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真実と旅をしよう。  作者: 暁狐うきょう
4章 刻印

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死に損ない

 ――あれから三日後の夜。御影は来栖と飲みに来ていた――


「あんたから飲みに誘ってくるのって……多分、初じゃね?」


「……そうだな」


「まぁ、今まで二人でってのは、珍しいかったもんね〜あんたが刑事時代は、日和ちゃん居たし。この前が、超久々に一緒に飲んだよね〜。……で、話って何?何でそんな暗い顔してんの。何かあった?」


 御影は暗い顔をして、来栖とは目を合わせず黙っていた。


「……もぉ……何も言わなかったら、分かんないでしょ」


 来栖は黙って俯く御影を見て、痺れを切らしてそう言った。

 そして、しばし黙っていたが、御影はゆっくりと口を開き小さな声で呟く。


「……見つけたんだ」

 

「……え?なんて?」


 来栖は御影の声があまりにも小さく、身を乗り出して耳に手を当て、もう一度聞いた。

 

「見つけたんだよ……犯人……」


「犯人……?何の?」


「あの時の……犯人だ……」


「あの時……?……え?……もしかして……!」


「あぁ、そうだ……。爆破テロ事件の犯人……。俺が撃った男」


「え!?マジで!?あ、だから今日、個室なのね〜……。どんなやつ?」


 テンションの高い来栖を横目に御影は、またしても黙ってしまった。その反応を不思議に思った来栖は問いかける。

 

「え?何で黙るのよ……。何で嬉しくないの?あんた、その為に探偵になったんでしょ?」


 来栖は御影の顔を覗き込んだ。御影は唇を噛み締める。


「……犯人……あいつ……だった」


「……あいつ?誰よそれ?」


「……そこは察しが悪いのか……」


「何よ急に嫌味?……で、誰よあいつって?」

  

「……あ……旭だ」


 御影は絞り出すように旭の名を口にする。

 その名前を聞いた来栖は、混乱のあまり硬直した。

 そして、ようやく頭が理解した。持っていたジョッキをそっと置いた。

 

「……本当に……本当に旭くんなの……?証拠は……?」


 御影は言葉を詰まらせながらも、この前あった出来事を来栖に話し始める。

  

「……三日前、雨が降った日……俺は……あいつに留守番を任せてた……。それで……俺は忘れ物をした事に気づいて……事務所に戻った……。そしたら……あいつ……着替えしててさ……。あいつの体……傷だらけだった……。打撲跡、切り傷、刺し傷……そして……銃痕……」


「銃痕……」


「俺は最初、目を疑った……。そうであって欲しくなかった……。でも、あいつは……その銃痕を否定しなかった……」


「……そう」

 

「それで、お前が犯人だったのかって言った後……あいつ何て俺に言ったと思う……?もしそうなら、僕(・)を殺してくれるって聞いたんだ。……意味が分からない……。あいつは俺に殺してもらう為に一緒に居たのか……?どういう意図で言ったのか……俺には……あいつの心が分からない。あいつの表情、声色……どれを見ても心が読めなかった……。まるで感情が無いみたいだった……。人形みたいな顔してた……。何で俺は……あいつを……信じてしまったのか……どうして、こんなにも怪しい男を……」


 御影はずっと頭を抱え、俯きながら話をしていた。

 すると話を聞いていた来栖は、以前から不思議に思っていた事を御影に問いかける。

  

「……人間嫌いなあんたが、誰かと居るなんて……日和ちゃん以外に見た事なかった。本当に何で、あんた……旭くんと一緒に居たの?」


 来栖の問に御影は少し考えたが、答えを見いだせなかった。


「……何でだろ……。分からない……。何で……あいつと一緒に居たんだろ……。出会って、一年くらいのやつを……なんで」


「……何か波長があったとか?馬酔木と旭くん、何かしらあるのかも?」


「……アバウトだな」


「……それで……旭くんが犯人って分かった今、どうするの……?」


「……あいつを徹底的に調べ上げる。あいつの行動、発言全て見逃さない様にする。……あと……探偵はもう辞める」


「え?辞めんの?」


「……あぁ。元はと言えば、俺はあの時の犯人を探す為に探偵事務所を立ち上げた。目的が果たせたんだ……もう、やる必要ない。全て終わらせる。あいつを殺して……俺も死ぬ……。じゃあ、もう行く」


 そう言うと御影は立ち上がり、個室を出ようとした。

 それに驚いた来栖は勢いよく立ち上がり、御影の腕を掴み制止する。

 

「は?ちょっと待ちなさい……!」


「何だよ……」


 御影は振り返らずに足を止めた。

 

「人呼んでおいて、先に帰る気?」


 御影はただ黙って、立ち尽くす。

 そんな御影の様子に来栖は、感情が溢れ出す。

  

「……あんたが死んで……日和ちゃんが喜ぶと思う?」


 御影は来栖のその言葉で、心に何かが突き刺さった。

 そして来栖は、続けて話し始める。

 

「日和ちゃんは、きっと……あんたがちゃんと天寿を全うしてから、来て欲しいって思ってる……。あんたがやろうとしてるのは……ただのエゴ」


「……そうだな……俺はエゴの塊だ……。本当ならあの時……日和じゃなくて……俺が、死ねば良かったんだ……。俺は生きていていい人間じゃない」


 御影は今にも消え入りそうな声でそう呟いた。

 すると来栖は御影の言葉を否定する。

  

「私は……そうは思わない」


「……どうして」


「あんたはあの時、生かされたんだよ。それって何か意味があるんじゃないの?……あんたにしか出来ない事……あんたを力を求めてる人が、きっと居る」


「そんなの……ある訳ない……。俺を求めている人間なんてこの世にもう居ない……!俺なんかよりよっぽど、日和の方が優しくて、出来た人間だ……!俺は、日和の代わりに死ぬべきだった……でも死ねなかった……!俺が今生きてるのは、ただの偶然。俺は……死に損ないだ」


「……あんたが今生きてるのにはきっと意味がある」


「意味なんてない……」


 そう呟く御影の胸ぐらを来栖は思いっきり掴んだ。

 その行動に御影は、驚き唖然とする。

 よく見ると胸ぐらを掴んでいる来栖は、静かに肩を震わせていた。


「……来栖……?」


「お願い……あんたまで……居なくならないでよ……」


 そう呟いた来栖の目には、涙が溢れていた。

 来栖の握る力が、ギュッと強くなる。それと同時に御影の心も握り締められる様に痛む。


「……馬酔木……あんたまで居なくなったら、私の傍に誰も居なくなるじゃない……私を……置いていかないでよ」


 来栖は絞り出すようにそう呟いた。そして御影の胸に、コツンと頭をつけた。

 御影は目を逸らし、ただ黙っていることしか出来なかった。


「……馨(かおる)も何処にいるのか分からない……生きてるのかさえも分からない……私の前から……大切な人が消えてくのは……もう嫌なの」


 その言葉に御影の決心が揺らぐ。来栖を置いて行くことに気が引けた。

 来栖が口にした馨という人物は、来栖の幼なじみで御影とは警察学校で同期だった皆見 馨(みなみ かおる)という男。警察学校を卒業後、御影との交番勤務をしていたが、ある日忽然と姿を消した。幼なじみである、来栖にすら連絡を一切せずに。

 皆見が姿を消して約十年。来栖は、ずっと皆見のことを探している。それは御影も同じだ。だからこそ、来栖の言葉が重くのしかかった。

 

「皆見は……きっと何処かで生きてる」


「……それなら何で……連絡くれないのよ……会いに来てくれないの……」


「あいつにも事情があるんだろう……だから……」


「だから……?……馨が生きていたからってあんたが、死んでいいなんて言ってない!」


 御影の言葉を遮るように、来栖は叫んだ。


「……私は……また、あの時みたいに……三人で一緒に笑いたいの……だから……誰も欠けて欲しくないの」


「……来栖……お前の気持ちも分かる……だが、俺は……やらなきゃいけない。俺は……その為に生きているんだ。俺は復讐の為だけに、今を生きてる様なものだ。他に何もない……俺を必要な人間なんて……居ない」


「……そんなこと……言わないでよ……。じゃあさ……私があんたを必要とする」


「……は?」


 御影は来栖のその言葉に驚きを隠せない。


「私が……!あんたにしか出来ない仕事あげる!」


 来栖は御影の目を真っ直ぐに見つめながら、そう言い放った。

 

――次回へ続く――

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