1つの可能性
――一通り現場を見て終わった後、事務所に戻った御影と旭。やはり、時間が経ちすぎて手がかりらしきものは何も見つからなかった――
「さすがに数日経った後だから、手がかりはないか……」
「全部警察が調べた後だったね〜……」
「とりあえず、今晩も店に張り込むぞ。常時、盗聴器を確認しながら行く」
そう言うと御影は張り込みの準備を始めた。御影は現場から戻ってきた後、妙に気合いが入っているのを感じられる。
「……う、うん?……なんかやる気みなぎってない?どした〜?」
「ちょっとな……」
「お、なんかあるね!なになに〜?聞かせてよ!元刑事の勘ってやつ?」
旭は何かが起こると察し、テンションが上がり御影に近づきちょっかいをかける。御影はそれを跳ね除け、渋々答える。
「あ〜!分かった分かったから!……はぁ、俺が犯人だと踏んでいるのは、あのキャバクラ店の関係者」
「……あのキャバクラ店の?なんで?」
旭は御影の仮説に、首を傾げる。
そして御影は、その仮説に至った根拠を話し始める。
「簡単だ。あの店は、ヤクザとの関わりを持っていると噂だ。それに、安藤さんは金回りのいい社長だった。だが、最近は金がなくなり今までのツケが莫大で払いきれなくなったんだろう。綾華さんと揉め、あの店を出禁にされた……。安藤さん、あの時言ってたろ?訴えてやるって……」
「あ〜確かに!」
「あの店はそれを隠すために、安藤さんを殺した……。という線は俺は有り得ると思うんだ」
「おぉ!さっすがみかちゃん……!今めっちゃビビってきた!あ、でもさそれって警察の人も気づいたら……綾華さんも捕まっちゃうんじゃ……」
旭は御影の仮説に納得すると同時に、不安感にも襲われる。もし、それが本当なら綾華も捕まり、一護に会わせるという約束が果たせなくなるからだ。
御影も少し、暗い表情を見せた。
「あぁ、そうなるな……」
「えぇ!?ダメだよ!捕まったら一護との約束、果たせないじゃん……」
「……いや、これはまだ一つの可能性に過ぎない。だから今日、あの店に動きがないかを探るんだ。何も無ければそれでいい。俺達が出来る事をやるだけだ」
「分かった……」
旭は御影のその仮説が当たらないことを祈りつつ、今日も張り込みの準備を始めた。
――その日の夜、御影と旭は車でいつも通り、キャバクラを張り込んでいた。時刻は、午前二時二十四分。客は店を出て、店の電気がポツポツと消えていき閉店した――
「よし、客はだいたい帰ったか……聞くぞ」
御影は盗聴器を起動させた。
キャスト達が退勤して行く声が聞こえてきた。それと同時に店のドアが開き、キャストがそれぞれ帰って行った。その中には今日も綾華が居た。
「あ、綾華さん居るね〜今日もこの時間に退勤か」
「だな……ちょっと待て……何か喋ってる」
すると、盗聴器から二人の男の声が聞こえてきた。
「お疲れ様です。オーナー」
「あぁ……お疲れ様」
「ところで……ご覧になりました?あのニュース……」
「あぁ……見たよ。酷い事件だね〜……」
「フフッ……オーナーの命ですからね……」
「さすがだ……あいつはもう金がない……なら必要ないだろ?しかも、訴えるだのほざいていたな……それは困るからな……」
御影と旭はそのやり取りに確信を持った。間違いない。安藤治を殺したのはこの二人だ。
御影はふと、目線を上げると綾華が店前に戻って来ていた。綾華は何かを探している様に見えた。
「……ん?綾華さん……?」
「え?あ、ほんとだ〜なんだろ?忘れ物かな?」
御影は冷や汗をかく。
もし、オーナーと男の会話を聞いてしまっては、綾華も危ない目に会うかもしれないと、考えがよぎった。
「……不味くないか?」
「ん?なんで?」
「今、オーナーと男が秘密裏に話をしてるんだ……きっと綾華さんはそれを知らない……」
御影はそう言い、再び盗聴器の音声に耳を傾ける。
綾華は店に入ったが、声はしない。御影と旭に不安が芽生える。
――その頃、綾華は家の鍵を取りに店へと戻っていた。事務所前の廊下に鍵を見つけ帰ろうとするが、事務所の電気がついていることに気がつく。
不用心にも部屋の扉が開いていたため、電気を消すついでに扉を閉めようと考えていた。
だが、部屋の中から話し声が聞こえてきた。その声が誰のものなのか確認するため、綾華はこっそり扉の外から覗き込む。
するとそこには、オーナーとボーイの青木が居た。恐る恐る、聞き耳を立てる――
「……ところで、奴は見つけたのか?」
「はい、本日見つけたと報告が。やはり、戻っては無いようです。今はマキと共に暮らしてるみたいですね」
「おぉ、そうかそうか!よくやってくれた」
オーナーは青木の肩を叩いて喜んだ。綾華は二人が何の話をしているのか、理解できていなかった。
マキというのは、綾華がこの店に入る前に居たキャバ嬢であり、そして綾華の夫の浮気相手だ。不思議に思っていると……
「それじゃあ、近々……頼んだよ……そろそろ消さねば、AYAにバレる……そうなっては、AYAがここから逃げ出してしまう。それだけは避けねばな。それにAYAの元夫は稼ぎ頭を持ち逃げした挙句……うちの店の金まで取っていきやがったからな……許せん……きっとマキはVIPカジノのことも奴に話しているだろう……」
「そうですね……早急に対処いたします……明日の夜辺りには……」
「よろしく頼んだよ……」
そう言うとオーナーは、青木に札束を渡した。
綾華はその会話から、元夫とマキに危険が迫っていることを察した。これ以上ここに居ては、盗み聞きしていた事がバレると思い、綾華はこっそり店を抜け出した。
店を出た綾華は、ある場所に向かって走り出した。
そして一連の話を聞いていた御影と旭は考え込む。
「……早くしないと、次の犠牲者が出る……」
「やばいじゃん……でも、俺達は綾華さんの元夫の居場所何て、分かんないじゃん……」
「そうなんだよな……どうするか……何とかして、時間稼ぎしないと……」
御影と旭は頭を悩ませた。すると御影は、綾華が走って逃げた方向を見てあることに気がついた。
御影は唐突にハンドルを握り、チェンジレバーをドライブに入れ車を発進させる。突然車が発進し、旭は慌ててシートベルトを締めた。
「え!?どうした急に?どこ行くの〜!?」
――その頃、綾華は走って近くの交番に駆け込んだ。綾華は息を切らせながら、交番に居た警察官に話をする――
「はぁ、はぁ……あの!」
交番に居た警察官は、綾華の切羽詰まった呼び掛けに驚き、椅子から立ち上がった。
「ど、どうしたの?そんなに焦って?とりあえず、座って」
警察官に促され、綾華は息を整えながら椅子に座る。
「あ、ありがとう……ございます……実は、私の夫を探して欲しいんです……居場所が知りたいんです!」
「夫?どうしたの?喧嘩でもして居なくなっちゃった?」
「そうじゃなくて……お願いします!探してください!」
綾華は勢いよく頭を下げた。
警察官は綾華の圧に押されながらも、綾華を落ち着かせる。
「わ、分かったよ……とりあえず落ち着いて?じゃあ、捜索願書くから身分証とかあるかな?」
「は、はい……」
その警察官は優しく綾華に話しかけながら書類を渡した。綾華は少しずつ落ち着きを取り戻し、ペンを握った。
――次回へ続く――




