事件発生
――初日調査から十日が経過した。ほぼ毎日張り込み、情報がないか探ったが、初日以降何も情報が得られ無かった。旭は、面白味がない日々に退屈しているようだった――
「ねぇ〜みかちゃん……ここ一週間くらい、張り込みだけで何も情報無くない?ねぇ〜また店潜入しようよ〜綾華さんに話聞きに行こ〜?」
「……潜入するにしても、また作戦や金が必要だ。それに綾華さんに話を聞くって言っても、はぐらかされるだけだ」
「う〜ん……そうだけど……暇!もっと何か店の裏情報とか、綾華さんの詐欺行為についての情報とか無いわけ?」
「……今の所何も無い。綾華さん自身、退勤後に怪しい行動をしている様子もない」
「かぁ〜!……何もないのか〜……」
旭はソファにもたれかかり、暇そうにスマホを見つめている。
するとデスクのPCで作業していた御影が、口を開く。
「……殺人事件か〜……」
「ん、殺人?何の話〜?」
旭は御影の言葉に反応する。そして御影のデスクに行き、PCの画面を覗き込む。御影のPCにはある殺人事件のニュースが映されていた。
「ほら、これだ。この前の死体が発見された事件。司法解剖の結果が出たらしい」
旭はPCの画面に写ったニュースの被害者の顔を見て、目を疑った。
「なぁ……みかちゃん。これ……この前のおじさんだよ……」
「はぁ?この前のどの前の?」
御影が首を傾げると、旭は御影の肩を軽くポンポンッと叩きながら説明する。
「ほら!あれ!初日の調査の帰り際、綾華さんと揉めてたおじさん!」
「はぁ!?それ本当か?」
御影は旭の発言に驚き、旭の方に顔を向ける。
「あぁ……覚えてる……明るい街灯があった場所で話してたから顔もしっかり覚えてる……おじさん……」
旭は被害者の顔をよく見て、あの時出会った人だと確信した。
そして旭はニュース映像を再生する。
――東京都 ○○区○○の山道にて遺体として発見された男性の身元が判明しました。三日前に遺体として発見されたのは、安藤 治さん五十八歳。○○株式会社の社長でした。○○株式会社は最近、内部告発により従業員の労働環境に問題があるとして会社を訴える裁判を行う予定でした。安藤治さんは司法解剖の結果、死亡推定時刻は七月二日の午前四時頃。腹部に刃物で五ヶ所切り付けられ、出血多量により死亡したと診断されました。警視庁は殺人事件として捜査を進めていくようです――
そこでニュースは終わった。二人は、呆然とPCの画面を見つめる。
「あのおじさん……安藤さんって言うんだ……誰に殺されたんだろ……」
御影は腕を組み、真剣な表情で呟く。
「死亡推定時刻、俺らがあの店を後にした二時間後ってところか……。まぁ警察はその内部告発した従業員を真っ先に疑うだろうな〜……」
「あ〜やっぱり……?」
「でも、殺したら金が貰えなくなるだろ……その従業員の可能性は低いだろうな。本当に労働環境に問題があってしっかりした証拠があるなら、殺してしまっては損でしかない」
「そっか〜……他に犯人の候補は居ないのかな?」
「さぁ?俺はもう……」
「警察じゃないから……。調べようがないよね〜」
旭は御影の言葉を遮りそう言った。御影は少し黙った後、旭の方を見てた。
「……なんだ知ってたのか。何処で知った?」
「ちょっと調べたら出てきたよ〜?」
御影は旭に自身が、元警察であることは言っていない。なのに何故、旭が知っているのか。気になったが、あまり気にしないことにした。
「まぁ別に、隠しては訳では無いし良いか……」
御影はゆっくりと椅子から立ち上がり、窓を見ながらある提案を旭にする。
「なぁ、ここに居るのもなんだ。少し散歩でもするか?」
「え?……散歩?良いけど……?」
「じゃあ、行こうか……」
――御影は散歩という提で旭と共に事務所を出る。
旭は突然、散歩すると言われて不思議に思う。そして、どこへ行くのかを知らされないまま歩いていると、いつの間にか事件現場に着いていた。規制線が引かれている外側で、野次馬や警察が騒がしくしていた――
「え?ここって……現場だよね?」
「あぁ……まだ警察も野次馬も多いな〜……それもそうか……」
御影はそう言い無言で辺りを見渡している。現場の様子を気にしながらゆっくりと歩いている。その後ろをついて行く旭。
すると、パトカーから降りてきた女性が、こちらに向かってきてる。
「……もしかして……馬酔木?」
御影と旭はその声のする方向に目をやる。そこには、長い綺麗な茶髪を後ろにひとつに結んでいる、女性が立っていた。左腕には、「機捜」と書かれた腕章をしている。
彼女を見た御影は、然程驚かなかった。
「あぁ……来栖か……」
「ん?知り合い?」
「元同僚だ」
「……どうも、初めまして。機捜の来栖 希実です。よろしくお願いします」
来栖希実。彼女は御影の刑事時代の同期で、御影が捜査一課にいた頃、相棒だったようだ。
来栖は警察手帳を見せ、旭に挨拶をする。
「あ、どうも〜旭です……よろしくお願いしま〜す」
旭は来栖に軽く挨拶をした。来栖の警察特有の威圧感に旭は、少し縮こまりながら挨拶をする。
「そういえば来栖、今は機捜なのか。どうだ、機捜は?」
「まぁまぁね〜……捜一よりはだいぶ楽だわ。でもその分、やり甲斐は減ったかな」
「そうか……」
「てか!何で馬酔木がここに居るの?」
「……ただ通りかかっただけだ。人集りが気になって来たんだ」
「嘘つけ〜……。で、本当の理由は?」
来栖には嘘は通用しないと思った御影は、素直に白状する。
「……。こっちも仕事なんだよ。今回の依頼に関係があるんじゃないかって思って来たんだ」
「仕事ね〜……。そっちは今、探偵してるんでしょ?あんま無茶しないでよ……体の具合はどう?」
来栖は御影の体をじっと心配そうに見つめた。
「……あぁ、今はだいぶ落ち着いている。色々迷惑かけたな……」
御影は、少し申し訳なさそうな顔をした。そんな御影の肩を来栖はポンッと叩いた。
「水臭いわね〜、それくらいどうってことないわ」
「……あぁ」
「……まぁ、あんな事があってから、あんたは刑事辞めて、私は機捜に飛ばされて……まぁ、あんたと違って辞める羽目にならなくて、助かったけどね〜」
「それでよく、警察続けようと思ったな……」
「う〜ん……まぁ安定はしてるし良いかなって……黙ってりゃあ何とかなるし」
「そうか……お前は保守的だからな……」
「あんたと違ってね……そろそろ戻るわ、それじゃあね……。なんかあったら、また連絡ちょうだい」
来栖はそう言い、現場に入っていった。
さっきまで話についていけず、空気だった旭は御影に問いかける。
「ねぇねぇ、さっきの来栖さんってどんな人なの〜?」
「……そんなこと、聞いて何になるんだよ?」
「え〜だって気になるじゃん?みかちゃんがどんな人と関わってきたのかとか」
御影はため息をつき、また現場の周りを歩き始める。
「あ!ちょっと待ってよ〜みかちゃ〜ん!」
――次回へ続く――




