証拠不十分
――来栖からの捜査協力を受けた御影は、ネット掲示板で情報を探っていたある日、御影のPCにある一通のメールが入った――
「……メールか」
御影は届いたメールを開いた。そこにはこう綴られていた。
「アンドロメダ探偵事務所、馬酔木御影様。突然のご連絡失礼します。私は小笠原 由綺と申します。
本日は、調査をお願いしたくご連絡致しました。その調査と言うのは、私の姉が突然自殺してしまった原因を突き止めて欲しいのです。
姉は六日前に自宅で首を吊って自殺している所を私が発見されました。ですが、私は姉が自殺するような人には思えないのです。亡くなる前まで普通に連絡をとっていて、元気そうに話をしていました。ですので、どうか私の姉の死んだ原因について調べて頂けませんか」
「……自殺……。まさか……!」
御影は届いたメールを見て、来栖が話していた自殺者との繋がりがあるのでは無いかと考え、すぐに小笠原へメールを返信した。
すると、旭が元気よく事務所に入って来た。
「おっはよ〜!今日は依頼ある〜?」
「あぁ、おはよう。タイミングが良いな。丁度今、依頼が入ったところだ」
「お!ベストタイミング!で、どんな依頼?」
「依頼者の姉が突然自殺してしまって、その原因を探って欲しいそうだ」
「なるほど〜……。でも、それって警察の仕事じゃない?遺族に説明とかしなかったのかな?」
「いや、警察は自殺と判断されたらそこで終わりだ。解剖もされず、そのまま葬儀だろう。それが依頼者にとってはやるせなかったんだろう。どんなに願っても、警察は動いてくれない。だからうちに依頼したんだ」
「ふ〜ん……。日本はほとんど解剖しないよね〜」
「だな……。自殺に見せかけた、他殺も有り得る。それを危惧しているんだろう……。今日の十三時頃来るみたいだ。準備しとけ」
「了解!」
――三時間後の十三時。小笠原由綺が事務所を訪れた。小笠原は、覇気がない顔をしていた――
「小笠原由綺です。本日はよろしくお願いします……」
「はい。よろしくお願い致します。私は探偵の馬酔木御影と申します」
御影は名刺を小笠原へ差し出す。それに続いて、旭も挨拶をする。
「はじめまして!助手の旭です!これ、お茶どうぞ」
「あ、ありがとうございます。いただきます」
旭が入れたお茶を小笠原は、一口啜った。
「それでは早速ですが、小笠原さんのお姉様のお名前や職業等をお聞きしてもよろしいですか?」
「はい……。姉の名前は小笠原 千遥三十一歳。職業はジャーナリストでした……」
「ジャーナリスト……。では、千遥さんが亡くなられた状況を詳しく教えてください」
「七月一日……その日に会う約束をしてたのに、全く連絡がつかなかったので姉の自宅に行きました……。それで自宅で亡くなっていました……。警察を呼んで、自殺だと判断されました。死亡推定時刻は、六月二十九日の二十二時から一時あたりらしいです……」
小笠原は言葉を詰まらせながら、当時の状況を話した。
「ありがとうございます。辛い事を聞いて申し訳ありませんでした」
「いえ……」
「警察が自殺と判断したとおっしゃっていましたが、遺書などは?」
「……見つかっていません……」
「なるほど。では小笠原さんは何故、お姉様が自殺では無いと考えたのでしょうか?」
「誰かと会う約束をしている人が、自殺をするようには思えませんし、遺書も見つかってないので不自然に思いました。」
「確かに……。私が同じ立場なら同じことを思います。ただ、つい最近で何か職場や友人の人間関係などのトラブルで悩んでいたらどうでしょうか……」
「……トラブル……。特に無かったと思います……」
「そうですか……。分かりました。……では、お姉様のお部屋の写真や発見時の様子が分かる物はありますか」
「はい……。姉の部屋の写真と、メモがあります」
小笠原はカバンからファイルを取り出し、写真数枚とメモ帳をテーブルに広げた。
「……こちらです」
「ありがとうございます。失礼します」
御影は写真を手に取り、確認する。
写真には、小笠原千遥の自宅内が映されていた。1LDKの部屋にはゴミひとつなく、綺麗に整理整頓されていた。その部屋にある大きなウォークインクローゼット。メモには、ここで千遥は亡くなっていたと書かれている。
「……首を吊った場所は……このクローゼットか……。台を使って首を吊った……。うん……不自然な点は、特に無い……」
「う〜ん……」
旭も写真を確認して見たが、頭を悩ませた。
「小笠原さん……。確認しましたが……現状、他殺を裏ずける証拠はありませんでした」
「そうですか……」
小笠原は、俯き暗い表情を浮かべた。御影もその顔を見て、申し訳なさそうに目線を落とす。
「……この写真とメモ、一時的に私の方で保管していてもよろしいでしょうか?」
「はい、大丈夫です……」
「ありがとうございます。では次にお姉様と最後に会話した時、何をお話しましたか?不審な点は?」
「特にありませんでした……。いつも通りで……元気してる?とか、最近いいことあった?とか……。あ……姉と最後に話した時に……嬉しそうに仕事の話をしてたのを覚えています」
「嬉しそう……?」
「はい……。いつもは仕事が忙しくて〜とか、有名人の不倫が〜とかで……仕事の話はいつも愚痴っぽく話してました。……けど、最後に話した時は……大スクープを掴んだ……って……その内容までは内緒と言われました」
「大スクープ……ざっくりとしてますね……。ですが、何かの手がかりになるかも知れません。ありがとうございます。では、お話しづらいとは思いますが……お姉様のご遺体の様子について伺います」
「はい……」
「ロープでの自殺と判断された訳ですが、ロープの痕以外で首に引っ掻き傷や他の傷はありませんでしたか?」
「無かったと思います……。ロープの痕がくっきり残っていただけでした」
「……なるほど。ありがとうございます」
御影は自殺か他殺を証拠になるであろう、吉川線の有無について質問をした。だが、吉川線が無いということは自殺の可能性が上がった。
そのことから警察も自殺と判断したのだろう。
「……ねぇねぇ」
すると旭が御影の肩を指でつつき、話しかけた。
「……なんだ?」
「ここのカーペット。何かシミみたいなのない?」
そう言うと旭は、写真のカーペット部分を指さした。御影もその部分を凝視すると、旭の言う通り何かのシミがあった。
「ん?……あ〜本当だ……。小笠原さん、このシミって何か分かりますか?」
そう言って御影も小笠原に写真を見せる。小笠原はそれを見て、何かを思い出した。
「え?……あぁ、ここにエナジードリンクの缶が飲みかけの状態であったんです。そのシミかと……」
「エナジードリンク……」
――一時間程、小笠原と話をし、今回の依頼内容や手がかりをまとめた――
「本日はありがとうございました。後日、お姉様の職場に連絡してお話を聞きに行きます」
「はい……。ありがとうございます……」
小笠原は深々と頭を下げ、事務所を後にした。小笠原を見送った二人は、情報をまとめた。
「自殺か……他殺か……」
「みかちゃんはどう思う?」
「……今の所は何も言えない。とりあえず明日、小笠原千遥さんが働いていた職場に話を聞きに行く。あと……」
「ん?……あと……何?」
「今、来栖に捜査協力してるんだよ」
「え!?そんな大事な事なんで早く言ってくれないの!?」
旭は驚き、御影の肩をガシッと掴み、ブンブンと御影の体を揺らした。
「言おうと思ったんだよ……けど、その後に依頼が来たからそっちに話を持ってかれたからさ」
「そっか〜……それで〜?どんな捜査してるの来栖さん」
旭は御影の肩から手を離し、ソファに座り直す。
「……最近の自殺者数の異様な増加についてだ」
「丁度今みたいな?」
「そうだ……。けど、今回の依頼と来栖が調べてる事件と繋がりがあるとも限らない。慎重に調べて、この件を来栖にも報告する」
「なるほどね、分かった」
――次回へ続く――




