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真実と旅をしよう。  作者: 暁狐うきょう
4章 刻印

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差し伸べた手

 ――深夜一時頃、今村恵は千鳥海岸遊歩道デッキに着いた。今村はゆっくりと海の方に近づき、遠くに光る街明かりを見つめる――


「夜でもちょっと暖かいな〜……まだかな……さくらちゃん……明莉ちゃん……。無事かな」


 今村はその場にしゃがみ込み、寂しげにそう呟いた。


「こんな事になるなら……あんな所で、バイトするんじゃなかった……。お母さん、お父さん……心配してるだろうな……。会いたいな」


 すると背後から足音が聞こえて来る。そしてその足音がこちらに向かってくるのが気づいた。

 今村は二人が会いに来たのかと嬉しそうに振り返る。だが、そこにはスーツを着た男が一人立っていた。


「……だ、誰……!?」


「やっと見つけた。面倒かけさせんなガキ」


「二人は何処……!何でここに……!」


「……はいは〜い、大人しくしましょうね」


「……い、いや……!やめて……!来ないで……!」


 ――その頃、御影は千鳥海岸遊歩道デッキの近くに車を止め、今村たちが居そうな場所を探す――


「黒い車……」


 すると道路脇に一台の黒い車が止められていて、中に一人いる。だが、中の人物はこちらに気がついていない。

 御影はそのまま気づかれないよう、慎重にその場を後にした。

 デッキを見渡すと暗がりの中、男女二人が揉み合っているのが見えた。


「やめろ!!!」


 それを見つけた御影は大声を出し、すぐに走り出した。

 その男女をよく見ると女性の方は、探していた今村恵だった。だが、今村はぐったりしていて力が入っていない様だった。


「恵さん……!」


 御影は急いで彼女にかけて寄る。だがその瞬間、男は今村を海へと投げ飛ばした。

 それを見た御影は、躊躇無く海へと飛び込んだ。


「ハァ……!……おい!恵さん!大丈夫か!」


 御影は今村を抱き上げ、頬を軽く叩き意識を確認する。 今村は、脈はあるが気を失っている。


「良かった……脈はある」


 御影が今村の脈を確認し、少し安心する。

 だが、安心したのもつかの間、男はおもむろに銃を取り出し、御影に銃口を向けた。


「邪魔してんじゃねぇ……。お前……そいつとはどんな関係だ?何でこの場所が分かった?」


「……言う訳ないだろ……!」


 御影はギュッと今村を守るように抱き寄せた。

 それを見た男は、大きくため息をつく。

 

「……命知らずだな〜……。じゃあ、誰か知らんがお前もそのガキと一緒に死ね」


 男はそう言うと、引き金にかけた指に力を入れた。

 御影はそれを見て死を覚悟し、目を閉じた瞬間……大きな銃声が響き渡る。

 撃たれたのかと思ったが、御影は痛みを感じ無い。疑問と驚きでそっと目を開ける。

 すると先程まで目の前にいた男が、消えていた。


「グッ!痛ってぇ!」


 目線を声のする方へ移すと、男は腹部を押さえ蹲っていた。すると別の足音が、御影の目の前で止まった。


「間に合いました」


 御影は聞き覚えある声に気がつき、見上げるとフードが風に揺れ、その顔が見えた。


「旭……!」


 御影を窮地から救ったのは紛れもない、旭だった。

 すると旭は御影を横目で見て、無事を確認する。

 

「……そこで少し待っていて下さい」


「え……あぁ……」


 御影は突然の出来事に、脳の処理が追いつかない。

 そして、目の前に居るのは紛れもない旭だが、普段とは違う雰囲気。だが今は、旭の言われた通りその場で待つことにした。


「……クッソォ!次から次に……!」


 男は懲りることなく、銃を旭に向ける。

 旭は男に素早く近づき、男の腕を掴み上げたその瞬間、男が持っていた銃が発砲した。


「クソ……!」


 そして旭は、男の顎目掛けて膝で蹴り上げた。


「グハッ……!」


 男はその衝撃により、白目を向き気絶した。

 すると奥からこの男の仲間と思われる男が現れ、旭に向かって銃を向け発砲。

 だが、旭はそれを避け走り出した。


「く、来るんじゃねぇ……!」


 男は銃を連射するが、旭には当たらない。そして旭は、男の肩を撃ち抜いた。


「グッ!」


 撃たれた男は声を漏らし膝をついた。そして、その男を旭が取り押さえ、呟く。


「……制圧完了」


 御影は、その光景を見て唖然としていた。すると、さらに三人が現れた。その三人は旭に近づき、労いの言葉をかける。


「お疲れ様〜!しゅーくん!」


「お疲れさん」

  

「さすがだな、神代。」


「……後は任せてもよろしいでしょうか」


「あぁ、任せろ」


「任せんしゃい!ほら、二人を引き上げて来て」


「はい」


 そう言うと後は三人に任せ、旭は御影の元に戻る。


「間に合って……良かった」


 旭はしゃがみ、御影にそう声をかけた。

 暗くて表情が読み取れないが、その声色から安堵しているように思えた。


「……この子を先に頼む。脈が落ちてる」


 御影は抱えていた今村を先に上がらせる。旭は今村を持ち上げ、床に横たわらせた。

 そして、後から来た八乙女に今村を診て貰う。

 

「八乙女さん、お願いします」


「はいよ」


 八乙女は応急処置を始める。体を温め、水を飲み込んでいないかを確認した。今村は命に別状はないようだ。


「よし……後はこっちでやっとく。神代は探偵ちゃん引き上げてやんな」


 そう言うと八乙女は今村を抱え、その場を去った。

 そして御影は旭が差し伸べた手を握り、ゆっくりと海から上がった。


「……はぁ……流石に寒いな……。……助かった……ありがとう……。それで……旭……」


 御影が話しかける前に旭は、無言で上着を脱ぎ、御影に羽織らせた。

 それに驚き御影は旭の顔を見つめる。

 

「……話は……僕の家でしましょう」


「……わ、分かった。……あいつらは……どうするんだ」


 御影は、不安そうに撃たれた男二人の方を見る。


「こっちで処理します」


「……処理」


 その言葉に御影は察する。やはり旭は公安警察であるということを。


「行きましょう」


「あぁ……」

 

 旭は御影の背中に手を置き、ゆっくりと歩み出した。

 そして、御影の自家用車の助手席に御影を乗せる。


「運転は僕がします」


「そ、そうか……」


 御影は先程から旭の敬語での対応に慣れない様子。


「な、なぁ……何で敬語なんだよ……。お前が敬語なんて違和感でしかない」


「……すみませんが、これが僕ですので」


「なんだそれ……」


 ――そんな違和感を抱えたまま、御影は旭の運転する車に揺られる。約四十分、着いた先は旭の自宅だった――


「どうぞ」


「お、お邪魔します……」


 御影は初めて旭の家の中に案内された。

 ソワソワとした様子で、御影は部屋を見渡す。部屋には無駄な物が一切ない。椅子やテーブル、調理器具などの必要最低限の物しか置いていないようだ。


「お風呂、沸かして来ます。座っていてください」


「あぁ……」


 そう言うと旭は風呂を沸かしに行き、戻ってくるとコーヒーを入れにキッチンへ。

 その間、御影はダイニングの椅子に座り、頭を整理していた。

 そして旭はキッチンに立つと、コーヒー豆を挽き、お湯を注ぐ。本格的なコーヒーだ。漂ってくるコーヒーの香ばしい匂いが、御影の心を少しだけ落ち着かせた。

 そして出来上がった温かいコーヒーを御影の前に置いた旭。


「どうぞ」


「ありがとう……」


 御影は、旭の入れた温かいコーヒーを飲んだ。冷えた体に温かいコーヒーが沁みる。


「……美味いな」


「……それは良かったです」


 そう言い少し顔を緩めた旭は、以前の旭の面影があった。それを見た御影は、先程の出来事について聞く。


「……なぁ、旭」


「……はい」


「……何でお前は、あの場に来たんだ」


 旭は少しの沈黙の後、御影の問いかけに答える。

 

「……それは、貴方と同じです。被害者の救出のためです」


「……お前は……知ってるのか……行方不明になった子達の事とか……あの旅館について」


「……はい、全て知っていました」


 旭の言葉に驚いた御影は、持っていたコーヒーカップを置いた。


「……!……じゃあ、今村恵さん以外の行方不明者のはどこに居る……!」


「……大塚明莉は先程、襲ってきた男達の仲間に監禁されていたの保護しました。ですが……西川さくらは……二十二時三十六分。水死体で発見されました」

 

 旭のその言葉に御影は驚きのあまり、椅子から勢い良く立ち上がった。

 

「西川さくらは自殺として判断されました。ですが、我々が確認したところ……何者かに殺されていたことが分かりました。注射痕の様なものがありましたから、おそらく……薬物かと」


 その言葉聞いた瞬間、目の前がグラッと歪んだ。

 またしても、被害者を守る事が出来なかった。悔しさと悲しさが込み上げる。手の震えが収まらない。

 その様子を見た旭は、少し表情を暗くさせる。


「貴方が悔やむ事ではありません。対応が遅れた我々の責任」


 その言葉を聞いた御影は、旭に問いかける。

 

「……。お前……公安警察なんだろ」


「……はい。我々は警察内でも知るものはほとんど居ない、極秘の組織です」

  

「……何でだ……何故俺と今まで一緒にいた?」


「……それは」


 旭が答えようとするが、御影が畳み掛ける様に言葉を並べる。

 

「俺を監視するためか……?あの時、公安であるお前を撃ったのは俺だ。俺を監視して、いざって時に脅しをかけるつもりだったんだろ」


「違う……!」

  

「じゃあ、何故だ!応えろよ……!」


 旭は一呼吸置き、興奮気味にまくし立てる御影を諭す。

  

「……一度、落ち着いてください。この話は、お風呂を上がってから話しましょう」


「……分かった」


 海水臭い体ではまともに話を聞けそうにない。ここは素直に風呂に浸かることにした御影は、脱衣場に向かった。

 

 そして十五分後、御影は風呂から上がった。そして着替えようと、脱衣場に用意されていた服を持ち上げる。


「……服……デカ」


 その服のサイズを見て驚くが、仕方なくその服に着替えた。そして髪を乾かした後、部屋に戻る。


「……おかえりなさい。やはり服を取ってきてから、こちらに来るべきでしたね」


「……いや、別にいい」


「……そうですか……じゃあ、こちらに来ていただけますか」


 すると旭は椅子から立ち上がり、本棚で振り向く。


「……何で本棚……?」


 御影が本棚に近づくと旭は本棚の本を動かし、次に本棚自体を動かし始めた。すると本棚があった場所の裏には、地下に続く階段があった。

 それを見た御影は言葉を失う。


「なんだこれ……」


「……こちらへ」


 御影は旭の案内で階段を降りる。そして、階段を降りた先に扉が現れた。旭は指紋認証とパスワードを入力し、扉のロックを解除した。


「……さぁ、どうぞ」


旭が地下室の扉を開き、御影は言われるがままその部屋に入った。

 その部屋を見渡すと部屋の壁には、大量の写真やメモが貼られていた。写真をよく見ると政治家など権力者の人達の写真だった。

 メモ書きにはそれぞれの関係性などが書かれていた。御影はその写真らを見て目を丸くした。

 

「……これは」


「……これは……国民の敵」


「……国民の……敵」


「まぁ……このことは、後で話しましょう。まずは……」


 御影は旭が何を言い出すのか身構えた。


「……僕の身分は知っていますよね」


「あぁ……加賀美さんから聞いた」


「……加賀美警視総監ですか。……知っての通り、僕らは元警察庁長官……犬飼光崇(いぬかいみつたか)直轄の部隊。公安特殊捜査制圧部隊、通称ACTORSの神代朱稟。この名前は偽名であり、偽の戸籍もあります。本名は犬飼旭。犬飼光崇の……息子です」


 御影は旭の話を聞いて、一気に鳥肌が立つ。

 薄々気がついていた。旭が犬飼家の人間ではないかということを。だが、いざ目の前で言われると複雑な感情が芽生える。

 

「……そうか……何となく……分かってた」


「……流石ですね。それでは、本題に入りましょう。約五年前のス(・)ク(・)ラ(・)ン(・)ブ(・)ル(・)交(・)差(・)点(・)爆(・)破(・)テ(・)ロ(・)事(・)件(・)について」


 御影はその言葉で全身に力が入る。

 旭から語られる真実。それは御影の知っているものと、どれほど違うものなのか。御影は旭の言葉をひとつも聞き逃さないために、真剣な眼差しを旭に向ける。


――次回へ続く――

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