約束
――警察署での事情聴取を終え、御影と旭はある場所へ向かった。そして二人は一護のいる児童養護施設に着いた。一護とやり取りはしていたものの、直接会うのは約一ヶ月ぶりだった――
「着いたな」
「わぁ〜!久々に一護に会える!めっちゃ楽しみ!」
二人は児童養護施設に入り、受付けに向かう。
「こんにちは、お久しぶりです。渡辺さん」
御影はカウンターで受付けをしている女性に声をかけた。すると、女性は御影の顔を見て驚いた。
「……あら!御影君?すごい久しぶりだね〜元気してた?」
「おかげさまで」
御影は受付けの女性と親しげに話している。その様子が気になった旭は御影に質問する。
「あれ?知り合いなの?」
「あぁ、言ってなかったな。ここの児童養護施設、俺が育った場所だ」
「え!?マジか!」
御影がこの施設出身と聞いて、驚いた旭。
渡辺は御影がこの施設にいた時から職員をしている女性だ。渡辺は久しぶりに御影に会えた事が嬉しく笑顔で、話し始める。
「そうなのよ、御影君が十歳の頃だったからしら?そのくらいの時にここに来たのよ。その時は私は、今の御影君と同じくらいの歳だったわね〜」
「へぇ〜そうだったんだ……!」
「あ!そういえば……日和ちゃん……三年前のあの事件に巻き込まれたんですってね……残念だったわね……」
渡辺は三年前のとある事件について言及した。
三年前の事件というのは、渋谷のスクランブル交差点で起こった爆破テロ事件のことだ。多くの人々が被害を受けた最悪の事件。臥龍蛇と呼ばれる犯罪組織の残党が起こしたその事件で、日和と言う人物が巻き込まれ死亡した。
御影は表情を曇らせ、俯き黙ってしまった。旭は御影のその表情を見て、何かを察し真顔になる。その様子を見た渡辺は慌てて御影に謝る。
「気を悪くさせちゃったわね……ごめんなさいね……!でも、ここ最近……御影君も顔を出さなかったから……色々心配だったのよ……」
「いえ、謝らないで下さい。ご心配ありがとうございます……」
「話が逸れてしまったわね。……今日は一護君の面会かしら?」
「えぇ、そうです。一護君元気でやってますか?」
「最初は慣れない環境だったからか、一人でずっと暗い顔してたわ。でも最近は、楽しそうにしているわよ」
「そうですか、それは何よりです」
御影はその言葉を聞いて、少し安心した。
「この書類書いたらお部屋に案内するわね」
――御影と旭は書類を書き終え、一護の居る部屋に案内される。一護は部屋の扉を開けると、二人に気が付き笑顔で出迎えた――
「あ!旭にぃちゃんと御影さんだ!」
「おぉ!久しぶり一護〜!」
一護と旭は嬉しさのあまり抱きついた。それを微笑ましそうに見つめる御影。
「一護、元気だったか?」
旭は軽々と一護を抱っこしながら問いかける。
「うん!元気だよ!あ、最近ねパソコンにハマってるんだよ」
「パソコン?すごいじゃん!見せて見せて!」
旭は一護を下ろし、一護はさっきまで触っていたPCの画面を見せた。そこにはプログラミングのゲームが映されていた。
「色々調べたり、プログラミング?とか出来るんだよ」
「え!すごい俺よりパソコン出来んじゃね?」
「すごいな一護君、その歳でパソコンが使えるなんて」
「えへへ〜、すごいでしょ」
そこから三人は話が盛り上がり、PCでゲームしたりしてあっという間に三十分が経過していた。
すると、一護が話を切り出す。
「……そういえば僕のお母さん見つけた?」
御影は一瞬、言葉を詰まらせながらも答える。
「……あぁ、見つけたよ」
「ほんと?良かった!じゃあお母さんに会える?」
一護は期待に胸を膨らませながら、そう言った。その顔を見て、御影は申し訳なさそうに答える。
「……いや、今すぐは会えない……」
「……?……どうして?」
御影の言葉に首を傾げる。
「……今は俺の口からは言えない。一護君がしっかりと決心がついたら、そのパソコンで調べるといい。それとお母さんが一護君に伝えて欲しい事があるって俺に言ったんだ」
「伝えて欲しい事……?」
そして御影はゆっくりと綾華の言葉を一護に伝える。
「お母さんはまだ君に会う事は出来ない。こんなダメなお母さんだけど、もう少し待っていてくれますか。お母さんはいつどこに居ても、君を愛してる。ずっと愛してる。……そう言っていた」
母からの伝言を伝える御影をじっと見つめながら、一護は黙ってその言葉を聞いていた。
「……僕、ずっと待ってる。大好きなお母さんが迎えに来るまでずっと待ってる!」
一護は涙を堪えながらも母の言葉を信じ、待ち続けることを誓った。
「そうか……その言葉、お母さんが聞いたら喜ぶだろうな」
御影は一護の言葉に安心し、微笑みながら優しく一護の頭を撫でた。
「強いな一護、でも寂しくなったらいつでも連絡くれよ?」
「うん!ありがとう!」
――一時間程話をした後、御影と旭は一護の居る児童養護施設を出た。車に戻り、旭は御影に問いかける――
「ねぇ……何でお母さんのこと、正直に言わなかったの?」
「……正直に言ってすぐすぐ受け止められる程子供の心は出来ちゃいない。一護君は頭が良いんだ。心の整理がついたら自分で調べて真実を知るだろ。俺達が伝えるべきなのは、母親からの言葉だ」
「……そっか〜……。一護、元気でやっていけるといいな〜」
「そうだな……。きっと大丈夫だ」
御影と旭は、一護のこれからの人生が豊かなものである事を願って、車を走らせた。
――二日後の昼頃。御影は相変わらず、探偵事務所で仕事をしていた。PCで情報を調べていると、あるニュースが流れてくる――
「十日の二十三時五十分頃、東京都○○区にて営業されていたキャバクラ店とその内部にあった違法カジノを摘発しました。経営者や従業員など合わせて二十人を逮捕しました。経営者の五十嵐 尚人容疑者は、違法カジノの経営や殺人教唆の罪で逮捕されました。従業員である望月綾華容疑者は詐欺罪の疑い、青木 俊容疑者は、殺人の疑いで逮捕されました。警察は今後も捜査を続けています」
そのニュースは、御影と旭が関わった事件のニュースだった。いずれ一護もこのニュースを目にするだろう。
御影はPCをそっと閉じるとデスクの椅子から立ち上がり、窓から外を眺める。
ここ一ヶ月間程、ずっと騒がしかったように思える。旭と共に過ごしていたため、久々に一人になるとどうも静かに感じられる。
「……静かだ……。そういえば旭、今回の仕事終わってから何も連絡無いな……。少しくらい挨拶してから出て行くのが礼儀じゃないのか……?本当に礼儀知らずな奴だな……」
御影は不貞腐れながら外を見ていると、見慣れた男が走って事務所に入って来るが見えた。御影が呆気にとられていると、勢いよく事務所の扉が開いた。
「こんにちはー!みかちゃん!俺、今日からみかちゃんの助手として、ここで働く事に決めました!」
そう高々と宣言した旭の発言に御影は、一瞬固まった。そして驚きのあまり声を張り上げた。
「……はぁ!?ここで働く!?」
「はい!働かせてくださーい!」
「……マジかよ……」
御影は苦笑いを浮かべる。
ようやく静かな日常が戻ってくると思っていた御影に、思わぬ出来事が起こった。再び、この男と仕事をすることになってしまうとは、夢にも思わなかった。勢いに押され、旭を雇うことになってしまった。
そんな御影と旭の物語が今始まる。
―― 第一章 情愛 [完] ――




