調査開始
――御影と旭は、望月綾華が働いているであろうキャバクラを特定。明日、張り込みと潜入調査を行う――
「それじゃ、また明日!失礼しました〜!」
「あぁ、お疲れ様です」
旭が事務所を去った後、御影は手がかりをまとめた資料を手に考え込んだ。
「綾華さんがホステスとして働いてる店について……何も手がかりが無いな……それにこの手紙……妙なんだよな……文字の震え、文の違和感……色々と気になる点が多いな……」
御影は資料をファイルにしまうと、PCを開く。そして、そのキャバクラの口コミや掲示板を調べる。
調べていると、ある文章に気になる部分を見つけた。
「……このキャバクラは……ヤクザ関係の人が経営……か……これは不味いな……このことは犬飼さんにも明日伝えなければならないな……」
ヤクザが関係しているとなると、厄介なことに巻き込まれる可能性がある。
御影は頭を抱えるが、とりあえず張り込みの為に荷物をまとめた。そして事務所の電気を消し、下の階にある自分の家に戻った。
――翌日、御影は事務所で旭を待っていると、外階段を駆け上がる音が聞こえてくる。そして勢いよくドアが開いた――
「おっはようございまーす!」
旭の元気の良さに怪訝そうな顔をする御影。
「あぁ……犬飼さんか……。おはようございます……」
「今日、張り込みっすよね〜!なんか俺も探偵みたーい!」
旭はワクワクした様子で、持ってきたカバンをドンッとテーブルに置いた。
「え?……なんでそんなに荷物多いんです……?」
「え?……だって、着替えとか色々持たないと……あ!あとゲーム!暇つぶし〜!」
「はぁ……これは仕事なんですよ。お出かけ気分で居られると困ります」
御影は頭を抱えながら、ため息混じりに呆れたように言った。
「えぇ〜……でも仕事も楽しんでやった方が、良くないっすか〜?」
「……これだから素人は……」
御影はボソッと小さな声で愚痴をこぼした。
旭は御影の発言にムッとした表情をした。
「……すいませんね〜素人で!」
勢いよくソファに座り、自虐的にそう言った。
少し険悪な雰囲気を醸し出しながらも御影は、淡々と準備に取り掛かる。
「……あ、てか張り込みって言っても、どこでどう張り込んすか?」
「じゃあ、これからの行動について説明していきます。まずは、本当にそこのキャバクラで綾華さんが働いているのかを調べるために、店前の通りで車の中で張り込みます。姿が確認でき次第、その後の動向を探る。そこに綾華さんが居れば、そこまで手間はかからないと思います」
「なるほど〜、じゃあ早速行きますか!」
「いや、キャバクラが始まるのは夜からです。それまで、時間がある。……向かう前に犬飼さんにも話しておきたいことがあります」
「ん?なんすか?」
御影は眉を顰めながら、旭を手招きする。
旭が御影のデスクにあるPCを覗き込むと、キャバクラのことについて書かれている掲示板が、映されていた。
「少しそのキャバクラ店について調べたんですが……妙な噂があるらしい……」
「妙な噂……」
「噂というのは、そこのキャバクラは……ヤクザとの関わりがあるようです。今回の依頼は少し難易度が高いと思われます」
旭は、ヤクザと言う言葉を聞いた瞬間、旭の目付きが変わり、鋭くなった。
「ヤクザ……どこの組?」
「え?……そこまでは分かってませんが……」
御影は旭のその反応と返答に違和感を感じていた。
「……とりあえず、気を引き締めて行ってください」
「はーい!」
旭は元気よく返事をする。そして再びソファに座り直し、スマホをいじり始めた。
御影は先程の旭の違和感のある態度を気にしつつも、PCで情報を集める。
――時間が過ぎ、キャバクラが開店する時間の一時間前になった。車を出し、そのキャバクラへ向かう二人。
そして店の近くに車を停め、車で店の様子を見ている――
「よし、そろそろか……」
「お!どれどれ〜……」
二人は望月綾華が本当にこの店に出入りしているのか、目を凝らして探してみると、人影が近づいてくる。
「あ!来た来た!」
「あ?どこですか?」
「ほら、あそこっすよ!ほらほら!」
旭の指さす方向から女が歩いてきている。
御影は女の姿は見えるが、辺りが暗く顔までは識別できていない。
「店に入ってった!裏口から!」
「……確かに、女の人が入って行ったが……本当に綾華さんか?」
御影は旭が見た人物が、本当に綾華なのか訝しんだ。
「本当っすよ!俺、目良いんで!」
「……そうか、分かった。……とりあえず、駐車場に移動します」
御影はそう言うと車を移動し、駐車場に車を停める。
そしてこれから、どのように事を進めるか話し合う。
「では、これからの作戦を立てましょう。堂々と探偵です、なんて言っては怪しまれます。店での私達の関係性を設定しましょう」
「怪しまれないような設定……あ!義兄弟ってのはどうっすか?それなら顔が似てないのも理由がつくし、簡単に話が作れると思いますよ!」
旭の意見に御影は案外納得して、その設定で行くことに決める。
「……そうだな……。それで行きましょう。では、犬飼さんは弟で、犬飼さんが人生経験としてキャバクラに来た……って事にしましょう」
「了解です!はぁ〜緊張する〜!」
旭は緊張すると言いつつ、ワクワクしてる様子で体を揺らす。それを見た御影は苦笑いする。
――店に入る前に設定を固め、身だしなみを整える。そして店が開店する時間になり、御影と旭は車から降りる――
「よし……店に入りましょう」
「行きますか〜!」
「くれぐれも慎重に頼みます。あと、設定を忘れずに……」
御影は旭に、念入りに言い聞かせる。
「了解です!」
そうして二人は、望月綾華が働いているであろうキャバクラに入店する。扉を開けると、フロントにいるスタッフが二人に話しかける。
「いらっしゃいませ。……お二人様ですね、本日が始めてのご利用でしょうか?」
「そうです、初めてで……」
御影は刑事時代に捜査でしか来たことがないキャバクラに、客として初めて足を踏み入れた。
落ち着かなさに、キョロキョロと視線が散る。
「かしこまりました。では本日はお楽しみ頂けるよう、尽力いたしますね。ご指名などはございますか?こちらキャストの大まかなプロフィールをご覧になってお選びください」
御影と旭はそのキャスト表に目を通す。
そして見つけた。望月綾華の顔と一致する人物。
「……じゃあ、この子で」
「かしこまりました。では、お席にご案内します」
スタッフに案内され、店内に入る。
店内は眩いライトの明かりと鼻を突く香水の匂い。他の客はキャストとの話に夢中になっているその笑い声。
御影と旭は初めての光景に圧倒される。
旭は顔を顰める。
「……すっげぇ……けど、ちょっと匂いキツ……」
「そうだな……だが少しの我慢だ……」
「では、こちらでお待ちください」
そう言ってスタッフは、その場を後にした。言われるがまま二人が席で待っていると、奥から女性がこちらに向かってくる。
「はじめまして、AYAです、本日はよろしくお願いします」
ニコッと微笑みかける華やかで美しい彼女は紛れもなく、望月綾華だった。
――次回へ続く――




