拳
銃弾を回避した旭と前田。旭は梶の暴走を止めに、御影と前田は椅子に縛り付けられている高峯を解放しに向かった。すると梶は再び旭に銃口を向け、発砲した。旭は寸前で躱す。弾丸は旭の髪の毛を掠めた。
「躊躇ないね〜……これが恨みの力?」
旭は撃たれたにも関わらず、いつもと変わらぬ表情で余裕を見せていた。梶は旭の舐めた態度に少しずつ、苛立ち始める。
「そんな余裕でいられるのも……今のうちだ」
「ほ〜ん……強気じゃん」
旭がそう呟いて、梶にゆっくりと近く。梶はまたしても銃口を向けた。狙いを定め集中する。
だが旭は、間合いを詰め一瞬にして梶の手から銃を奪い取った。
「はっ!?」
梶はあまりの速さに、驚きを隠せない。
旭は奪い取った銃を遠くへ投げ、梶の届かない場所に投げ捨てた。
「こんな物使わないでさ〜……己の拳で恨みぶつけてみね?」
「……クソ……舐めやがって……!まぁいい……ぶっ飛ばす……!」
梶は鋭い目付きで拳を握り、旭に襲いかかる。
勢いよく振り下ろされた拳を旭は素手で受け止める。その拳を片手で受け止めた旭は、梶に微笑みかける。
「お!いいパンチ〜……。何か格闘技やってた?」
梶は旭のまだ余裕そうな態度が気に食わず、舌打ちをする。そして再びパンチを繰り出す。だが、それも旭に流され梶は前によろける。その隙を見て旭は足をかけ、梶は転倒した。
「……イッ……テェ……」
「ほらほら〜……本気で来てよ。そのままじゃ、ここに居る全員殺すなんて出来ないよ?……俺がここでお前を制圧するから」
旭は不敵な笑みを浮かべながら、梶を見下ろして煽った。夕暮れの光が旭の顔を不気味に照らした。
梶はその光景に圧倒されるが、歯を食いしばり再び立ち上がった。
――その一方、御影と前田は高峯の救出に尽力していた――
「おい!紗良!紗良!」
前田は高峯の頬を軽く叩きながら、呼びかける。だが、全く反応がない。
「……ちょっと失礼」
御影は高峯の首に手を当て、脈を確認している。少し弱っている様子だが、脈はあることが分かった。
「……大丈夫です。多分、気絶しているだけだと思います」
「よ、良かった……」
前田は少し安心した様子。だが、御影はある物を見つける。
「……これ……もしやこのロープと動線は……繋がってるのか……?」
それに気づいた瞬間、一気に緊張が走る。
「え……ほ、本当ですか……」
「……無理矢理外そうとしたら……爆発する……」
「ど、どうしますか……?」
「……素人が手を出したら危ない。最悪、ここにいる全員が死ぬ……。爆弾処理班を呼びます……」
御影が電話をしようとしているのに気がついた梶は、御影の方を向き怒鳴る。
「おい!余計な事はするな!警察は呼ばせない!」
そう言い御影の方に向かおうとする梶の前に、旭は立ちはだかる。
「おっと……行かせねぇよ?お前の相手は俺だ。みかちゃん、今のうちだよ」
「……助かる」
御影が警察に電話をする為に、ベランダへ急いだ。その間、梶は先程より勢いが増して旭に攻撃する。
「クソ!どけ!!!」
「どかないよ。どいたら、三人に危険が及ぶからね」
梶は旭に何度も攻撃しているが、旭はその攻撃を全てかわす。梶はだんだんと息切れを起こしている。
「……ハァハァ……クソ……何なんだお前……。俺の攻撃、全部かわしやがって……。あれか?かわす事しか出来ないのか?人を殴ったことねぇのか?」
梶は旭を煽るように言った。その言葉に旭は呆れた様子で話す。
「お前馬鹿だね〜……。俺が素人相手にやり合ったら、大変なことになるから手加減してるんだよ?」
「はぁ?……何だお前本当……。俺の事舐め腐りすぎだろ……俺はな……いじめられてから、あいつを見返そうと努力して……ボクシングやってきてんだよ……!」
「ほぉ〜やっぱり!通りで、攻撃が的確だと思った!でも……残念。俺はそれを全部見切れるよ?」
「……お前は何でそんな余裕なんだよ。おかしいだろ!」
梶の言葉に旭は一瞬、動きを止めた。
「……うん……そうだね。……俺はおかしい……。……俺の手は……」
旭がゆっくりと自分の手を見て、小さな声でそう言った。
「ねぇ……お前の拳は何の為の拳?」
顔を上げた旭は、突然意味不明な事を言った。
「……は?……意味分かんねぇ……。」
「じゃあ今、何の為に俺と戦ってんの?」
「……邪魔だから……」
「……そっか。そんなちっぽけな理由で拳を振るうんだね」
旭の言葉に梶は腸が煮えくり返る。そして拳を握りしめた。
「……ちっぽけだと?……お前には分かんねぇよ!俺のこの気持ちが!!!どんなに俺が苦しかったか、辛かったか……」
梶は旭に感情をぶつけた。怒りと悲しみに顔を歪めながら。それをただ旭は黙って見つめていた。
すると御影が警察に連絡をし終わり、教室のベランダから現れる。だが、御影は暗い表情をしていた。それに気がついた前田は御影に問いかける。
「……馬酔木さん……ど、どうされました……?」
「……警察はすぐに来れるが……爆弾処理班が来れるのは最低でも一時間後……」
「そ、そんな……!」
「どう足掻いても……この爆弾が爆発することを回避出来ない……」
「じ、じゃあ……どうすれは……!」
「……俺達で何とかするしか……ない……」
そう言った御影だが、手は震えていた。
御影はあの時を思い出す。
爆弾によって愛する人が目の前から消えるあの光景を。 動悸が止まらない。その様子を前田は不安気に見つめる。
椅子に絡まるロープを上手く外せない。視界が歪む。もうあの時のようにはさせないと、強く思いながら必死でロープを引き剥がそうとする。だが、上手く剥がせない。
すると、その様子を見た旭が咄嗟に声をかける。
「みかちゃん!」
御影はその声に反応し、旭の方を見る。
「大丈夫!俺達ならやれるよ!」
御影はその言葉に何故だが、少し安心した。深呼吸をして呼吸を整える。
「……よし……。前田さん……そこ持っていて下さい」
「は、はい……!ここですね」
御影は前田と協力し、椅子に巻き付けられているロープを慎重に引き剥がす。
旭が視線を御影の方に移しているその瞬間、正面から刃物が向かって来る。それをギリギリでかわした旭。
「不意打ち〜……」
「チッ……今のはやったと思ったんだけどな……」
「……良いね〜……来いよ」
旭は手を前に出し合図をした。
その挑発に梶は苛立ち、刃物を旭に向けて振りかざす。旭はそれを巧みに避けつつ、タイミングをうかがう。そして梶が旭の腹部を狙い腕を前に突き出した瞬間、旭はその腕を掴み、そのまま背を向け背負い投げを食らわす。梶は地面に叩きつけられた。
「グッ……!」
梶は歯を食いしばり、痛みに耐え反撃する。持っていた刃物を旭の顔面に向けて刺そうとした。その反撃に旭は少し反応が遅れ、刃物が頬をかすめる。旭はその腕を掴み、思いっきり握る。
刃物が旭の頬をかすめた傷は軽い切り傷程度だが、頬からは血が流れた。旭は自分の頬を撫で、手に付いた血を見る。すると旭は何かのスイッチが入ったかのように、目つきが変わった。
「い、痛た……!痛だだ!!」
旭の握る力が強すぎるあまり、梶の手から刃物が落ちた。旭は掴んだその腕を引っ張り、梶を無理矢理起こした。そして旭は拳を握る。
すると遠目から見ていた御影は、旭の違和感に気がつく。今まで見たことのない旭のその目つきは、深い闇に呑まれた。その目は人を殺しかねない目。
旭はその握った拳を梶の顔面に向け、振り下ろそうした瞬間、御影は叫ぶ。
「やめろ旭!殺すな!!!」
――次回へ続く――




