遺品
――七月二十九日。先日の防犯カメラ映像から、小笠原千遥のPCは妹の小笠原由綺が持ち帰っていたことが判明。その事を聞くため、小笠原を事務所に呼びつけた――
「小笠原……お忙しいところ呼び出してしまって申し訳ありません」
「いえ……大丈夫です。こちらこそ、連絡頂いてからすぐに来られることが出来なくてすみません……。それで……お話って何でしょうか……?」
「はい……今日小笠原さんに来ていただいたのには理由があります……」
「もしかして、犯人捕まったんですか……!」
小笠原は急に明るい声色でそう尋ねた。
「いえ、まだです」
「あ……そうですか……。すみません、早とちりしてしまって……。お話の続きを……」
小笠原は、早とちりをしてしまったことに恥じらうと同時に、犯人がまだ捕まっていないことに残念がっていた。
「はい……小笠原さん……貴方、千遥さんのPC持ってますよね」
御影は重々しい口調でそう尋ねた。その言葉に小笠原は少し動揺している様子。
「え……?ど、どうしてですか……?」
「防犯カメラの映像の七月一日十一時三十九分、貴方は千遥さんのPCを持って何処かに向かいましたね?」
「防犯カメラ……ですか……」
「はい、貴方の手にはPCが抱えられていました。七月九日、私達が千遥さんの自宅をお邪魔した際、私は貴方にPCについてないか知っていないかと聞きました。そして貴方は何も知りませんと答えましたね。私はその時、貴方の反応に少し違和感を感じたんです……。人が嘘をついてる時、一瞬目線を外すんです。それが貴方にあった……。ようやく、その不審点が解けました……。小笠原さん、話してくれませんか?貴方が何を知っているのかを……」
小笠原は御影の話を暗い表情で俯き、ただ黙って聞いていた。そして、ゆっくりと口を開く。
「黙っていて、すみませんでした……私が姉のPCを自宅に持ち帰りました……」
「そうですか……。では何故、それを隠していたんですか?」
「前に相談されてたんです……」
「相談……?」
「はい……。姉が亡くなる前の最後の電話……」
――小笠原千遥が亡くなる数日前の電話での会話――
「もしもし、お姉ちゃん」
「もしもし由綺?久しぶりだね」
「久しぶり、元気してた?」
「元気だよ〜。でも最近忙しくてさ」
「そっか、何かあったの?」
「う〜ん……ちょっとね。私、ちょっと大スクープを掴んだの」
「大スクープ!すごいね!どんなの?」
「ちょっとまだ言えないな〜」
「そっか……残念」
大スクープを掴んだと言った千遥だったが、何故か声色は暗かった。
「でさ〜そのスクープ、私一人で記事まとめてるんだ〜……」
「え?一人で?」
「そうなのよ〜……。でも、ようやっとまとまってきててさ。近々その記事出そうと思ってる」
「すごいね!一人でやるなんて!」
「うん……でもね。この記事、本当に出して良いか分からないんだよね……」
「え?どうゆう事?」
「ちょっと……怖くてさ……」
「……でも、お姉ちゃんが頑張って書いた記事をボツにするの勿体なくない?」
千遥は何かを考えているのが沈黙していた。それを不思議に思った由綺は、問いかける
「お姉ちゃん……?」
「あ、うん!それもそうだね……!」
千遥は由綺の声に反応し、返事をした。だがその反応が由綺は気がかりに感じた。
「こんなに頑張ったんだ……。絶対、世に公開する」
「うん!楽しみにしてる!」
すると千遥は、一呼吸置いた後に重々しい口調で話し始める。
「ねぇ。もし……もしさ、私に何かあったら……由綺……あなたがこの記事を出して欲しいな」
「何かあったらって……そんな不吉な事言わないでよ〜……まぁいいけど」
「ありがとう……約束ね。あ、そうだ!近いうち、会わない?あと……彼氏も連れてっていいかな?由綺にも会って欲しいんだ!」
先程とは打って変わって、明るい口調に戻ったことに由綺は少し安心した。
「お姉ちゃんの彼氏って警察官の人だよね?うわぁ〜会うの緊張するけど楽しみ〜!えっと……私が次休みなのは……七月一日かな?お姉ちゃんは休みいつ?」
「えっとね〜……あ、その日私も休みだ!確か彼氏もその日休みだったと思う!」
「え!ほんと?じゃあ何処か出掛けよう!」
「良いね〜じゃあ最近出来たカフェ行かない?」
「行きた〜い!」
「よし、じゃあそこ行こう!」
「やった〜!じゃあまた連絡するね!」
「は〜い!じゃあまたね!」
——そこで会話は終わった——
「……姉は、自分一人で書いた記事を世に出すか……迷っていたんです」
「……迷っていた」
「それに……姉は自分に何かあったら……私に記事を出して欲しいと言っていました」
「そこまでして……世に出したかった記事……。小笠原さん、お姉様のPCの中……見ましたよね」
「……はい」
「詳しくお聞かせ願いますか」
「話したいのは山々です……でも、姉のその記事は消去されていました……」
御影と旭は、小笠原のその言葉に目を丸くして愕然とした。
「……消去されていたということは、小笠原さんが触れる前に誰かが、PCに触れていた事になりますよね?」
「はい……多分、家に来た警察の人が触っていたので……その時かと……」
「出たな……謎の警察……」
「その時に小笠原さんはPCの中は見ませんでしたか?」
「いえ……パニックで泣きすぎて……全く……」
「そうですか……では、PCの中に気になったものはありましたか?」
「一つあります……。姉のPCの履歴に残されてた……掲示板サイトに姉が書き込みをしていました」
「掲示板サイト……!どんな書き込みを?」
「七月一日、大スクープをここに書き込む。これ見ている人々、真実を見ろ。……そう書かれてました」
「真実を見ろ……か……。その書き込みは……いつ書き込まれました?」
「六月三十日、四時四十四分……です」
「え……?死亡推定時刻は六月二十九日の二十二時から一時頃ですよね……?」
「はい……そうなんです……」
「やっぱり、死亡推定時刻が間違ってる……?それか予約投稿的なことかな……?でも防犯カメラの映像、六月三十日に配達員が千遥さんの家に来てた……。みかちゃんはどう思う?」
旭は御影の方を見ながら、問いかけた。それに御影は頷きながら考え込んだ。
「小笠原さん。他にその掲示板では何が書かれていましたか?」
「書き込み以外に……シャイニングしいたけっていう名前の人とDMでやり取りしていました」
「またそいつか〜……」
「どんなやり取りを?」
「えっと……。一部、送信取り消しされている部分があったんですが、その人と姉は……会う約束をしていたみたいです」
「そうですか……。では、お姉様のPCを近いうちに持ってきてください。私達も直接見ておきたいので」
「はい……分かりました」
——話を終え、小笠原は事務所を後にした。小笠原の情報を聞き、再び武内が容疑者の可能性が浮上した——
「やはり、武内が犯人の可能性が高いな……」
「そうだね……。てか、武内って何者なんだ?」
「もっと詳しい情報が欲しいな……。色々と気になる点が多すぎる……」
――次回へ続く――




