仮面の下
段々と日が沈み始め、周囲が橙色に染まり始める時間に近づく。三人は草の生い茂った道を抜け、校舎の裏口に着いた。
御影はドアをゆっくりと開ける。校内はボロボロで、太陽の光があまり入ってこない為、外よりも薄暗い。警戒しながらゆっくりと足を進める。
「……早く見つけないと……。足元、気をつけてください……」
「は、はい……。……この学校……今はこんなになったのか……」
前田は周囲を見ながら、母校の変化に戸惑っていた。
パキパキと足元のガラス片を踏みながら進んで行く。
「……う〜ん……。音立てずに行こうと思っても、音鳴るな……」
気をつけながら歩いていても、床に散らばるガラス片などで、どうしても音が鳴ってしまう。
「こればかりは仕方ない……。思っていたより状態が悪いな……」
校舎に入った三人は、まずは一階の教室を見て回る事にした。
職員室、校長室、一年生の教室。ある程度調べたが、Kの気配はない。
「……一階には居なさそうだな。……だとすると……二階か三階か……」
「だね〜……もし一階に居るなら気配くらいは、しそうだからね。どこ居るんかね〜」
二人が犯人の気配がしないと話をしていると、前田はあることを思い出した。
「……あ……そういえば、俺と梶が一緒のクラスになったのって……二年からです……」
「……なるほど……それなら二階に居るってことかもしれないな。……何組でした?」
「えっと……確か三組だったと思います……」
「……行きましょう」
前田の言葉を頼りに、三人は二階へ上がる階段の前に来た。御影は階段を上る前に前田に前に出るように伝える。
「ここからは、前田さんが先頭でお願いします」
「……はい」
前田は緊張した面持ちで、二人の前に移動する。すると旭が前田を励ます。
「後ろはしっかり守っとくんで、安心してください。Kが来ても俺が制圧しますんで」
「……ありがとうございます」
御影は旭の言葉に少し違和感を感じたが、すぐに気持ちを切り替えた。
三人はゆっくりと階段を上る。すると、遠くの方から微かに人の声らしきものが聞こえた。
「……聞こえた」
「あぁ……。やっぱりこの階だ」
「……紗良」
三人は物音を立てない様、ゆっくりと二年三組の教室へ足を運ぶ。
だんだんとKと思われる、話し声が大きくなってきた。
前田は教室に入る前に息を整える。そして二年三組の教室に入って行く。
「……やっと来たのか……。遅いよ。前田くん」
気配に気がついたKはスマホを耳から離し、前田に声をかける。Kは仮面をつけていて、本当に梶であるかはどうかは定かではない。
Kのその言葉に前田は眉を顰める。
「……やっぱり、俺のこと知ってるんだな。……狙いは俺か?」
「……正解。……ところで、金は用意できた?」
「……あぁ、これに入ってる」
前田は御影から渡されたアタッシュケースを前に突き出し、Kに見せる。Kはそれを訝しげに見ている。
「ふーん……中身見せて」
前田はアタッシュケースを地面に置いて開け、中身をKに見せた。それを見たKは金があると確認した。
「よし……。金は持ってきたようだが……一人で来いって言ったよな?」
そのKの発言に、教室の外で身を隠し話を聞いていた御影と旭は少し驚いた。Kは二人を呼びかける。
「そこに居る人〜出てきて下さいよ」
「……行くか……」
「……おう」
御影と旭はゆっくりと教室に入る。二人の姿を見たKは呆れたように言う。
「いやはや、一人で来いと行ったのに二人も連れてきて……。前田くん、彼女さん殺されても良いの?」
前田は黙って俯いていた。するとKが御影と旭に問いかける。
「あんたら……警察?」
「いや、警察じゃない。俺達は前田さんに依頼されてここへ来た探偵だ」
「……探偵……」
Kは眉を顰める。すると前田が口を開く。
「……警察じゃなかったら、彼女は殺さないんだろ……?」
前田の発言にKは鼻で笑う。
「ふっ……屁理屈……。……どっちにしろ、殺す」
「はぁ!?何でだよ!警察に言わなきゃいいんじゃなかったのかよ!」
前田は話と違うKに怒りを露わにする。そしてKは、話を続ける。
「俺は一人で来いって言ったんだ。それに口約束なんて……あってないようなものだ。ここに居る全員、皆殺しにする」
Kは回転チェアに縛り付けている高峯の方へ行き、回転チェアを動かし回転させた。その背もたれには、爆弾が取り付けられていた。三人の顔が青ざめる。
「……爆弾……!」
「マジか……。面倒だな」
「ここで爆発させたらどうなるかな〜?この教室は余裕で吹っ飛ぶね(笑)」
Kがふざけた口調でそう言った。
「やめろ!!!梶!!!」
前田の叫びにKは一瞬固まった。そしてKはゆっくりと付けていた仮面を外す。
「なーんだ……。気づいてたのか……」
梶は仮面を床に投げ捨てながら、少し残念そうに言った。
前田は犯人がやはり梶だったということに絶望し、梶に問いかける。
「……やっぱり……梶だったんだな……。何で……何でこんな事……。俺達、友達だろ?俺の結婚式にだって来てくれるって行ったよな?……どうして……」
前田は弱々しい声でそう言った。
話を黙って聞いていた梶は、さっきとは違った雰囲気で口を開く。
「黙れよ。……友達?……何ほざいてんの?……お前達にされたこと、俺が許したとでも」
梶は冷たい口調だが、怒りを含んだ声でそう言った。
梶のその発言に前田は戸惑いを隠せなかった。
梶は話を続ける。
「……確かに大学入って会った時、謝っては貰った。だが、俺は許してはいない。……ずっとずっとずーっと……お前を恨んでたよ、前田」
「……じゃあ、何で……飲みに行ったり……遊んだり……してくれたんだよ……」
前田は震える声でそう言った。すると梶はため息混じりに答える。
「……それはお前がどんな人生歩んでるのか知りたかったから」
「……意味……分かんねぇよ……」
「……だろうな。いじめられた人間の気持ちなんて、いじめたお前に分かる訳ねぇよな?……だから……お前らいじめてきた奴らが一番幸せであろう、今をぶち壊すためにやったんだよ!!!」
梶は内に秘めた感情を爆発させ、前田向かって大声で言い放った。前田は呆気にとられていた。
すると梶は黙って銃を取りだし、前田に銃口を向けた。前田は恐怖で体が動かなかった。そして梶は躊躇無く引き金を引く。
その瞬間、旭が反射的に走って前田を押し倒し庇った。そして梶の発砲した弾は、壁に当たった。
「あっ……ぶねぇ……」
旭が起き上がり、梶の方を睨みつける。
梶もそんな旭の方を睨みながら、銃口を向ける。
「……邪魔すんなよ。……お前も撃ち殺すぞ?」
「……ふっ……やってみな」
旭は余裕そうな顔で、梶を煽った。旭は梶から一切目を離さず、御影に指示する。
「みかちゃんは爆弾の方よろしく」
「……わ、分かった。……気を抜くなよ」
御影は旭の指示に従い、梶に背中を見せないようにしながら、高峯の救助に向かう。
「OK〜……。前田さん……貴方も彼女さんの所に居てください」
「は、はい……。ありがとうございます!」
旭は庇っていた前田も高峯の方に向かわせた。そして、二人が離れたのを確認し、旭は手を鳴らす。
「さてと……それじゃあ……来いよ、梶さん?」
旭は微笑みながら梶にそう言い放った。
梶は舌打ちをして、再び銃口を向ける。
「邪魔すんな……」
――次回へ続く――




