第四十三話 絶望
宗二達は守護者を呼び出すと、施設の外へと吐き出される。その眼前には既に敵の本拠地があった。
形はドーム状になっており、その中で巨兵が製造されていることは分かる。だが、その巨大さは理解の範疇を超えていた。小高い丘から見たそれは、地平線を覆っていた。視界いっぱいに広がるものをドームと言っていいのか分からない。
「ははは……マジか。これが敵だって言うのかよ」
マザー1にたどり着くまでに数体の巨兵がいるにも関わらず、関心は桃色のドームに釘付けにされていた。
「これを壊せというのですか。スケールが違いますね」
レン、キシリエにとってはドームそのものを知らない。その無知は恐怖を呼び、巨大さからは畏怖を覚える。それを知る宗二ですら、巨大さに圧倒されている。
「だけど、これを破壊しないと」
宗二の意思は揺らがない。それを上回る覚悟があった。
その言葉にレンとキシリエはお互いに頷きあい、意思を確認しあう。目の前に迫る巨兵に対してそれぞれ武器を構えた。
先ず守護誓祈リタットディスターは右肩に増設されたカノン砲を構える。
そして、新武装について老人の説明が聞こえてくる。
『リタットディスターの追加武装について説明させていただこう。追加したのは背部に大型ジェネレータ、右肩の荷電粒子砲だ。
ジェネレータと砲身の重さのために機動性は落ちてはいるが、ホバー走行できるようにした。ある程度の移動は確保出来るだろう。
肝心の威力だが、空間制御兵器搭載型以外は容易く葬れる。
ジェネレータの出力を上げればマザー1へ直接攻撃が出来る筈だ。
名づけてサー・リタットディスター』
先ずはすぐに脅威となるビショップ型へと狙いをつけると、すぐさま射撃を開始する。
「ためしに一発撃ち込んでみましょうか!」
キシリエがトリガーを引くと砲身から光線のような重粒子が発射された瞬間、まるでもう一つの太陽ができたかと思うほどの閃光。その熱と嵐は目標を破壊するだけに留まらず、こちらの装甲まで焼いてきた。
「おい、キシリエ! 何だこの武器は! 危なすぎるだろ!」
「すまない! こんな威力とは思いもしなかった!」
「でも、目標は粉微塵ですよ」
アディバイスは2体の前に立ち、爆風をしのいでいる。
その威力は全員が初めて体験することで、今まで知る守護者を圧倒する力だった。
これほどの威力を持ちながら、クイーン型には勝てないのだという事実は3人を驚愕させる。
「さぁて、次は拙者の番だな!」
次は遠方を捉えたミサイルを満載したルーク型の巨兵が3体、守護刀剣ゲッセンの狙いに入った。
『ゲッセンについては追加武装はない。だが、全ての力を底上げしをしておいた。
まず、剣を大型の刀へ変更した。きっとパイロットにとっても扱いやすいだろう。素材も変わっているため、鋭さ、柔軟さも増している。
そして、全身の至る箇所に小型ラスターを装備し高機動を実現している。うまく使えば空中戦も可能だ。
近接戦において無類の強さを発揮する、その名はゲッセン・カイ』
ゲッセン・カイは狙った巨兵へ一足飛びで間合いを詰める。その距離は以前とは比較にならないほど遠く、速く、勢いがある。そんな一太刀を浴びればどんな装甲も容易に両断できる。
その姿は巨大なサムライそのものだった。
「気に入ったぜ、ゲッセン・カイ! この機能すげーな! 自由自在に動けるぜ」
ゲッセン・カイは次に狙いをつけた巨兵へ迫る。ただ斬るのではなく、一度空に身を投げ急転換させて一閃を放つ。その機動は先読みを不可能とし、回避することも封じていた。
「なんだよ、巨兵なんて雑魚じゃねぇか!」
「こんなに強い守護者があれば、もっと早く巨兵を討てていたのですが」
2人は手に入れた力の強大さに酔っていた。
だが、彼らは忘れている。26世紀人とマザー1が20年も戦い続けたという意味を。
「いよいよメインディッシュですよ」
彼らの前に立ちはだかるのは、両手の肘から先を広げた独特のポーズを取る巨兵、クイーン型である。
不回避の攻撃に絶対の防御、攻防共に完璧といわざるを得ない巨兵。
守護機装アディバイスはその前に立ちはだかると、両手を突き出す。そして、少し大きくなった両腕の小手を展開させる。装甲が割れそこから強いエネルギーの光が見えた。
『アディバイスにも追加武装は無い。だが、本来の力、バリアをより強力にしてある。
両腕部にジェネレータ付きのバリア発生器を取り付けた。これで、バリアはより強固になり、ビーム兵器程度なら防げるだろう。
そして、これが最も重要ある空間断裂発生器を搭載した。全ての攻撃を無効化せしめる無敵の盾、空間断裂バリア。文字通り空間を切り裂く。
空間断裂フィールドは範囲内全ての空間制御兵器を無効化する事が出来る。君たちを窮地に貶めた巨兵も撃破することは容易い。
あえて呼ぶなら、アディバイス・アイギス。26世紀人の命名センスは不評だったので昔の言葉を貸してもらった』
「行きます! 空間断裂フィールド!」
アディバイス・アイギスの両腕からピンク色の激しい本流が辺りを包む。サー・リタットディスターとゲッセン・カイには何も起こらないが、目の前のクイーン型は動きを止め、痺れているかのごとく小刻みに揺れている。
「今だ、もらったぁ!」
ゲッセン・カイはすかさず懐へ飛び込むと、クイーン型を切断する。
以前のような絶対防御は発動せず、あっさりとその機能を停止した。
「凄いな……こんな簡単に倒せるとは……」
あっという間に数体の巨兵は殲滅。太刀打ちできなかったクイーン型にまで勝利を収めた。
「よっしゃ! 後は大ボスを残すのみだ!」
3人は先に進み崖のような切り立った場所へと進んでいく。徐々に視界に入るマザー1が大きくなって、一望できるところまでやってきた。
「嘘……ですよね?」
「こんな事が……」
崖のふもとを見て3人は絶句する。
マザー1への道のりに、いや、視界全部が巨兵で埋め尽くされていた。その数は数えられないほどに多い。目に入る情報は数ではなく景色。うねり動く波の群体だった。
「おい、あの浮遊野郎もいやがる……」
当然のごとく、クイーン型も複数存在している事が確認できる。
呆然としている3人に眩い光が襲い掛かってきた。それに目を逸らすが、それが彼らに命中することは無かった。
その閃光は頭上を通過して宗二達を追い越していった。背後にあるのは、一夜を明かした施設だった。
「改修には施設を守るバリアさえも使っている」先程聞いたばかりの言葉を思い出す。アディバイス・アイギス改修に使用した空間断裂発生器が、あの施設を守っていたバリアだったら、守るものは何もない。
宗二は振り返り後方を確認すると、出てきた施設に光の柱が直撃していた。目が眩むような爆発は施設を破壊するには十分だった。
「おじいさん! ファル! ドッド! 聞こえているか!」
返事がないままに恐ろしいまでの衝撃波が宗二達を襲う。それは、あの施設が破壊され爆発した際に生まれたものだった。
施設には2人がいる。今まで苦楽を共にしてきた大切な仲間。
「返事を……返事をしてくれー!」
守護者を通して返事が聞こえてくることは2度と無かった。




