6話 「有罪」
一方その頃、コメットはというと⋯
警察に問い詰められていた。
「コメットさん、あなたはなぜ、あんな事件を起こしたんですか?」
角ばっている眼鏡をつけていて、顎が長く、顔が細い刑事が聞いた。
その声は、コメットにコンパスの針を突き刺すように耳に届けていく。
「だーかーらー!コメットはやってません!無罪!」
しかし、コメットはそのコンパスの針には負けない。
コメットはすべてをはねのけ否定した。
「じゃあ、なんであの事件現場のすぐ近くに寝転がっていたんだ?」
もう一人の太っている刑事が聞いた。
声に威厳はない。
しかし、コメットは嫌なところをつかれ、反応に困っている。
「それは⋯その⋯。でも、事件には無関係なんです!」
「しかも、あなたの能力は"光"なんですよね?閃光事件を起こすにはピッタリの能力ではありませんか?」
「コメットはもっと強くてでっかい光を出せます!事件の映像を見せてくださいよ!あんな光、私にとっては弱すぎます!」
強く打つことができるのならば、それより弱く打つことだって容易である。
それに、そんなことを言葉で言われたところでなんの証拠にもなりやしない。
そんなことは、刑事たちは当然のようにわかっていた。
しかし、コメットは理解していない。
「もういいだろう。こいつが犯人なのは分かりきったことだ。事情聴取をするだけ無駄だ。そうだろう、角メガネ刑事?」
刑事は机を叩いてひよこのような声で怒鳴った。
「そうだな、デブ刑事」
この二人は同級生で、このようにあだ名で呼び合うほど仲がいい。
一応「デブ刑事」の方が先輩ではあるのだが、威厳もクソもない。
「ちょっと待ってくださいよ!コメットは無実なんです!」
「証拠がないのならば無実と証明することはできない」
角メガネ刑事は冷徹に言った。
「そうだ。明日、いや明後日だったかな」
デブ刑事は角メガネ刑事に便乗して告げた。
「明後日だ。いい加減そのくらい覚えてこいよ」
「そうだったな。その日に無実を証明するんだな。ま、結局有罪で終わるだろうが」
デブ刑事は愉快そうに笑いながら言った。
コメットはその姿に腹が立って仕方なかっただろう。
「当然です!この天才コメットがコメットサイドに付いてしまったら、あなた方に勝ち目はありません!」
「そうなるといいな」
デブ刑事は相変わらずコメットを煽るように言い放つ。
「事情聴取はこれで終わりにしよう。コメットさん、隣の部屋で待っていてください」
「ちょっと待ってよ!部屋にいるだけならコメット何もできないじゃん!無実証明できない!」
コメットは机を叩いて抗議した。
今回の声には今までと違い凄みがある。
それほどコメットは自分が無罪だと信じているんだろう。
「お仲間のアネットさんに事情聴取をしたら次は弁護士との面会です。その後は一旦釈放し、自由となりますが?」
角メガネ刑事はコメットに動じず、淡々と告げる。
とてもプロフェッショナルだ。
「そうだ。そこの紙に書いてあるだろ。いちいちうるさいな」
デブ刑事はいつも余計なことを言う。
コメットはそれを聞き流すことができず、さらに苛ついてきていた。
角メガネ刑事はそのことを悟ったのか、事情聴取を強制的に終わらせ、コメットを隣の部屋へと連れて行こうとした。
「だから終わりだと言っているだろう。2人とも、どちらももう話すな」
角メガネ刑事はコメットの腕を掴み、隣の部屋に連れて行った。
デブ刑事はというと、少し拗ねたのか、機嫌悪そうに椅子に座って角メガネ刑事の帰りを待っていた。
「帰ったぞ、デブ刑事」
角メガネ刑事がドアをガチャンと開け、取調室に入ってきた。
「ああ、戻ったのか」
デブ刑事はいつもよりも小さい声で言った。
視線の先は角メガネ刑事は見ずに、どこか遠くを見つめているようだった。
「なんだ、まだ拗ねていたのか」
「うるさい」
デブ刑事と角メガネ刑事は長い付き合いだ。
このようなことは今まで何度も何度も経験してきた。
そのおかげか、角メガネ刑事は、まるで母親が子供をあやすように、デブ刑事の機嫌を察することが容易にできるようになっていた。
「お前のそういうところは相変わらずだな」
「どういう意味だよ?」
「その頑固でツンツンしてるところだよ。俺達が初めて会ってからずっとそうだっただろう?」
角メガネ刑事はどこか遠くを見つめながら懐かしそうに言った。
「そうだったな⋯」
デブ刑事も過去を顧みて、感傷に浸っている。
すっかりデブ刑事の機嫌は治ったようだ。
「あの日、ハレー様に助けられたんだっけか」
「懐かしいな。あの時、ハレー様がいなかったら、俺達今頃この世にいなかったかもしれない」
デブ刑事は窓の外を眺めている。
風が吹き、木に必死に食らいついている葉っぱを襲う。
数枚の葉っぱは地面へと落ちてしまったが、風によって舞い上げられた。
「デブ刑事、この話はここまでにしておこう。これ以上話すとハレー様の名に泥を塗るようなことになるさもしれない」
「そうだな。俺達から見たらハレー様はあの時紛れもなくヒーローだったが、世間から見たら悪役だ」
デブ刑事は不満そうに言った。
この二人は過去の出来事から、ハレーを尊敬して、神と同等、またはそれ以上の存在として扱っている。
ハレーもこの二人の存在を信頼しており、比較的重要な役割を任せることが多いのだ。
今回も、"閃光事件"という重要な事件をこの二人に任せた。
「よし、次はアネットの事情聴取に向かおう。呼びに行くぞ。ついてこい、デブ刑事」
「へいへい」
デブ刑事は雑に返事をして、角メガネ刑事の元へ向かった。
その後、二人はドアを開け、アネットのいる部屋のもとへと向かっていった。
アネットはコメットと別の部屋に隔離されている。
一緒にいるとなにかいろいろ話す可能性がある、というのが表向きの理由としているが、実際は二人でいるとコメットがうるさくなりすぎてしまうというのが本当の理由である。
そのため、アネットの部屋は少し遠い場所にある。
「なあ、角メガネ刑事」
デブ刑事が、歩いている途中に突然話しかけた。
「なんだ?」
「この事件、どう思う?あいつ有罪なのか?」
「どういう意味だよ。こんな証拠が揃っていて、有罪じゃないわけがないだろう」
角メガネ刑事は急に変なことを聞いてきたなと思った。
コメットが有罪ということに、相当な自信があったのだろう。
「そうなんだけどさ」
デブ刑事はどこか納得していない様子だった。
「なんというか、あいつ、話してて罪を犯した感じには見えなかったんだよ」
「それは俺も同意だ」
この二人は警察の中でも特に歴が長い。
長年の勘から、二人ともコメットが犯人ではないと薄々感じていた。
「だがデブ刑事、関係ないことだろう。俺達は警察だが、今回はハレー様からあいつの有罪を証明するよう頼まれた」
角メガネ刑事はいつもより低いトーンで話し始めた。
その声はまるで悪役のようだった。
「そうだったな」
デブ刑事は思い出したかのように言った。
そして、角メガネ刑事が続けて言った。
「俺達にとって、誰が犯人かは関係ないんだよ」
そんな事を話しているうちに、二人はアネットの部屋に着いた。
ドンドン
角メガネ刑事がドアをノックした。
「開けますね」
角メガネ刑事は返事がないのを確認するとドアを開けた。
ドアを開けると、そこにはアネットが寂しく地面に座っていた。
なんで私がこんな目に⋯と思っているのだろう。
「事情聴取の時間だ。早く来い」
「⋯」
アネットは何も言わず、刑事達についていった。
なにか覚悟を決めた様子だ。
(気まずいなあ⋯なんか喋ってくれよ)
デブ刑事はそんなことを思っていた。
「着いたぞ」
アネットと刑事二人は、コメットの時と同じ事情聴取の部屋に着いた。
刑事二人が扉側に座り、アネットは窓側に座る。
その時も、アネットは言葉を何一つ発さなかった。
「それでは、事情聴取を始めます」
角メガネ刑事の声で、事情聴取は厳かな雰囲気で始まった。
「アネットさん、この"閃光事件"についてなにか知っていることはありますか?」
しかし、この厳かな雰囲気はアネットによって壊されることとなる。
「は、はい私は⋯」
アネットは刑事達と会って初めて声を出した。
「私は、コメットさんは有罪だと思います」




