第三十九話 26世紀人
「私はE23Gリエジト。26世紀人である」
鉄に囲まれた牢獄のような部屋へ転送された一行はその様子に戸惑っていた。眼前に広がる巨大なディスプレイに映し出されている老人の姿に精神を揺さぶられる。
26世紀人、自分の世界より500年後の未来から来たのだろうかと、宗二はそんな事を考えていた。
「守護者の戦士たちよ、この様な姿で失礼する。君たちに話したい事があるのだ、こちらが指定する部屋へ向かって欲しい」
老人の言葉が終わると、ディスプレイが消え、一部の壁が口を開けた。その口は白く瞬いており、未知を思い切り叩きつけられた。それはさらに不安を呼び起こす一因になっている。
「全く意味が分からないが、どうする?」
この状況に言葉を出したのはキシリエだった。この中で自分が先頭に立ち導いていくべきと考えている為、皆の意見を確認する。
それに言葉を失う者が応えるのは難しい。それでもこの中では一番現状を理解していた宗二が口を開いた。
「ここは先程の指示に従うべきだと思います。まだ罠である可能性は捨て切れませんけど、もうここから逃げることもできないですし……」
宗二は現状を踏まえて逃げ道はないと考えていた。
「はぁっ!」
レンの逼迫な一撃が鉄の壁を穿つが、傷ひとつ付くことはなく、逆にゲッセンの刃が毀れてしまう。
「こいつは全く、参ったなぁ」
この状態にレンは大きく息を吐いた。どうしようもなく監禁されていること、自らに選択肢はない事を思い知らされた。
「これは抵抗するだけ無駄だろう」
キシリエがため息をつくと、全員の意見は抵抗するだけ無駄という意見に一致してしまった。
老人の言葉に従い、一行は守護者から降りると、鉄の壁にぽっかりと開いた入り口に向かう
「ソージくん、左手の手当てしないと」
ファルが拉げたアディバイスの左手に気付き宗二に寄り添う。宗二は大丈夫と軽く答える。その腕は痛覚が行き過ぎて完全に麻痺していた。多少の手当てでどうこう出来るものではなかった。
焚き木とは全く異なった灯りに照らされた真っ白い通路を歩いていく。
真っ直ぐな通路はすぐに終わりを向かえ、今後は機械の扉へ出会う。
どうなっているか怯える一行の中、宗二は一歩進んで扉が自動に開くことを確認する。軽い機械音がしたと思うと、機械の扉はあっさりとその口を開けた。
「不思議な場所だ……こんなに清潔な部屋があるとは……」
扉の先は広い空間があり、壁、床は白に統一されており、中央に綺麗に磨かれた銀のテーブル。その周りには赤い椅子、片隅には観葉植物、視線を集める場所にあるディスプレイ。その景色にキシリエの口から言葉が漏れた。
全てが初めて触れる文明であった。宗二から見てもSFの世界がそのまま広がっていた。
「良く来てくれた。礼を言おう。ある都合によりこの様な姿で申し訳ない。できれば対面したかったのだが……」
老人は自分を悔いるように話を始めた。それに合意するかのように、一行も赤いクッションが付いた椅子に腰掛ける。
その柔らかさに驚くが、驚きが多すぎて何が何やら分からなくなっていた。
「まず、君たちには謝らなくてはならない事がある。我々の内輪揉めに付き合わせてしまったことだ」
老人の言い出したことはさらに混乱させることになった。我々、内輪揉め、付き合わされる、それが何に繋がっているか理解できるものはいなかった。
「君達に言うならば、AWが世界に放たれ、世界を侵していたことだ」
分からない言葉が出てきたが、一行はなんとなしに理解し始めた巨兵のことだと。
「あんた達は巨兵を知ってるのか! 何故、このような事が起きた!」
レンは老人に対して憤りを覚えていた。それはこの場にいる全員の総意に近いものがあった。
「AW……君たちの言う巨兵は本来、私たち26世紀人がこの世界に居場所を作り上げる工作機だった。だが、とある事情からこの世界と敵対するものになってしまった」
「それでは意味が分かりません。もっとこちらに分かるよう言っていただきたい」
老人の意味が分かりにくい言葉に、キシリエももどかしく、言葉を荒げてしまう。
その言葉を受け入れる老人は少し間を置いて、言葉を選びながら話を進めていく。
「そうだな、先ずは順を追って説明しよう。守護者についてだ。これらは私が各都市に提供したものだ」
薄々わかっていたとはいえ、それを信じるのは難しかった。証拠が何もないからだ。
「私はディフェト7世に世界を滅ぼす機械が現れると予言した者だ。その際に使って見せたのが、守護者。君たちの操る守護機装アディバイス、守護刀剣ゲッセン、守護誓祈リタットディスターは我々が作り出したものだ」
口だけでは説明しきれないと感じたのか、老人は腕を少し動かす、すると、テーブルの上から飲み物とちょっとした菓子が現れた。
いきなりのことで皆は身構える。
「先ずはお茶でも飲んでリラックスしていただきたい。このままでは話が進まない」
警戒して全く手が出ない様子を見てか、能天気なのか、ファルが最初に手を付けた。
「このお茶、香りがすごくよくって美味しい! このお菓子見たいのも甘みは少ないけどあっさりしていて美味しい!」
ファルの行動は皆の不安をある程度軟化させ、気持ちにゆとりを作っていた。
それから、次々にお茶とお菓子に手を伸ばしていく。
「ふむ。たいしたものだ。勝手に出てきたのに美味いぞこれ」
「これは、紅茶ですか? この世界にはなかったはずなのに……ここで飲めるとは思わなかった」
「……これで、自分を信じろと?」
各々が茶をのみ、菓子を摘む中、ドッドだけは手を出さなかった。
「そう思われても仕方ないが、こうでもしなければ信じてもらえぬと思ったまで。どうか、信じてはもらえぬだろうか」
宗二にはそれが真摯な思いであることを感じていた。何も証明すべきものがないことはとても辛いものだ。
「きっと、言っていることは本当だと思います。確信はないですが、この荒唐無稽な話を一度聞いてみてはどうでしょうか? 何か事情があるようです」
キシリエ達も黙っていたが、このまま話を聞く気になったのか、否定的な言葉をしなくなった。
「こちらを信じてくれてありがとう。続きになるが、私は王に進言し守護者を都市に置いたのは、全ては巨兵が現れることを予知してのこと。本来は使われないと思いつつも、最後の切り札として提供したものだ」
「予知? 使われない? どういう意味だ」
警戒心が残るドッドは老人の言葉1つ1つに注意をはらっていた。
「巨兵は本来、生まれる筈がないものだった。過去、我々はとある戦いをしていた。そして我々は勝利した。もう、巨兵は現れないはずだった。だが、再び現れ世界に反旗を翻した」
それが、巨兵だと老人は言う。
「ふぅん……じゃあ、来るかも分からない巨兵に対抗する為に守護者を配って回ってたのかよ」
レンが老人の言葉を纏めてくれた。そして、本来使われない理由は彼らが勝利したから。勝利したから不要なはずだった。だが、もしかしたら、巨兵が現れることを危惧して残しておいた。ということだ。
「そうだ。だが、奴は生きていた。そのため、巨兵は生まれ、機能は向上していき、ついには守護者では対処できなくなってしまった」
一行はその意味を理解していた。先程戦った完全無欠の巨兵、クイーン型。
「私はその打開方を示すために君たちを呼んだ。君たちに再び倒してもらいたいのだ。全ての元凶、マザー1を」
ディスプレイに浮かぶ老人は語りだす。この物語の始まりとその理由を。
これからの話は全て過去の話。
この世界を賭けた戦いを。




