もう、外に出てもいいですか?」
アネットは少し急かすように言った。
この空間の居心地が良くないのだろう。
「いえ、それはできません。アネットさんには一旦コメットさんの部屋に行ってもらい、弁護士と会ってもらわなければいけないので」
しかし、アネットは外に出ることができなかった。
アネットはそのことに少し不満を覚え、抗議した。
「私はコメットさんに協力するつもりはありません。なのに、なぜ出れないのでしょうか?」
「すみません、一旦は弁護士に会っていかないといけない決まりがあるのです」
角メガネ刑事は冷静に対応した。
しかし、デブ刑事は反抗してきたのが気に食わなかったのか、少し感情的になって言い返した。
「うるさいな。いいから指示に従っておけ。仮にもお前はまだ囚人だ。協力してくれたとはいえ、まだこれは覆っていない」
「私、まだ囚人なんですか?囚人じゃないといけないんですか?」
アネットは少し戸惑っているようだ。
「少し上に報告したりとちょっと手順がありまして。しかし、私達がアネットさんを無罪にするのは保証いたしましょう」
「ありがとうございます、刑事さん」
そして、少し時間をおいてから、角メガネ刑事はためらいながらも聞いた。
「アネットさん、私達の仲間となり、証人となってくれませんか」
角メガネ刑事はアネットを仲間に引き入れ、確実に勝てるようにしようとしていた。
この刑事二人はハレーからの任務を任されている。
なにかなんでも、負けるわけにはいかないのだ。
「えーと⋯」
アネットは悩んだ。
アネットにとって悪くはない提案ではあるのだ。
「アネットさんの証言があれば、私達の勝利は確定です。アネットさんにもなにか報酬は出しますよ。どうですか?」
角メガネ刑事はもう一押しと声をかける。
「えーと、さっきも言ったとおり、私は面倒事には突っ込むつもりはありません。私の言ったことを証言として扱うのも極力辞めてほしいです」
だがアネットは拒否した。
それほど、アネットは事件に関わりたくないのだ。
「そうですか」
角メガネ刑事は少し気落ちした声で言ったが、内面的にはまだ余裕がありそうだ。
アネットの協力がなくとも裁判には勝てると確信しているようだ。
「あーあー。話はここまでにしよう」
デブ刑事が突然口を挟んだ。
「急にどうしたんだ、デブ刑事?」
「もうこんなに長く喋って、飽きちゃったよ。俺が入ったら邪魔者みたいになるし。お前、もう隣の部屋に行け」
デブ刑事は相当拗ねていた。
せっかく仕事ができ、自分の出番があると思ったのに、ほとんど角メガネ刑事にとられてしまった。
「分かりました⋯」
アネットは困惑しながら立ち上がった。
そして、部屋を出てコメットのいる部屋へと向かった。
アネットが部屋を出た後、刑事二人はまだ話していた。
「もう勝ちは決まったようなものだな」
「ああ、アネットが仲間入りしてくれなかったとはいえ、あの言葉はデカい。勝ちは俺達が掴み取る」
そしてデブ刑事は高らかと宣言した。
この言葉がフラグとなることも知らずに。
「俺達の勝ちだ」




