第三十五話 出発
はるか南に位置する汚染地帯を呼ばれる土地、過去に何かがあったせいで草一つ生えなくなった人の住まえぬ場所。何があるのか誰も知らない未踏の地でもある。
そこに巨兵の本拠地があると信じ決死隊を結成、殴り込みをかけることになった。
「1ヶ月といったところか、食料、物資は十分かな?」
「飯は大事だよな、飯は」
キシリエとレンは楽しそうに旅の準備を行っている。食料から衣類、調理器具にテントに寝具やその他。
世界のタイムリミットより早く巨兵を叩く必要がある。その為にも途中リタイアは決して許されない。その為の準備をかけすぎるということはない。
敵の本拠地に辿りつけぬでは格好が付かない。
「これを俺が背負っていくわけか……流石に無理じゃないか?」
「大丈夫だ、私の馬にも分けて荷負わせる。この山は1人じゃ無理でしょう」
「拙者の馬も使えば問題ないな。飯は重要だしな」
レンとキシリエが集めた物資の山を見上げながら、ドッドもその運搬に加わる。本拠地までの道程にはかなりの長さになる。途中で補給が出来ないということは、それだけ大変だということだ。
「やっぱり僕を背負っていくんですか? 今回は流石に無理ですよ。馬と一緒に1ヶ月ですよ?」
「大丈夫、適度に休憩も入るし、ソージくんは軽いから走るのに全くなんともないよ」
ファルがやせ我慢していることは誰の目にも明らかだった。馬と一緒に1ヶ月の強行軍。1人でも無理があるのに、人を背負うなんてあんまりな話だった。
以前、馬と一緒に行軍したときも2日の道程でもかなり憔悴し、体が弱っている事がわかっている。それをさらに超える道程なのだ無理をしているとはっきりと分かる。
「おにいちゃーん! 手伝いにきたわ!」
少し前に医務室のベッドから解放されたファーテチカがとことこと宗二達に寄ってくる。成人女性が幼女の動きをするのは、存外悪目立ちする。町行く人の視線を独り占めであった。
「ありがとう。でもこれからは力仕事が多いかな」
医務室から出たとはいえ、右手から見える包帯を見ると無理をさせられない。
物資の選定は終わり、運搬するために荷積みするだけだ。
そのため、男3人がわいわいとはしゃいでいた。
「ファーテチカちゃんこそ準備は大丈夫? 王都を防衛するんでしょ?」
「多分大丈夫よ。このカードさえ持っていれば守護霊迅を呼べるでしょ!」
「そう意味じゃないんだけど……とにかく、ソージお兄ちゃんと遊んできなさい」
ファーテチカは不思議そうに首をかたげるが、ファルに押されて宗二の下にやってきた。その意味を理解したのか、宗二を胸に抱きしめて拘束した。
「あー、あっちは楽しそうだな」
「そーですねえ」
「じゃれてるだけじゃないか」
男共3人は遠目に宗二達のスキンシップを眺めていた。私だっていつもはなぁとキシリエがぐずぐずしていたが、ドッドに檄を飛ばされ仕方なく働からせられる。
程なくして、一通りの準備を終えた一同は城門に集っていた。王都の人々へのパフォーマンスであり、人の活路を知らしめるものでもあった。
巨兵によって傷跡を残した王都の住民は巨兵に対して恐れに近い感情を持っている。その人々が笑顔になるなら、これぐらいは安いものだった。
「道中、お気をつけてください。国民全員が皆さんの帰りを心待ちにするようになるのですから」
「新型の巨兵を見つけたら、絶対持ち帰れよ! 絶対だ!」
一向に発破をかけるドゥメジティと空気を読まずに欲望丸出しのリフォーシャが対象的であった。
こちらの動きに気が付いた街の人々は城壁へと集まってきていた。パフォーマンスはまだだというのに、彼らは自分たちの意思でここに来たのだった。
ゆっくりと人々は集まりそれは波となって士気が高まっていく。
気が付けば人垣となって宗二達を囲んでいる。
「あれだ! 街を救った人だ! 守護機装の人だ!」
「キシリエ様! がんばってー!」
「キャー! レンさまー!」
「おねぇちゃん! 頑張ってー」
「金髪、逆立てくんも、やってよねー」
「巨兵を倒してくれよー!」
「おにいちゃーん! 絶対返ってきてね!」
様々な人々の声が聞こえる。
それが、宗二達に勇気を与える。全力の応援はきっと、何かを成すのに必要なものだろう。
「このキシリエにお任せあれ! 巨兵など片手でポイしてやります」
「はっはっは! 拙者にも女性の応援者がいたとは、心が躍るなぁ!」
「私は、全力で守るから! みんなのことも! 絶対に!」
「俺たちに任せておけ……」
皆はそれぞれ自分の思いを人々に伝えていく。その中で宗二だけが何も応えない。
(もう、あの時とは違うんだ。今度こそみんなの期待に応えてみせます)
宗二は思い出す、召喚された最初の町を。
期待されたのに何も応える事が出来なくて、人々は失望し、守ることも救うことも出来ずに、ただ逃げることしか出来なかったことを。
今は違う。
期待に応えられるほど、強くなっているはずだ。
(そうですよね、ディーグアさん。今度こそ、僕は救えますよね、いいえ、救います。見ていてください。これぐらいやらなくちゃ、笑われますよね)
宗二は思い切って顔を上げる。その顔に迷いはない。もう決意した顔だった。
自信に満ち、自分を信じる男の顔。
「頑張ってきます! だから、待っていてください!」
宗二は叫んでいた。この底抜けに青く透き通る空に向かって、応援する人々に向かって誓いの言葉を。
一向は王都全員からの応援を受けて城門から歩き出す。これが人類の反撃だと、誇らしく、胸を張って、恥じることなどなく、期待に応えるように。
王都の城壁が遠くに見えるところに来て、ようやく振り返る。
「じゃあ、背負いますね」
「あ、お願いします」
背を見せるファルに宗二が負ぶさり、抱きしめる。結局、宗二は馬に乗れないという理由でファルに背負われることになった。もう、乗りなれてしまった。少し敗北した気持ちもあったが、もう割り切ることにした。
だが、やはり人前で背負われるのは恥ずかしかった。
35話
第三章終わりです。
初めての方は初めまして。
またお会いできたでしょうか?
この第三章は短かったですね。
ここで登場した彼女は、私の趣味です。
賢明な読者様ならわかっているでしょうが、次の章で出番はほぼありません。
ストーリー展開の為に出した感じがあってとても可哀想なのですが、王都を守る守護者が欲しかったんです。
なので、趣味に走りました。
ただの子供でよかったのに、あんな複雑なキャラにしました。
次の章は最終章です。
ここまで読んでいただいた読者様ならこの先も読んでくれると思います。
また後書きでお会いしましょう。




