新たな日々とフローラの変化
それからは怒涛の日々が始まった。
仕事はこれまで任されていた範疇を超えたことで、自分が今までどれほどブランカに甘えてきたのかを実感させた。
政務はルシャード陛下が引き受けているとはいえ……それでもやはり、仕事量が多い。
私はこの親子に、改めて畏敬の念を抱き始めていた。
次期後継者という重責を背負いながら可愛らしく愛嬌を振りまくことなど、ブランカのほんの一面に過ぎなかったのだ。
それに加えて恋人たちとの逢瀬や友人たちとのお茶会にも参加し、時折継母に意地悪を言いに会いに来たりしていたのだから……一体どうやって時間を捻出していたのかと、彼女の仕事術に興味を持ってしまうほどだった。
若さゆえの抜群の体力もあるのでしょうけど……心底羨ましいと思ってしまったのも事実。
とはいえ仕事が増えるのは当然というか、想定の範囲内のこと。
心理的な難所といえば……やはり、家族間の――というよりもルシャード陛下を含む――集まりであった。
はじめのうちは数日に一度程度、陛下やブランカに誘われて共にティータイムを過ごした。
ブランカは表立っては謹慎中のため、どちらにせよ私的な場でしか会うことはできないのだけど。
本人の性質なのか、それとも何か吹っ切れたのか。
そう時間もかからないうちにブランカはその場の気まずさをものともせず、私と陛下に自然体で話しかけてくれるようになっていた。
本当に、これにどれほど救われたことか……。
私は私で、この家族での集まりに慣れていった。
立ち向かうと決めた以上、そうしなければならないとも思っていた。
いつまで経っても気詰まりだなんて言っていられないし、このままではいけないことは十分に痛感していたのだから。
それに人間、苦手意識を持っていても何度も繰り返せば次第に慣れていくものだったらしい。
集まる機会を重ねていくにつれ、あの人に対して何年も抱き続けてきた複雑な感情も……擦り切れるように少しずつ薄れていった。
向こうも顔を合わせる機会を増やそうと提案してきた以上、変わろうとしているのかもしれない。
気を緩めようと努める……というのもおかしな話ではあるんだけど、自分の発する威圧的なオーラを抑えようとしているようにも感じられた。
少なくとも、私が外面を取り繕っていられる程度には無害だった。
ブランカのおかげもあって、どうしても拭い去れなかった警戒心も次第に薄れていった。
今では当初のルシャード陛下の提案通り、毎朝朝食を三人で摂るようになったのは大きな進歩と言えるだろう。
はたから見れば……睦まじい家族の光景にも、見えなくもないかもしれない。
少なくとも、理想に一歩近づいたと思いたい。
***
「――それで、ブランカったらそんなことを言ったんですよ。もう面白くて」
「……そう。あの小娘らしいわね」
その日の出来事をフローラに話すのは既に日課となっていた。
特に変わらない、いつもの日常。
けれど最近……フローラの様子が、どことなくおかしい。
相も変わらず美しい容姿に、私への日々の美容チェックに指導。
受け答えの内容もやっぱりフローラで……だけど、何かが引っかかるのだ。
美しい、けれどどこか精彩を欠いたような。
言葉に、どこか歯切れがないような。
視線が……やけに、寂し気なような。
時折、表情に焦燥感のようなものが混じっているように感じることもあった。
そんなフローラの様子に、私の心もざわつきはじめた。
もしかすると、些細なことなのかもしれない。
けれど私には、決してそうは思えなかった。
当然、それとなく尋ねたこともある。
けれど……なんでもなさそうに、うまくはぐらかされてしまった。
向こうの家族や仕事の事情かもしれないので、深く踏み込むことは躊躇われた。
私に言える類のことならフローラから話してくれるだろうと、そんな願望めいた思いもあった。
しばらく経っても、フローラの様子は変わらなかった。
今の状態に繋がる打ち明け話のようなものは、ない。
意を決して、家族や仕事のことに関して尋ねてみたけれど……いたって順調そのもののようだった。
だったら――いったい、どうしたというの?
流石に、このままにしておくわけにはいかない。
もしフローラが何か無理をしているのなら、それを少しでも軽くしてあげたい。
たとえ私なんかではどうにもできなくても……どんなことでも応援しているのだと、少しでも支えたいのだと伝えたい。
――私を変えてくれた、貴方だから。
そう思っていても……意気地なしな私は、なかなか勇気が出なかった。
フローラも、自身の様子を私が気にしていることには気づいているのだろう。
最近では、こちらが何かを言う前に「大丈夫よ、気にしないで頂戴」と口にするようになっていた。
それはそれで、寂しいと感じてしまう。
話したくないことを、無理に聞き出すような真似はしたくない。
けれど……『らしくない』フローラを見るのは、心が痛む。
ようやく私が意を決して一歩踏み出したのは、夏を超え秋を通り越し――初冬に差し掛かったころだった。
フローラの告げた内容に、どれほど打ちのめされるのか……このときの私は、まだ知らない。




