噂
――御影と旭はキャバクラに潜入し、望月綾華と思われる人物と接触することに成功する。二人の間に綾華が座り、会話が始まる――
「お二人のお名前、伺ってもいいですか〜?」
「御影と言います」
「旭で〜す!」
「御影さんと旭さんですね!素敵お名前ですね〜本日はどうしてこちらに?」
「あ〜、うちの弟が人生経験で一度は行ってみたいって言ってたんで、今日連れてきたんです」
「そうなんすよ〜!一人だとちょっと怖いかなって思って、兄についてきてもらったんすよ」
御影と旭は義理の兄弟設定で話を進めていく。
綾華には疑問を持たれる事なく、スムーズに話が進む。
「あら!そうだったんですね〜!兄弟仲良いんですね」
「まぁ、そうですね〜……」
「そうそう!仲良しなんですよ〜……ね?みかちゃん!」
旭は前のめりに体を出し、御影の方を見てニコッと笑う。
「え?……は?」
旭の突然のみかちゃん呼びに狼狽える御影。
それを聞いた綾華は、まるで女子高生の様にいたずらっぽく笑う。
「え〜!可愛い〜!いつもそう呼んでるんですか?」
「そうそう!兄弟ってより友達みたいな関係なんすよ〜!」
「は、恥ずかしいだろ!やめろ!」
御影は顔を赤くして、語気を強めて言う。
旭は揶揄うようにニヤニヤしている。
「え〜なんで〜?いいじゃんいつも通りで!」
「はぁ〜……」
旭の態度に御影はため息をつく。
その様子を見て綾華は、フフッと笑みを零した。
すると旭は綾華にも質問を投げかける。
「AYAさんは、兄弟とか居ないんですか〜?」
「……そうですね、私には家族は居ませんので……お二人が羨ましいですよ〜!」
旭のその質問に望月綾華が一瞬、表情を暗くさせたのを二人は見逃さなかった。
家族は居ない。その言葉の意味は、そのままの意味なのだろうか。深く追求することは出来なかった。
「そうなんすね〜……」
その異様な雰囲気を断ち切るように御影は、綾華に質問を投げかける。
「……あ、そうだAYAさん、俺たち今日初めてで何も分からなくて……ここの店ってどんな感じですか?」
「そうですね〜……まぁキャストがお客様とお話をしたり、楽しく遊んだり?ですかね〜!何回か来てくれる常連さんですと特別なサービスもあるんですよ!」
綾華は再び明るい表情に戻り、御影の質問に答えた。
「特別なサービス!それって何んすか?」
旭はその特別なサービスがどんなものなのか、気になり質問をするが、綾華は言葉を濁す。
「う〜ん、内緒です!あ、何飲まれます?」
そう言うと綾華は、ドリンクのメニュー表を二人に見せた。
「あ、俺は今日車なんで……これで」
「じゃあ俺は……これで!」
御影は車を運転するため、酒は飲めないので烏龍茶を注文。旭はジントニックを注文した。
「は〜い!ドリンクお願いしま〜す!」
綾華が手を挙げてボーイを呼び、ドリンクを注文してくれた。
注文を終えると、綾華は再び二人に質問する。
「そういえば、お二人は何をされている方なんですか?」
「俺は普通の会社員ですよ」
「俺は大学生で〜す!」
二人は嘘の身分を綾華に伝える。
「そうなんですね!御影さんはどんな仕事してるんですか?」
「あ〜そうですね……デスクワークが主ですね。そのせいで体力が減ってしまって、すぐ息切れします(笑)」
「あらま〜私もあんまり体力なくて、最近は筋トレ頑張ってますよ〜!旭さんはどこの大学なんですか?」
「俺は〇〇大学ですよ!」
「え!頭いいんですね!すごい!私、大学行ってないんで大学行けるの羨ましいです〜!」
綾華は笑顔で、二人の顔を立てるように会話を続けた。そしてドリンクがテーブルに運ばれ、三人はグラスを片手に乾杯をした。
嘘が怪しまれることもなく、他愛もない話を始めて、四十分が経過した。いつの間にか、グラスに入ったドリンクは三分の一程に減っていた。
「……すみません、ちょっと席外します」
「は〜い、行ってらっしゃい!」
御影はそう言うと席を立ち、トイレに向かう。
するとトイレ前の廊下に休憩中と思われる、キャスト二人が話をしていた。御影はその二人の会話を聞くため、廊下に入る前の角に隠れ聞き耳を立てる。
「ねぇ〜AYAさんってさ〜やばいよね……」
「え?なんで?」
「だってさ〜AYAさんって詐欺してるって噂だよ?」
「え?マジ?」
「なんか〜客が金持ちそうだったら、甘い言葉かけていっぱい金使わせて色んなサービスするんだって〜そして客の金が無くなったらポイするみたい……うちらだってそんなことしないのに〜」
「えぇ……やば……搾り取るだけ搾って捨てるって感じ?……あんまり関わらない方がいいかな」
「そうかも……しかもAYAさんって最近入ったのに、オーナーと妙に仲良いじゃん?なーんか嫌な感じ〜……」
「だね〜……あ、そろそろ戻ろっか」
「あ〜ダル……」
キャスト二人がこちらに向かってくるタイミングで、御影はトイレの方に向かい自然に二人とすれ違う。
御影はトイレの個室に入り、メモ帳を取り出すと先程キャスト二人が話していたことをメモする。
「綾華さんが詐欺……そしてオーナーとの関係……思わぬ収穫だな……だが……」
御影は話を聞いて、どこか腑に落ちない様子。会話の中で、綾華が詐欺をしているようには思えなかったからだ。
メモ帳を閉じ、トイレを出ると関係者以外立ち入りの部屋の前を通る。おそらく事務所や更衣室がある部屋なのだろう。その前にあった観葉植物の植木鉢にある物を置いて、その場を離れた。
席に戻ると何やら、話が盛り上がっている様子。
「すみません、お待たせしました」
「あ!おかえりなさい!今、御影さんのお話を旭さんから聞いてたんですよ〜!」
「……また今度は何を話してたんだ?」
「みかちゃんが料理ヘッタクソで、いつも料理するとめっちゃ焦がすんだ〜って話してた」
「……お前な……」
旭は偽の話をして場を繋いでいたようだ。
御影はゆっくりとソファに座る。少し苛立ちながらも、反論をすると色々と面倒事になると考え、言葉を飲み込んだ。
「……あ!そういえば、AYAさんはいつから働いてるんですか〜?」
「そうですね〜……ここ数ヶ月ですね!まだまだ新人なんですよ〜でも結構お客さん来てくれて、すごくやり甲斐があるんです!」
「へぇ〜すごいっすね、数ヶ月でそんなお客さん呼べるなんて!何か秘訣とかあるんですか〜?」
「そうですね〜……前も接客業してて、その時に培われたのかもしれないですね(笑)」
「なるほど!さすがっすね〜」
すると奥からボーイの男が、こちらに向かって来た。
そして、綾華に耳打ちする。
「失礼します、AYAさんそろそろ……」
「あ、は〜い!……すみません、そろそろ行かなきゃいけなくて……」
そう言って綾華は、ゆっくりと席を立つ。
御影はボーイの姿を見て、ある考えが過る。
ボーイは黒のスーツに身を包んでいる、二十代後半から三十代前半と思われる青年。だが気になるのは、室内なのにサングラスを付けている点。もしかすると、一護が見た男は彼なのかもしれない。
「……分かりました。では、俺達も会計に行きます」
「まだ、居てもいいんですよ?他の子呼べますよ?」
「今日は初めてだったんでこの辺で!ありがとうございました!また、来ます!」
「そうですか……こちらこそ楽しかったです〜!では失礼します!」
綾華は軽く会釈をし、席を離れる。
それを見送ると、二人も荷物を持ち席を立った。
「よし、帰るぞ」
「は〜い!」
――御影と旭は会計を済ませ、店を出て車に戻った。運転席に座った御影は腕を組み、ため息をついた。そして旭に問いかける――
「なぁ……ひとつ言いたい事あるんだが……」
「ん?なんすか?」
「みかちゃんってなんだ……?」
御影は旭を睨みつけ、キレ気味に言った。
「可愛くないっすか?みかちゃん。仲良さげな義兄弟っぽくていいじゃん?」
「はぁ……」
旭のヘラヘラした態度に再び、ため息をつく。
すると、旭はニコニコしながらある提案をする。
「あ!これからみかちゃんって呼んでいいっすか?みかちゃんも俺のこと、旭って呼んでいいんで!」
「はぁ!?なんでそうなる!?ダメだ!!!」
旭の提案に御影は、驚き大声で拒否した。
旭は口を尖らせる。
「えぇ〜呼びやすくていいじゃ〜ん!」
「いいじゃ〜ん、じゃない!年上に向かって、何て口の利き方だ!?」
「えへっ(笑)みかちゃんって堅物タイプ?モテないよ〜?」
「はぁー!……ムカつく……」
旭のチャラチャラした楽観的な態度に、今まで溜め込んでいた苛立ちがついに溢れてしまった。
それを気にすることもなく旭は、これからについて問いかける。
「それで……これから、どうするの?帰る?」
「……いや、綾華さんの退勤時間まで待機だ。その後、何処に向かうのかも調べる。それに……」
御影は車のグローブボックスを開けるように指さす。そして旭がグローブボックスを開けると、ある物が出てきた。
それを見た旭は苦笑いを浮かべる。
「うわっ盗聴器じゃん……(笑)」
「俺はどんな手を使ってでも真実を知りたいんだよ。それに九十パーセント、バレない所に付けた。」
関係者事務所の前にあった観葉植物の植木鉢。御影は、それに盗聴器を仕掛けたのだった。
――次回へ続く――




