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日影血戦  作者: 最上優矢
第1部 日影血戦

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第9話 鬼畜の前ではケダモノは無力 ~現実世界編~

 ちょうど能登家の狭くて暑い玄関では、女子二人がきゃあきゃあと盛り上がっていたところだった。

 来客は何度か能登家に遊びに来たことのある江藤飛鳥(えとうあすか)ちゃんという、中背のあどけない顔つきをした黒髪ツインテール少女で、たちまち俺の胸はときめいた。


 彼女は大人びた紫色のワンピースを着ていて……あぁ、もう我慢できない!


 欲情した俺は「飛鳥たんラブ!」と叫び、彼女に抱きつこうとした――が、それを穂乃香に阻まれる。


「こぉらぁ! ケダモノか、己は。少しは自制ってもんを覚えなさいよね」


 あばら骨への強烈な肘打ち、腹部への華麗なる正拳、スネへの致命的な足蹴り――。


 再起、不能。


「ぐふっ……瀕死ぃ」


 たまらず俺は床に倒れ、痛みに悶えた。

 そんな俺に哀れみのまなざしを向けるのは、誰であろう飛鳥ちゃんだった。


「大丈夫……? わたしのお父様、金色(こんじき)病院の理事長だから。そこで診てもらうー?」


 天使か、あなたは。


「ダメダメ、ダメよ、飛鳥。こんな害虫は、これだけ痛めつけても元気いっぱいなんだから」

「そうなのー?」


 そんなわけあるか! お前は鬼畜なのか、穂乃香よ。


 そう思ったが、口には出さずにしておいた。

 じゃないと、第二波の攻撃を受けそうで恐ろしかったからだ。


 俺の苦悩とは別にして、穂乃香と飛鳥ちゃんの会話はまだまだ漫才のように続いた。


「そうそう。前なんか、殺虫剤をかけても、数秒後には嬉しそうに白目をむいて泡を噴いてたんだからね」

「えー! 何それぇ、変態なのかな」

「それも失禁しながらよ」

「やだぁ、いやらしい~」


「こいつは隙あらば、変態なことをするのよねぇ。良い子で可憐な妹としては、ほんと困ったわ」

「譲くんも男の子だから、仕方ないとは思うけど、でもねぇ」

「もうちょっとしっかりしてくれれば、アタシも素直になれるんだけど、今のようなゆず兄には心を開けないかな」

「あ、そっか。そういえば、穂乃香ちゃんはお兄さんのこと……そういえば、そうだったよね」

「うん、恥ずかしくもそうなのよ」


 ……ムクリ。


「なんの話だね、可憐なるおにゃのこたちよ」

「あら、復活したのね、ゆず兄」

「譲くんったら、偉い偉いー」


 俺はシャキーンと立ち上がると、一礼。


「この譲、死してもなお健在な模様」


 歯を見せてキラーンと笑うと、穂乃香から思い切り嫌な顔をされた。


「歯にニンジン、挟まってるわよ」

「ふふっ、歯磨きしてきたら~?」

「……そうしまふ」


 赤っ恥をかいた俺はスゴスゴと退散して、しょんぼりと洗面所で歯を磨くことにした。

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