ブライダルベール
――事情聴取を終えた御影と旭は翌日、病院へと向かった。高峯は半日も監禁されていた為、5日間程入院することになった。前田からその連絡を受け、二人は前田と高峯に再び会うことに。病院に到着し、病室の扉を開く——
「……失礼します」
「失礼しま〜す!」
二人が病室に入ると、そこには前田の両親と高峯の家族が居た。二人が来たのに気がついた前田は振り返る。
「あ、馬酔木さん!旭さん!来てくれたんですね!」
「こんにちは!」
前田と高峯が元気よく挨拶をした。高峯はベッドから上半身を起こした。治療を受け、回復に向かっている様子だ。
「高峯さん、お体の方は大丈夫ですか?」
「えぇ、お二人に助けて頂けて、こうして元気です!」
「それは良かったです」
「良かった〜!」
御影と旭は高峯の様子を見て、ホッと胸を撫で下ろす。
「あ、これ手土産です!どうぞ!道の駅のおばちゃんにめっちゃ美味しくておすすめって言われたやつです!」
「わぁ〜!わざわざありがとうございます!」
旭は笑顔で手土産を高峯に渡した。高峯も嬉しそうに手土産を受け取った。
すると高峯の母親が二人に向かって話し始める。
「……貴方達が娘を救ってくださったと、健士君から聞きました。本当にありがとうございました」
「ありがとうございます」
高峯の母親に続いて父親と妹も深々と頭を下げた。
そして前田の家族も続いてお礼を述べる。
「私達からも御礼を言わせてください。ありがとうございます」
「本当にありがとうございます」
前田の両親も深々と頭を下げた。
「いえ、私達は私達の仕事をしたまでですから」
「そうですよ!俺達にとっちゃあ朝メシ前ですよ!」
「まぁ、今回は間一髪だったけどな……」
「へへ〜確かに」
「本当にお二人には感謝してもしきれません。改めて、本当にありがとうございます。……これ……私達からの謝礼と依頼料です」
前田は紙袋に入れた分厚い封筒を御影に差し出した。戸惑いながらそれを受け取る。御影は中身の金額を見て驚く。
「……え?こ、こんなには受け取れません!」
御影は前田に封筒を突き返そうとするが、前田はそれを拒否した。
「言ったでしょう、これは謝礼金でもあります。私達の感謝の気持ちを少しでも形にしたくて」
「……でも……」
御影は金額の多さに受け取るのを躊躇していると、前田は再度封筒を御影に渡し、御影の手を強く握った。
「受け取ってください。馬酔木さん」
前田の真剣で真っ直ぐな眼差しに、御影は頭を下げそのお金を有難く受け取る。
「……では……お言葉に甘えて、有難く頂戴します……」
「はい!」
前田は御影の言葉に笑顔で返事をした。
御影は頭を上げ、気になっていたことを前田に問いかける。
「……そういえば、前田さん……結婚式の予定でしたよね……?」
「えぇ……結婚式は紗良の体調の回復を最優先に延期になっちゃいました……。けど、いつか必ず式を上げます!」
明るくそう言った前田の言葉を聞いた御影は、嬉しそうに微笑んだ。
「……そうですか……。じゃあぜひ、私の分までどうか末永くお幸せになって下さいね」
前田は御影の言葉に驚き、御影に問いかける。
「……あの……馬酔木さん……私の分までって……どうゆう……意味ですか……?」
御影はさっきの無意識に出た言葉に気がつき、言葉を濁そうとする。
「あ……いや、何でもないです……。ここいらで私達は、おいとまさせて頂きます……」
御影は左手の薬指にはめた指を右手で隠し、前田達に背を向けて帰ろうとする。そんな御影の腕を思わず掴んだ。
「待ってください!……馬酔木さん……指輪はめてますよね……それとさっきの言葉、どうゆう意味か教えてくれませんか……?」
御影は口を噤んだ。こんな時に自分の話をしていいものかと考えていると、前田は真っ直ぐ御影の目を見た。
「教えてください……馬酔木さん……」
御影は少し黙ったが、前田のその目を見て口を開く。
「……私の話にはなってしまうのですが……良いのですか?」
「……はい」
そして御影は俯きながら、ゆっくりと自分の過去を話し始める。
「……三年前……。東京の渋谷で起こった、爆発テロ事件を知っていますか?」
「はい……。確か、スクランブル交差点の……」
「えぇ……。私はその頃、警視庁の捜査一課にいました。事件当時、私は別の事件を対応していました……。その事件を対応している最中、そのテロが起こりました。その時、婚約中の彼女が……現場近くに居るのを知っていたので、上司の命令を無視し現場に行きました……。そして現場に着いて、しばらくは彼女と連絡が着きませんでした。ですが一度だけ電話が通じ、彼女の場所が分かり、その場所に行きました……。そしたら彼女が店から出てくるのが見えたんです。それを見つけ、すぐに駆け寄りました……。……ですが……その瞬間……彼女の目の前で爆弾が爆発したんです」
御影の言葉を聞いた周囲の人達は驚きのあまり唖然とした。御影は続けて話をする。
「……私は目の前が真っ白になりました。すぐに彼女の元に駆けつけ、彼女を見つけて抱き寄せました……。だけど彼女はもう……。息が出来ない状態でした……。今でも覚えています。彼女の脈が、だんだんと弱くなっていくのを……。そして救急車で運ばれた彼女は、治療も虚しく……数時間後に亡くなりました。私はその事件の失態により警察を辞めることになりました。……悔やんでも悔やんでも悔やんでも悔やみきれない。私は大切な人を守れなかった……。でも今回の事件で、私の様に大切な人を失った悲しみを背負う人間が一人でも減った。それが……私に唯一出来る、償いです。……前田さん、高峯さん……お二人には私の分まで……幸せになって欲しいと切に願っています」
周囲の人達は御影の話に聞き入り、黙っていた。
すると、前田が御影の手を取りゆっくりと口を開く。
「……馬酔木さん……。私は……貴方にも、幸せになって欲しいです……」
前田は涙を流しながら、御影にそう言った。
御影はその言葉に驚き、俯いていた顔を上げた。
「……え?」
「……貴方の様な……優しくて、強い人こそが幸せになるべきなんです……。私も……貴方の幸せを切実に……願っています」
前田の温かな言葉が御影の心を包み込んだ。そして、一粒の涙が御影の頬を伝う。
「馬酔木さん、幸せになってくださいね……!あと、結婚式の日お二人も必ず呼びますから絶対、来てくださいね!」
前田はくしゃくしゃな笑顔を御影に向けた。
御影は頬を伝った涙を拭い、小さく頷いた。
「……前田さん。また何かあったら連絡ください」
「はい……!馬酔木さんもいつでも連絡くださいね」
「えぇ……。……では、私達はこの辺で失礼します」
「前田さん高峯さん、ご家族の皆さん!お元気で!」
「はい!本当にありがとうございました!」
その場に居る全員が、病室を後にする御影と旭に向かって深々とお辞儀し、二人を見送った。
病院を出て、駐車場に停めた車に乗り込んだ二人。助手席に座った御影が小さく呟く。
「……結婚式……か……。したかったな……」
フロントガラスから見える景色を眺めながら、寂寥感が漂う表情を浮かべた御影。その言葉を運転席に座って聞いた旭は、その表情から目を離すことが出来なかった。
――次回へ続く――




