アジタート
――翌日の朝、御影と旭は警察署に到着した。二人は取り調べの為、部屋に通された。聴取は来栖ともう一人の警察官が担当する事となった――
「……キャバクラと闇カジノを運営してたの、金剛組って言う奴らだった。調べたらここ数年、裏社会でブイブイ言わせてたみたいね〜……あと、実はあの闇カジノ、組対がずっと追ってたのよ。でも中々、情報掴めなくてね。まぁ、あんた達のお陰で違法な店を潰す事が出来た。それには感謝するわ」
「いやいや〜それほどでも〜!」
来栖に褒められ、旭は嬉しそうに顔を緩める。すると、来栖は御影に顔をグイッと近づけて、じっと見つめる。
「でも〜?どうやってあのカジノを見つけたの?細かく説明して貰えるかな馬酔木さん?」
「はぁ……めんどくさ……」
御影は目線を逸らし、ため息混じりにそう言った。その態度が癪に障った来栖。
「めんどくさいって何よ!?……まぁいいわ。まず望月綾華さんを探す依頼は、どうゆう経緯で受けることになったの?」
「……こいつが連れて来た子供が、望月さんの息子でその子がご飯食べられてないからお母さんを探してくれって俺の所に2人で来たんだよ。そっから色々調べて、あのキャバクラ見つけたんだ」
「ふ〜ん……で、カジノの存在に気がついたの?」
来栖の問に元気よく手を挙げた旭。
「はいはい!俺が偶然、綾華さんと安藤さんが言い争いをしてるのを聞いて、その後に安藤さんと俺が話したんです!それで、安藤さんからカジノについて聞かされて知りました!」
「なるほどね……安藤さんって……あの事件の被害者の安藤治さん?……まさか……!」
来栖は聞き馴染みのある名前に、ハッとした表情をする。
「お?気づいたか?」
来栖は思いっきり息を吐いて、何だか納得した様子。
「はぁ〜……なるほどね……あんたらが首突っ込んだ訳が分かったわ。だから次の犠牲者が出るって私に言ったのね……」
「その通り。それと……多分あのボーイの人……自首すると思う」
「何で?」
御影のその言葉に来栖は、首を傾げた。御影はその訳を話し始める。
「顔がずっと怯えてた。……ボーイの人もきっと五十嵐に脅されてたんだろうな」
「怯えてる?そうは見えなかったけど……?」
「何となく……俺にはそう見えたんだ」
「相変わらず、人間観察が好きね〜……」
「言い方が悪いな……せめて心理学に詳しいとか言えよ……」
「あーはいはい。馬酔木さんは心理学にお詳しいんですね〜」
「うわ……ムカつく……」
来栖の小馬鹿にした様な言い方に、御影は不満そうに呟いた。
そんな御影の頬を見て、来栖は昨日のことを思い出す。
「あ……てか、あんた。なんで抵抗もせず殴られわけ?昔のあんたなら、相手の腕へし折るくらいしそうなのに」
「俺がそんな野蛮な人間だと思ってるのか……?わざとに決まってるだろ。相手がどんな人物かを探る為にわざと煽ってみた。そしたらぶん殴ってきたから、あ〜こうゆう、カッとなりやすい人なんだって分かったし」
「なるほどね……でも、自分の体大切にしなさいよ?自分を犠牲に犯人を捕まえたところで、あんたが壊れたら元も子もないんだから。いずれ、自分の身を滅ぼすよ?それにあんたはもう……警察じゃない……。あんまり危険な事はしないでよ?」
「はぁ……分かったよ……」
その来栖の言葉に御影はため息をつきながらも、来栖に心配をかけないようにそう言った。
「まぁ、あんた達の情報を元にまた色々調べるわ。今日はありがと。帰っていいわよ」
「あれ、もういいの?」
「大体は分かったし、これ以上馬酔木を拘束してると機嫌悪くなっちゃうから」
「帰るぞ……」
御影は荷物を持ち立ち上がる。さして部屋の扉を開け帰ろうとすると、目の前に見知った男が立っていた。
その男を見た御影は、唾を飲む。
「おぉ……馬酔木か……久しいな」
「……どうも……」
御影は明らかに暗い表情を見せ、その場から逃げようとした。男は御影の腕をガっと掴み、引き止める。
「おいおい、元上司から逃げようとするなよ……久しぶりに会ったんだ、少しくらい良いだろ」
そのやり取りを部屋の中から見ていた旭は、来栖に尋ねる。
「ねぇ。あの人だれ?……なんか、みかちゃん……様子おかしくない?」
「あの人は加賀美 総司郎警視総監。まぁ昔、色々あってね……てか、なんであの人がここに……」
するとドアの前で話していた加賀美は御影の顔を見て鼻で笑う。
「てか、なんだそのツラ……犯人に殴られたのか?情けない(笑)」
「……いや、まぁ……はい……」
御影は加賀美に反論する訳でもなく、弱々しくそう言った。
「警察辞めてから、腕が訛ったんじゃないのか?もっとシャキッとせんと、これから大変だぞ」
「……ご心配ありがとうございます……」
そう言い御影は加賀美の横を通り過ぎようとしたが、加賀美に再び腕を引っ張られる。
「どこ行くんだ?まだ話したい事が山ほどあるんだが」
「……私は何も話したくありませんが」
「相変わらずふてぶてしい態度だな。少しは私の昇格した祝いの言葉でもかけて欲しいものだ。」
御影は終始暗い顔をしている。その様子を見ていた旭は、立ち上がり部屋から出ると、御影の肩に両手を置いて話し始める。
「こんにちはー!加賀美さん!すみませんが、これから俺達出掛けるんで失礼しまーす!」
「ん?君は誰だ?」
旭を見て、加賀美は怪訝な表情をする。
「みかちゃんと最近一緒に働いてる、旭でーす!」
そう元気に挨拶をする旭をじっと見つめると、なんだか既視感を覚えた。
「ん……?何か見た事ある顔だな……。まぁ、気のせいか……。ふん、こんな馬鹿そうな奴と働いてるとお前まで馬鹿になるぞ馬酔木」
加賀美の一言に少し傷つく旭だったが、あまり気にしないことにした。
「……失礼します」
「失礼しまーす!」
御影は加賀美に軽く一礼し、旭に押される形で廊下に出て行く。
突然の加賀美との再会に緊張した御影は、ため息をついた。
「はぁ……喉乾いた……そこの自販機で飲み物買ってくる」
「おっけ〜……」
そう言うと御影は外の自販機で飲み物を買いに行った。すると、背後から足音が聞こえて来たのに気が付き振り返ると、加賀美がこっちに向かってくる。
そして旭に話しかける。
「おい、旭と言ったな……少しいいか……」
「もぉ〜……なんですか?」
旭は面倒くさそうにするが、一応要件を聞くことにした。そして加賀美は、旭をじっと見つめながら口を開く。
「……お前……苗字は?」
旭はその問に一瞬、口を噤んだ。そして、加賀美に笑顔を向けて答える。
「……犬飼ですけど?」
「犬飼……」
加賀美は旭の苗字を聞いて、何かに気がついたようだ。
「で……俺に何かご用でしょうか……?」
旭は不敵な笑みを浮かべながら答えた。
その表情に加賀美は、ブワッと鳥肌が立った。
「……まさか、そんなこと、聞くために引き止めたんですか?警視総監は、お暇なんですか〜?……もう、行きますね」
旭はそう嫌味を吐き捨て、その場を後にした。加賀美は、黙ったまま旭の背中を見送った。そして一言、呟いた。
「……似てる」
――次回へ続く――
加賀美警視総監は、御影の元上司。実はたまたま近くに用があり、警察署に御影が来ることを知った加賀美は、御影の体が心配で会い来た優しい人です。




