紛失
――翌日、御影は来栖に昨日の依頼について電話で話をしていた――
「もしもし、来栖。突然連絡してすまない。実は昨日、ある依頼が来てな」
「ん?どんな依頼?」
「依頼者の姉が自殺した。……が、依頼者は姉が自殺したとは思っていないらしい。本当に自殺か、あるいは他殺か。それを調べて欲しいという依頼だ」
来栖は自殺と言う言葉に反応した。
「自殺……!これまでの自殺者との関係があるかもしれないわね……」
「最近の自殺と判断された人の報告書に小笠原千遥という名前はあるか?」
「う〜ん……。ちょっと待ってて、今資料を見てみる」
来栖は手元にあった自殺に関しての報告書等の書類に目を通し、小笠原千遥と言う名前の人物に関しての資料を探す。すると……
「……無い……」
「……は?……無い?」
「どこ調べても無い……。今手元にある資料が、最近のなんだけど……小笠原千遥って人が自殺したとことは、書いてない……」
「それはおかしい……。確かに小笠原さんは、警察を呼んで自殺だと判断されたと言っていた……。報告書すらないのはおかしいだろ……」
「そうね……。何でかしら……」
「とりあえず、資料が他の場所にないか調べてくれ……。また、何かあったら連絡する」
「えぇ……分かった。」
御影は電話を切った。御影は小笠原の言っていた事と、来栖が持っている報告書との矛盾点に頭を悩ませた。
「……何が起こってんだ……」
「……ん?どうした?」
御影の様子を不思議に思った旭が、御影に問いかける。
「……今、来栖に今回の依頼内容を伝えてな……最近、自殺した小笠原千遥という人物の報告書があるかと聞いたんだが……。小笠原千遥に関する報告書が……無いそうだ」
「え?それ……どゆこと……?」
「……分からない……。もしかしたら……小笠原さんが嘘を言ってるかもしれない……いや……それはないか……。それか……」
御影は何かを言いかけたが、言葉を飲み込んだ。
「どうなんだろう……。とりあえず、そろそろ行こう」
「あぁ、もう時間か……。行こう」
――二人は車に乗り込んだ。小笠原千遥はジャーナリストで、政治関連の記事を書いている。千遥が何かを職場に残していないか、手がかりを探りに向かう——
「旭、小笠原さんに連絡してみてくれ」
「おう……何て連絡するの?」
「警察が本当に家に来たのか、何と名乗ったか……」
「OK〜……」
旭は移動中、小笠原にメッセージを送った。すると、すぐに既読が付いた。
小笠原は当時、姉の自宅に向かった刑事の名前までは、記憶が曖昧で覚えていないそうだ。
旭はメッセージを読んで、肩を落とした。
「あぁ〜!名前は覚えてないか〜……」
「パニック状態でさすがに覚えない……か。仕方ないな」
すると旭のスマホの通知が鳴る。小笠原は続けて、メッセージを送ってきた。その内容は、警察官の見た目に関するものだった。
「あ、でも見た目は覚えてるっぽい。男性の警察官が二人。一人目は短髪の黒髪。目元に特徴的なホクロ。二人目はメガネをかけた黒髪の男性。……これだけじゃ誰かまでは分かんないな〜……」
警察官の特徴が送られて来たが、あまりにもありふれた見た目の為、手がかりにはなりそうにない。
「……手がかり無しか……。あ、そろそろ着くぞ」
「ほ〜い」
小笠原とやり取りをしている間に、千遥が働いていた職場に着いた。
車を降り、建物に入る。エントランスで、名前と要件を伝える。するとすぐに通され、小笠原千遥の上司にあたる人物が現れた。
「本日はよろしくお願いいたします。馬酔木と申します」
御影は小笠原千遥の上司、七瀬文雄に挨拶をし、名刺を手渡す。
「どうも助手をしています、旭です」
「これはご丁寧にどうも、私は七瀬と申します。それではこちらこそどうぞ」
「ありがとうございます。失礼します」
「失礼します!」
七瀬の案内で二人は会議室に通された。会議室に入り、腰掛けると御影は早速、話し始める。
「本日は事前にお伝えしたように、小笠原千遥さんについて、何か知っていることを教えて頂けませんか?」
「急に亡くなったのには驚きました……。小笠原は真面目な性格でいつも手を抜かず、丁寧な仕事ぶりでした。まぁ、こうゆう職業なので敵意を向ける方も多くいます。……そのせいで今まで溜め込んでたものが、溢れちゃったのかな〜……っと思います……」
御影はメモを取りながら、話を聞く。
「なるほど……では、七瀬さんが知る限りでよろしいのですが、小笠原さんがトラブルを抱えていたとなど……聞いたことはありますか?」
「トラブル……ですか……。特に聞いたことはありませんね……」
「そうですか……それでは小笠原さんが亡くなる前、最後に出社したのはいつですか?」
「えっと……亡くなる前の一週間、有給を使って休みを取っていました……」
「有給か……。では最近、小笠原さんに何か変わった事はありましたか?」
その質問に七瀬は、ある事を思い出す。
「あ……そういえば……。小笠原、最近やたらと気合いが入っていたんですよ」
「……それは何故……?」
「何か、大スクープが取れたとか何とか言ってたかな……?」
「その資料はありますか?」
「いや〜いつも自前のパソコンで作業してたからな〜……。うちは完成したものをある程度修正して世に出すから、まだ完成していない原本はこちらでは預かってないんです……」
「そうですか……。ん……?小笠原さんは自前のPCで作業していたんですよね?」
「えぇ……そうですが?」
「……家に持ち帰ってたり?」
「はい、家でも仕事するくらいには、仕事熱心でしたから……」
七瀬の話を聞いて御影は、小笠原千遥の自宅内が写った写真を思い出す。確かそこには、PCは写っていなかったたはずだ。
「……おい……おい!」
「あだっ!」
それに気づいた御影は小さい声で呼びかけ、肘で旭の腕をつつきいた。
「もう〜……何……?」
「小笠原さんの自宅にPCってあったか?」
「いや……無かったと思う……」
「だよな……」
旭も写真のことを思い出し、御影に同意した。
小さな声でやり取りをしている二人を見て、不思議に思った七瀬。
「あの〜……どうかなされましたか?」
御影は咳払いをして、七瀬の方に目線を向けて話を戻した。
「いえ、何でもありません……。あの、小笠原さんが作った記事を見せていただけませんか?あと、こちらに小笠原さんのPCがあれば、持ってきて貰えますか」
「えぇ……分かりました。少々お待ちください」
そう言い七瀬は会議室を出た。待ってる間、御影の頭には疑問が浮かぶ。
「……家でも仕事をする人だった小笠原千遥さんの家に……何でPCが無いんだ……?」
「う〜ん……。ここにあるとか?」
「それならいいんだがな……」
十分後、七瀬が会議室へ戻ってきた。手には雑誌が握られていたが、PCが見当たらない。
「お待たせしました。こちらが小笠原が書いていた記事です。……それと……小笠原のPCなのですが、うちにはありませんでした」
「……え?」
二人は口を揃えた。小笠原のPCは家にも無い、あるとするなら会社だろうと踏んでいた二人は、七瀬の言葉に目を丸くする。
小笠原のPCは、果たして何処に行ってしまったのか。 再び謎が深まっていく。
――次回へ続く――




