第四十四話 王都防衛
ここ王都は巨兵により住まう場所を失った人々を受け入れている。
守護者を駆る3人を汚染地帯へ送り出してから3週間。巨兵の対抗手段が殆どなくなっており、王都を守ることで精一杯になっていた。
当然、他都市を守る事ができず、巨兵に蹂躙されることを許す他はなかった。だが、国の為に死ねということなどできない。3人が本拠地を殲滅し巨兵の脅威が去るまでは、人々を守らなくてはならない。
そのために、王都は門を開き避難してくる人々を受け入れる準備があるのだ。
「これでお仕舞いよ!」
王都の城壁付近で守護霊迅ザインズ・サイレスが巨兵と戦っていた。王都だけは絶対防衛を貫き、人類最後の砦として機能している。
2体の巨兵が1体の巨兵を押さえ付けている状況からの、ザインズ・サイレスの一撃であっけなく首を刈り取る。
ザインズ・サイレスには巨兵を操る機能が存在している。そのために、巨兵を戦力とし運用する事が可能である。だが、細かい指示ができないために単体で運用する事ができないことが難点である。
「ファティマ、よくやってくれました」
戦場となっていた城壁の上には大臣のドゥメジティがその様子を観察していた。彼がここで守護霊迅を見守っていたのには理由がある。
「怖い人、見てたかしら? うまくいったわ」
彼の最近の仕事はファティマのお守りだった。
今の王都では他にやるべきことは山盛りなのだが、防衛できなければ意味がない。ファティマの精神状態が不安定なために、心のケアは欠かせない。
「大変助かりました。早く戻ってください」
ドゥメジティの言葉に従うファティマはザインズ・サイレスから降りると、城門の中に向かっていく。
操作するザインズ・サイレスがいなくなった為に巨兵は鳴りを潜め全く動かなくなった。それに不安を覚える人もいるが、王都を守っているという意見もあり、特に大きな混乱には至っていない。
「よく頑張りましたね」
「お兄ちゃんの役に立ったっているかしら?」
「はい、それはもう」
1ヶ月、長い時間、ただ待つしかないという現状は消耗する一方だった。ファティマも頑張っているが、最近精細を欠いている。巨兵が倒れるのが先か、人類が倒れるのが先か、もうすぐそれがわかるだろう。
「さぁ、今日はもう休みましょう。夕飯には蜂蜜をたっぷりかけたパンケーキにしてもらいましょう」
「本当? パンケーキは大好きよ、嬉しいわ!」
ドゥメジティはファティマが苦手だ。成人女性が子供のように振舞う姿は受け入れがたい。だが、ただの子供だと理解すれば、喜ぶようなことをする事ができるようになっていた。
今日はもう巨兵が襲ってこないと判断しての休憩だったが、それは叶わない。
「ドゥメジティ様! 大変です。巨兵が現れました! 瞬間移動によるもので、すぐにでも対応が必要かと!」
兵士の報告にドゥメジティが舌打ちをする。最近は王都を直接狙ってくる巨兵と遭遇することはなかった。だが、それが油断になったのかも知れない。
「ドゥメジティ様! 大変です。巨兵の数が増えています! 次々と現れております。既に10はくだらないでしょう!」
次々に報告されるこの異変にドゥメジティは覚悟を決める他なくなっていた。巨兵による破壊行動が本格的になってきている。
「ファティマ! 悪いですが、出撃してください! このままでは王都が破壊されてしまいます」
彼女は城門を見ると、すぐに動き出した。
「何かおかしいわ! 凄く嫌な感じがするの」
城門から見える景色に何本もの柱が立っていた。それは、木々より背が高く、見間違いではない。
その柱一つ一つが巨兵なのだ。
「おいで、私のお人形! 守護霊迅 ザインズ・サイレス!」
主人の機動に、操作されている巨兵も動き出す。
数が多すぎるのは、覆しようがない。操る巨兵を他の巨兵にぶつけて時間を稼ぐ。その間に巨大な鎌で頭部を狩っていく。
「どういうことだ……何が起きている?」
城壁の上に登ったドゥメジティは絶望を目にする。
ザインズ・サイレスが倒すスピードを超えて巨兵が増えている。瞬間移動で次々と巨兵が現れていく。
ポーン、ナイト、ルーク型。幸いなことにビショップ型は見当たらない。
「ファティマ!」
「わかってるわ、怖い人!」
ザインズ・サイレスが操れる巨兵は2体が限度だった。だが、使いようだ。操った巨兵が壊れれば次の巨兵を操れる。
ルークのミサイルを操った巨兵で盾にして身を守り、盾代わりにして敵の首を刈り取る。幸いなことにポーンとナイトの力では城壁を破壊するのに時間がかかる。
「さぁ、私の巨兵達! このお城を守るのよ!」
ファティマのザインズ・サイレスはこれまで狩ってきた巨兵を超える数を倒している。
今までで初めての長期戦。しかも、複数を相手にしてる。それはつまり、消耗も激しいということだ。
ドゥメジティは歯噛みする。自分で出来ることは限られている。ファティマと共に戦うことはできない。
「ファティマ! 城壁へ戻りなさい! 一度休憩しましょう!」
城壁の防御力なら少しは耐えられる。それで体力が回復するかわからない。敵の数も増えている。
ザインズ・サイレスが落ちれば王都は陥落したも同然だ。なら、少しでも休息をしてもらう必要があった。
「駄目よ! それは駄目なの! おにいちゃんは言ったの! 悪い巨兵を倒してくれるって! その間はここを守るってわたしが言ったの!」
ザインズ・サイレスは巨兵を狩るペースを上げていく。今までで最も速く巨兵の首を狩っている。速く狩らなければ、増える巨兵に追いつかない。
「きゃあ!」
ルークのミサイルがザインズ・サイレスに触れ爆発する。巨兵を盾にしていたが、全てを防げることはない。
ファティマはミサイルを受けた箇所をかばいながら、巨兵の首を刎ね飛ばす。
次から次へ巨兵を倒す。増え続ける巨兵を倒すことしかできない。
もう、巨兵を盾にする余裕などない。
「こんなところで負けるわけにはいかないわ!」
ルーク型のミサイルを避け、攻撃を続ける。
そのうち、巨兵の数に押されて城壁ぎりぎりまで追い詰められてしまう。
ファティマがもう駄目だと思った瞬間、強烈な閃光に目を閉じる。
瞳を開けると、焼け焦げた地面が見える。
ファティマはこれが何なのか知っていた。
「いやぁぁぁぁぁ! 嘘……嘘よ! こんなの嘘だわ!」
それはビーム。過去にザインズ・サイレスの右腕を消し飛ばしたビーム。その痛みがファティマにフラッシュバックする。
「こんな事が……これが、ビショップ型のビームだというのか……」
ドゥメジティが見たものは溶けてしまった城壁、そして街。溶岩が流し込まれたより悲惨に溶けきっている。それは地獄と言うに相応しい。
ビショップの光線が王都を焼いたのだ。
そこは避難してきた人が、王都に住まう人が、そこにいたはずなのだ。
巨兵の前には全てが無力だと思い知らされた。消耗しきったザインズ・サイレスに半壊した王都。それは人類最後の砦が瓦解した瞬間だった。




