家族会議、からの
「つ、疲れたぁ~~~~!!!」
「でしょうね……。お疲れ様、ヒルデ」
鏡を繋げるなり情けない声を出した私に、今日ばかりはフローラも寛容だった。
労わるような視線を向けられ、ゆるゆると力が抜けていく。
「何がしんどいって、家族会議からのお茶会ですよ……! ブランカと二人ならともかく、まさか陛下も参加されるなんて思わないじゃないですか」
「あら、本当に家族の為に時間を作ったのね」
「別に悪いとは言いませんけど、慣らすにしても少しずつじゃないとお互いに辛いばかりだと思います」
微妙な空気が漂っていたお茶会の席を思い出して、両手で顔を覆う。
お茶に誘ってきたのは意外にもルシャード陛下だった。
断る理由も勇気もなかった私の挙動が非常にぎこちないものだったのはご愛敬だろう。
無愛想な陛下と気を張っている私を尻目に、ブランカだけはお気に入りのお茶とお菓子が用意されていたことでご機嫌に見えたけれど、なんだかんだ彼女なりに気を遣った上で明るく振舞ってくれていたであろうことは想像に難くない。
「正直、お茶の味なんてわかりませんでしたよ……。ブランカがカモミールティーを気に入ってくれたのは嬉しいですけど」
先日のブランカとのお茶会で用意した、青からピンクに色が変わるお茶。
それにブレンドしたカモミールのリンゴに似た甘い香りがいたくお気に召したようで、嬉しそうに蜂蜜を垂らしていた姿が印象的だった。
とはいえ、ほのぼのできたのはそこだけ。
結局お茶会は、あれこれと話題を振ってくれるブランカに私と陛下が相槌を打つという、何とも気まずい空気のまま終わった。
ボソボソとした私のお茶会報告を聞いたフローラは、やれやれと首を振る。
「はじめのうちは仕方ないんじゃないかしら。だってアンタたち、ようやく家族としてのスタートラインに立ったようなものでしょう?」
「それもそうですね……」
そもそもブランカとの仲がこれほど早く改善できたことが奇跡なのだ。
フローラの言う通り、すぐにどうこうできるような問題でもない。
「フローラ、ありがとうございます。おかげで随分楽になりました」
「そう? ならよかったわ」
にこりと笑って見せれば、フローラも安心したように頬を緩めた。
うーん、眼福。
ようやく通常運転に戻った私は、そのままフローラに家族会議の様子もぽつぽつとかいつまんで伝えた。
新しい内容と呼べるものはほぼないけれど、護衛や騎士団について、そして怪しい侍女たちやロスバーグ侯爵夫人関係について話せば、フローラは困ったように眉を下げる。
「どこも問題を抱えているとはいえ……アタシ、そっちの事情に首を突っ込み過ぎじゃないかしら?」
「それはまぁ、今更じゃないですか」
「そうなのよねぇ」
あっさりと認めれば、フローラも一緒に頷く。
思いがけない出会いから、美容指導が始まり……色々あって、割となんでも共有する仲になったわけで。
少し前にお互いの過去を話して以来、より信頼できる間柄になったように感じている。
もちろん自分なりに線引きはしているつもりだし、フローラもここで得た情報を悪用しないだろう。
「それに……こうも離れていては、介入のしようもないですし」
「あら、そんなのわからないわよ?」
「もう、フローラったら……」
冗談を言うフローラに思わず笑ってしまう。
そんなことをしてもなんの得にもならないでしょうに。
私としては、話を聞いてもらえるだけでありがたいのだ。
その上的確な助言まで享受している今となっては、フローラの支えなしではやっていけないとすら思ってしまう。
「――重たい話はこんなところですかね。さ、何か楽しいことでもお話ししましょう」
気持ちを切り替えるように軽く手を叩けば、フローラがパッと顔を綻ばせた。
それだけで一気に場が華やぐのだから、やっぱりこのオネェは凄い。
待ってましたとばかりに紙束を取り出したフローラの随分と楽しそうな姿に、こちらも嬉しくなる。
「ここにいくつか新しいドレスの案を出してあるの。ヒルデの意見も聞かせてくれるかしら」
「わぁ! どれも素敵ですね」
色とりどりのデザイン画に目を輝かせる。
見ているだけでも楽しいのに、そこには細かな注釈まで入れられていて、もはやプロの域である。
フローラは、今の私を作り上げたと言っても過言ではないわけで。
私の好みも把握してくれているので、驚くほど華美で遠慮したくなるようなデザインは含まれていない。
本当にどれも素敵で、目移りしてしまう。
「気に入ったなら、全部作れば良いのよ」
「まさか、そんなわけにも……いく、のかも?」
「いくいく。いくに決まってんでしょーがっ! 仕立て担当のお針子チーム、これまでの注文をとんでもないスピードで嬉々として仕上げてきてるんだから、大量発注した日には狂喜乱舞するわよ!?」
「そ、そこまではわかりませんけど……これからのことを考えれば、それなりの数も入用になりますか」
これまでブランカ任せにしてきた仕事はもちろん、ブランカが表に出られなくなった分も引き受けると決めたのだ。
流石に王妃が同じ服ばっかりというわけにもいかないだろうし、その辺は必要経費と割り切るしかない。
「んもー、ヒルデったら慎ましいんだから!! お洒落ってのはね、『必要』だからするもんじゃないのよ!?」
「うっ……!」
その後私は、フローラに残念な子を見るような目で滔々とお洒落についての心構えを説かれたのだった。




