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第三十八話 逃走

 行く手を阻むように新たに現れた巨兵は宙に止まっている。その目は危険を知らせるがごとく真っ赤に光ってアディバイス達を睨みつけていた。

 あらゆる攻撃を受け付けない体は特別な装甲をつけているように見えない。むしろ他の巨兵より細身に見える。

 尊大な体勢から動くことはなく、何もしていない。だが、確実に攻撃を仕掛けている。


「レン! ソージくん! そいつから離れろ! 敵の攻撃の正体が掴めない」


 とにかく距離さえ取れば攻撃を回避できるのではないかと、キシリエが指示を出す。何が起きているかを掴む意味でも距離さえあれば攻撃が見えるのではないかと考えていた。


「レンさん僕がバリアを張っているうちに後退しましょう!」

「すまん ここは任せる」


 ゲッセンをアディバイスのバリアの後ろに退避させる。それを確認しながら、宗二はアディバイスを後退させていくが、先程の謎の攻撃はしてこない。


(何が起きた? 遠くに離れれば攻撃を受けない? 本当にそんな簡単な話だろうか、この巨兵に弱点などないのではないか)


 油断というほど気を取られていない宗二だったが、気が付けばバリアが歪んでいる。先程の捩れる攻撃とは違って、バリアが吸い取られていく。まるで渦潮のようにバリアが砕かれていく。

 バリアが割れてピンクの光りが散り、地面へ落ちていった。

 この様な現象は初めてのことだ。ミサイルの直撃を防ぐバリアがこのような壊れ方をするのは。


「レンさん! 飛び退きます、避けてください!」


 大きく後方へ距離を取ると、バリアが砕けていくのが止まる。

 巨兵の攻撃は突然襲ってくる。先程のゲッセンが攻撃より後方のアディバイスに攻撃が届いた。距離は関係ない可能性もあった。


(今のままでは全滅の可能性が高い。攻撃が効かない、高威力の攻撃は絶対的な力の差がある。戦っていても勝てる姿を想像できない)


 このまま戦うのは不利なのは目に見えていた。宗二はどうすればいいか頭を回す。結果、回答は見つからず後退していくしかなかった。


「おい、どうすんだよ……あいつ倒さんと先に進めないぞ」


 そう言うものの、レンは剣を構えていない。無駄だと分かっているから、構えない。


「ここは全力でい……」

「―――駄目だ!」


 キシリエの言葉を宗二が遮る。宗二は分かっていた。奴は倒せないと、今現状では。


「逃げます! ファルとドッドを回収して先ずは退きましょう!」

「無念だが、それしかねーな」

「そう……ですね」


 後退を決めた一行の行動は早かった。とにかく距離を稼ぐために宗二はファルとドッドをピックアップしようとする、その瞬間だった。


『守護者の戦士たちよ』


 何処からともなく聞こえてくる言葉に、宗二は手を止める。

 その声は人のものとは思えない。宗二にはデジタルな音声に聞こえる。人口音声、現代にあった自動音読ソフト、それに良く似ていて、人のもではない。


「何だ? 誰が喋った?」


 キシリエも突然のことに混乱している様子である。この声は宗二以外にも聞こえている。


「おい、ソージ! 何をいている? どうして動きを止める!」


 謎の声によって動きを止めたアディバイスを不信に思ったドッドが声を上げる。彼にはこの声が聞こえていない。聞こえているのは宗二達、守護者に乗るものだけのようだ。


『今の君たちでは勝つことはできない』


 宗二にとっては分かりきっていることで、それをどうするかが問題なのだ。そんな解決ができない言葉など意味はない。


『私が転送装置を起動する。指定箇所へ逃げ延びてくれ。それだけでいい。こちらで回収する』


 何が起こっているか、宗二達はわかっていない。だが、宗二にはその言葉に従うべきだと判断した。すでに王手がかかっているというのにこれ以上こちらを襲う理由はないはずだ。


「これは罠って事もあるんじゃねぇか? こいつは信用ならん」


 レンはファーテチカのときと同じく、理解に及ばないことは疑う性質のようだ。平静時なら確かに罠と考えるほうが正しいだろう。だが、今は状況が違う。


「今はこの声を信じましょう! これ以上悪く転じることはないと思います」

「私もソージくんに賛成だ。これをチャンスと捉えるしかないだろう」


 2人の言葉にレンも従うことにした。3人の意見が一致すると、謎の声は位置を示し始めた。だが、守護者に乗っていないファルとドッドには届いていない。

 うろたえることしかできず、動きが止まっている。


「ドレイッド! ファルラクス! 君たちは私についてきてくれ! 逃げる算段がついた!」


 何故、突然そうなったのか分からない2人だが、今はそれに従うしかないと走り始めた。

 レンも逃げようと行動に移したときに宗二の動きに気が付いた。


「おい! 宗二! 何やってんだ! 逃げるんだよ!」

「だけど! 誰かが殿(しんがり)をやらなくちゃでしょ!」


 逃げ始めた4人を背にアディバイスは巨兵に向かう。両腕のバリアを使って敵の攻撃に備える。この中では宗二だけがあの攻撃を防ぐ事が出来る。

 長い時間は無理でも、何度かバリアを張りつつ逃げれば短い時間くらい稼げる。


「くそっ! 任せるぞ!」


 レンは舌打ちをしながら、謎の声が指定する場所へ向かって走り出す。

 ファルは何度もアディバイスを振り返り見るが、そのうち覚悟を決めたのか走り始めた。

 2人の足は常人より極めて速い。だが、走る守護者から少しずつ距離が開いている。宗二は踏みつけないよう、気をつけながら後退を始める。


「っ! このっ!」


 バリアが急に崩れ去っていく。今までとは違い、バリアがどんどん崩れていく。発生するや否や瞬く間に崩れなくなっていく。攻撃の強さが増しているようだ。


(逃げ出したから強くなったのか? それとも別に何か理由でもあるのか?)


 疑問を問うことは出来るが、今はその時ではない。バリアの出力を上げて今以上に強固にする必要がある。

 攻撃が腕に達するまでさして時間は掛からなかった。

 腕が勝手に拉げ始めて、咄嗟に腕を引っ込める。すると、一時的とはいえ攻撃を回避する事が出来るらしい。


(出口はまだか)


 宗二が攻撃を防いでいる間に、キシリエとレンは脱出ポイントへ到着していた。

 そこは赤く光り、光の壁のようなものに包まれている。無防備に飛び込むには勇気がいる。それでも、ここにしか場所はないとキシリエは飛び込んだ。


『早く来てくれ、このままにしておくのは危険だ』


 光に飛び込んだリタットディスターはそのまま消えてしまった。

 レンは躊躇して中々飛び込めなかったが、いずれ覚悟を決めて飛び込んでいく。


「ファル早くしろ!」


 いつもは元気でドッドより早いファルだったが、今までの無理がたたって上手く走れていない。体力の低下は顕著であった。

 暫くして、ドッドもファルも光の中に飛び込んだことを確認した。

 宗二も転進して逃げようとするその際に腕に強烈な痛みを感じた。


(こ、これは!)


 今までより攻撃は段違いに強く、バリアを張った左手ごと歪んでしまった。腕を引っ張ろうとしても腕が上手く動かない。宗二は腕を動かすことを止めて全速力で逃げ出す。

 背中のスラスターを全力で使用する。そのまま光の柱へ入る際にアディバイスの腕は完全に捩れ、曲がってはいけない方向へ曲がり用途を成さなくなってきた。


「間に合えぇぇぇぇぇ!」


 それでも、何とかアディバイスは光の中にたどり着いた。そのまま光に包まれ、次の瞬間には薄暗い場所に入り込んでいた。

 アディバイスの眼前には視界を覆うほどのなディスプレイが取り付けられていた。

 そのディスプレイには深く皺が掘られた老人の顔が表示されている。周りは鉄製の壁に囲われ、出口のようなものが見当たらない。これは閉じ込められたと考えることもできる。

 突然、狭い部屋に音声が鳴り響く。逃げ道を提示してくれた声によく似ていた。


「私はE23Gリエジト。26世紀人である」

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