恩人
――御影は松下と話をした翌日。PCを開いたまま、デスクに突っ伏していた――
「あ〜クソ、行き詰まった……。恵さんは何処に行ったんだ。バイトをしてるであろう時間帯に、不自然な所はない……。明確な行先が分かれば……防犯カメラの映像がギリギリ残ってると思うんだが……」
御影は今村恵の捜索に難航していた。他二人の行方も同時に調査しているが、中々思い通りにいかない。
「……そういえば……白石さんの言っていた噂……。確か、白石さんは先輩である、大塚明莉と知らない男性と腕を組んでいたと言う事を耳にした……。待てよ……行方不明の三人は同じ高校……パパ活……。パパ活相手の男が、何かしらに関わってる可能性がある……」
御影は白石心菜の言葉を思い出し、仮説を立てた。
すると御影のスマホが鳴った。スマホを手に取ると、白石からの電話だった。
「はい、もしもし白石さんですか。どうされました?」
「あ!馬酔木さん、突然電話してすみません!あの、この前言ってた話の事なんですけど……」
「何か分かったんですか?」
「はい、先輩がパパ活してる所を見たって言ってた同級生と話出来ましたので、その報告に」
「丁度良かった、お話聞かせてください」
「はい!同級生は六月二十一日の夜、新宿に遊びに行ったみたいなんです。そこで、知らないおじさんと大塚先輩が、腕を組んでいるのを見たらしいんです。それが大塚先輩を見た最後の姿だったそうです」
「新宿か……。それはどこら辺ですか?」
「西武新宿駅の周辺って言ってました!」
「なるほど……では、そのおじさんの背格好は?」
「確か……身長175cmくらいで、太ってて……スーツを着てたって言ってました」
「スーツか……。仕事終わりに会っているのか……?他に何か手がかりはありますか」
「えっと〜……。あ!その後、二人は黒い車に乗ってどっかに向かったみたいです」
「車……ナンバーは分かりますか?」
「いや〜ナンバーまでは、覚えてないみたいです」
「そうですか……。分かりました、貴重な情報ありがとうございます。また何かあれば連絡ください」
「はい!お力になれて良かったです!」
「ありがとうございました。それでは失礼します」
御影は電話を切り、考察を始める。
「六月二十一日……約三週間前……やはり、今村恵と何か関係が……?場所は新宿……。高校生が行くのは、あまり良くないな。……スーツを着た、太った男性……誰なんだ……そして黒い車に乗って何処かへ向かった……一体何処へ?ナンバーが分かれば、後足が調べられるのに……。来栖に手を貸してもらうか……」
御影は来栖に電話をかける。するとすぐに来栖が、電話に出た。
「もしもし、来栖」
「もしもし、なんか進展あった?」
「それが、お前から頼まれていた西川さくらさんに関しては……あまり進展がない。だが、それに関係する話があってな」
「……ほう、どんな話?」
「実はな……行方不明者の捜索をして欲しいという、依頼が来てな。それと同時に、相談と言う形で同じ様な話もある。それで来栖から頼まれた人物と、その二人の人物は全員、同じ高校の同級生なんだ」
「それは興味深いわね、詳しく」
来栖は興味深そうに、御影の話を聞く。
「依頼で受け、捜索しているのが今村恵さん十七歳。約三週間前に連絡が取れなくなっている。恵さんが行きそうな場所には行ったが、手がかり無し。親には内緒で地下アイドルをやっていたそうだ。もう一人、相談を受けた行方不明者は大塚明莉さん、十七歳。この人も約三週間前から学校に顔を出していなく、連絡もつかない。最後に目撃されたのが西武新宿周辺で、高校の後輩が目撃している。知らない男と腕を組んで歩いているのを見たそうだ。その後、黒い車に乗り込み、その場を離れたようだ。大塚明莉さんはモデルをしていると言う噂がある」
「なるほど……。じゃあ、大塚明莉さんが目撃された周囲の防犯カメラを確認してみるわ」
「あぁ、丁度それを頼みたくてな」
「そうだろうと思った。明日非番だから、行ってくるわ」
「あぁ、恩に着る」
「あ、そうだ!いい事思いついた!」
来栖は急に大きな声を出し、何かを思いついた。御影は不思議そうに問いかける。
「ど、どうした?」
「明日、一緒に捜査しない?」
「はぁ!?なんでまた急に……」
御影は来栖の提案に驚きを隠せなかった。
「いいじゃんいいじゃん!報告の手間も省ける事だし〜ほら、昔みたいに一緒にやろうよ〜!元相棒!」
「はぁ……分かった」
来栖の勢いに押され、明日に来栖と共に調査をする事にした。
「よっしゃ!じゃあ、明日の十時に西武新宿駅で待ち合わせね!」
「はいはい……」
御影は来栖との電話を切った。御影はスマホを見つめ、
昔、来栖と共に捜査をしていた頃を思い出していた。
「捜査か……。何年振りだろうか。まぁ、久しぶりに来栖と仕事するのも悪くないか」
気を取り直し、PCに向かい現在の手に入れた情報をまとめる。すると、あるニュースが目に入った。
――それは現在の警察庁長官、犬飼 光崇が定年を迎え、警察庁長官を退任したというニュースだ――
犬飼は長官就任後、最近増えている闇バイトについての対策を行い、闇バイトの本拠地を摘発に成功したなどの功績を残した人物。
そして、そのニュースで犬飼はスクランブル交差点爆発テロ事件に関しても言及していた。
「スクランブル交差点爆破テロ事件は、近年で最も凶悪な事件でした。犯人は捕まりましたが、模倣犯が現れる可能性が無いとは言えません。私は警察庁長官という立場では無くなっても、影ながら様々な対策を提示していきたいと考えています。我々警察は国民の皆様が安心して暮らせるように、この国をこれからも守っていくことを誓います」
そのニュースを見て、懐かしさを感じていた。
「……光崇さんも定年か……。本当に光崇さんは……凄い方だ」
御影は犬飼に尊敬の念を抱いていた。
御影は幼い頃、犬飼光崇によって助けられた。御影が幼い頃、家に謎の男が侵入し、母親が副部を刺され死亡した。御影も犯人に襲われそうになった瞬間、犬飼を含めた警察官数名が現れ、犯人は逮捕された。
その後、御影は施設で暮らす事になったが、犬飼は施設にも毎週のように顔を出し、勉強を教えていた。
そんな犬飼に憧れ、御影は犬飼の様な多くの人を救える警察官になるという夢を抱いた。
犬飼は御影が高校を卒業するまでの学費を出してくれていた。感謝してもしきれない。
そして時が経ち、御影が警察官になり捜査一課に配属になった時、犬飼に会う機会があった。犬飼は久々にあった御影に対して、昔と変わらず優しく接した。
御影にとって、犬飼は一番の恩人とも言える存在だ。
「刑事を辞めてから……一度も会っていないな……。はぁ……俺は貴方に憧れて警察官になったのに。今、会ったら……幻滅されるだろうか……。会わせる顔が無いな」
御影は寂しいさや申し訳なさなど複雑な心境で、PCの画面を見つめていた。そしてニュース記事を見つめていると、あることを思い出す。
「……犬飼」
御影は恩人の苗字、犬飼が旭と同じ事に何か引っかかった。元々、気がついてはいたが、今になって妙に変に気にしてしまう。
「まさかな……。犬飼なんて苗字……いくらでもいる。でも……もしそうなら……あいつは……」
御影はそんな仮説を立てたが、信じたくは無い。
――犬飼家。それはこの国で、最も権力を持った名家。犬飼光崇は警察庁長官、他の親族には警察関係者だけでなく、内閣総理大臣や政治家が大勢いる。もし旭が、その犬飼家の人物なら何故、その身分を隠し御影の探偵事務所に居たのだろうか――
――次回へ続く――




