Dumb Waiter
――翌朝、旭が事務所に行くと、御影は誰かと電話をしていた。旭は邪魔をしないよう、ゆっくりと扉を閉めてソファに座った。そしてその一分後、電話を終えた御影に旭は話しかける――
「……おはようございま〜す、電話終わった〜?」
「あぁ……おはよう」
御影はそう言うと、スマホをデスクに置いた。
「珍しいね、誰と?もしかして新しい依頼?」
「来栖に電話してた。頼みたい事があってな」
旭はその名前を聞いて、電話の相手は昨日の刑事だと分かった。
「あ〜来栖さんってあの元同僚の刑事さんか!頼み事って何?」
「昨日、俺達は綾華さんの後を追ってそこで綾華さんは交番に駆け込んだだろ?その時に書いてた書類……多分、捜索願だと思ってな。来栖にそれを確認してもらって、すぐに見つけろって言っておいた。見つかったらこっちにも連絡くれると思う」
「なるほど……でも、あっちも忙しいんじゃない?後回しにされそうだと思うけど……?」
旭は不安気にそう言ったが、御影は心配なんて微塵もしていない様子。
「アドバイスしといた」
「アドバイス……?」
「そう、これは安藤治さん殺人事件に関連する事だ。その行方不明者をすぐに探さないと次の殺人事件が起こるってな」
御影のアドバイスに旭は、パッと顔を明るくさせる。
「おぉ!それならすぐ見つけてくれそうだね!」
「……まぁでも俺がやってるのは、違法行為にあたりかねない。警察が関与される前にもう一度、店に潜入するぞ」
「お!OK〜!」
「その前に行く所がある。……あんたはついてくるか?」
「どこ行くの?俺も行くよ!」
旭は元気よく立ち上がり、御影について行くことにした。
そして御影と旭は車を走らせ、ある場所に着いた。
「……ここって?」
その場所は、人通りの少ない商店街の一角にあった。店との間に小さなシャッターがかかっている店らしきものがあった。御影は下がっているシャッターを開ける。
「よし……ほら、入れ」
旭がその中を覗くと、小さな照明があるだけの薄暗い地下に続く階段があった。
「えぇ……何ここ?ねぇ、そろそろ目的教えてくれな〜い?」
御影に急かされ旭は、恐る恐るその階段を降り始めた。御影は中に入りシャッターを閉め、旭の後ろから階段を降りながら話始める。
「ねぇ、みかちゃんこんな所に何があるの〜?」
「……今からある人に会いに行く。その人は腕の立つ職人だ。前に頼んでおいた物が出来たって昨日、連絡が来ていてな」
「へぇ……凄い人なんだね……それで、何頼んだの〜?」
「内緒だ」
「えぇ〜ケチ〜……あ、扉だ……」
階段を降りた先の扉を開ける旭。
中には、アンティークな雰囲気だが少しごちゃごちゃした薄暗い部屋が広がっていた。まるで異世界に来たような不思議な感覚に陥る。
「……何だこの部屋……」
「おーい、鐡さーん!来ましたよー!」
御影は旭の後ろから顔を出し、大声で鐡と言う名前を呼んだ。すると奥の方から、五十代から六十代くらいの中年の男が現れた。
「あぁ……馬酔木さんか……どうぞどうぞ、ゆっくりしてってくれ……ん?見ない顔だな、その人はどちらさんだい」
旭の顔を見て首を傾げる男に御影は、旭を紹介する。
「あぁ、この人は最近俺と一緒に仕事してる……」
「どうも!旭です!よろしくお願いします!」
旭は御影の言葉を遮り、元気よく自分から挨拶をした。
「これまた元気な若者だな。私は鐡 義樹だ。よろしく」
そう言うと鐡は、旭の前に手を差し出した。旭はその手を握り、握手を交わす。
「……ところで鐡さん、例の物は?」
「あぁ……少し待っていてください、今取って来ます」
「お願いします」
そう言うと鐡は、御影が頼んでいた物を取りに奥の部屋に行ってしまった。
すると旭は、ある疑問を御影に投げかける。
「ねぇ、みかちゃん……鐡さんとどうやって知り合ったの?こんな薄暗い店……誰も出入りしていないみたいだけど?」
「あぁ……鐡さんとは俺が刑事時代に知り合ったんだよ」
「え?それって……」
旭は御影に話を聞き驚いて、御影に再び問いかけようとした。だがすぐに奥の扉が開き、鐡が荷物を持って出てきて、聞きそびれてしまった。
「いや〜すまない。お待たせしました……これが頼まれていた物です」
「いつも、ありがとうございます」
御影が紙袋に入った物を受け取ると、中身をチラッと確認した。そして、御影は鞄から封筒を取り出すと、封筒に入った現金を鐡に手渡した。
すると、鐡は御影に問いかける。
「ところで、あの盗聴器の具合はどうです?」
「あぁ!とてもいい感じです。今、それを使って調査を進めているところです。すごく助かってます」
「そうですか、それは良かった……お仕事、頑張ってください」
「はい、ありがとうございました」
「……旭くんも今日は来てくれてありがとう。また、いつでもおいで」
「はい、また来ますね」
「それじゃあ、失礼します」
――御影と旭は鐡と別れ、店を後にした。二人は車に乗り、事務所へと戻る道中。車内で旭は、御影と鐡の出会いについて気になり質問する――
「ねぇ、さっき聞きそびれたんだけど、みかちゃんと鐡さんの出会い教えてよ〜」
「……お前、本当俺の交流関係、気になるのな……」
「気になるよ〜!あんな店、普通に暮らしてたら絶対見つけらんないじゃん?」
こうなると旭は面倒くさい。なんでも御影の交流関係をすごく気にしているようだ。
御影は仕方なく、鐡との出会いについて話し始める。
「そうだな。普通じゃ見つけられない。……刑事時代……俺はある事件を担当していた。その事件の被疑者に上がったのが、鐡さんだ……」
「被疑者……」
「被害者が当時通っていた店の店主だった鐡さん。被害者が被害に合う前に鐡さんの店に居た事が原因で疑われた。だが、すぐ容疑は晴れた。別の容疑者が逮捕され、鐡さんは釈放。釈放後も俺は彼の物作りの才に目をつけた。鐡さんはある程度の物なら何でも高クオリティな物を作り出せるからな」
「へぇ〜……そうなんだ……もしかして鐡さんの容疑を晴らしたのってみかちゃんなの?」
「……まぁ、そんな大層な事はしていない。軽く気になった事を調べて、たまたま真犯人を突き止めたってわけだ。でもそれで鐡さんは俺に恩を感じてるらしいがな。今回も安い金額で作ってくれたし……」
「みかちゃんすげぇし、鐡さんめっちゃ優しい……」
「そうだな鐡さんはすごくいい人だよ。善悪をしっかり見極められる人だ」
御影と旭が話をしていると、御影のスマホが鳴る。その音に気がつき、御影は車を端に停める。スマホの画面を見ると、電話相手は来栖のようだ。
「……もしもし?」
「あ、もしもし馬酔木?○○交番に連絡して、望月綾華さんが提出した望月 一浩さんの捜索願が確かにあった。これから望月一浩さんの捜索に入るわ」
「あぁ、よろしく頼んだ。出来るだけ早めにお願いする。出来れば今日中に見つけてくれると助かる」
「もぉ……相変わらず、人使いが荒いわね〜……」
「お前ならこれくらい余裕だろ?」
御影は来栖を煽るように言った。来栖はフンッと鼻で笑う。
「当たり前よ、舐めないでちょうだい。必ず見つける」
「あぁ、頼む。こっちもこっちの仕事をする。じゃあな」
そう言って御影は来栖との電話を切った。すると、御影の目付きが変わった。
「よし……今晩が山場だ……覚悟しとけ旭」
「おう!……って!?今!名前で呼んだ!?呼んだよね!?ねぇ!もっかい!」
旭は御影に初めて下の名前で呼んでもらった事に喜びを隠せず、御影の肩を揺らしもう一度とせがんだ。
「うるせぇ……出発すんぞ」
御影は呆れた顔をしながらそう言うと、アクセルを踏んだ。
「あ!ちょ!ねぇ〜!」
――次回へ続く――




