切れ端
――八月十六日、御影と旭はあまり手がかりを見つけられないまま、小笠原にPCを返す日になってしまった――
「旭、小笠原さんにPC返しに行ってくれないか?」
「了解!あれ、みかちゃんは?」
「俺は今日この後、来栖と会う約束をしている」
「そっか、分かった。俺が返しに行ってくるよ」
「あぁ、頼んだ」
「は〜い!行ってきマース!」
旭はPCを持ち、事務所を後にした。
旭は一度自宅へ戻った後、服を着替えタクシーに乗り込んだ。そして向かったのは小笠原の自宅ではなく、別の場所。
その道中、誰かに電話をかけていた。車窓に反射するその顔は、普段の旭とは違っていた。
そして旭はある場所に到着し、裏口から入ると地下へと続くエレベーターに乗り込んだ。そしてエレベーターが地下に着き、扉を開いた。パスワード、生体認証、カードキーという厳重なセキュリティの扉を開け、部屋に入る。そこには四人の男女が居た。
「お!来た来た〜!待ってたよ、神代」
椅子に座って居た女性がくるっと椅子ごと振り返った。今日は、桃色の髪を後ろにひとつに結んでいる彼女は、葉月だ。
「久しぶりだな、神代。元気だったか」
体格のいい大柄の男性も挨拶をした。
「あ!|しゅーくんだ〜!おひさ!」
奥から天然パーマの男性が近づいて来て、神代の肩に手を置き挨拶した。
「……相変わらず、死んだ魚の様な目してるわね」
部屋の奥に座っている白衣を着た女性が、液体の入った試験管を揺らしながら、横目で神代を見ながらそう言った。
「お久しぶりです……。すみません、突然来てしまって」
「いやいや〜!いつでも顔出して良いんだよ〜!あ、でもあの人に会うかもしれないか……」
「あぁ……。また動き出したからな……。葉月、頼みがある」
「何〜?」
「このPCの中身を復元して欲しい。ハッカーなら、出来るだろ」
「お易い御用!」
葉月はニコッと笑い、神代から小笠原千遥のPCを受け取った。すると、天然パーマの男が手に何かを持って、神代に話しかけてきた。
「あ!そうだ!しゅーくん、待ってる間に僕が新しく作った爆弾、見てよ!」
「相変わらず、爆弾マニアですね……柊さん」
「へへ〜褒めても爆弾くらいしか出ないよ?」
天然パーマの男は柊。爆弾を手にニコニコしている、だいぶ変わった男。
「物騒なんだから……。ちょっと待ってて神代、すぐに復元して渡すから」
葉月は早速作業に取り掛かる。その間、神代はその場で待たせてもらうことにした。
すると大柄の男性が、心配そうに神代に近づいてきた。
「神代……ちゃんと食ってるのか?あの時の傷は、痛まないか?」
「一条さん……ご心配、ありがとうございます……大丈夫です」
「そうか……」
大柄で初対面の人間には怖がられそうな見た目の男は、一条と言う。神代のことを心配しているようだった。
すると白衣を着た女性が、神代に近づいてきた。
「神代〜……本当に大丈夫なのか?顔死にすぎじゃない。元気の出る八乙女さん特性のスパーメディスン飲めよ」
「……いえ……。遠慮します。八乙女さん……毒ばかり作っているので、それも毒だと思えて無理です」
白衣を着た女性は、八乙女。彼女が謎の液体が入った試験管を差し出してきたが、神代はそれを優しく押し返した。
「何言ってんだ。毒は適切な分量だと薬になるんだ」
「知ってます……」
――その頃、御影は来栖が事務所に再び足を運び、話し合いしていた――
「……こっちはあまり収穫が無かった……。そっちは色々持ってきたみたいだな」
「えぇ、これで確定した。まぁ、まずあんたに見てもらう必要があるわね」
来栖はPCを取り出し、防犯カメラの映像を再生する。
その映像には、前回に切り取られていた部分が映っていた。その部分は、配達員が小笠原千遥の自宅の鍵を開ける瞬間が映っていた。
「マジか……」
「これで分かった。小笠原さんはもうこの時点で亡くなっている。そして、小笠原さんの自宅の鍵をこの配達員が持っているのは、何故か……それはね……」
来栖がバッグからある写真を取り出した。
「これは、映像解析してもらって……配達員の一人の顔が武内と一致」
「武内はこの事を隠したくて、管理人を脅したのか……」
「あと六月三十日の映像、これも切り取られていた部分に小笠原さんが出掛ける様子が映っていた」
「やっぱり、死亡推定日が間違ってるな……。千遥さんは……この時まで生きていた……」
「えぇ……。それともう一つ映像があるの」
来栖は別の防犯カメラ映像を再生した。
それは武内の自宅から少し離れた場所にある、防犯カメラの映像だった。
「六月三十日九時四十八分、武内は車で自宅に戻ってきた。その助手席に小笠原さんらしき人が乗ってた。さっきの映像と着衣が一致してる」
「なるほど……これだけ証拠が集まれば……!」
「……まずは、家宅捜索からね……。小笠原さんや他の被害者の物が色々出てくるかもしれない……」
「そうだな。……武内は……どうしてこんな事したんだろうな……」
「……さぁ?」
武内が、小笠原千遥を殺した犯人でほぼ間違いないだろう。だが何故そんなことしたのか、動機が不明だ。
すると御影は、ふとある事が気になった。
「どうして……千遥さんだけ、自宅だったんだ……」
「……え?」
「……だって他の被害者達は皆、公園などの屋外で見つかってるだろ?……なのに何故、千遥さんだけは……自宅で発見されたんだ?」
「……う〜ん……。分からん……」
「他の被害者達と千遥さんの違いは……」
「えっと……。自殺願望があるか、無いか……?武内は……被害者に気持ちを和らげるために話しかけたって確か言ってたけど……」
「でも、千遥さんとのDMでは、そんな暗い話は一切無かった。むしろ、ただの友達のように会話をしてた……。それで自宅に誘い……殺害……。もしかしたら……本来の目的は小笠原千遥の殺害……」
「……有り得るわね」
「……千遥さんの最後の記事に何かある」
――その一方、葉月が小笠原千遥のPCで、消去されていた資料と記事を復元することに成功した――
「……あった」
「本当か」
神代は葉月のPCモニターに映った物を見た。そして他三人も集まり、モニターを見た。だがそれを見た全員、顔を顰めた。
――小笠原千遥が最後に書いた記事には、この様に書かれていた。神奈川県警が、三ヶ月前に暴力団から押収した銃五丁等、押収品が計十五個の行方が不明。さらに同時に押収した不当な資金三億円も消える。警察内部の人物が持ち出したと考えられる――
「これを隠したかったのか……」
「そうみたいね……」
「……止めなければ……今度こそは……。このデータくれないか」
「分かった。USBに入れて渡すね」
「あぁ、恩に着る。また何かあったら、手を借りるかもしれない。……その時は頼む」
「水臭いな〜……前にも言ったでしょ?私達は君の味方をするって」
「……あぁ」
「はい、USB。……絶対に見つからないようにね……」
「……分かっている」
神代は葉月から極秘データの入った、USBメモリを受け取った。
すると神代は御影からのメールに気がついた。メールを開くと、そこには小笠原千遥を殺した犯人が、武内であることが確定したと書かれていた。
それを見た神代は、拳を握る。そして皆がいる方に振り向き、真剣な眼差しで言う。
「すみませんが早速……皆さんの力を借ります」
その言葉を聞いた全員が、神代と目を合わせ頷いた。
――その場を後にした旭は、小笠原由綺の自宅に向かった。到着しインターホンを鳴らす。すると小笠原が出てきた――
「こんにちは〜お姉さんのPC返しに来ました」
「……わざわざ、ありがとうございます」
旭は小笠原の顔色が前会った時より、暗くなっていることに気がついた。
「……小笠原さん、大丈夫ですか?ちゃんと寝れてますか?」
「えぇ……まぁ……」
「……あ、そういえば犯人特定出来ましたよ」
「……そうですか」
明らかに小笠原の反応がおかしい。以前の彼女なら、犯人が見つかったら嬉しく思うはず。なのに小笠原は先程と変わらない表情で、そう呟いただけだった。
旭はその反応を不思議に思い、問いかける。
「……嬉しくはないんですか?」
「……いえ、そうゆう訳ではありません……。もういいですか……。私、少し用事があるので」
そう言うと小笠原は玄関のドアを閉じてしまった。
その反応に困惑した旭は、その場に立ち尽くしてしまった。
――次回へ続く――




