使い捨て
――御影と旭は店を出た後、車で綾華が退勤するまで待機する――
「それで……どうだった?初めての調査は」
「思ってたより楽しかったよ!お酒も飲めてハッピー」
酒が入って普段以上に上機嫌な旭。それを御影は、冷ややかな目で見た。
御影は一呼吸置き、気持ちを切り替えて今回手に入れた情報を旭に話し始める。
「……実はある情報を手に入れたんだ」
「ある情報?」
「トイレに向かう途中、キャスト二人が話してるのを聞いたんだ……綾華さんは詐欺を働いてるんじゃないかって噂だ。客が金持ちそうだったら大金使わせて、金が尽きたら捨てる……。それにオーナーとも妙に仲良いみたいなんだ。オーナーについても深く調べた方いいかもしれない」
「詐欺!?マジか……。綾華さん、もしかしたらヤクザと繋がってて一緒に詐欺を働いてる……とか?」
「かもしれないな……やはり、簡単には行かなそうだ」
御影は顎に手を添え、考え込んでいる。すると、綾華のある発言を思い出す。
「……そういえば、綾華さんの発言で気になった部分があったの……気づいたか?」
「あ〜確か……私には家族が居ませんってやつ?」
「そうだ。……ただ単に子供を居るのを隠したいのか……あるいは子供を捨てたのか……」
「どんな感情で言ったんかね〜」
「さぁ……それは綾華さんにしか分からない」
「だね〜……」
――数時間後、眠気眼を擦りながら綾華の退勤時間を待っていると、駐車場側の裏口から女性と男性二人が出てきた。なんだか言い争っている様だ――
「ん?あれ、綾華さんじゃね?」
旭が指さす先を凝視すると、やはり出てきたのは綾華だった。
「本当か?……本当だ……でも何の話してんだ?」
「ちょっと行ってくる!」
車のドアハンドルに手をかけ、今にも飛び出していきそうな勢いの旭を御影は、慌てて止める。
「おい!待て待て!少しでも変装していけ!あと、自然に通り過ぎる感じで俺と通話を繋げて行け」
「了解!」
旭はカバンから帽子と眼鏡を取り出し、身につけてから車を降りた。そして近くの自動販売機で飲み物を買うように見せかけ、言い争っている二人の話を聞く事にした。
旭は二人に近き女性の方を見てみると、その女性は綾華で間違いない。そして男の方は綾華の客のようだ。
「お、おい!出禁ってなんだ!?あんなに君に費やしたじゃないか」
「はぁ……もうどっか行って……事業に失敗した貴方に用はないの。さようなら……」
綾華は冷たくそう言い放つ。すると男は、綾華にしがみついて懇願する。
「お願いだAYA……まだ私と一緒に居てくれないか……?新しいプロジェクトが上手く行けば私は事業は元に戻ると思うんだ……そうしたら君と結婚したい……」
「ねぇ、もう諦めたら?私は金のない貴方となんか居たくない。もう戻るね、次のお客さんが来る……」
綾華は男に掴まれた腕を振り払い、店に戻っていく。
「ま、待ってくれ!……。」
男は崩れ落ちて地面にうずくまる。それを見た旭は、男に近づき話しかける。
「こんばんは〜……どうかしました?」
「あぁ……すまない……見苦しい所を見せてしまったね」
「……さっきの女の人、ここの店員さんですよね?何かトラブルっすか?」
「あぁ、さっきの女はここのキャストだ……私が愛してる人でね……でも、最近私の会社が傾き始めて大変なんだと愚痴をこぼしたら……このザマだ……」
「そうなんすね……大変ですね……愚痴なら俺が聞きますよ?……あ、これ飲みます?」
旭はさっき買った缶コーヒーをその男に渡した。
「あぁ……ありがとう……」
「あそこのベンチに座って落ち着きましょ?」
「そうだな……」
旭はその男に手を貸し男は立ち上がり、二人はベンチへ行き座った。
旭は買った缶コーヒーを開け、一口飲んだ。そして、男は俯きながら話始める。
「私はあの店の常連でね……多額の金を費やした。さっきの女はAYAと言って、AYAは新人にしては立派で私の心も彼女に奪われてしまった。AYAは特別な人しか行けないと言われたあの店のVIPカジノにも連れて行ってくれてな……」
「VIPカジノ……」
旭はその男から思わぬことを聞いて、小さな声で呟いた。
VIPカジノ。それが、綾華が言っていた特別なサービスなのだろうか。
「……そこは常連で金回りの良い奴しか行けないと、金持ちの間で噂でね……その場所に私も行けて、優越感があったよ……でもそこは勝つ時はものすごく勝てるが、負けた時の損害も大きい。それに、ドリンクやサービスと言い、高額な請求をされてしまったんだ……今思えば……詐欺だな……クソッ……あの女……いや、あの店ごと訴えてやる……」
男はふつふつと怒りが湧き上がり、缶コーヒーを強く握りしめた。
「そ……そんな事があったんすね……」
「……いやぁ……すまないね、愚痴を聞いてもらって……そろそろ帰って休むとするよ……これ、コーヒー代と迷惑料だ。受け取ってくれ青年」
そう言うと男は財布を取り出し、旭に1万円を渡そうとする。
旭は驚き、慌てて突き返す。
「あ、いや……大丈夫ですよ!俺から話を聞くと言い出したんですから!」
「いいんだ。受け取ってくれ……君のような優しい人に話を聞いてもらえて良かった。ありがとう……」
男は旭の手に無理矢理1万円を置き、旭の手を握りしめた。
男は緩んだ笑顔を旭に向けた。その顔は、どこか哀愁漂っていた。
「……それじゃあ、また何処かでな」
「え!?あ、ちょっと!」
旭はベンチから立ち上がり男を追おうとするが、男は近くに停まっていた使用人の車で行ってしまった。
旭は男が乗った車を見送った後、貰った1万円を握った手を見つめる。
「……こんなの要らないのに〜……むしろお金を渡したいくらいだよ…………もしも〜し、みかちゃん?聞こえてた〜?おじさん帰ったよ」
旭はポケットに入れていたスマホを取り出し、通話を繋いでいた御影に話しかける。
「あぁ、全て聞こえていた。思わぬ収穫だな。そろそろ戻ってこい。……あと、みかちゃんって呼ぶなと言っただr……」
「は〜い!今行きま〜す!」
旭は御影の言葉を遮り通話を切った。電話先の御影は怒りで顔が引き攣る。
そして、旭は御影の待つ車に戻って来た。
「たっだいま〜!いや〜びっくり!思わぬ収穫!しかもお金も貰っちゃったよ〜……むしろ情報料としてこっちが渡したいよ〜」
「……にしても本当に詐欺をしていたとは……一護君にどう報告すればいいんだろうか……」
御影は少し暗い表情を見せた。
「……確かに……でもまぁ、報告するのはまだ先でいいんじゃない?一護だって新しい場所に慣れるので手一杯だろうし……」
「……だな」
――それから一時間後。店の電気が消え、静けさがある。そして他の従業員達が次々に退勤している。すると綾華とオーナーらしき男が出てきた――
「……綾華さんの隣に居る人ってオーナーかな?」
「それっぽいな……何か話してるみたいだな」
綾華とオーナーは少し話をした後、綾華は何処かに向かい、オーナーは店内に戻った。
「ねぇ、綾華さんのこと追う?」
「いや、いい……。それより、オーナーは店内に戻った……何か話してないか盗聴器で確認するぞ」
「お!そうだったそうだった!聞いてみよ!」
御影と旭は、盗聴器の受信機に繋いでいたイヤホンを装着し、耳を凝らす。すると雑音はあるが、男の声が聞こえてきた。
「……あぁ、そうだ……頼んだよ……今晩の内にお願いするよ……あぁ……くれぐれも見つからないように……またな……」
声の主は先程、店から顔を出したオーナーの男だろう。誰かと話しているようだった。だが、相手の声は聞こえない。つまり、オーナーは誰かと電話で話しているのだろう。
そして、すぐにオーナーは電話を切り、店を出て行ってしまった。
声が聞こえなくなったのを確認し、耳からイヤホンを外す。
「クソ……相手の声までは聞こえないか……」
「何かをお願いしているみたいだったね……なんだろ?」
「さぁ……?ただ盗聴器に問題なし、バレてもいない……この調子で行くぞ。今日はとりあえず帰ろう」
「は〜い!初日なのにめっちゃ情報手に入れられたね〜!よっしゃ!次はもっと情報ないかな〜?」
――調査を終え、事務所に戻ってきた二人。とっくに日は跨いでいた。ドッと疲れが押し寄せてきた――
「とりあえず、今日の事はまとめておく。犬飼さんは、帰って休んでくれ」
「は〜い、じゃあまた明日!お疲れ様でした〜!」
そう言い、旭は事務所を後にした。
旭を見送った御影は大きくため息をつき、ソファにもたれかかった。
「……疲れた……慣れないやり方は、するもんじゃないな……にしても気に入らない……本当に旭と一緒に今回の件をやっていける自信がなくなってきた……」
愚痴をこぼす御影だったが、気持ちを切り替えてソファから重い腰を上げた。そして、オフィスチェアに座りPCと向き合うと、今回得た情報をまとめ始めた。
――次回へ続く――




