保証する
――八月一日の早朝、小笠原はPCを持って事務所を訪れた――
「ありがとうございます。お預かりします」
御影は小笠原からPCを受け取った。
「はい、お願いします。私はこの後、仕事なので失礼します」
「お忙しい中、ありがとうございます」
「いえ……。失礼します……」
小笠原は少し元気が無い様子で、慌ただしく事務所を後にした。
「小笠原さん、大丈夫だろうか……」
「確かに元気なさそうだったね……」
「あぁ……。まぁ、とりあえずPCの中を確認しよう」
「そうだね」
御影はテーブルにPCを置き、起動させる。そして、小笠原から聞いたパスワードを入力し、開くことが出来た。
「……掲示板サイトは……これか」
御影は掲示板サイトを開き、内容を確認する。すると、小笠原の言ってた通り、千遥と武内のDMがあった。
「あった……」
「お、何て書いてある?」
DMの内容は他愛も無い話だった。
知り合いから貰ったエナジードリンクが美味しいことや武内の家には、サウナがあるから来てみないかと、千遥を誘っているようだった。この二人の関係性は所謂、ネッ友と言うものだったのだろう。
二人の会話の中で、エナジードリンクについて話している部分に御影は、千遥の家のことを思い出す。
「エナジードリンクって……あれか?」
「あ〜カーペットのシミのかな?」
「おそらくな……。あれは武内に貰った物なのか?」
「かもね〜……。へぇ……サウナか……良いな〜俺も入りたいな〜」
旭は書き込みを見て、武内の家にサウナがあることに羨ましがっていた。
「なんだ、サウナ好きなのか?」
「たまに入ると、スッキリするからさ〜!」
「ふーん……」
「え?自分で聞いといて、その反応!?」
御影はあまり興味無さそうに反応した。その反応に少し不貞腐れた旭。
「あ〜はいはい……。で、次だ。千遥さんが作った記事見てくか……」
「へ〜い……」
御影は次に、千遥の作成した記事をまとめてあるファイルをクリックした。すると、大量の資料と記事が出て来た。
「うわ……何だこの量……」
「大量だね〜……」
「……さすがに全部見るのは時間かかるな……。俺のPCにも移してから小笠原さんに返すか……」
「だね〜……」
そう言うと御影は、そのファイルの順番を更新日順に変える。すると、あることに気がついた。
「ん……最近のやつでも日付がだいぶ前だな。半年前だ……」
「あれ、本当だ。どゆこと?消したのかな?」
「……復元……出来るか怪しいな……」
「いつ消されたのにもよるね……。最近だったら、復元出来るかも」
「試すか……」
三十分程、御影は試行錯誤し、記事の復元をしようとしたが上手くいかなかった。
「……あ〜……無理だこれ……」
「無理だったか〜残念……」
「俺、そこまでPCに詳しい訳じゃないからな……」
「俺も〜……」
「だよな……。どうするか……」
「とりあえず、他に手がかりないか見てみよ」
「あぁ、だな……」
――その一方で来栖と慎一郎は、防犯カメラ映像の消去された部分を入手する為、再び小笠原千遥の自宅のマンションに向かっていた――
「また来る羽目になるとは……」
「いいんですかね、勝手に入って……」
「大丈夫、大丈夫〜。あ、すみません。警察です」
来栖はエントランスの窓をコンコンと軽く叩き、そこにいた管理人に話しかけた。眠気眼で管理人は、顔を上げた。
「はい……。あれ……この前の警察の方ですよね。どうされました……?」
「ちょっと防犯カメラの映像に不備を見つけまして……少しお話いいですか」
「は、はい……。こちらからどうぞ……」
「ありがとうございます。失礼します」
「失礼します」
来栖と慎一郎は軽く会釈し、管理室に入った。二人が椅子に座ると、管理人は話を切り出した。
「それで……防犯カメラの映像の不備とは、何でしょうか……?」
「あのですね……。この前頂いたあの映像、切り取らていた部分があったんですよ。……知ってますよね?」
「え……いや、何の事ですか?」
「……六月三十日の十八時二十七分……」
来栖の話を聞いて、管理人は少し肩を震わせた。
「その時間から、すぐ十八時五十二分に時間が飛んでいるんですよ。誰が手を加えたとしか思えないんです」
「わ、私は何も……知りません」
管理人は怯えながら何かを隠している様だった。それに気がつき、来栖はグイッと近づき管理人に質問する。
「本当に?……それとも誰かに脅されて……?」
それでも管理人は口を噤んだ。その様子を見た来栖は、椅子に座り直した。
「管理人さん……私達は警察です。本当に脅されているのなら、私達に頼って下さい。貴方を守ります」
来栖はさっきとは違う優しい声色で話しかけた。それに少し安心したのか、管理人は話し出す。
「すみません……。私が……映像に手を加えました……」
管理人は震えた小さな声で言った。
「そうですか。では、誰にそれを命令されましたか?」
「な、名前は……知りません……。でも、自分をシャイニングしいたけ……って言ってました……。防犯カメラの映像の一部を切り取れと言われました……。もし、従わなかったらお前も殺すと……脅されました……」
武内の言葉、お前もころす。それは、自分の犯行を自白したことになる。
「お前も……」
「それで……言う通り、映像を切り取ったら……五十万円を置いていきました……。口止め料だと……言われました」
「そうだったんですね……。教えてくれて、ありがとうございます」
「……言ってしまった……。これで……ほ、本当に守ってくれますか……!私……殺されませんよね……!?」
管理人は涙を流しながら怯えた様子で、来栖の肩を掴んだ。管理人の手にそっと自分の手を添え、真剣な眼差しで見つめる。
「えぇ……。安心してください。ここら一体の巡回を増やし、貴方を守りますよ」
「ありがとう……ございます……」
管理人は安心し、来栖の肩を掴んでいた手をそっと離した。
「では、元の映像って残っていますか?」
「えぇ、あります。念の為と思って……」
「そちら頂いても?」
「はい、持ってって下さい」
「ありがとうございます」
来栖は管理人から元の映像を貰い、その場を後にした。
マンションを出ると来栖は、体をグイッと伸ばした。
「はぁ〜良かった、元映像があって!」
「そうですね。でも、よくあの人が脅されているって分かりましたね」
「雰囲気が、そんな感じしたんだよ」
「雰囲気……。ざっくりしてますね」
「馬酔木程じゃないけど、長く刑事やってると分かるのよ。あ〜お腹空いた!そこのコンビで何か買ってくるか〜」
「私が買ってきますよ」
「ほんと〜!ありがとね!」
「いえ、何食べます?」
「唐揚げ弁当!」
「ガッツリいきますね、分かりました。ちょっと待っててください」
「よろしく〜!」
慎一郎がコンビニに入っていき、買い物へと向かった。すぐさま来栖は御影に電話をかける。
そして御影のスマホが鳴った。それに気がつき、スマホを手に取った。
「……来栖?」
「来栖さん?どうしたんだろ?」
御影は席を立ち、来栖からの電話に出る。
「もしもし、来栖。どうした」
「もしもし、今さっき防犯カメラ映像の元の映像貰ったよ」
「本当か!良くやったな」
「それでさ、管理人さんが武内に脅されてたらしい。それで本当の事を言えなかったみたい。でも、必ず身の安全を保証するって言ったら教えてくれた」
「なるほど、忙しいのにありがとな」
「いえいえ。また非番の時、そっち映像持ってく」
「あぁ。助かる」
そこで電話を切った。
「……あとは……あそこの防犯カメラね……」
――次回へ続く――




