第123話:下剋上⑤
デポルが何か。
考えたことはある。
だが、どこを探しても、ほとんど情報はなかった。
図書館。
インターネット。
政界。
特に政界へ入ってからは、デポルを擁護し、権益に塗れた人間しか見ていない。
見た目は人間。
奪うことに最適化された存在。
感情が昂り、行動に移す時だけ、肌の色がドス黒く変わる個体もいる。
奴らには戸籍がない。
だから、ほとんどの個体は奪い続けて生きている。
だが、それを良しとしない個体もいた。
奪いたくないと願い。
人として生きようとした個体もいた。
はたまた、デポルと人間の子。
井口ゆうたも。
そして、加藤ベアトリクスめぐみも。
デポルの遺伝子を持ちながら、人間として戸籍を持ち、生きている者もいる。
俺が知り得るのはここまでだ。
デポルが何故生まれたのか。
何処から来たのか。
日本にどれほど存在するのか。
俺は何も知らない。
何も知らずに殺してきた。
それでも。
後悔だけは、一度もしなかった。
「君たちは……デポルが何か、知っているか?」
知らねえよ。
そんなもの。
デポルの概念か。
存在価値か。
そんなもの、どうでもいい。
俺は奴らに殺された。
沢口冴子も殺された。
今世でも、何度も殺されかけた。
ついさっきまでだ。
それだけで、十分に殺す理由になる。
「掠奪種、でしょう」
「誰がつけたかは知りませんが、これ以上ないほど、ぴったりな種族名じゃないですか」
人間とは分けられた種族。
それほどまでに異質な存在。
高宮が静かに口を開く。
「掠奪種と書き、デポルと読む」
「それは私がつけた」
誰も反応しない。
拍手も。
ざわめきも。
何もない。
全国放送とは思えないほど。
静まり返っていた。
そして。
俺の呼吸も止まる。
息ができない。
想定外の言葉に、思考が止まりそうになる。
「あなたが……種族名をつけた?」
すかさず、めぐみが助け舟を出す。
質問での鸚鵡返し。
俺が営業で教えた技術の一つ。
「そうだ。種族名をつけ、呼称を考え、徐々に浸透させた」
ようやく理解した。
何故、呼吸がままならないのか。
それは怒りだ。
俺のタイムリープ。
人生の巻き戻し。
その始まりとなった感情。
こいつが全てを知っている。
こいつのせいでデポルが溢れた。
こいつのせいで。
その時だった。
背中へ温かい感触。
めぐみの右手だった。
彼女は何も言わない。
だが伝わる。
『怒りに身を任せるな』
『何も見えなくなる』
目がそう語っていた。
彼女は真偽を見極めようとしている。
冷静で。
優秀で。
天才型。
俺にとって憧れであり。
嫉妬の対象でもある。
彼女ほどの才があれば。
俺のしようとしていることなど、とっくに完遂していたのだろう。
俺は深呼吸する。
ゆっくりと。
生放送であることも忘れ。
息を整える。
肺へ。
脳へ。
全身へ。
酸素が巡る。
霞んでいた視界が、少しずつ晴れていく。
その上で。
俺は机を蹴り飛ばした。
鈍い音がスタジオへ響く。
それでも高宮は。
瞬き一つしなかった。
「デポルについて知っていることを全て話せ」
「久世くん。それは脅迫になるのではないかな」
「現役の弁護士が、全国放送で随分と物騒なことをする」
「国民へデポルを放ち、奪わせ続けた大悪党のあなたよりは、ずっとマシでしょう」
高宮は椅子へ深く背を預けた。
その目には。
一切の揺らぎがない。
「何故、私はデポルを残すのか。その理由を話そう」
スタジオが再び静まり返る。
正義感に満ちた眼差し。
だが、その奥には。
どこか見覚えのある感情があった。
それは。
深い憎悪の色だった。




