正体
――来栖との調査の翌日。御影は他に手がかりが無いか、情報を探っているとスマホが鳴った――
「誰だ……」
御影はスマホを手に取ると、少し警戒しながら電話に出た。
「はい……もしもし……。馬酔木です」
「お、出てくれたか。加賀美だ」
「か、加賀美さん……!?」
電話の相手は、まさかの加賀美警視総監だった。何故電話番号を持っているのか、直接電話をかけてきたのか不思議だった。
「ど、どうして……この電話番号を……」
「あぁ、来栖から聞いた」
「……あいつ……!……それで、わざわざ警視総監である貴方が、直接連絡をするなんて……私になんの御用でしょうか……」
「あぁ……ちょっと調べたんだよ」
「……?……何について……?」
「ほら、お前のところの助手してた奴。犬飼旭についてだ」
「……え……?」
御影は加賀美の口から思わぬ人物の名を聞き、息を飲んだ。
「……電話じゃあれだ。個室の店を予約してある。赤坂の〇〇という店に二十時に来い」
御影はその誘いに少し躊躇していた。
——加賀美さんと二人きりか……。気が引ける……。だが、俺は旭について全然情報が得られていない……。行くべきだろうか……。いや、悩むな……。どんな結果であれあいつの真実を知るべきだ——
「どうする、来れるか?」
「……分かりました。二十時に赤坂の〇〇ですね。行きます」
「分かった……。じゃあ、また後で」
そこで電話が切られた。御影はため息をつきながら、スマホを見つめた。
元上司との一体一の食事なんて初めてで、しかもこの精神状態。あまり乗り気にはなれない。だが、真実を知るためにはやむを得ない。
――二十時になり、御影は加賀美に待ち合わせした店に入店した。その店は、見るからに高級そうな料亭で、足を踏み入れるのに気が引ける。すると店員が現れ、名前を告げると個室に案内される。個室の扉を開けると加賀美が既に座って待っていた――
「加賀美さん……。お久しぶりです」
「あぁ、久しいな。一年振りくらいか?時の流れは早いな」
「ですね……」
気まずさを抱えながら、扉の前で立っていると加賀美は座るよう促す。
「……いつまで突っ立っている。座れ」
「……失礼します……」
御影はゆっくりと座椅子に座った。
すると豪勢な食事が運ばれてきて、御影は驚きのあまり口を開く。
「……あの……加賀美さん……。こんな豪勢な場所に私が居て良いのでしょうか」
「あぁ、当たり前だ。それに私が呼んだんだ。金の事は気にするな。全部奢るぞ」
「……随分と気前がいいですね……」
「警視総監になった身だからな。お前は遠慮するな」
「そうですか……。では……本日、話と言うのは……」
「まずは飯を食おう。本題は食べ終わる頃に話そう」
「……はい」
そう言うと加賀美は豪勢な食事に箸をつける。御影も食事に箸をつけるが、緊張してあまり味が分からない。
そして他愛ない話をしながら、食事を終えた二人。
「あぁ〜!美味かったな」
「……そうですね」
「……では、本題といこうか」
御影はその言葉に、一気に体を強ばらせる。
「……犬飼旭、初めて会ったのは馬酔木と一緒に事情聴取を受けていた時だな。だがその時、私は少し既視感がしたんだ」
「……既視感……?」
「あぁ……。一度、あいつを見た事があった気がしたんだ……。それで思い出した。私がまだ刑事部長だった頃、会った事があった」
加賀美のその発言に御影は驚き、食い気味に聞く。
「……ど、どこで……!」
「……警察庁本部庁舎の長官室前だ」
「な……!なんで……そんな所に……」
――約八年前、刑事部長を務めていた頃の加賀美は、訳あって警察庁に出向いた。その際に長官室が見えるソファーに座って待っていた。すると、異様な雰囲気を纏った男女五人が長官室から出てきたのが見えた——
「本当に……これで良かったんですかね?」
柊は不安気にそう一条に問いかけた。
「今更、引き返す事は出来ない。ただ長官と警備局長の命令を聞くしか出来ない」
一条の言葉に葉月も不本意ながら、納得せざるを得ない。
「ですよね……私達……あの方々に助けられたも同然ですもんね……」
「先が思いやられるわ〜……」
「これが僕らの仕事です……」
愚痴をこぼす八乙女に神代は、そう答えた。
そして五人は、加賀美の横を通り過ぎた。加賀美は無意識に目で追っていた。特にフードを被った長身の男が気になった。
そして今、その男が旭の顔に似ていたことを思い出した。
「あの時見たあいつは、雰囲気が全く違かった。前に馬酔木と一緒に来た時のあいつは、無駄に明るい頭の悪そうな奴だと思った。だが……昔あったあいつは、室内なのにフードを被り、表情一つ変えていなかった。他に数人と長官室を出て来たが、その人達の会話で一言呟いただけだった……。あの時のあいつは……異様な雰囲気だった……」
「やっぱり……旭は……」
御影は加賀美の話を聞いて、点と点が結びつく。旭の正体はおそらく警察の人間であり、前警察庁長官とも面識がある。旭は普通の立場の人間じゃない。
「……それを確信したのは半年くらい前。お前が、関わった事件の後だ」
「半年前……あ、小笠原さんの……」
約半年前。小笠原由綺が武内光に殺されたはずが、小笠原の死因は、急性心筋梗塞として処理された事件。
御影にとって悔いが残った事件。
「あぁ、そうだ。あの事件の後、長官と話をしたんだ。その時、長官が一度席を外した瞬間があってな。チラッと長官のデスクを見ると長官のPCが開きっぱなしになっていた。不用心だなと思いつつも、つい魔が差してしまった私は長官のPCを覗き見したんだ。そしたら、ACTORSと記載されたファイルがあったんだ」
「ACTORS……」
「そのファイルを開くと、私の知らない部隊の情報が入っていた」
「え……?警視総監である、貴方ですら知らない……部隊……?」
「あぁ……|公安特殊捜査制圧部隊という部隊だ」
「……な……なんだそれ……」
見た事も聞いた事もない部隊に御影は混乱する。
そんな中、加賀美は淡々と見た内容を話し始める。
「……メンバーは五人。隊長一条 玄仁、神代 朱稟、柊 蒼吾、葉月 桃佳、八乙女 紫苑……そう記載されていた」
「……なるほど……。で、でも……旭の名前が無いじゃないですか……本当にその部隊にいるんですか……」
「……あぁ、居る。」
御影は加賀美の言葉に硬直した。
すると加賀美は、スマホを取り出しある写真を見せる。
「……神代朱稟……これが旭だ」
御影は驚きのあまり、言葉を失う。
その写真に映されていたのは、紛れもない旭だった。だが、普段の旭とは違った雰囲気。無表情で生気のない瞳。その写真に写っていた旭は、この前最後に会った時と同じ顔をしていた。
「……書類の写真を見て目を疑った。だが、どう見てもあいつだった」
「……あいつは……公安警察だった……のか」
「そうだ……。だが、何をしているのか……誰が管理しているのかも分かっていない」
「そう……ですか……。ですが何故、このことを私に言ったんですか」
「……本来なら話すべきじゃなかったが……来栖から聞いたんだ。お前とあいつが、今大変な状態だってな」
御影はため息をついた。
来栖に話したのは失敗だったかとも思ったが、思わぬ所で旭の情報を得た為、何も言えない。
「そうですか……」
――その後、色々と話をし御影は加賀美と別れ、帰路につく。家に帰る前に買い物をしようと車を降り、歩き始めると、ある人物にすれ違いざまに名前を呼ばれる――
「馬酔木……御影さん」
御影は背後から急に名前を呼ばれ、驚き振り返った。
「……なんで……俺の名前」
そう小さく呟いた御影を見つめ、男は微笑んだ。
「驚かせてすみません」
「貴方は……」
「失礼しました。私は、犬飼 朔夜と申します」
「……犬飼……!」
その男の名に御影は驚きを隠せない。御影の手が少し震える。
「……初めまして、馬酔木御影さん」
「……貴方はもしかして……犬飼光崇さんの……」
御影は朔夜に対して警戒心を高め、恐る恐る問いかけた。
「えぇ、犬飼光崇は私のお父様です」
「そう……ですか。じゃあ、そんな貴方が何故……私に」
「私が言いたい事は……一つだけです」
「……何です」
「……あの子の邪魔はしないで下さいね」
朔夜はそう言いニコッと笑った。
御影が呆気に取られていると、朔夜は停まっていた車に颯爽と行ってしまった。
「あ!お、おい……!……どうゆう……意味だよ……」
引き止めるも虚しく、朔夜は車に乗り込んで去っていった。
「……あの子……え……」
御影はある事が頭を過ぎった。
顔を青くさせた御影は、旭に電話をかけようとするが、手が震えて思う様に体が動かない。そして、消え入りそうな声で呟く。
「……俺は……とんでもない事を……してしまった」
――次回へ続く――




