捜査協力
―― 第三章 動機不明 ――
福島県での爆発事件から約一年が過ぎ、あれから大きな依頼は無く平和な日々を過ごしていた。
そんなある日の夜、御影は元同僚の来栖と共に居酒屋に来ていた。半個室の場所で二人は、久しぶりに酒を嗜む、
「……こうやって飲むの久々だな」
「そうね〜……あの事件から色々あったし、こうしてまた飲める日がきて良かったよ」
「だな……。最近はどうだ?」
「う〜ん、普通って感じ……。あ!そうだ!聞いて!」
来栖はドンッとビールの入ったジョッキをテーブルに叩きつけた。
「ん?何だ?」
「最近、うちの機捜に新しい子入ったんだよ」
「新人か。どんな奴?」
「名前が加賀美 慎一郎って言うの……」
「加賀美……?え……もしかして……」
御影は聞き覚えのある苗字で、その人物が何者かを察した。
「そのもしかしてよ〜……。加賀美警視総監の息子……!」
来栖はそう言いながら拳をテーブルに軽く叩きつけた。御影はその様子を見て、苦笑いを浮かべる。
「やっぱりか。でも何で、キャリアの人間が機捜に?」
「聞いてみた事があるんだけど加賀美さん曰く、機捜で現場に慣れさせて立派な警察官にしたいんだってさ。それで捜一の頃、面倒をみていた私の所に置いたらしい……」
「これから大変になりそうだな。頑張れ〜……」
御影は来栖から目を逸らし、遠くを見つめながらそう言った。
「うわぁ他人事〜……。嫌よ〜!何で私なのよ〜!」
来栖は怒りながら、串に刺してある焼き鳥にかぶりついた。
「なんだ、その愚痴の為に俺を飲みに誘ったのか……?」
「それもある!……けど、色々と話したい事あるのよ」
来栖は先程とは打って変わって、真面目な顔をした。
「……何だ?」
御影はその様子を不思議に思い、問いかける。
すると来栖はゆっくりと話し始める。
「最近、自殺者が多いのよ。うちの管轄内だけでも二週に五人も……」
「……自殺か……。まぁ最近は確かに自殺者数が多い。この国が増々生きずらくなって、若い人達が心を病んで自ら命を絶ってしまう……。それに出生数も年々少なくなって、少子高齢化が進みまくってる。大変な時代だよな本当」
「本当そうよね……」
「……で、その自殺者の自殺方法は?」
「全員、首吊り状態で亡くなってた。まぁ、窒息死でしょうね」
「……解剖はしなかったのか?」
「しないわよ……あんたも知ってるでしょ?自殺と判断されたご遺体は、ほとんど解剖されない……」
「まぁ、そうだよな……」
「あ……でもその五人全員が……ある掲示板サイト使ってたな〜……」
御影は来栖の言葉にピクリと反応した。
「掲示板サイト……!」
御影はすぐにスマホを操作して、掲示板サイトを表示させた。
「その掲示板サイトって……これか?」
御影は来栖にスマホの画面を見せた。来栖はスマホを見て驚いた顔をした。
「あ!そう!これこれ!」
「……そうか」
「てか、何で分かったの?」
「……いや、この前の福島での爆弾事件でホシがこの掲示板サイトを使っていたらしい。何か繋がりがあるんじゃないかと思ってな……」
「……よく調べたわね〜」
「まぁ、見つけたのは旭だが……」
その話を聞いて来栖は、じっと御影を見つめた。
「へぇ〜……てか、旭君ってあんたの所に来る前に何やってた人なの?」
「あ〜……確か今は休職中だとか……」
「……ふ〜ん……。なんの仕事してるの?」
「……フリーターとしか。あいつ、俺のことはズカズカ聞いてくる癖に、自分の話しないからな……」
「……まぁ、あんたのことだから身辺調査したんでしょ?」
「まぁしたけど……怪しいところはなかったな……。あ……でも……」
御影は言葉を詰まらせた。御影が一番気にしている部分は旭の苗字、犬飼。御影に関わりの関わりの深い人物と同じ苗字。
来栖はその様子に首を傾げる。
「でも?」
「……いや、何でもない」
「ふ〜ん……そっ」
来栖は御影の反応が気になりつつも、ジョッキに半分残っていたビールを一気に飲み干した。
「ぷはー!」
「……今日は随分飲むな」
「だって、久々に飲めるんだよ〜!飲める時に飲まないと〜!あ!店員さーん生一つ追加で!あと、焼き鳥も!」
「はいよー!」
来栖が大声で店員を呼び、追加注文をした。来栖の飲みっぷりに御影は、苦笑いをする。
「明日に響かないようにしろよ……」
「はいは〜い。あ、でさ、さっき話してた掲示板サイトについてだけど……自殺者全員と連絡をとっていた人物が居たの」
「……それって……」
「シャイニングしいたけってふざけた名前の奴なんだけど……」
「やっぱりか……」
シャイニングしいたけ。このハンドルネームの人物は、前回の事件で犯人の梶が連絡を取り合っていた人物だ。やはり、今回の自殺騒ぎにも何か関わりがあるのかもしれない。
来栖は御影がその人物を知っていたことに驚き、目を丸くした。
「え?知ってたの?」
「まぁな……。爆弾事件の犯人も、そいつと関わってた」
「そこまで調べ上げてたとは……。で、そいつに別の刑事が一応、事情聴取をとったんだけど、アリバイがあるみたいだし……。この事件とは無関係、殺人事件では無いと判断されたからそれでこの件はおしまいになってる……。ねぇ、馬酔木はどう思う?」
「そうだな……。確かにそこまで怪しい部分があると疑いたくなる。もしかしたら……」
御影は口元に手を置き、何かを考えてる様子。
もしかしたら、スクランブル交差点爆破テロ事件にも関わりがあるかもしれない。そう考えた。
「もしかしたら?」
「……いや、何でもない」
御影は少しの沈黙の後、誤魔化すように言った。まだ確信がないことを来栖に言う訳にはいかない。
すると来栖は口を尖らせた。
「もぉ〜あんた色々と誤魔化すよね!」
「あんまり気にすんな。まぁとりあえず、そいつはこのままマークしておいた方がいいな。また何か事件が起こるかもしれない」
「そうよね〜……。でも、他の人達はこの件に全く興味が無いみたい。自殺で全部片付けられてる以上、私には何も出来ない」
「……まぁ仕方ないよな……。他にも事件は起き続けている。警察が自殺と判断した以上、いつまでも追うのは無駄だからな」
来栖は少し悔しそうな顔をして俯いた。そんな来栖に御影は声をかける。
「だが……。警察が無理なら……俺がやる」
「……へ?」
来栖は御影の言葉に驚き顔を上げた。
「元々、そいつが掲示板に書き込むのを見張ってたんだ。今までの自殺者達が死んだ原因が、本当は自殺で無いとしたら……調べる必要がある」
「マジ!?助かる!……あ〜でも、上に何も言わずに捜査協力させるのはな〜」
「いいだろ、内緒で」
「バレたらどうすんのよ〜私まで首飛ぶわよ?」
「……その時は探偵事務所に来ればいい」
御影はさらっとそう言い、ビールを飲んだ。来栖は御影のその発言に目を丸くし驚いた。
「あ、あはは〜……あっつ〜酒のせいで暑っついわ〜(笑)」
普段は厳しい御影が優しさを見せたことに来栖は、照れ隠しにわざとらしく、手で顔をあおいだ。
「まぁ、帰ったら調べてみる」
「ありがとう、助かるわ〜!」
「これが本当に殺人事件だったら……来栖の手柄になるな〜」
「ふふん!絶対にうちでホシを上げる!……って言っても今は機捜だからな〜すーぐ私の出番終わっちゃうけど……。ま、もしホシ上げたら次、飲み行く時は奢ってあげる!」
「はいはい、ありがとう」
「ほらほら〜!馬酔木ももっと飲みな〜!」
来栖は御影のジョッキを奪い取り、ビールを注ぎ始めた。
「あー!馬鹿馬鹿!俺のジョッキにビール入れんな!俺はもう要らん!」
――次回へ続く――




