第三十七話 新型
王都を出てようやく3週間というところで大きな異変があった。旅は順調で予定より早く最南端へ到着できる予定ではあるが、この問題への対処によってはどう転ぶか分からない。
眼前に巨大な人型が浮かんでいた。だが、一切の揺れはなく硬直しており全く動かない。その様子は空中に磔されているように見える。
両腕は肘までを体にくっつけ、そこから下は大きく開いている。その様子はまるで人を抱いているように見えた。
足は垂直で真っ直ぐに伸びており、体も同じ様子である。
頭も全く動かす様子はない。細い隙間に瞳のようなものが見えたが、暗く光を反射していない。倒した巨兵と同じになっている。
この巨兵は機能を停止しているように見えた。
「新しい巨兵か……こいつは動かないようだな」
「ドゥメジティがここにいたら、クイーン型とか名付けそうだ」
キシリエとレンは空に固定された巨兵を見上げながらそんな感想を漏らす。
今は全く動かない巨兵に気をつけながら、様子を伺う。イジン3人はいつでも守護者を呼べるようにカードを手に持っている。いきなり目からレーザーとか撃ってきたら終わりだなと宗二は考えていた。
「本当に大丈夫なんでしょうか?」
「んー、危害を加えてくるようには見えないね」
宗二とファルも同じように巨兵を見上げている。一体何が起こっているのかまるでわからない。
本当に動かなければ、このまま素通りできそうに見える。そのため、下手に守護者を出すのを躊躇しているのはそれを確認するためだ。未知の巨兵に戦いを挑むのはリスクが高い。ここは是非とも回避したい場面だ。
「そんな悠長なことを言っている場合か? さっさと排除して先を急いだほうがいいんじゃないか?」
ドッドの言葉に尤もだと宗二は思う。
この先に進むためにこのまま残しておくのも、挟み撃ちになる恐れがある。それに、このまま放置して王都と都市が襲われることもあるのだ。
一行は何とか対処しなくてはならない。
「拙者もドレイッドの意見に賛成だ。さっさと斬り捨てて後顧の憂いを立つべきだ」
「確かにこのまま放置するわけにはいかないが……何の策もなく戦う方が危険という可能性もある」
「ソージくんはどっちだと思うの?」
突然の流れ弾が宗二に命中する。この状態では一言で全てが決まってしまいそうで言葉が出ない。ここは慎重な発言を求められている。
「そう……ですね。僕が守護機装を呼び出します。アディバイスならバリアも張れますから」
宗二は言うが早いか白いカードを掲げて叫ぶ。
「守護起動 守護機装 アディバイスッ!」
宗二の体が光に包まれると、そこには白い騎士が姿を現す。
アディバイスはすぐ前面にバリアを張り様子を見る。
その緊張とは裏腹に、宙に浮く巨兵は微動だにしない。宙に磔にされたままである。
「もしかして、実は仲間になってくれるとか?」
ファルは無責任なことを言ってきた。
ファーテチカの守護霊迅が巨兵を操っていたことを考えれば、そういう可能性も捨てきれない。その可能性は低いだろうがと宗二は胸の中にしまっておいた。
「今のところ、危険はありません。お二人も守護者を呼んでみてください」
アディバイスが張るバリアの後ろで、キシリエとレンがカードを掲げる。
「守護起動 守護誓祈 リタットディスター!」
「守護起動 守護刀剣 ゲッセン!」
守護機装の後ろで守護誓祈と守護刀剣が現れる。これで全兵力を出したことになる。
「さて、具体的に何をすべきでしょうか」
3機の守護者が揃ったとはいえ、攻撃一辺倒にするわけにはいかない。慎重に事を進めないと、守護者を失いかねない。
「うだうだやってるのは性に合わねぇ! 先手をいただくぜ!」
言うが早いかゲッセンは神速の剣閃にて巨兵を真っ二つにするはずが、傷の一つも付いていない。刃が通らないため、ゲッセンに剣の衝撃が伝わり、レンにまで手を痺れさせた。
「なんてぇ硬さだ……これまでとは訳が違うぜ」
いつも斬る斬るとそれしか言わなかったレンだったが、これは意外と堪えたようだ。自慢の剣が通じないのだ、もう太刀打ちできないことが分かってしまう。
「次は私ですね。この槍の連撃で!」
リタットディスターは槍を取り出すと、巨兵を滅多刺しにする。何度も繰り出される突きは防ぎきれるものではないが、やはり傷一つ付かない。それどころか、槍の先が欠けてしまい、攻撃が無意味だと思い知らされる。
「槍は勝手に直るとしても、これはアディバイスのバリアを上回る防御性能ですね」
リタットディスターは手に持っていた槍を格納する。
次に手に持ったのはボウガンであった。近接がダメなら遠距離でと考えたか、ボウガンを構えて矢を放つ。
無限と思われるリタットディスターの矢が嵐のように突き刺すが、あっけなく矢は弾き飛ばされた。
「これもダメですか……最後はソージくんにお願いするよ」
宗二は気を付けながらバリアを解除する。アディバイスができることといったら、バリアの干渉を使った激しいエネルギーの力場だけだった。
高さの都合上、巨兵の足を抱き込む。
「行くぞ! バリアシールドフル稼働! 全力全壊!」
宗二は渾身の力を込めてバリアを展開し、干渉させようとした。だが、結果として干渉は起こらなかった。ただ、ピンク色の光が展開されるだけに終わった。
「一体、どういう事でしょうか? これは普通じゃないですよ」
干渉が起こらないことを不思議に思いながら、宗二はアディバイスから巨兵を解放した。そして、何かの攻撃に備えて、再びバリアを展開する。
「あーっ! もう面倒くせぇ! こんな奴無視して先に進もうぜ」
レンは巨兵を無視して先に歩いていく。巨兵とすれ違うと同時に巨兵の瞳が赤く輝いた。
「ん? ががががぁぁぁぁぁ!」
レンは何が起こったか分からなかったが、とにかく肩に激痛を感じてうずくまる。
傍から見ていた宗二には分かる。ゲッセンの肩に付けられた装甲が捩れ曲がっていく。何が起こっているのか分からないが、これは不味いと判断した。
「レンさん! ちょっと痛いですよ!」
アディバイスは身を傾げ、そのままゲッセンへと激しいタックルをぶつけた。
その衝撃で弾き飛ばされたゲッセンは、肩の捩れが止まりそれ以上ダメージを受けなくなった。
「一体、何が起こった?」
「ソージくん! 突然どうしたの?」
ゲッセンの肩を見ていないファルとドッドはただ宗二がタックルをかましたようにしか見えなかった。
「ぐっ! 拙者は無事だ。宗二が助けてくれた」
ゲッセンは捩れた肩の装甲を抑えている。レンの肩に相当のダメージが入っているようだ。
「見えなかった……さっきのはこの巨兵によるものだ。だが、私からはどうやって攻撃したのか全く見えなかった!」
キシリエは自分の目に自信があった。ボウガンを使うためか、その動体視力はかなりのもので、恐ろしく早い攻撃でも見逃さない自信があった。
「アレは、速い攻撃じゃない……もっと凄い別の何かだ……」
宙に磔られた巨兵はその姿勢を保ちながら、瞳を赤く光らせていた。
これは巨兵が起動したのだと、キシリエは判断せざるを得なかった。




