第四十五話 守人
村が巨兵に蹂躙されていた。
歩くだけで地面抉れ、道が、牧場が破壊される。踏み潰されると小屋が家が人が潰されていく。
人々は逃げるだけで精一杯だった。しかも、逃げる人々に襲い掛かるのは巨兵だけではない。ゲッシュトラッシュが無力な村人を食い殺していく。
「いや……こないでー!!」
女の子が獣に襲われ、毒牙にかかるその瞬間、獣は悲鳴をあげて倒れこむ。獣の弱点である喉元にナイフは突き刺さっていた。
顔を上げた女の子が見たものはつば広帽子を被りナイフを構えた格好付けの男性だった。
「無事かい、譲ちゃん? まだ立てるなら、逃げるんだ。無理ならお母さんを探すんだ」
男性は帽子を少し上げると、女の子に笑って見せる。
「俺はキッド、ただのキッドさ!」
女の子が少し安心したのを感じるとキッドはナイフをしまう。
「何をやっている。お前にはやる事があるだろう?」
白い制服に黒い長髪の女性がキッドを見下ろしていた。
「オーケイ。やるべき事をやりますか! 守護起動 守護双撃 デュエリアル!」
キッドが取り出した赤いカードを掲げると、赤い光りに包まれる。
その後に巨大な赤のガーディアン、デュエリアルが立っていた。
「よし! それじゃ行くぜ! ガトリングトルネード!」
二丁拳銃を構えたデュエリアルはすぐに射撃を始める。弾丸を竜巻のように浴びせていくとあっという間に巨兵はその機能を停止する。ナイト程度の巨兵では全く脅威にならない。
「どうだい、譲ちゃん! 早く逃げるんだぞ」
手を振る女の子を見送ったキッドはデュエリアルから降りようとした瞬間、巨兵がすぐ隣に瞬間移動してきた。
「なに? 何だ?」
瞬間移動してきたのは1機だけではない。気が付けばデュエリアルの周囲に10を超える巨兵が取り囲んでいた。
言うが早くデュエリアルは射撃で巨兵の頭部を潰す。そして、周囲に向けて射撃の嵐をお見舞いする。
「1機! 2機! 3機! ……」
ポーン、ナイト、ルーク関係なしに頭部だけ綺麗に撃ち抜いていく。それには例外はない。頭部を撃ち抜かれた巨兵は瞬く間に機能を停止していく。
「14機! 15機! ラスト……16機!」
デュエリアルの周囲に現れた16の巨兵は5分と立たずに全滅した。
結果だけ見ればキッドの完勝だったが、どうにも腑に落ちないものがあった。
「メントレイク! こいつはどうなってやがる。数が多すぎるぞ」
「これは何かの前触れかもしれないわね。気をつけて、まだまだくるみたいよ」
メントレイクの言うとおり、次々に巨兵が瞬間移動してくる。その数は不明。あまりにも多すぎてキッドでは測りきれない。
「とにかくやるしかねぇ! お前も逃げとけよ」
「言われなくても!」
メントレイクを背にデュエリアルは巨兵へ射撃を連発する。
宗二に負けてからキッドは各地を回りながらその腕を磨いていた。その結果、思う場所へ6発同じ場所へ撃ち込めるようになった。
もう、巨兵相手なら負けることはなかった。
そんなデュエリアルにルーク型がミサイルを放ってきた。
「そんな悪あがきしてんじゃねぇぞ!」
迫るミサイルをことごとく撃ち落していく。それは完全にミサイルを無効化し、かつ頭部も確実に打ち抜いていた。
向かうところ敵なし、数が多ければ的が多いだけのことで何の障害にもならない。
そんな中、形の違う宙に浮く巨兵らしきものが現れた。
腕は肘から先を広げた独特な格好をしていた。
キッドにとっては初めて出会う巨兵だが、それはたいした問題じゃない。頭部さえ潰せば終わり。そのはずだった。
「冗談かよ……」
デュエリアルが放った6発一点集中射撃を受けても巨兵は無傷だった。
キッドは警戒しながらも全身へ射撃を試みた。全身を攻撃すれば、弱点も見えるだろうと考えた。
だが、それは徒労に終わった。
全ての攻撃を受けても傷一つ負うことはなかった。
「気をつけなさい! そいつは今までとはまるで違う!」
「承知している!」
メントレイクの言葉は既にキッドは理解していた。それでも、キッドの頭の中は冷静になり思考の余裕が出てきた。
銃弾は装甲に弾かれたわけではない。はっきりとはいえないが、何か別のもので弾いている。弾の跳ね返りが装甲のものとは異なっている。いうなれば、アディバイスのバリア。あれに近い。
「これならどうだ!」
12弾集中射撃。一点に打ち込む数を増やしバリアを貫く。単発の威力が低いこの射撃で貫通力を底上げする唯一の方法。キッドはそれに自信を持っていた。
だが、相手は無傷だった。
「ちっ! なんなんだあの野郎!」
キッドは苛立ちながらも攻撃を続ける。勝つには攻撃しなければならない。それを休む暇などなかった。
巨兵の頭部にある隙間から赤く光った瞬間、デュエリアルの周囲がぐにゃりと歪む。
そして、左腕をひねり潰した。
「ぐぁぁぁ!」
激しい痛みに耐え、奥歯を噛み締める。初めて受ける激痛に意識を持っていかれそうになるが、何とか踏みとどまる。
痛みのせいで動悸が高まり、汗が滲み出てくる。
キッドにとって何が起こったのか全く理解ができない。
だが、これが攻撃だということすら。
「まだだ! まだ!」
デュエリアルは残った右腕で攻撃を続ける。だが、キッドも巨兵のバリアを討ちぬけないとわかっていた。それでも、攻撃を止めるわけにはいかない。ここで、村を捨てて逃げることは頭にない。
「!!!」
次は右足が捩れ、切断される。痛みが限界を超えてキッドはデュエリアルと共に沈黙してしまう。うつぶせに倒れたそれはこれ以上の行動は不可能だった。
だが、キッドはすぐに意識を取り戻す。殆どの機能が停止している中、かろうじて右手だけ動かせた。
銃口を巨兵に合わせることができたが、トリガーを引けない。指に力が入らなかった。
そんなキッドの目の前で、村が歪んでつぶれていく様が見えた。
「やめろ……やめろーー!!」
キッドの声はむなしく響き、村は完全に潰されてしまった。
逃げ遅れた人々、そして、さっき助けた女の子。全てが歪んで、捩れて、潰されてしまった。
全力を振り絞り、かろうじてトリガーを引くことができた。
その弾丸は巨兵に当たると跳ね返り、地面に落ちた。
キッドは自分の力が全く通用しないことを理解してしまった。
戦意を刈り取られたキッドは瞳を閉じた。




