愛する心
――店の奥にある秘密の空間。そこには違法カジノやドラッグを楽しむ人々が大勢いた。そして、御影の前に現れたオーナーの五十嵐は、前の席に座り話を始める――
「いや〜AYAのことを気に入ってくれたようで何よりです」
「えぇ、AYAさんは美人で対応も素晴らしいですから」
「それはどうも。ところで最近……AYAの周りを嗅ぎ回っている輩が居るとの情報がありましてね。何かご存知ありませんか?」
「それは大変ですね。夜の街は危険ですから」
「えぇ、その通り。キャストの安全を守るのは我々の仕事でもありますからね」
「素晴らしい職場ですね」
御影は察していた。五十嵐に明らかに怪しまれている。
しばしの沈黙が流れた。そして、ゆっくりと五十嵐は話し始めた。
「……馬酔木さん、お聞きしたいのだが、貴方会社の社長というの……嘘でしょう?」
「……。それは……何を根拠に?」
御影は五十嵐の言葉に動揺せず、平常心を保ち微笑みながら聞き返した。
「一度も聞いた事のない会社名。それに……」
五十嵐が手にしているのは、御影が仕掛けた盗聴器。
御影は五十嵐の観察眼に関心する。
「どこまで聞いていたのかは知らんが、これを仕掛けたのは貴様だろう?」
「おや……バレていましたか(笑)……そうですよ?私は社長でも何でもありません」
御影は仕掛けた盗聴器がバレたのにも関わらず、鼻で笑った。その態度は、まるで五十嵐を試しているかのようだった。
すると五十嵐は御影の態度が気に食わないのか立ち上がり、御影の胸ぐらを掴んだ。
「貴様……今の自分の立場が……分かっていないのか」
「えぇ……分かりませんね」
御影は不敵な笑みを浮かべながら、五十嵐を煽る様に言った。
「貴様……!」
五十嵐は怒りに身を任せ御影の顔を殴りつけた。ソファに倒れ込む御影。御影は殴られた衝撃で、鼻血が垂れている。それを腕で拭う。左頬がズキズキと痛む。
五十嵐は御影の髪を掴んみ起こし、持っていた銃を御影の額に突きつける。
その光景に周囲は驚き、悲鳴をあげる者もいた。
「なぜ我々を探るような真似をしているんだ。何が目的だ」
「……いや〜そんな怖い顔しないで下さいよオーナー。私はただ仕事をしに来ているだけです」
「……仕事だと?」
「えぇ、仕事です。私は探偵なんですよ。ある人に依頼されて人探しをしていたんです」
「誰を探してこんな所に来たんだ?」
「AYA……望月綾華さんですよ」
「綾華だと……?もしや、あいつが?誰が依頼者だ?」
「それは言えませんよ……秘密情報です」
「……言わないのなら吐かせるまでだ。それと……さっき入った情報がある……。望月一浩とマキが失踪した……。貴様が何かしたのか……」
「さぁ?……私は何もしていませんよ」
「……知らばっくれるな!」
五十嵐は向けた銃口をさらに強く御影の額に押し付けた。
すると、奥からドリンクを持った綾華がこちらに向かって来た。綾華はその光景に驚き、小さな悲鳴をあげ持っていたドリンクを落としてしまう。グラスが割れて中に入っていた酒が散らばる。
「み、御影さん!?オーナー!?ど、どうしたんですか……!?」
「……お前は下がっていろ。今、取り込み中だ」
「で、でも……」
「下がっていろ!!!」
五十嵐が綾華に向かって怒号を浴びせる。それに驚いた綾華は後ろに下がろうとしたが、それを御影は引き止める。
「綾華さん……!私は貴方を探す為にここに来ました。そして貴方のお陰で望月一浩、マキさんを警察に保護してもらう事が出来ました。次の犠牲者が生まれなくて良かった。ありがとう……」
御影は綾華の方を見つめ、優しい笑顔でそう言った。
「御影さん……」
「やはり貴様が奴らを逃がしたのか……!」
「ねぇ……五十嵐さん。貴方、安藤治さんを口封じの為に殺す事をボーイの方に命じましたね?」
五十嵐は図星を付かれ、一瞬表情が強ばる。
御影はそれを見て、追撃をする。
「安藤さんは、金回りの良い社長さんでした。けど最近事業が傾き、金が払いきれなくなっていった……だからここを出禁にし、このカジノの存在を知られない為に殺した……ですよね?」
「……!何もかも知っていたとはな……。じゃあ、貴様も生きて返せんな」
五十嵐は静かに怒り、引き金を引こうとした。
「やめて!!!」
すると綾華が五十嵐に一喝した。その声に五十嵐は、綾華を睨みつける。
「AYA……お前は黙っていろ。……お前の旦那が仕出かした事の尻拭いをするのが妻だろ。……だが何故、旦那の居場所を探すよう警察に言ったんだ?旦那が死ねば、お前はこんな事しなくていいんだぞ?」
「私は……確かにあの人が憎いです。でも、私はあの人に生きて慰謝料と養育費を払って罪を償って欲しい……。たとえ浮気されたとはいえ、一度は愛した人です。……死んで欲しくありません!」
綾華は泣きながらそう訴えた。五十嵐は大きくため息をついた。
「……訳の分からん奴だな……じゃあ、お前も死ね……」
五十嵐は冷たくそう言い放ち、銃口を御影から綾華に移し、引き金を引こうとしたその瞬間。
扉が思いっきり開き、警察官がぞろぞろ入って来た。
「動くな!」
「け、警察だと!?何故だ……!」
五十嵐が戸惑っている隙に御影は、五十嵐の腕を掴み、持っていた銃を凄い速さで奪い取った。そして五十嵐に銃口を向ける。
「な……!」
「降参しろ。お前に勝ち目はない」
「何を言う……。私は降参などしない」
「おや……貴方こそ、自分の立場をお分かりで?」
御影は不敵な笑みを浮かべながら、そう言った。五十嵐は苦虫を噛み潰したような顔を御影に向ける。
「……警察の皆さん、お願いします」
御影の一声で、警察官数人が部屋に入り五十嵐を確保した。他の客やキャストもそこを動かぬ様、警察に止められていた。
御影がテーブルに銃を置き、ドアの方を見ると大勢の警察官の中に来栖と旭がいた。
「……まさかこのタイミングで警察が来るなんてな……」
御影が視線を逸らしている間に背後で、綾華が御影の置いた銃を手に取った。
すると連行されている五十嵐の背中に銃口を向けた。突然の事で、その場に居る全員が驚いた。
「よくも……私の人生めちゃくちゃにしやがって……!貴方も殺して私も死ぬ!それで全部終わりよ!!!」
「銃を下ろしなさい!」
警察の制止も聞かず、綾華は震える手で銃を握っていた。
「いやよ!……この店があったからあの人が浮気した。貴方が居るから私はここで尻拭いをさせられた。……この店も貴方も私も全部壊す……!」
綾華は泣きながらそう言った。
警察官が綾華を取り囲もうとする寸前で、御影が綾華の前に立ち、綾華の持っている銃の銃口を握った。
「……それはダメだ。綾華さん……私達は貴女の息子さんから依頼を受けて貴女を探していました。貴女が居なくなっては息子さん……一護君は、本当に一人になってしまいます。私達は一護君と約束しました。必ずお母さんを見つけると。……貴女は生きて、一護君を抱きしめてあげてください。貴女は一護君を心から愛している……だから、嫌々でもこの仕事をしていた……いや……この仕事しか無かった……そうですね?この銃を下ろしてください……。一護君の為にも、貴女の為にも……」
綾華は泣きながらゆっくりと銃を下ろした。
手から銃が落ちると同時に綾華は顔を覆い泣き崩れた。
「ぅぅ……ごめんね……ごめんね一護……ぅぅ……ごめんね……」
――その後、その場に居た綾華や他の客やキャスト達も事情聴取の為、同行された。
同行される前、綾華は御影に言いたい事があると御影の前に立った――
「……御影さん……ありがとうございました。……一護が私を探すように貴方に依頼したんですね……。でもこんな事に巻き込んでしまいました……。きっと私は逮捕されてしまいます。一護とはまだ会えないと思います。……ですから御影さん……伝言をいいですか……?」
「えぇ、もちろんです」
「ありがとうございます……。では、一護にこう伝えてください……。一護、私はまだ貴方に会うことが出来ません。こんなダメな母親の事、もう少しだけ待っていてくれますか。……一護、私はいつ何処に居ても……貴方を愛してる、ずっ……と愛してるって……」
「……分かりました。必ず……伝えます」
綾華は御影のその言葉に安心したのか、目に涙を浮かべながら頷き微笑んだ。
警察と共に扉の前まで来た綾華は振り返り、御影と旭の居る方向に深くお辞儀をした。
綾華を見送った後、旭は御影にハンカチを渡し御影は鼻血を拭った。すると御影が口を開く。
「……母親の……愛……か……。俺には……分からないな……」
それを聞いた旭は御影の方を見た。
「……みかちゃんは……分からないの?」
「……そうだな……。俺は親に愛された事が無かったからな」
「……。そっか……」
少しの沈黙が流れた後、御影は思い出したように旭に問いかける。
「……あ!てか、なんで警察呼んだんだよ!?」
「え?何でって……みかちゃんが危ない目に会ったら大変だと思って、途中から来栖さんに来てもらってたよ?その後に来栖さんが応援を呼んで今に至る!」
「かぁ〜……」
元気よく答えた旭に対して御影は呆れた様に上を向き頭を抱えた。
「え?どしたん?今更、鼻血止めるようとしてるの?もう止まってるよ?」
「馬鹿……そうじゃねぇよ……」
すると来栖がドカドカと近づいてきて、二人に話しかける。
「はい、二人とも事情聴取しますよ〜署にきてくださーい」
「ほら来た……。はぁ……これだから警察は呼びたくなかったんだ……」
御影は苦い顔をしながらそう言った。それを見た旭は、御影が何故警察を呼びたがらなかったか理解した。
「あ〜なるほど?でもそんなに嫌?」
「嫌だろ!元職場に顔出すとか無理!」
「は〜い、駄々こねないでくださーい!まぁ、あんた怪我してるし、明日病院行ってから署に来てくれればいいから。その時に色々聞かせて貰いますよー!」
そう言い来栖は二人の背中を押しながら、部屋を出た。
――次回へ続く――




