第三十六話 南下
「レンさん! 僕がミサイルを防いでいる隙に!」
アディバイスは前面にバリアを展開し、無数に飛んでくる巨兵からのミサイルを防いでいる。防御に徹していれば、このくらい物の数ではない。
バリアを展開し動けないアディバイスの背後から人影が揺らめく。
「言われずとも!」
黄色い閃光、ゲッセンは一太刀で巨兵の上半身と下半身を切断していた。ミサイルを撒き散らしながら、巨兵の上半身が地面へ落ちると、いずれ動かなくなる。
「レン、ソージくん、お疲れ様。役に立たず申し訳なかった」
重量級の青い騎士、リタットディスターはアディバイスの背後から声をかけてくる。
先日のビショップ型巨兵との戦闘でリタットディスターは右足を吹き飛ばされており、修復したもののまともに動かなかった。
とりあえず参戦したという体でここにいた。
「キシリエさんも無事で何よりです」
3人は守護者から降り、互いの無事を確認しあう。今回の戦闘では特に目立った怪我は見受けられなかった。
「お疲れ様です! これお水です」
急ぎ足でファルが駆け寄ってくる。その手には小型の水筒が握られている。
守護者に乗っていたとはいえ、体には相当の負担がある。普段は水を節約しているが、戦闘の後はどうしても渇きを癒したくなのだ。
「ありがとよ、譲ちゃん。かーっ! 戦の後は水がうめぇ!」
「私までもらうのは気が引けるが、やはり喉が渇いてしまう」
ファルから水を受け取ったキシリエとレンはすぐに喉を潤す。
「ソージくんもどうぞ」
「そろそろ水がなくなってきたんじゃ……」
「今はそんな事言わなくていいの!」
ファルは強引に宗二の手に水筒を握らせる。
王都を出てから2週間が経っていた。
2週間もあれば水も傷み、現地補給するしかなくなってきている。北で川を破壊されたせいか、川の大半は乾きあがっており予定より水の補給が出来ていない。道程は予定より進んでいるとはいえ、このままだと本当に干からびてしまうだろう。
ここまで出会って来た巨兵はルークが2体とビショップが1体。旅が順調な理由は単純に戦闘回数が少なかったということだ。面と面でぶつかるわけではなく、点と点のぶつかりでは極端にその遭遇率は減るだろう。
やはりというか、意外というか、旅にとって一番大変な物資の不足が足を引っ張っている。
「水の問題は俺が何とかする。お前はただ巨兵を退治することを考えていればいい」
ファルに追いついてきたドッドがそう言う。
旅の先導をしているのは、ドッドだった。地理に詳しく、天体にも精通している。現在地、目的地、川の位置、旧道などの旅に必要なスキルを備えている唯一の人物である。
レン、キシリエも旅に慣れているのだが、この世界においては素人同然である。レンは旅をした事があるとはいえ、その際にはリフォーシャがそばにいた。
「キシリエよぉ、馬に乗って無事か?」
「ここまで来ましたから、それくらい問題ないですね」
リタットディスターが受けた痛みはキシリエに伝達される。リタットディスターの足が修復したからといって、その痛みが引くわけではない。本当に足を失うほどの痛みを味わい、暫くの間その痛みは続のだ。
「ファル、俺は水源を探してくる。その間の先導はお前に任せる。くれぐれも道を間違えるなよ」
「分かってます。気をつけますー」
釘を打つドッドにファルはいーっと歯を見せる。
ファルもこの旅で重要な任を受けている。ドッドがいない時の先導は勿論、宗二の足になるという仕事がある。
この2週間は宗二を背負ってずっと走っている。夜は休んでいるとはいえ、日中はずっと走りっぱなしだ。彼女も水分を必要とするし、体力的にはかなり無理をしている。
「さあ、皆さん、馬に乗ってくださいね! すぐにでも出発しますよ!」
休憩もそこそこに、一行は先へ進まなくてはならない。巨兵を倒すだけが目的ではない。本拠地を叩く事こそが真の目的である。
キシリエとレンは各々の馬に、宗二はファルの背に乗り、出発を始める。
太陽はまだ真上にあり、夜の休憩まではまだ時間がある。ここは少しでも先に行く必要があった。
太陽は西に傾き、いずれ落ち、空は夜の暗闇に覆われる。
これ以上の進行は無理だと判断し、野営の準備を始めた。2週間という期間があったためか、その手順は慣れており5人が眠れるぎりぎりのサイズのテントが瞬く間に完成する。実際はレイ、キシリエ、ドッドが交代で火の番をするため、4人が眠れればよかった。
「このスープで水もお終い」
火にかけた鍋をかき混ぜながらファルが口にした。干した肉、野菜を水で煮てスープを作っている。料理の担当はファルが行っている。昼中は宗二を背負い、食事まで作っている。その顔はかなり疲労が溜まっていた。
乾パンばかりを食べているわけにもいかないので、どうしても水が必要になってくる。その水も今作っているスープで最後でだった。
「悪い、遅くなった」
料理が出来上がると同時にドッドが合流してきた。その体にはいくつもの大きな皮袋をくくりつけており、大量の水を確保してきた事が分かる。それでも、1週間ももたない量である。
「この先に水源があるか分からない。そうなったら、雨水でしか補給が出来ないな」
ドッドが持ってきた皮袋はキシリエたちの馬にくくりつけられて運搬されることになる。
「ほら、みんなで食事にしましょう」
「拙者はもう腹ペコだ。さっさとしようぜ」
「そうだね。働いていないが、お腹はすくようだ」
ファルはお椀にスープを注ぎ、乾パンも一緒に手渡す。いつも世話になっているが、今は酷く顔色が悪い。宗二ですら過労だと分かるものだった。
「ファル、僕がよそうから、食べててよ」
いつもは譲らないファルが、今回は素直に宗二へ任せる。
食事を取るとすぐにファルはすぐに眠ってしまった。
食事を終えて、レンとキシリエは見張り、ドッドと宗二は使った器具の手入れを行っていた。
「お前も分かっているとは思うが、あいつは限界が近い」
「うん、分かってる。かなり無理してる」
「だが、お前はあまりかばってやるな。そうすると、余計に休めなくなるからな」
この強行軍はかなり無理が出てきている。ファルは顕著に現れているが、疲労は蓄積され判断力も低下を招いている。それは本人に気付かないものだった。
―――
それから1週間変わることなく旅を続けてきた。
戦闘はルーク型1体、ビショップ型2体。
大きな損傷はなかったとはいえ、かなり苦戦を強いられていた。
そんな中、また巨兵を発見した。
「おい、ソージ。巨兵だ。だが、何か様子がおかしいぞ」
先頭を行くドッドがいち早く巨兵を発見する。
だが、その見た目は今までの巨兵とは異なっており、宙に浮かんでいた。その姿はザインズ・サイレスを思い出させる。
新しい巨兵を前にドッドは嫌な予感を拭うことができなかった。
「宙に浮く巨兵……」
ただ浮いているわけでないまるで空間に縫い付けられているように微動だにしない。風で揺られたりしない、そこに固定されている。
それは、こちらの利となるか、それともこちらの危機となるか。
誰もが不安を覚えるのだった。




